The Outlaw Alternative   作:ゼミル

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※既にユウヤは魔改造済み。徐々にその実力を発揮していかせる予定です。


TE編1:ユウヤ・ブリッジスの憂鬱

 

ユウヤ・ブリッジス少尉はゼロス・シルバーフィールド『中佐』の部下である。

 

実際にそんな立場になったのは先月ぐらいの出来事で、付き合いそのものは年初めにグルームレイク基地に中佐が赴任してきてからすぐだから大体4ヶ月程度か。

 

当時からゼロス・シルバーフィールド―並びにその仲間2名―は米軍内でも中々の有名人だったと言っていいだろう。

 

元々アメリカ合衆国大統領の息子であり極東で壊滅した部隊のただ1人の生き残りで自らも大怪我を負いパープルハート勲章を授与され、それでもなお長きに渡る昏睡状態から短期間で軍務に復帰、などと大々的に広告塔扱いされていたからユウヤも名前ぐらいは知っていた。

 

ユウヤが配属されていたグルームレイクに来てからは更にその名を轟かせてみせた――――良い意味でも悪い意味でも。

 

つーかぶっちゃけ悪名の方が多くね?とユウヤはブルームレイクでも積み重ねられていった逸話の概要を思い出してげんなりする。

 

 

 

 

『軍団規模のBETAの5分の1を単騎で撃破、誘因し、乗っていた戦術機が壊れても機体を降りて『生身』で更に撃破数を増やす』

 

『ぶっ続けでシミュレーターに乗り続けて逆に機械の方が根を上げた。本人は至って平気な顔をしていた』

 

『PXで喧嘩になった際特殊部隊上がりの屈強な男達10人相手に1人で血祭りにした』

 

『上官をぶん殴った経験あり。中には将官も含まれているが相手が悉く不正に関わった事が発覚してお咎めなしになったり行方不明になったりして有耶無耶になる』

 

『出鱈目な機動をやって乗ってる本人よりも機体の方が根を上げる。ログを調べてみると普通の衛士なら気絶物のGがかかってるのに本人は(ry』

 

『模擬戦にてF-15<イーグル>の改良型1個小隊で教導隊のF22<ラプター>1個中隊を殲滅。F22の内半数をスクラップにした』

 

 

 

 

前2つはともかく半分は実際目の前でやられたもんだから冗談のネタにすら出来やしない。

 

・・・最後のF-22撃破の下りは実際にユウヤもやらかした内の1人だったりするのだがそれはともかく。

 

 

 

 

付いた渾名が『鉄の鬼神(Dermon of Iron)』『壊し屋』『史上最強最悪の軍人』。

 

とにかく話題には事欠かないのがこのゼロス・シルバーフィールドという男。ユウヤ自身、ゼロスに対する印象は『無茶苦茶で破天荒で絶対に怒らせたくない相手』てなもんである。

 

それを差っ引いても、ゼロスには魅力があった。

 

とにかく人の都合なんて気にしない。人の抱える悩みなんて一刀両断、逆に悩んでた事自体どうでも良くなってくる。そんな気持ちにユウヤ自身させられた物だった。

 

部下や同僚など、『身内』に対してもかなり甘い。

 

ユウヤの事を腐す人間(半分日本人の血が流れている事だけでそうする輩がまた多い)が居ようものなら躊躇い無く喧嘩を買う。そして潰す。売られた当人のユウヤが逆に止めに入るほどの勢いで。

 

ありがた迷惑な話だけれど―――――そんな彼、そして彼の仲間に救われてきた事もまた事実。

 

 

 

 

まあ、それでも。

 

ネバダ州グルームレイクからはるばるアラスカまで3000kmオーバーの旅路を『戦術機』に乗って踏破させられる事に対しては、流石に一言物申したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TE-1:ユウヤ・ブリッジスの憂鬱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒涼な砂漠のど真ん中も地平線まで広がる緑豊かな大自然も、何時間もの間延々コクピットの中に閉じ込められてる身からすれば結構大差無い。どっちにしたって変わり映えのしない詰まらない風景でしかないのだから。

 

ようやく拡大した網膜投影の映像の中に目的地――――ユーコン基地の姿を捉え、ユウヤは深く深く息を吐き出す。

 

その音声を捉えたのか、繋ぎっぱなしの通信の向こうでからかうような男女の声が送られてきた。

 

 

『おいおいユウヤ、流石のトップガン様も3000kmもの距離の巡航飛行はお疲れか?』

 

「うっせーぞヴィンセント。こっちは同じ姿勢のままずっと管制ユニットに縛り付けられてるんだ、マトモな座席とコーヒーのあるそっちとは大違いなんだぞ」

 

『いいじゃないですか、そっちは人間工学と強化装備のお陰で快適な姿勢で居られるんですから』

 

『そーそー、座席は固いしコーヒーもマズイときたもんだし』

 

「なら替わるか?」

 

『そうしたいのは山々ですけどそちらから送られてくる機体データの分析を行わなければなりませんから』

 

『俺は整備兵であってユウヤ達みたいなトップガンじゃないから無理だって』

 

 

通信の相手はヴィンセント・ローウェル軍曹とリベリオン・テスタロッサ特務大尉。

 

ヴィンセントはグルームレイクに配属された頃からの相棒的存在で整備兵。軽薄そうな見た目の割に腕は一流、陽気で気が利き、ゼロス達が来る前はよく人間関係に関して彼のフォローを受けたものである。

 

リベリオンはゼロスと共に知り合った面子の1人。元は企業から出向してきた技術者であり開発してきた新兵器や戦術機の改造プランは多数。どれも高性能と評判でしかも凄腕の衛士でもある多芸家だ。ポジションは主に後衛。おまけに超絶美人。何という完璧超人。

 

2人共ユウヤの乗る機体に併走して飛んでいる輸送機、An225<ムリーヤ>の乗客として乗っていた。

 

An225が背負った2つの輸送コンテナに収められているのはリベリオンともう1人の仲間、ユーノ・スクライア特務中尉の機体である。

 

ユーノは顔に刻まれた傷の存在があっても10人中8人は女と見間違うほどの柔和な美貌の持ち主だが、常日頃から張り付いている笑みの下には修羅場を飽きるほど乗り越えてきた戦士の凄味が潜んでいる事をユウヤは知っていた。あの生気が抜け落ちた長い白髪はその代償なのだろう。

 

 

『ここまで動力系・管制系・機体各部にも異常警告や動作不良は無し・・・・十分なデータが得る事が出来ました。どうです、2人の方でも何か機体に違和感などは感じられますか?』

 

 

機体各所に設けたセンサーからの情報のみで結論を出すよりも、実際に機体を操る衛士でなければ気付けないような変化もまた重要な判断材料になる。

 

足元のペダルを僅かに踏み込んで機体を揺らし、両手足に伝わってくる振動から機体のコンディションを図ってみた。輸送機を挟み込むように飛ぶ2機の戦術機が小刻みに踊る。

 

 

『こちらアウトロー0、特に違和感とかはしない、快調なもんだ』

 

「こちらアウトロー3。こっちも全く機体に異常を感じない。このまま戦闘機動に移っても平気なんじゃないか?」

 

『あー、ユウヤ。そういう事はあんまり言わない方が良いぜ?だって・・・・・・』

 

 

ゼロスの言葉を遮ったのは索敵レーダーからの警戒警報。2機の戦術機が急速接近中。

 

 

『・・・・・・実際にそうしなきゃならなくなる羽目になりやすいからな』

 

『『ユウヤ・・・・・・お前(貴方)って奴(人)は・・・』』

 

「ちょっと待て!何だよその目、俺のせいなのか!?」

 

 

うろんげな目で揃って見つめられて思わず絶叫。ゼロス達と関わるようになってからしょっちゅうこんな反応ばかりしている。

 

ゼロス曰く「お前はツッコミ属性持ちだから仕方ない」だとか。コメディアンになった覚えは無い。

 

そこに今まで話に加わっていなかったユーノの声が割り込む。

 

 

『ユーコン基地の演習スケジュールにアクセスしたよ。広報用の撮影飛行の筈がどういう訳か本物のドッグファイトになっちゃったみたいだね』

 

「それでどうするんだ、あの軌道だと真っ直ぐこっちに突っ込んでくるぞ!」

 

 

仮にも上の階級の人間に対して相応しい口調ではないがこの部隊――――アウトロー隊ではいつもの事だった。

 

グルームレイクではトップクラスの腕前だったが問題児でもあったユウヤの方が、部隊の中では最も軍人らしく見られるほどなのだから。

 

 

『こっちから突っ込んで追っ払うなり止めるなりするしかないだろ』

 

『長距離巡航飛行後の戦闘機動テストとしても丁度良さそうですしね』

 

『ああそうそう、もし向こうが撃ってくるようだったら気をつけた方が良いよ。攻撃演習用に実弾も積んでるみたいだから』

 

『まあ頑張れよトップガン。俺には応援しか出来そうにないから。あ、でも絶対に機体傷つけるような真似すんじゃねーぞ!ちょっとでも痛めようもんなら整備兵一同でレンチお見舞いしてやっからな!』

 

「やっぱりかよおおおおお!それからヴィンセント、それはゼロスの方に言ってやれええぇぇぇぇぇ!」

 

 

抗議の悲鳴を上げながら輸送機の前方をフライパス。本来の飛行コースを外れ、接近中の2機に相対する軌道に機体を乗せる。

 

 

『オーバードブーストで真正面から突っ込むぞ。相手とキスだけはするなよ!』

 

「分かってる、そんなヘマはしないさ」

 

 

思考のスイッチを戦闘モードに切り替える。目線を動かすだけで網膜投影されたパラメータの中からコマンドを選び出し起動させた。

 

後ろの方で膨大なエネルギーが収束する音色が伝わり、直後機体ごと蹴りつけられたような衝撃と共に重力がユウヤの身体にのしかかってきた。ここ最近で慣れ親しんでしまった圧迫感。

 

 

『ロックンロォォォォォォル!!!!』

 

 

 

 

速度計が急激に数を増やしていくのに反比例して、闖入者との相対距離を示す数字がみるみる内に減っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嬲り回すかのように追い立てられ始めてからの10分程がF-15・ACTV<アクティヴ・イーグル>を操るタリサ・マナンダルには数十倍の長さに感じられた。

 

その焦燥の度合いは輸送機が往来する空路を突っ切る事も辞さないぐらいに追い詰められている程で・・・・・・それでも空中衝突は是が非でも回避すべくしっかり注意を払っていたから、こっち目がけて前方から飛んでくるエレメント(2機編隊)の存在にもすぐに気付く事が出来た。

 

相手の方も知らせる気満々なご様子で、レーダーの範囲圏内に達した途端前方のエレメントからもロックされたという警告が鳴る。

 

しかし、タリサの想定―そして彼女を追いかけていたSu-37<チェルミナートル>の度肝を抜いたのは―エレメントの接近速度がとんでもなく速かった事だ。

 

 

「何だ一体・・・!?」

 

『Yaaaaaaahaaaaaaa!』

 

『クソッタレェェェェェェ!!』

 

 

向こうの飛行速度は最低でも1000kmオーバーの亜音速。タリサ達の飛行速度と合計すれば軽く音速を超えていたに違いない。

 

その速度を維持したまま突っ込んできた2機は、付かず離れずACTVに食らいついていたSu-37との僅かな隙間に見事に滑り込み通り過ぎる。

 

泡を食ったのはむしろタリサとSu-37の方で、慌てて反発した磁石の様に距離を開けさせられドッグファイトを中断させられた。認めたくないが、例の2機に救われた事をタリサは自覚していた。

 

持ち前の負けん気からと『助けられた』事への無生な腹立たしさから、口から飛び出したのは礼の言葉ではなく甲高い怒声だったのはご愛嬌。

 

 

「バッキャロー、何考えてやがんだテメーら!」

 

『それはこっちのセリフだ。管制塔からの通信がこっちにも届いてたぞ。演習場から外れてこっちまで飛んできやがって』

 

「ンだとぉ!?」

 

 

突っ込んできた片割れらしい若い男からの通信に目尻が吊り上がる。網膜投影に移ったのは東洋系の青年の顔だ。

 

いつの間にか超高速で通り過ぎて行った筈の2機の戦術機が反転して、タリサのACTVとSu-37の後ろについていた。それだけであのエレメントの機体がかなり高い運動性能の持ち主である事を悟る。

 

亜音速を叩き出す高速直進性と反比例するかのような小回りの効く機動性能。その戦術機への興味がみるみるうちにタリサの中で膨らんでいく。

 

 

 

 

やがて目の当たりにした相手の機体は、タリサの期待に違わぬ物珍しさに満ち溢れていた。

 

まず目を引くのはスラスターの位置。目に見えるだけでも従来の戦術機と比べかなり多い。

 

F-15・ACTVは高出力化された1対の跳躍ユニットのみならず背部に1対、両肩部装甲にも1対のスラスターが増設され計6ヶ所もの推進機構は癖の強い操作性と引き換えに大きな機動力を得た機体だ。

 

だがACTV以上の機動力を秘めていると見せつけるかのように、その2機には更に多くのスラスターを備えているのが見て取れる。

 

ACTVと同じ3対6ヶ所以外にも太腿の裏側にも内蔵型の小型スラスターが1対、背部スラスターの1段下にも中心部に双発タイプの物をどちらの機体にも有していた。腰の跳躍ユニットも後部から腰の両横に移動しているし、従来品よりも薄く短くコンパクトだった。おまけにこっちも双発らしい。

 

加えて言うならば両肩のスラスターはACTVのそれよりもかなりスマートで、あれなら従来の機体同様自立誘導弾システムも運用できるだろう。

 

機体のカラーはそれぞれ靴墨より濃い漆黒一色と白と灰色の淡いモノトーン。機体のサイズそのものはかなり大型だ。

 

どちらも大まかな特徴は同じでもコンセプトそのものは別種の存在らしい。どちらとも両肩のスラスターの噴出口の下からは板状の小さな追加装甲が垂れ下がっていたが、漆黒の機体はその外側にSu-37と同じく固定式ブレードを、モノトーンの機体の方は大型ミサイルが取り付けられている。

 

ACTVでは背部スラスターの搭載によって潰されている兵装担架を、あの2機の場合はその背部スラスターの外側に移動する事で確保していた。

 

人間で言う脛から下、足首までの部分はこれまでの戦術機はどれも膝周りの半分ぐらいの直径まで先細りしている物だが、この2機は違う。より太く装甲も分厚く、外側に小型のミサイルポッドまで取り付けられてあるという重武装っぷりである。

 

他にもちょこちょこ相違点はあるものの、どちらもタリサが今まで目にしてきたどの機体とも違うし改良機にも見えない。間違いなく新型機だ。

 

どちらの機体の右肩には所属部隊を示すペイントが刻まれている――――数字の『0』と中心部に宝玉を備えた十字架が重なり、そのバックに銃と剣、いや黒い刀身のカタナが交差した緻密で印象的なデザイン。

 

 

『こちら合衆国陸軍所属、ゼロス・シルバーフィールド中佐』

 

「いいっ!?」

 

 

東洋系の衛士に続き通信を繋いできた相手に思わずタリサは素っ頓狂な悲鳴を上げかけ、慌てて飲み込む。

 

まさかよりにもよって佐官のお出ましとは。しかも強化装備姿という事は今タリサ達を止めに割り込んだ機体のどちらかの操り手に違いない。

 

 

『広報任務で飛んでた筈が何がどうなってガチンコのドッグファイトをおっぱじめたのかは知らんがここいらでお開きにしてくれ。こっちにも喧嘩売ろうってんなら高値で買い取っても良いんだぜ?』

 

『・・・・・・・・・・』

 

 

追いかけっこの間もこれまで無言だったSu-37のの衛士(無愛想なムカつく銀髪女のコンビ)は、所属が違うとはいえ上官に一言も言わないまま空域を離脱していった。

 

ぶっはぁ~、と盛大に一息つく。似たような音が通信の向こうから聞こえてきた。発生源は東洋系の衛士の方だ。

 

 

『・・・こんな際果てまでわざわざ戦術機で延々飛ばされたかと思ったらこんなお出迎えかよ。冗談じゃねえ』

 

 

向こうがそう吐き捨てるのもしっかりマイクに拾われてタリサに届いていた。

 

追っかけまわしてくれた相手が居なくなった段になってついつい勝気で短気てカッとなりやすい性格が首をもたげてしまい、上官の存在も忘れて噛みついてしまう。

 

 

「へーんだ、邪魔が入らなきゃもう少しでこのタリサ様が華麗な機動で逆転する所だったのによー」

 

『ハァ?何強がり言ってんだ。見てて良い様に追い立てられてたの、丸分かりだったぞ』

 

「んだとぉ!?」

 

『はいはい喧嘩すんなよそこの2人。せっかくこれから一緒にやってくってのに』

 

『喧嘩じゃなくて向こうが勝手に噛みついてきてるだけだっての』

 

『だからユウヤも煽るなって。つか、コイツはお前が入れられる部隊の人間だった筈だぜ?』

 

『え?』「へ?」

 

『タリサ・マナンダル。アルゴス小隊所属、だろ?』

 

 

銀髪碧眼の青年が悪戯っぽく笑ってみせた。

 

 

『つか、さっきのソ連軍の衛士もコイツらと一緒に組ませて俺らの方で色々仕込んでく予定の相手だから』

 

 

いまサラッと聞き捨てならないことおっしゃいましたよこの人。

 

アタシが、あのいけ好かない無愛想コンビと一緒に?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふ、ふ、ふっざけんなああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

今度こそ。

 

上官が相手である事をさっぱり忘れて、タリサは雄叫びを上げてしまった。

 

 

 




アニメ版のタリサの可愛さは異常。
チョビ可愛いよチョビ

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