The Outlaw Alternative   作:ゼミル

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TE編6:トレーニング・デイ

 

 

今ユーコン陸軍基地の格納庫には、世界中の軍事基地でも滅多にお目にかかれないであろう異様な光景が広がっていた。

 

 

 

 

―――富嶽重工製、日本斯衛軍正式採用機TSF-TYPE00<武御雷>

 

―――スフォーニ設計局製、ソビエト連邦軍正式採用機Su-37<チェルミナートル>

 

―――欧州連合次期主力戦術機、EF-2000<タイフーン>

 

―――フェニックス構想における実証実験機、F-15・ACTV

 

―――そしてF-15・ACTVとは別種の改修が施されたF-15系統の機体が4機。

 

 

 

 

各国を代表する最新鋭の第3世代機、もしくはそれらに負けぬ性能を誇る準第3世代機が1つの格納庫に集まり、ガントリーに直立状態で固定されたそれらは砂糖に群がる蟻の如く集う整備兵達の手によって実機演習前最後の点検が行われていた。

 

各機の乗り手である様々な国籍の衛士達は皆強化装備姿でその光景を興味深そうに眺め、雑談を交わしている。

 

 

「あのさあのさ。新しいOS・・・・・・<EX-OPS>だっけ?それに乗せ換えるのは良いんだけど、どうして管制ユニットまで弄ってるの?どうも中身ごと交換してるみたいなんだけど、OS書き換えるだけで十分なんじゃないの?」

 

「単にOSを書き換えるだけじゃまともに動かないからですよ。<EX-OPS>はOSだけではなく新しく開発した高性能CPUもひっくるめた1つの総称ですから」

 

「あれだけの動きを可能にする分処理する量も格段に違ってくるからな、ソフトだけじゃなくハードも改良する必要があったんだよ。ま、そっちも全部リベリオンが1から作ってくれたんだけどな」

 

「いえいえ、私はただ相棒が望んだものを用意しただけですよ」

 

 

リーゼアリア(イギリスの髪が長い方)の疑問に開発者であるリベリオンと発案者のゼロスが答える。

 

リベリオンの手には携帯端末。各機のOSと管制ユニットの換装作業の進捗をチェックしているのだ。技術者どころか<EX-OPS>の開発責任者であるリベリオンは今回の評価試験における教導役のみならず、ハード・ソフト両方のチェックを行う立場にあるのでかなりの仕事量を背負い込む筈なのだが気にする様子はない。

 

そこへヴィンセントが所々にオイルのシミを拵えた整備服姿で彼らの元にやって来た。何だか我が人生の春が来た!といった感じで喜色満面の表情を顔に張り付け、気持ち良さそうな汗をかいている。

 

 

「いやーやっぱ中佐達にここまで付いて来て良かったっすよ!砂漠のど真ん中に引きこもったまんまだったら日本やソ連やヨーロッパの第3世代機に触る機会なんて回ってこなかったに違いありませんもん!!」

 

「それは良かったじゃないですか。管制ユニットの換装とインストールはどの機体ももうすぐ完了しそうですね」

 

「ええ、どの国の連中も物分りが良いし意外と話せる連中でしたから、要点だけ教えたらすぐに終わりましたよ」

 

 

ヴィンセントはアラスカにやってくる前からゼロス達の機体の整備を行っていたので<EX-OPS>の換装作業も何度か経験済みだった。それを踏まえリベリオンの代わりに各国の整備兵の元に出向いて換装時の注意点等を教えて回っていたのだ。

 

2人のやり取りを聞いて眉を顰めたり顔をしかめたりしたのは唯依とクリスカ。国粋主義的な一面を持つ彼女達はお気に召さなかったようである。

 

 

「んじゃ各自自分の機体に乗り込んで最終チェックを行ってくれ。言っとくが起動させたその瞬間からお前らの機体は全くの別物に変わってるって事を肝に命じといてくれ」

 

『了解!』

 

 

三々五々に散らばり愛機の元に向かう選び抜かれた衛士達。

 

ゼロス・リベリオン・ユーノ・ユウヤ・ヴィンセントは彼らの背中を見送ってから、視線も交わさないまま徐に口を開いた。

 

 

「で、どれだけ無事に格納庫から出ていけるか今夜の飲み会の代金賭けるか?」

 

「うーん、僕は多分全員無理なんじゃないかと思うんだけど」

 

「私もユーノと同意見で」

 

「・・・俺も全員に賭ける」

 

「んじゃ俺も、全員格納庫から出る前に1回は転倒するに賭けますよ」

 

「それじゃあ賭けにならなくね?」

 

「というか、従来のOSに慣れきってるアイツらじゃあそこまでの余裕の無さに1発で対応できないと思うぞ」

 

 

賭けの結果は―――――予想通りだったとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          TE-6:トレーニング・デイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーうん、割と本気で正直スマンカッタ」

 

 

演習エリアに移動した合同試験部隊の間に広がるお通夜のようにどんよりとした気配に、無性に罪悪感に駆られたゼロスは額にでっかい汗を浮かべながら正直に謝罪の言葉を口にせざるを得なかった。

 

 

『ううう、アタシの機体が~・・・・・・』

 

『申し訳ありません巌谷の叔父様、唯依は帝国の誇りに泥を塗ってしまいましたっ・・・!』

 

『クッ、こんな無様な姿を晒すなど!』

 

『最初に乗った時でも機体に傷1つつけなかったのにねぇ』

 

『いやー揃いも揃って見事なまでにすっ転んじまったな』

 

 

上からタリサ、唯依、クリスカ、ステラ、ヴァレリオの順である。

 

地を這うようなテンションの理由、それは主機に火を入れ格納庫から主脚による徒歩で出て行こうとした頃に遡らなくてはならない。

 

 

『一応反応速度の大幅な向上に伴って機体の『遊び』も殆ど無くなってるって説明されてた筈じゃなかったっけ』

 

『泣き言は言いたくないんだけど、ここまで余裕が無いのはちょっと予想外だったかな・・・!』

 

『ロッテは良い反応してたんですけど惜しかったですね。タリサに巻き込まれてなければ無事に機体を無傷で格納庫から出せたでしょうに』

 

『ほっとけー!!』

 

 

双子の髪が短い方ことリーゼロッテが悔しそうにそんな呻き声を上げた。ユーノの指摘が耳に痛い。あと罵声を上げたタリサはもはや涙目だ。

 

そう、米軍組を除く戦術機に乗った全員が機体に一歩踏み出させて早々同時多発的に格納庫内で転倒、もしくは大きくバランスを崩してガントリーなり整備用の通路に激突したりと阿鼻叫喚の事態が勃発したのである。お陰でどの機体も大なり小なり機体の塗装が剥げ、擦れた傷跡が残っている。

 

奇跡的にも人的被害は出なかった―エリートを自負するパイロット達の心の傷を除いてだが―のは、予めそうなると予想して警告を発し整備兵全員を格納庫から避難させたヴィンセントの賜物であるが、物的破損についての始末書作成は免れまい、とゼロスは心の中で溜息。ついでに真面目な話跳躍ユニットの燃料に引火しなくて良かった、とも思う。

 

―――始末書についてはマルチタスクを使えば案外楽に作成できるからまあ良いとして。

 

この失敗に特にショックを受けてそうなのは唯依とクリスカとタリサ辺りか。

 

唯依は帝国斯衛軍、ひいては日本帝国の象徴ですらある<武御雷>という機体に傷をつけた事への悔根、クリスカは母国の誇りである乗り慣れた愛機をまともに動かす事が出来ずに痛くプライドを傷つけられ、タリサに至っては短気な性格が災いしてか慌ててリカバリーしようとして余計に被害を拡大させて仕舞いには唯一転倒せずに格納庫の外までもう少しの位置まで期待を進めていたロッテを巻き込むという体たらく。

 

なので傷のつき具合で言えばタリサのACTVが最も酷かった。<EX-OPS>に関しては最初はシミュレーターから始めて機体を壊したり怪我を負う前に慣らさせていきたい所だったのだが、実機演習が当たり前だというこの基地の風潮に流されてしまった事を今になってゼロスは少し後悔。

 

一応どの機体も致命的な損傷はせずに済んだし、良い薬にはなったとは思うが。

 

今更だけど頭ガチガチで時代錯誤な忠誠心とか愛国心に定評のある斯衛軍が大事な<武御雷>を弄るのに許可出したよな、とも思ったり。

 

 

『クリスカ、そんなになやまなくてもゼロスはきっとおこらないからだいじょうぶだよ』

 

『ごめんねイーニァ、心配かけて』

 

「まあ皆従来のOSにしか触れてこなかったんだから仕方ねぇさ。初めてこの<EX-OPS>に触れた奴にはよくある事だからあまり気にしないほうが良いぞ。実際ユウヤも最初の頃は格納庫から出るまでに3回ぐらい転んでたからな」

 

『俺の事まで引き合いに出す必要無いだろ!』

 

 

上下関係を無視した言い方だけどあえてスルー。この仲間内ではよくある事。イーニァに至ってはゼロスを普通に呼び捨てにしている始末だがこれも無視。

 

 

「さて、ここまで歩かせて来くるまでに新しいOSがどんな代物か少しは理解したと思うが、本格的な戦闘起動を実際に行うにはまだまだ不十分なのは自分達でも理解出来てるだろう」

 

 

ゼロスは人数分のサブウィンドウを表示させてそれぞれの顔を見回しながら告げた。

 

 

「だからまずは<EX-OPS>に乗せ変えた事で自分の機体がどれだけ変化しているのかを身体に叩き込んでいこうと考えてる。今から俺達の機体の動きに合わせて操作しながら、自分の機体の反応の変化に慣れていってくれ」

 

『了解』

 

『ところで中佐、もしかしてここでも『アレ』をやるつもりなのか?』

 

「そうだけど、何か文句でも?」

 

『・・・・・・いや別に』

 

 

ゼロスとユウヤのやり取りに違和感を覚える多国籍軍な面々。いっつも微笑を浮かべてるユーノはともかく悪戯っ子な笑みを浮かべてるリベリオンと疲れたというより諦観の表情で肩を落とすユウヤの様子がからしてちょっと不安だ。

 

一体何が始まるというのだろう?

 

ちょっとだけ不安な眼差しを部隊の面々がゼロスに向ける中、彼は音声データを再生させる。

 

 

 

ちゃんちゃんちゃちゃかちゃかちゃーんちゃかちゃかちゃちゃ♪

腕を前から上げて大きく背伸びの運動~♪

 

 

 

ドグシャァ!!!!と盛大にずっこける音が鳴った。

 

直立状態からいきなりその場に戦術機をコケさせるなんて何気に器用だなオイ、と口に出さず突っ込むのはユウヤ。

 

ちなみに戦術機ごとまさにギャグよろしくずっこけて見せたのは唯依である。<武御雷>をぎこちない様子で立ち上がらせながら彼女の悲鳴がオープン状態の通信回線中に響く。

 

 

『な、な、な、何故よりによってラジオ体操なのですか!もしや中佐殿は我々をからかっておられるのですかぁ!?』

 

「いやいやいや、俺は大真面目だぜ?機体の各部の細かい具合や反応をチェックするのに案外向いてるんだよ」

 

『うっ!そ、そうですけれどっしかしっ!』

 

『えーこちらアルゴス1からホワイトファング1へ。中尉殿、軍人なら上官の指示に素直に従ってみたらどうですか?大体他の連中はちゃんと音楽に合わせて動いてますよ、ほら』

 

『え、ええっ!?』

 

『よっ、ほっ、それっ、これっ、結構、難しいな!』

 

『まー戦術機が人と同じ形してるって言っても構造はまったく違うし、そもそも戦術機でこんな準備運動するのも初めてだからしゃーねーんじゃねーの?』

 

『クリスカ、こんどはからだをよこにまげるんだって』

 

『段々ノッてきちゃったけど、これって確かに関節部の慣らし運動には丁度良い感じよねぇ。思わないロッテ?』

 

『そうねアリア、いっその事本国の訓練校の操縦訓練課程の新しいメニューに申請してみようかしら』

 

 

普通に体操してる!?と慄く唯依。

 

1人驚愕する彼女を余所に、それぞれ感想を漏らすパイロット達の手によってラジオ体操を行う約1個中隊規模にも及ぶ各国の戦術機――――凄まじくシュールな光景がそこにあった。

 

ユウヤも<EX-OPS>に触れるにあたって初めてこのメニューをやらされた時は主に間抜けな音楽と戦術機で行うには馬鹿げた内容に激しく萎えさせられたものだが、皆の反応から分かる通り実際に行ってみるとこれが中々難しいのである。

 

訓練校で叩き込まれ、そして実戦で用いられる戦術機の基本動作といえば主脚で『走る』・跳躍ユニットで『跳ぶ』・突撃砲を『撃つ』・長刀や短刀で『切る』、この4つに大別されると表現しても過言ではない。

 

もちろんベテランの衛士などはデータの蓄積や学習能力を反映させる事でオリジナルの失速域機動を編み出したり格闘技の『型』を新たな動作パターンとして組み込んだりする事に成功しているが、しかし4つの動作の範疇からは抜け出せてはいなかった。

 

<EX-OPS>では違う。

 

反応性の向上は云わばオマケ。ゼロスが戦術機に乗り込んで戦うにあたり彼の意を汲んだリベリオンがこのOSに真に求めたものは、戦術機の戦闘機動を極限まで円滑に行う為の即応性と生身の肉体同然の動きを可能にする為の柔軟性。

 

つまり<EX-OPS>を極めるには、戦術機で人体が可能とするありとあらゆる挙動を再現出来るようにならなくてはならないのだ。

 

 

「こういう動作1つとっても上手くやれるようになってても損はしないと思うぜ。特に空力学的要素を重要視してる日本の機体じゃ細かい動作が重要になってくるからな」

 

『いっその事タイプ97にもこのOS載せればもっと上手く扱えそうなんだがな・・・・・・』

 

『アウトロー2からアルゴス1へ。その辺りは色々な兼ね合いがあるから今は難しいんじゃないかな。XFJ計画と<EX-OPS>やゼロス達が考えた新装備を採用してもらう為のこの教導は別口だからね』

 

『とどのつまり政治の問題って訳か』

 

『元々割り込んできたのは僕らの方だからね。これ以上余所の人の分を横からかっさらうのは問題があり過ぎるよ』

 

 

XFJ計画に技術協力を行っているのはACTVを開発したボーニング社である。そしてボーニング主導で順調に進んでいたXFJ計画に対抗する形でリベリオンが軍人との二足の草鞋で所属しているバニングス・インダストリーズが割り込んできた、という経緯が存在している。

 

つまりそんな状況でリベリオンならびにバニングス・インダストリーズ製の<EX-OPS>を<吹雪>や今後ユウヤが乗る予定の<不知火>試作改良機に搭載する事が認められる筈はないのだ。

 

オープン回線で話すにしてはえらく開けっ広げなアウトロー2ことユーノとユウヤの会話が唯依の所にも届いてくる。

 

なお、本来のユウヤのコールサインはアウトロー3なのだがアルゴス小隊への編入に伴い新装備の各国合同評価テストに於いてもアルゴス1で通している。

 

 

「まぁ個人的にはスムーズに他の国にも広まっていって欲しいと思っちゃいるさ。こちらアウトロー1から新OS初心者各員へ、現時点での感想や不具合があるようだったら教えてくれ」

 

『こちらアルゴス2、慣れてきたらかなり面白いなコレ!気持ち悪いぐらいに機体がスイスイ動かせるぞ!』

 

『こちらアルゴス3。アルゴス2に同意しますぜ。こりゃー1発で気に入りましたよ!』

 

『こちらアルゴス4。こちらも同じ意見です』

 

『こちらジャール1。特に機体に不具合は見られません。次の指示を』

 

『こ、こちらホワイトファング1。こちらも大丈夫です』

 

『こちらカリバー2(リーゼロッテ)!感想とかいいからさっさと全力で操縦させて!腕がむずむずしてきたわよ!』

 

『こちらカリバー1(リーゼアリア)、カリバー2!気持ちは分かるけどもう少し落ち着きなさい!それから相手は上官!』

 

『こちらアルゴス1、特に異常は無し』

 

『こちらアウトロー1(リベリオン)、こちらも問題無しです』

 

『アウトロー2、こっちも大丈夫だよ』

 

「おk、それじゃもう1回体操をしてから次は跳躍ユニットを使った空中での機動能力のチェックをしてくぞ。絶対に俺がいいと言うまで全開で吹かすなよ?特にアルゴス2、カリバー2、やらかした日にゃ基地中の便所掃除やらせるからな!」

 

『げぇ、それは勘弁!』

 

『き、肝に命じておくわ』

 

 

11体の機械仕掛けの巨人が、1対2基の跳躍ユニットから炎を吐き出して青空へと飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の演習を終えて着替えた一同は衛士間の交流を深めるべく、基地内の歓楽街であるリルフォートに繰り出していた。

 

 

「あーあーつまんねーの!せっかくこれまで以上に思う存分ACTVを振り回せそうだったっていうのに、これじゃ不完全燃焼だっての!」

 

「さっきからチョビ、きゃんきゃんうるさい。だまって」

 

「ぬわぁ~にぃ~!?誰が『チョビ』だごらぁ!」

 

「はいはい噛みつかないの。まるで幼稚園か小学校の子供じゃないのさ。そっちの子も睨まない挑発しない」

 

「がるるるるるる・・・!」

 

「う~~~~~~っ・・・!」

 

「もはや子犬同士の喧嘩に思えてきたのは私だけかしら」

 

「おっ、それって上手い表現じゃねーのステラ。言い得て妙だぜ」

 

「日本には『喧嘩するほど仲が良い』って諺がありますが、2人とも似た者同士みたいなのできっかけさえあれば案外仲良くなったりするんじゃないですか?」

 

「「そんな訳ねぇ(ない)!!」」

 

「・・・・・・確かにそうかもな」

 

「くっ、何故私とイーニァまでコイツらの享楽に付き合わねばならないのだ」

 

 

愚痴ったり睨み合ったり宥めたり煽ったり突っ込んだり、往来のど真ん中で中々騒がしい。

 

なおソ連組は最初は参加拒否を申し出たがゼロスならびにリベリオンの『上官命令』の発動により強制参加と相成った。大本の所属は違えど軍人にとって部隊の上官からの命令は絶対なのだ。

 

 

「まったく騒々しい者達だ・・・・・・」

 

 

とやれやれといった風に呟いたのは賑やかな一団から僅かに後ろの方で距離を取って追従していた唯依である。

 

その口元がほんの僅かに緩んでいるのに当の本人も気づいていない。

 

 

「あれ?そういえば肝心のゼロスが居ないみたいなんだけどどこ行っちゃったか知らないユーノ?」

 

「彼なら先に店の方で準備をしてる筈だよ」

 

 

着いた先は外装からして落ち着いた雰囲気を漂わせるバーだった。店の名前は『TOPGUN』。

 

ゾロゾロと店内に入った一同は予め連絡を受けていた店員の誘導で2階部分のラウンジへ。

 

 

「よう、やっと来たか。準備はほぼ終わってるから適当に座ってくれや」

 

「ちゅ、中佐殿?その恰好は一体・・・・・・」

 

「ああ、キッチン借りて料理作ってる最中。とりあえず乾杯の挨拶だけしたらまたすぐに引っ込むから早く座ってくんねーか?」

 

 

BDUの上だけ脱いでエプロンを着用したゼロスに促されるまま一同は席に着く。ゼロスの横を通り過ぎざま彼らは中佐殿のエプロン姿を見つめざるを得なかった。だってえらく似合ってるし。

 

格好や雰囲気もアレなら始まりの乾杯の仕方も半分以上は戸惑った。明らかに欧米人でありながらどこからどう見ても日本流だったのである。動じていないのは彼と付き合いの長いリベリオンとユーノ、それに前の基地で慣れたユウヤぐらいか。

 

 

「そんじゃま代表者として挨拶――――てぇのはガラじゃないし料理の具合も気になるからまどろっこしいのは抜きにして乾杯っ!」

 

『早っ!』

 

「あ、ちなみに今回の飲み代は全て相棒持ちなので好きなだけ飲み食いして構いませんよ」

 

「さっすが大尉、話が分かるぅ!!!」

 

「ちょっと待て誰もそんな事言ってないぞゴルァ!?」

 

 

 

 

とにもかくにもこんな感じで第1回特別合同試験部隊交流会の始まりである。

 

 

 


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