The Outlaw Alternative   作:ゼミル

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主人公なら主人公らしくラッキースケベな目に遭わせないとな!
…え?色々と違う?


TE編4:Meet the players

 

少し早く来すぎたか、とユウヤは思っていたが、ブリーフィングルームには既に先客が居た。

 

銀の少女が2人。背丈やスタイルの差はあれど姉妹のように2人は似ていた。大きいショートカットの方は冷徹な視線を一瞬だけユウヤに向けただけだが、小柄な長い髪の少女の方はにこやかに笑ってユウヤに向けて手を振った。余りにも子供っぽい無邪気な笑顔は軍人とは思えない。

 

だがチラリと見えたウイングマークと所属を示す肩章からソ連軍の衛士であるのは丸分かりだった。人は見かけによらないものなのだと再認識。

 

 

「(ま、チョビも似たようなもんか。アレは流石に喧し過ぎるけど)」

 

 

現在部屋に居るのはユウヤ含めこの3人だけ。銀色の内小さい方はともかく、大きい方は明らかにお喋りの相手をしてくれそうな相手とは思えない。

 

他の連中もすぐにやってきそうにないと感じたユウヤは懐から携帯端末を取り出した。

 

数秒後、特徴的な電子音のメロディーが流れだし―――――何故か銀の少女達が反応した。ユウヤは知らなかったが、その音楽はロシアの民謡なのである。

 

音量は控えめにしていたのだが物音1つしなかった室内では意外と大きく響き、電子的な音楽と効果音を聞きつけたのかしきりに2人がユウヤの方を気にしだす。端末の画面に視線を落としているユウヤは気付いていない。

 

しばらくしてからふとユウヤが顔を上げると、何時の間にやら小さい方の少女が目の前まで近づいて同じように画面を覗き込んでいた。思わずのけ反ってしまう。

 

 

「・・・・・・なにをしてるの?」

 

「何って・・・・・・暇潰しのゲームだよ」

 

「げーむ?」

 

「まあ知らないよな。テ○リスってパズルみたいなゲームなんだけど」

 

「?」

 

 

不思議そうなあどけない表情だが視線は一時停止された画面に釘づけである。

 

と、鼻を鳴らす音が届いた。もう1人の大きい方の少女がユウヤにあからさまな侮蔑の嘲笑を向けていた。続いて呟かれたロシア語の意味は分からないがロクな内容ではあるまい。

 

こういう感情を向けられるのは生まれと見た目のせいでそれなりに慣れっこなつもりだったがやはり気に入らない。とはいえあの少女が向ける敵意はむしろソ連とアメリカがかつて敵対関係にあった国同士だったからこそのものだろう。

 

・・・・・・流石のゼロスも今回ばかりは上手くやれるのやら不安になってくる。信頼は、しているが。

 

考え事をしていたせいで目の前の少女の行動を見逃してしまっていた。彼女が行動を終えた段になってようやく我に返り、状況を把握する。そして慌てる。

 

 

「うおっ!?」

 

「んなっ、イーニァ!?」

 

 

少女―名はイーニァらしい―がどういうつもりかユウヤの膝の上に腰を下ろしていた。小さくも引き締まったお尻の感触がズボンの布地越しに伝わってくる。

 

 

「何だよ一体!?」

 

「イーニァ、早くその男から離れなさい!」

 

「ユウヤ、つづき、しないの?」

 

 

イーニァだけが呑気にそんな事をのたまう。ユウヤはいきなりの彼女の行動にどう反応すべきなのか思い浮かばず固まり、もう1人の少女の方は今にもユウヤに掴みかかりそうな般若の形相だった。というか実際そうした。

 

 

「き、貴様ぁ!この低俗な快楽主義者が!一体イーニァに何をした!どうやって誑かした!」

 

「お、俺は何もしてない!お前もすぐ傍で見てただろうが!」

 

「クリスカ、ユウヤは悪くないよ?」

 

 

イーニァの声もクリスカには届いていない。怒りの形相で顔を近づけてきたクリスカから反射的に離れようとユウヤが背もたれに背中を押しつけた。更に迫ろうと銃身をユウヤの方へ駆けるクリスカ。

 

さて、必要以上に重心が偏るとどうなるか?

 

後ろへ傾いて不安定な状態にあったパイプ椅子の角度は遂に限界を超え、一気に後方へと倒れ込む。

 

ブリーフィングルームの扉が開くのとけたたましい転倒音が鳴り響くのは同時だった。

 

 

「いてててて・・・・・・」

 

 

顎を引いて後頭部を強かに打ちつけるのは防げたユウヤだったが、代わりに腹にのしかかる少女2人分の体重をもろに受けてしまい圧迫感と鈍痛に襲われる。

 

少女達の身体をどかして文句を言ってやろうと、ユウヤは銀色の髪に視界を覆われながらも手探りで両手を動かしたその時。

 

 

 

 

むにゅう  「ふぁん」  ぽよん  「ひうっ!?」

 

 

 

 

この柔らかい2種類の感触は何だろうか。ヒュウ、と誰かが口笛を吹いた。

 

 

「ユウヤ、もっとやさしくもんでほしいな?」

 

 

何ですと?

 

慌てて身体を重みの下から引きずり出し身体を起こす――――イーニァとクリスカが胸元を押さえていた。イーニァはやはりぽわぽわした風だがクリスカは真っ赤な顔でもはや親の敵を見るような強烈な眼差しでユウヤを射抜いてくる。

 

もしかして、もしかしなくてももしかするんだろうか。

 

 

「やるじゃねぇのトップガン。まさか『紅の姉妹』の胸を2人纏めて揉むなんてな」

 

「女の子の扱いはもっとソフトにしてあげなきゃダメよ?」

 

「こ、こんんんんんおぉ変態!女の敵かよテメェェェェェェェ!!」

 

「ご、誤解だ誤解!」

 

 

 

 

言い訳も空しく、ゼロス達がやって来るまでユウヤはタリサとクリスカにボコボコニされたとさ。

 

余談ながらこの時の共闘(?)がきっかけで不倶戴天の敵対関係にあったタリサとクリスカの関係がちょっとだけ近づいたとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TE-4:Meet the players

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終的に集まったのはユウヤを含め13名。席にはイブラヒムを含めたアルゴス小隊の面々にイーニァとクリスカ、先日別個に顔を合わせた唯依とグレアム姉妹、そしてゼロスとユーノとリベリオンが壇上に立っていた。全員BDU姿である。

 

 

「――――って感じでそれぞれ元の所属毎に持ち寄った自前の機体を使って同じ新装備を試験運用してもらう訳だが、整備は1ヶ所に纏めて行ってもらう。各機のデータを共有する許可も貰ってあるから、自分とこの以外の機体データが気になる奴は遠慮なく聞いてくれ」

 

 

それはつまり未だ試作段階にあるタリサのACTVやイーニァとクリスカが操るSu-37の実機データも自由に見れるという事だ。自分の機体に愛着のあるタリサやクリスカは何か言いたげにゼロスを睨みつけたが当人には気にした様子はちっとも無い。

 

 

「説明はこんな所だ。そんじゃま次は自己紹介といこうかね。初めて顔を合わす奴も居るこったし」

 

「それじゃあ前の座席順に順番に名前と所属を言って下さい」

 

 

そう告げたリベリオンは最も近くの席に収まっていたクリスカとイーニァを見た。

 

 

「・・・・・・ソビエト陸軍少尉、クリスカ・ビャーチェノワ」

 

「おなじく、いーにぁ・しぇすちなしょういです」

 

 

ぶっきらぼうな口調のクリスカの後方で密かに中指を立てるジェスチャーを向けていたタリサだったが、イブラヒムから無言でゲンコツを叩き込まれて涙目になった。

 

次はソ連組と反対側に陣取っていた双子が立ち上がる。

 

 

「イギリス陸軍所属、リーゼアリア・グレアム少尉」

 

「同じくイギリス陸軍所属、リーゼロッテ・グレアム少尉。これから皆よろしくね?」

 

 

双子の内、ショートカットの方が悪戯っぽい笑みを部屋中に振りまいてみせた。中々の美人なので、女好きなヴァレリオが微かに口笛を鳴らしてみせる。

 

ユウヤは2人の事を猫っぽいと感じた。血統書付きの双子だが性格は澄ました感じのタイプと人懐っこくやんちゃなタイプ、といった感じで別々っぽい。実際その通りだった。

 

壇上の3人の視線が双子の後ろに座る唯依に向けられる。

 

 

「日本帝国斯衛軍中尉、篁唯衣であります!」

 

 

彼女を見ているとユウヤの胸中がざわめく。ゼロス達と触れ合うようになってから自身の中に流れる日本人の血、そして自分達家族を捨てた父親への憎しみが転じて育まれた日本という国へ抱いていた嫌悪感は大分和らいだ(というよりどうでも良くなった)が、苦いものが浮かんでくる辺りまだまだ根は深そうだ。

 

こうなってくるとピシリと折り目正しく分度器で測った化のような完璧な敬礼をしてみせるあの姿さえも無性に腹立たしくなってしまう。思考を包もうとする黒い靄を振り払おうとユウヤは頭を振った。

 

 

「次はアルゴス小隊の面々だ。この5人と篁中尉には新装備の試験運用とは別にXFJ計画も手掛けてもらってる」

 

「―――アメリカ陸軍所属、ユウヤ・ブリッジス少尉であります」

 

「ネパール陸軍所属、タリサ・マナンダル少尉であります!」

 

「イタリア軍所属、ヴァレリオ・ジアコーザ少尉でありますっと」

 

「スウェーデン軍所属、ステラ・ブレーメル少尉であります

 

「トルコ陸軍所属、イブラヒム・ドゥール中尉だ」

 

 

複数の視線の内、唯依の視線が特に強くユウヤを見据えている。負けじとばかりにユウヤもまた強く唯依を見つめた。睨みつけている、と表現した方が正しい位の険しい目つきだった。

 

 

「(見てろよ、その澄ましたツラの度肝を抜かせてやる)」

 

 

そして注目は壇上に戻る。

 

 

「それじゃあまずは私から行きますね。リベリオン・テスタロッサといいます。合衆国陸軍特務大尉であり、今回貴方達に試験してもらう各装備の開発者でもあります。装備に関して意見や質問があれば遠慮無く私に聞きに来ても構いませんよ」

 

 

アメリカ組以外がどよめきを漏らす。ウイングマークを付けているのでリベリオンもまた衛士の1人である事は一目で分かっただろうが新装備の開発者でもある事は意外だったらしい。

 

次に1歩前に出たのはユーノ。相変わらずのアルカイックスマイルを浮かべたまま口を開く。

 

 

「僕はユーノ・スクライア。所属はユウヤやリベリオンと一緒でアメリカ陸軍の特務中尉ね。皆とは仲良くやっていければと思ってるよ」

 

 

―――――ふと気付く。ソ連組の様子がおかしい。ユーノから距離を取ろうとしているのかしきりに身体を椅子の上で動かしていて、イーニァなど少し怯えてさえいる様子だった。

 

前に聞いた事がある。ユーノの笑顔は別に意識して浮かべているのではなく、過去にロクでもない経験をしたせいで張り付いて戻らなくなってしまった表情だと。

 

 

「最後は俺だな。俺はゼロス・シルバーフィールド。アメリカ陸軍の中佐で今回の運用試験の責任者って事になっている」

 

 

おもむろにゼロスは無言になった。上官のいきなりの沈黙にミーティングルームの空気が次第に張り詰めていく。

 

たっぷり十数秒間を空けた後、

 

 

「ま、中佐なんて階級も半分コネとインチキでなったようなもんだから気楽に接してくれや。俺も堅っ苦しいの嫌いだし、最低限の礼儀位守ってくれりゃ充分だから」

 

 

いやちょっと待て色々とおかしくないかそれ。コネとインチキで中佐になったとか自分で白状する事じゃないだろ絶対。ほらみろタカムラなんかずっこけてるぞ。

 

最初の印象はかつて家に飾られていた日本人形そっくりな無機質感を唯依に対してユウヤは抱いていたのだが、ハトが豆鉄砲食らったような有り様の今の様子を見ているとそんな感覚もどっかへ飛んでいってしまったのを自覚した。

 

まあゼロスが相手なら仕方ない。仕方ないったら仕方ない。だって自分も被害者だし。

 

 

 

 

「んじゃ簡単に自己紹介が終わった所で早速始めるとしよう――――全員強化装備に着替えてシミュレータールームに集合。全員の腕をまとめて見せてもらうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーコン基地に於いてはシミュレーターを使った演習というのはむしろ珍しい部類に入る。

 

この基地では対BETA戦を想定した演習ではJIVES(統合仮想情報演習)システムを用いた実機演習が一般的なのだが、機体が整備で使用できない場合などではやはりシミュレーターが用いられる。各国からの兵が集められているだけあって他の基地と比べて利用されにくいシミュレーターであってもかなりの数が揃えられていた。

 

各々がダウンロードされた自身の乗機をシミュレーターで操る光景をユウヤは真剣な目でモニターで観察していた。その隣にはゼロス達も居る。見学組の内ユウヤだけ強化装備姿で残りの3人はBDUのままだ。

 

現在の演習はヴォールク・データ・・・・・・ハイヴにおける攻略演習である。

 

彼らは何度も繰り返してきた演習プログラムを行っていた―――――ただし、各自『単騎』で攻略という設定で。

 

シミュレーターでハイヴ攻略真っ最中の衛士達の顔に余裕はない。そもそもハイヴ突入など最低でも中隊規模、いや大隊規模でも全く足りないぐらいなのに自分1人(ソ連組だけ2人1組)だけで攻略してみせろなんて注文、出鱈目にも程がある。ユウヤも同意見だ。半分ぐらいは。

 

 

「テストパイロットに選ばれただけあってどいつもそれなりの腕、って訳か」

 

 

演習の感想が口から漏れる。ベテランでも1機だけで背部突入なんて状況ではそのBETAの濁流の前に『死の8分間』すら超えれず撃破されてもおかしくないが、既に1時間程経った現在も未だ誰1人撃墜されていない。

 

特に複座型Su-37を操るクリスカとイーニァなど上層部を突破し、中層に達しようかという勢いだ。撃破したBETAの数も他と比べ際立ってはいた、が。

 

 

「そろそろですかね」

 

「だろうな。もうすぐ何人かやられる頃だ」

 

 

ゼロスの発言通り、S-11の自爆ボタンが押され演習終了を示すアイコンが表示された。

 

まずはヴァレリオ、次にステラ。リーゼアリアも脱落しタリサも墜ちる。イブラヒムにやや遅れて唯依とリーゼロッテが同じタイミングで撃破認定、最後にクリスカ・イーニァコンビが中層始め辺りで遂にBETAに囲まれて身動きが取れなくなり自爆。

 

大半が機体に搭載していた弾薬をほぼ使い切り、近接戦用長刀を積んでいた唯依やリーゼロッテも使い物にならなくなるレベルまで得物を酷使していたとデータには残っている。

 

結局誰も反応炉に到達できないまま全滅という結果だったが、誰もがこれが当たり前の結末だと考えていた。むしろ自分だけでここまで攻略できたと思って満足そうにしている者すら居た。主にたりさとかタリサとかクリスカとか。

 

「で、ご感想は?」と言いたげな視線を送ってくる衛士達は少なからずそれなりのリアクションを期待していた。クリスカに至っては最も優秀なのはこの私達だなんて、勝ち誇った瞳が口ほどに内心を語っている。

 

 

 

 

だがしかし、ゼロス達の反応はとても素っ気ない。

 

 

「――――ま、こんなもんだろ」

 

「ええ、以上に皆さん優秀ではありますね」

 

「うぉい!何だよ、それだけかよ!?」

 

「ちょび、うるさい。キャンキャンほえないで」

 

 

毒吐くイーニァに噛みつかんばかりに詰め寄ろうとしたタリサを堂々と宥めるステラ。喧騒を余所にイブラヒムが代表者として問いかける。

 

 

「失礼ながら中佐、この演習はどういった目的で行わせたのでしょうか」

 

「理由は幾つかある。純粋に皆の技量を知るにはこのやり方が1番分かりやすかったってのもあるし、皆がどう考えて戦ってるのかを理解したかったってのもある」

 

「それで、中佐達のお眼鏡に俺達は適ったんでしょーか?」

 

 

ヴァレリオの軽口にリベリオンが男好きのする蠱惑的な笑みでもって答える。

 

 

「皆さんの技量はかなりのレベルにあると思いますけど、それでもハイヴを攻略するには不十分ではあります。ではそれは何が原因なのでしょうね?」

 

「それはやはり我々がまだまだ未熟だから、でしょうか・・・・・・?」

 

「うん、それはちょっと違うね。腕は十分だよ。ただここが足りないのさ」

 

 

ユーノが微笑みを張りつかせながら人差し指でトントンと叩いてみせたのは頭。オツムの足りない馬鹿扱いされたような気がして唯依の内心は憮然となる。

 

 

「つーわけで出番だぞ、ユウヤ」

 

「いや何で俺なんだよ。ここは上官が自分の実力を部下に教え込む場面だろ普通」

 

「貴女の操縦が1番癖が無くて見本にピッタリなんですよ。相棒達じゃ癖が強過ぎて参考になりませんし」

 

「自分はどうなんだよ自分は!?」

 

「私は戦域管制を行う役目がありますので。という訳で上官命令ですので大人しく従って下さいね」

 

「チクショウ!分かったよやれば良いんだろやれば!!」

 

 

もはや上官と部下というよりは学級委員長に仕事を押しつけられた不良生徒みたいなやり取りである。

 

 

「あの列の1番奥のシミュレーターを使って下さい。設定と中身の書き換えは完了してあります。機体は何時も通り強襲掃討仕様のF-15Eで構いませんね?」

 

「ああ、それでいい」

 

 

シミュレーターが閉じる寸前、ゼロスがこう付け加えた。

 

 

「何なら最速記録を1分更新ごとにビール1杯奢りってのはどうだ?」

 

「1杯じゃなくて1本にしろ!」

 

「OK、クリアできなかったら罰ゲームな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なのだこれは・・・・・・」

 

 

唯依の呻きはまさしく他の衛士達の内心と一致していた。どいつもこいつも驚愕を顔中に張り付けていて、ロッテとアリアのグレアム姉妹だけはそこまで驚いてはいないものの視線はモニターに釘づけになっている。

 

画面の中のユウヤが操るF-15Eは、文字通り縦横無尽にハイヴ内を動き回っている。射撃回数は驚くほど少なく、着地する際着地地点に群がっているBETAの掃討か頭上から降ってきてぶつかりそうな個体を撃ち落とす時ぐらい。

 

とっくに中層に突入し、ソ連組が打ち立てた先程の最高記録をあっさり塗り替えて見せたユウヤは更に仮想空間に再現された地中内の敵地を跳躍ユニットと主脚を用いて駆け抜けていく。

 

進むにつれ現れるBETAの規模は数万体にも膨れ上がってユウヤに立ち塞がる。しかしユウヤはちっとも焦った様子も見せずただ辟易としながらも両手の突撃砲を乱射。機体を横抗の片方へ寄っていくとBETAの軍勢はユウヤの動きに釣られ、もう片方の壁が薄くなる。それでも数千体は犇めいていた。

 

跳躍ユニットの出力を全開にし急転換。薄くなった方へ機体の矛先を変えると躊躇い無く突っ込む。見物している側からしてみれば角度が急過ぎる上にあの速度では壁に激突すると誰もが思った場面だったが

 

 

『そうらよっ!』

 

 

三角飛びの要領でBETAの雨の隙間を潜り抜けると危なげなく着地。動きを止めず更に奥へ。

 

ありえない、と一同は思った。あのタイミングでは入力しても機体の反応が間に合わず、あえなく壁に激突して墜落している筈だ。

 

機体そのものは高性能ではあるが至って普通の量産機であるF-15E以外の何物ではない。唯依達の疑問は、リーゼアリアとゼロス達の会話によって氷解する事になる。

 

 

「ねえゼロス。あの機体に積んであるのって、やっぱりあの例のOSなんでしょ?」

 

「ご名答です。2人は既に見た事がありますからすぐに分かりましたね」

 

「忘れられる訳無いわよー。最初に見た時どれだけ驚いたと思ってるのさ。なんてったって光線級のレーザーまでひょいひょい避けちゃうんだもの」

 

『何ィ!?』

 

 

一同、騒然。落ち着いた物腰のステラまで口元を押さえて目を見開いてしまうほど。始めて話を聞かされた中で唯一落ち着いていたのは「そーなんだ、すごいねクリスカ」なんて発言を素直に受け止めてみせているイーニァぐらいだ。どちらかといえばどれだけ突飛な事なのかちゃんと理解していない感じにも見えなくもないけれど。

 

 

「別に照射のタイミングは分かるんだから寸前で軌道変えりゃいいだけの話なんだがな、実際の所」

 

「口で言うのは簡単ですけど、現実にはそれを実現できるだけの処理速度を持ったOSと完璧に作動させれるだけの機能を持ったハードウェアがあればこその話ですよ」

 

「それを実現させたのがリベリオンが開発した新型の戦術機用機動制御ユニット――――<EX-OPS>さ。今ユウヤが操作してあるシミュレーターにもそれが組み込んであるんだよ」

 

 

ユウヤの操る機体の動きはとにかく止まらない。動いて動いて動いて動いて、BETAに取りつかれる猶予を与えずさっさと醜悪な魔の手から逃れてしまう。

 

集められた者達全員、それなり以上の腕を持つという自負があった。けど今は、今まで積み上げられてきた自信と実績が胸の内で音を立てて崩れて行くのを誰もが自覚していた。

 

何て事だ。この野生の獣のように疾走する戦術機の姿を見ていると、自分達の操縦はまるで関節が錆ついたよぼよぼの爺さん並みに鈍く思えてくるではないか。

 

そうこうしている間にも遂にユウヤはハイヴ下層へと突入してしまい、一際規模を増したBETAの濁流に怯む事無く突貫していく。

 

 

『まだまだぁ!』

 

 

両手と左右背部マウントの突撃砲の120mmを4門同時発射。装填されていたキャニスター弾が36mmの同時連射を遥かに超える密度の散弾を前方へ放ち、BETAの壁に穴が開く。即座に埋まりつつある唯一の突破口に機体を滑り込ませ再度跳躍ユニットを全開。

 

――――突破した先に要塞級の巨体が立ち塞がる。ユウヤの顔に焦燥が浮かぶが思考は要塞級をかわす道筋を探し、手足はそれを実行に移すべく目まぐるしく働いてみせる。

 

左右?No、他のBETAでぎっしりだ。上?ダメだ、こちらも天井から降ってくるBETAの数が多過ぎてすり抜けるのは困難過ぎる。立ち止まる?馬鹿言うな。

 

前へ、前へ、前へ。それがハイヴ戦の、何より兵士の鉄則。動きを止めたら比喩でも何でもなく戦車級にたかられて喰われてしまう。突撃級に轢き殺される。要撃級に殴り潰される。要塞級の触手に溶かされ光線級のレーザーに焼き貫かれる。

 

そうなりたくなきゃ身体を、頭を、フル回転させ続けろ――――それがゼロス達に叩き込まれた教え。

 

 

 

 

―――――だから、前へ!

 

 

 

 

『うあああああああああっ!!』

 

 

リミッター解除。乗り手に限界以上のGが加わらないよう設定されている跳躍ユニットの安全装置はシミュレーターでも忠実に再現されていて、その鎖から解き放たれたF-15Eは更に加速した。

 

無茶な機動に身体が振り回されるのも慣れっこにさせられてしまったユウヤの身体は通常以上にのしかかるGもものともせず機体を操り続ける。機体の高度を下げ地面ギリギリまで這いつくばるようなコースを選択。

 

戦術機の全高は平均して18~19m前後。要塞級は全高だけで50mオーバー。先細りの10本の脚部と触手を修めた尾節、それに三胴構造の胴体で構成されている。

 

ユウヤは肩からねじ込むようにして要塞級の脚部と尾節の間に機体を潜り込ませた。脚先と胴体との間には十分な空間があったのだ。通り抜けざま、置き土産とばかりに要塞級の弱点である三胴接合部に36mm弾を叩き込む。

 

要塞級のトンネルから突破したユウヤの後方で自重に耐え切れなくなった要塞級が横倒しに崩れ落ちる。巻き添えで周辺に居た小型種が多数下敷きになっていたがユウヤが気にする筈も無い。

 

そこまで来てユウヤもリミッターをかけ直す。解除していたのは現実には僅か数秒足らずだったのだが操作していた本人にとってはその数倍にも感じられたし、顔にも大粒の汗が多く浮かんでいた。

 

しかし、その甲斐はあったと言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――反応炉到達を確認。目標達成です。お疲れさまでした」

 

 

 

 

シミュレーターから出てきたユウヤをまず出迎えたのは・・・・・・歓喜の余り突撃してきたタリサのボディプレスだった。

 

 

 

 


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