「さて、まずは飲み物は何を頼みます?」
「ビール!もちろんジョッキな!」
「スタウトは置いてあるのかしら?置いてなかったらバー失格よ!」
さっさと厨房に引っ込んでしまったゼロスの代わりにリベリオンが場を仕切り始めた。一斉に酒の種類や銘柄を注文する声がラウンジ中に響き出す。
「クリスカとイーニァは何か飲みたい物はありますか?」
「・・・・・・オレンジジュースがいい」
「・・・・・・私もイーニァと同じ物で構わない」
「ああん?なーにガキみたいなの頼んでんだよ。酒場に来たんなら酒飲め酒!」
「うるさいチョビ。おさけはきらい」
「だからチョビって言うな~!!」
「何だよタリサ、似合ってるじゃねぇかそのあだ名。なあステラ」
「クスクス、ええそうね。私も似合ってると思うわよ」
「ぬぎぎぎぎ・・・!お前らまでそんな事言うのかよぉ~!」
「やれやれ、酒運ばれてくる前からもう酔っ払ってるんじゃねぇだろうなチョビは」
この数日見てきた時よりも一層ギャーギャーと五月蝿いタリサにうんざりした風にユウヤが頬杖を突いていると、たまたま真正面に座っていた唯依と目が合う。
母親が生前飾っていた日本人形を思い出させる鋭利な美貌の持ち主はユウヤ同様呆れた様子で大陸組とソ連組のやり取りを眺めていたが、彼の視線に気づくと一瞬だけだがキョトンとした驚き顔を浮かべた。
すぐにまた眉根を寄せて引き締まった表情を張り直したものの、瞬間的だが真正面から垣間見てしまったその表情がユウヤのイメージとは比べ物にならないぐらいに人間味に溢れていて、虚を突かれてしまった彼は反射的に顔を背けてしまう。
そして今度は相手に気づかれないようにしながら(本人視点)もう1度唯依の方を盗み見てみると。
澄んだ藍色の瞳とまたも目が合った。
「な、何か用ですか一体?」
「い、いやそんなつもりは無いぞ。たまたまだ、うん・・・・・・」
何だこのくすぐったさは。でもってリベリオンにユーノにチョビにマカロニにステラに英国野郎(ライミー)×2妙なニヤケ面浮かべてこっち見てんじゃねぇ!
ユウヤ共々生温かい視線を周囲から送られる唯依もまた、次第に頬に血の気が集まって目元が泳ぎだした。こんな目で見守られるのが苦手なのかもしれない。
だからって何でまた俺を睨みつける。
「タカムラはおこってないよ?はずかしくてほかにどうすればいいのかわからないだけだからゆうやがきらいになったわけじゃないよ」
「しぇしぇしぇしぇシェスチナ少尉!?」
「いやー若いって良いですなぁテスタロッサ大尉!」
「そうですね初々しいですねぇジアコーザ少尉!」
「ええい違う!じゃなくて違います大尉!私は別にブリッジス少尉に思う所など全くありませんしだだだ大体軍人たるものがそんな色恋など――――」
「おや、別に篁中尉のユウヤを見る目が恋する乙女みたいだなどと一言も言ってませんよ?」
「ですからッッッ・・・・・・!!!」
結局唯依はゼロスが手料理を運んでくるまで散々からかわれる羽目になるのだった。
TE-7:酒と肴と思い出話と
和風の香りに不意に鼻をくすぐられた唯依は、自分とユウヤの間に置かれた両手鍋の中身を覗きこんで目を見開いた。
海外の酒場にやって来ていきなり日本の家庭料理筆頭とも呼べる代物―――肉じゃがを出されたらそりゃ驚く。
「ほれユウヤ、お前の好物だろ」
「ああ悪いな、わざわざこっちに来てまで作ってもらって」
小鉢代わりの底が深めの小皿に肉じゃがを取ったユウヤは手渡された箸で躊躇いなく料理を口に運ぶ。丹念に噛み締めて味わうことしばし。
「・・・・・・美味い」
口元を僅かに綻ばせながら静かに感想を漏らすユウヤ。
ゴクリと喉の鳴る音が聞こえてきた。発生源はタリサである。彼女のみならず米軍組以外のほぼ全員が視線を肉じゃがに集中させていた。
「なぁなぁなぁ、何だよその料理!ユウヤだけずっけーぞ!」
「なら自分で取って勝手に食えばいいじゃねーか」
「んじゃ遠慮なく!」
「イーニァとクリスカも食べてみるか?口に合うかは分からないけど結構自信作なんだぜ?」
「・・・・・・じゃあたべる。でもおにくはいらない」
「い、イーニァ、本当に食べるつもり?」
「だいじょうぶだよクリスカ、ゼロスのりょうりはきっとおいしいから」
「上官の手料理とは興味深いですね。私も1口頂きますわ」
次々、肉じゃがの入った鍋に手を伸ばす一同。とはいえ箸の使い方を知らない面々ばかりだったのでフォークに突き刺したりして口に運んでいく。
反応は劇的だった。くわっ!とタリサが目を見開くと絶叫した。
「うーまーいーぞー!!!」
・・・・・・巨大化して目とか口から光線を出しかねない勢いである。
ゼロス手製肉じゃがを口にした他の者達も一様に驚いた様子ながらもおいしい、とかこれは中々・・・などと称賛の言葉を呟いていった。
「で、では私も・・・・・・」
皆からやや出遅れて、おずおずと唯依も箸を伸ばす。煮えてやや形の崩れたじゃがいもをつまむと一気に口へと運んだ。
途端に固まる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・わ、私よりも美味しい」
愕然としたそんな呟きが聞こえたが耳に届いた瞬間、ユウヤはまるで我が事のように嬉しくなって思わず小さくガッツポーズすらしてしまった。
日本の家庭料理を日本人よりも美味くアメリカ人のゼロスが作るという構図が愉快痛快で仕方ない。
対して唯依はユウヤのそんな反応にも気づかずに肉じゃがの分析を開始。
「(素材そのものの問題ではない。調理法に工夫を加えてあるのか。だがこの照りの出具合や甘みは普通の肉じゃがとは一線を画している・・・!)」
無言で戦慄する唯依。箸と小皿片手にわなわなと震えているその姿を主にイーニァ辺りが見つめているのにも悟る余裕すら今の唯依にはなかった。
やがて固まったままだった両手をゆっくりと下ろすと、躊躇い気味に口を開く。
「ちゅ、中佐。誠に失礼かもしれませんが、この肉じゃがは一体どのようにしてお作りになられたので・・・・・・?」
「ちょいと裏技を使ってあるんだが、中尉の口には合ったかな?」
「私も母が存命の自分には料理を教わり、特に肉じゃがなどには自信があったのですが、これには完敗です」
「こちとら自炊歴10ウン年やってるんでな。レシピの数じゃ負けないぜ。ちなみにこの肉じゃがの隠し味はコーラなんだけど」
「何と!コーラを肉じゃがにですか!?」
「詳しいレシピはまた今度。他にも作ってる最中なんでな、すぐに持ってくるわ」
引き留める間もなく下の厨房へと戻っていく上官の背中を見送ってから感嘆の溜息を漏らしつつ唯依は視線をテーブルの方に戻してみると、ユウヤとタリサが肉じゃがの争奪戦を始めていた。
「もっとよこせ、ソイツはテメーだけの分じゃないだろええトップガン!」
「だからって肉ばっかりかっさらってんじゃねぇよチョビ!――――そこっ、横取りは許さねぇぜライミー!」
「こちとら上官なんだから大人しく譲りなよっ!!」
世界中から選ばれた歴戦のトップガン達と肉じゃが争奪戦を繰り広げている。ユウヤのその姿が微笑ましく思えて、気が付くと唯依はほんの微かに口元を緩めてしまっていた。
顔を合わせた当初はこちらに敵意を向けてくるなど不愉快な思いもさせられたし、武家出身という出自にありがちな『日本人ならばかくあるべし』という考え方から複雑な感情をユウヤに抱いていたのだが・・・・・・こうして多国籍な仲間達と料理1つを巡る子供っぽい争いを繰り広げている姿を見せつけられると、軍人としての振る舞いや所属云々すらも何だかどうでも良くなってきてしまう。
所属や国籍、人種以前に彼らは『人間』という1つの種に過ぎないのだ。そう、自分と同じ。
「・・・・・・何かご用でしょうかタカムラ中尉」
「「いただきぃ!!」」
「ってあああっチクショウ!!!」
ようやくまたも自分を見つめてくる唯依に気を取られたその隙に残っていた肉じゃがの大部分を奪われたユウヤが悲鳴を漏らす。
ガックリと目に見えるほど落ち込んだ。イーニァがわざわざ身を乗り出してまでよしよしとユウヤの頭を撫でてきた。クリスカに殺気を送られた。何でさ。
「そのだな、ブリッジス少尉は肉じゃがが好物だそうだが、もしや少尉の母君は日本人だったのか?」
「――――――いや違う。日本人だったのは父親の方です。俺と母親を捨ててどっかに消えちまったお陰でロクな目に遭った覚えがありませんよ」
「そうだったのか・・・・・・それは悪い事を聞いてしまったな」
ぶっきらぼうに吐き捨てたユウヤであったが、内心では家族を捨てた自分と同じ日本人の唯依にこうも素直に過去を話してしまった自分に対して驚きを感じていた。
唯依は唯依で、何故ユウヤが日本に関わる物を―ただし肉じゃがは除いて―嫌悪し敵視しているのか、その原因が理解出来た気がする。
「母親がまだ生きてたガキの頃はよく食べてましたけどね。その頃は肉じゃがが日本の料理だなんてちっとも知りませんでしたよ。ようやく日本の料理だって教えられたのは偶然ゼロスが自分で作って食ってるのを見かけた時でしたし」
「そ、そうか。私も亡くなった母から肉じゃがの作り方を教わったのだが、まさか遠く離れたこの地で食べれるとは思いもよらなかった。しかも思いもよらぬ材料であれだけの見事な味を出せるとは・・・・・・世界は広いな」
「まあゼロスだからな。あの人グルームレイクに居た時なんか向こうの食堂の調理担当に料理教えてたぐらいですよ」
「何者なのだ一体・・・」
気が付くと、ユウヤと唯依の間で形成されていた空気はとても和やかな友好的なものにすり替わっていた。
人間きっかけと共通点さえあれば意外とすぐに仲良くなれるものなのである。特に互いのお袋の味ともなれば尚更だった。
そこにグラスに注いだウイスキーを少しづつ舐めていたユーノが話に加わる。
「昔はゼロスもあそこまで料理にはハマっていなかったんだけどね。特にイギリスに行った頃から食べ物にこだわる様になったのかな?」
「そうそう、そういえばドーバー基地に居た頃なんかしょっちゅう食堂に潜り込んでは勝手に味付け変えようとしたり自分で料理作ろうとしたりしてたわね!」
「でもイギリスの料理は問題が多かったと僕も思うよ。味気ない携帯食料を食べ慣れてた僕でもアレはちょっと、ね」
「そういえばイギリスってメシがマズいので有名なんだってな!」
「米軍様は食糧難に無縁で豪勢な天然食材ばっかり食ってるから舌が肥えてるだけでしょ!あとそこのグルカ兵、もっぺん支配されたいっていうんならお望み通りにしてあげるわよ!?」
「はいそこ、メシの最中にケンカおっぱじめようとしてんじゃねぇ!」
追加の料理を持ってゼロスが戻ってきた。後続に大皿を持った店の店員達もやって来てテーブルに並べていく。
「凄い数、これも全て中佐がお作りになられたんですか?」
「仕込みや仕上げぐらいで他の部分はここのコックにも手伝って貰ったけどな。後でレシピ交換してくれって頼まれちまったよ。でもってこれは篁中尉に―――」
「こ、これはっ」
唯依の前に置かれた物、それは何処からどう見ても刺身であった。それも明らかに天然物でご丁寧に醤油とワサビまで添えてある。これも微かに漂ってくる香りからして天然物に違いあるまい。
このご時世、合成食材がもはや一般的な日本では武家の中でも上位クラスの地位かはたまた征威大将軍でもなければ滅多に食べられない組み合わせであろう。武家の中では比較的位の高い山吹色を与えられている唯依も、武家同士の大々的な催しの場において数えられる程度しか口にした事が無い。それも精々1口2口程度。
それが今、遠く離れた異国の地で自分の目の前に皿ごと纏めて差し出された現実に、唯依は眩暈にすら襲われた。
ちなみにこの世界でも醤油の存在はアメリカに広く伝わっており、日本がBETAの侵攻を受けてからは天然の大豆を用いた醤油の大半はアメリカ製しか存在しないとまで言われている。キッ○ーマン万歳。
とはいえ流石に砂漠のど真ん中の軍事基地までには普及していなかったらしく、個人で直接取り寄せようにも何週間もかかる上に購入可能数が制限されているのでどっかの誰かは苦渋を呑む羽目になっていたが。
閑話休題。
「今日ユーコン川で獲れたばかりのサーモンの刺身だ。脂が乗ってて美味いぜ。流石にアメリカじゃ本わさびは手に入んなかったからホースラディッシュを付けて食ってくれ」
なおホースラディッシュは別名西洋わさびとも言い、粉わさびの主な原料である。あまり知られていないがアメリカはイリノイ州は世界最大の生産地なのだ。
「ちちち、ちちちちちちちっちっちちちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅー!!!!?」
「ネズミの真似か?」
「はいまずは深呼吸して落ち着きましょうね。吸ってー吐いてー」
「す~・・・は~・・・す~・・・は~・・・」
「吸って吐いて吸って吐いて吸って吸って吸って吐いて」
「ひっひっふーひっひっふーってこじゃ深呼吸ではなくラマーズ法ではないですか!」
「そろそろ覚えておいても損は無いと思いますよ」
「私はまだ清い身ですしそもそも相手も居(お)りません!・・・ハッ!?」
「成る程、つまり男女関係はまだまだ初心者と。そうなるとユウヤは経験者としてリードしてあげなければなりませんね」
「やっぱりトップガン様は女の操縦経験も豊富って事かぁ~?」
「テメェら好き勝手言ってんじゃねー!!!」
いっその事帰りたくなってきたユウヤであった。ついでに自爆してしまった唯依に至っては真っ赤な顔でもはや泣きそうになっていた。
「だーかーらー、もう少しメシの時ぐらい静かにしやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
「と言ってる相棒の声が1番うるさい件について!」
「どやかましい!上げ足取んな!とにかく美味い内に食っちまってくれ頼むから!」
ゼロスの一喝により場を収め食事再開。
「し、しかし中佐。このような物を本当に私が食べてもよろしいのですか?」
「だってその為に作ったんだぜ?日本人なら刺身の方が好みかと思ってな」
「ですが、このような贅沢など・・・・・・」
未だBETAの侵攻が及ばず、潤沢な豊かさを誇るアメリカという国ではこういった物を気軽に口にするのが当たり前なのだろう。
しかし日本では違う。今日この瞬間を生きるだけでも必死な人々の故郷を一刻も早くBETAから取り戻すべくに、日本国の代表としてはるばるアメリカにまで送り込まれた自分がこのような贅沢をしていていいのか―――そんな思いが唯依の脳裏を過ぎった。
「別に俺たちゃタダ飯食らってるわけじゃねぇんだからこんぐらいの贅沢は許しても良いんじゃねぇかと俺は思うがね。大体、勿体ねぇだろ。ウダウダ悩んでせっかくの食い物を無駄にする方が下らないだろーが」
「ちゅ~さ~!そっちだけ美味そうなの独り占めなんてずっけーじゃないですかー!」
「そっちにはカルパッチョ出してやったろうが!」
「おさかなおいしいねクリスカ」
「そうねイーニァ。ほら口元にソースがついてるわよ」
「タリサもそこの2人見習ってもうちょっと落ち着いて食え!」
「魚、天然物の魚・・・!」
「今の内に食い溜めしておかなきゃあむあむあむ!」
「あらあら凄い食欲」
「気持ちは分かるがそこの猫姉妹もがっつき過ぎだ!まったく、篁もあーだこーだ躊躇ってると他の連中に自分の分食われちまっても知らねぇぞ」
「・・・何だったら俺が貰うが?」
「いいやそれには及ばん!そ、それではいただきます!」
半ばからかうようなユウヤの申し出を突っぱね、顔を赤くしながら遂にサーモンの刺身を一切れ箸でつまんだ。
無駄に緊張のあまり若干手が震えて刺身を落としそうになりつつも、身の端を僅かに醤油に浸す程度で済ませてからゆっくりと口の中へ運ぶ。
濃厚な脂の甘みとそれに負けない鮭の風味、ふくよかかつキリリと立った醤油の香りが唯依の脳髄を蕩けさせた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おいひい」
万感の篭った一言であった。
今の彼女は何かもう口元どころか仕事中は鋭利を通り越して冷たさすら感じさせるほど吊り上がっている眦すらちょっとだけ垂れ下がり、まさに好物を前にした幼女のようにあどけない微笑みを晒している。
もはや武家も軍人もへったくれもない、1人の美少女として料理を満喫している姿がそこに君臨していた。
『・・・・・・・・・・(じ~)』
「―――――――はっ!!!!?」
テーブル中の皆から注目を浴びている事にようやく気付いて我に返っても時既に遅し。
特にテーブルを挟んで1mも離れていない近さからこれまでの冷ややかなイメージを完全にぶち壊す惚れ惚れする位可憐な笑みを見せられたユウヤに至っては、まるで気になる異性と初めて手をつないだ思春期の子供のように心臓が大きく跳ねるのを自覚せざるを得なかった。相手に聞こえていない事を切に祈る。
――――そうか。これがリベリオンが言ってたいわゆる『ギャップ萌え』ってヤツなのか。
開かない方が良さそうな世界の扉がユウヤの中で内側から無理矢理解放されそうになっているのに本人は気づけない。
「・・・・・・アンタも、そんな顔をするんだな」
意識せず漏れたユウヤの呟き。
それが唯依の限界だった。
「き、きっ、きっ、きっきききき記憶を失えー!!!」
アッー!!!!!
「いやあ先程は良いものを見させてもらいましたよ中尉殿」
「もう、本人は気にしているんだからこれ以上言わないであげなさいな」
「タカムラのえがお、かわいかったよ?」
「ちなみにあの瞬間の笑顔は既に撮影済みなので写真が欲しい方は何時でも言って下さいね」
「日本のサムライってお堅いのばっかりって聞いてたけど可愛い所あるものねえ」
「いい加減言わないでやれ、もうコイツのライフはとっくに0だ・・・・・・」
椅子の上で膝を抱えてどす黒いオーラを放ち出した唯依のあまりの様子に、最も唯依を嫌っていた筈のユウヤがフォローに廻る事態になっていた。
ゼロスとユーノとリベリオンには、そんな彼女の姿が一瞬オレンジ色の髪の2丁拳銃使いな魔法少女とダブって見えてしまったのは秘密である。中の人が一緒なんだから仕方ない。
結局残ったお刺身はゼロス達が美味しくいただきました。
「そーいえば中佐、今日乗ってた機体だけどアレって最初に中佐達が乗ってた機体とは別の機体だよな?」
「確かに、今日中佐達が乗っていた機体はF-15に連なる改良型のようでしたが・・・・・・」
「ああ、ありゃ新装備の教導用に持ってきた機体だ。この基地に来る時乗ってた機体は新型機の試作型だ」
「新型機・・・?それにこの基地まで乗ってきたという事は、グルームレイクからそのままあの機体に乗って無補給でこのユーコンまで飛んできたという事ですか?」
これには流石のステラも瞠目してしまう。ネバダの砂漠からこのアラスカ州ユーコン基地までは軽く2~3000kmはあるだろう。それだけの距離を無補給で飛行できる戦術機など常識では考えられない。一瞬何かの聞き間違いかと思ってしまったほどだ
「その機体についてはまた追々な。しばらくすれば皆が見る機会も回ってくる予定だからそれまで我慢してくれ」
「うおおおおっ!?本当かよ中佐!」
「そりゃあ楽しみだねぇ。でもあの<イーグル>の改良型見てると昔の事を思い出すわねぇ・・・・・・」
リーゼアリアは遠い目になりながら、鮭のカルパッチョの最後の一切れを名残惜しそうに飲み込んだ。その横ではジャンケンで負けたリーゼロッテが涙目で恨めしそうに自分の手を見つめている。
「もしかしてイギリスでの事かい?」
「そう。あの機体に乗った貴方達に私達は助けられたのよね」
猫っぽい双子の片割れの言葉に、周囲の者達はおおと興味ありげに身を乗り出した。面白そうな話には食いついてしまうのが人間の性である。酒が入れば尚更だ。
特にタリサなどは色黒な地肌の上からでも分かるぐらい顔が赤くなっているし、双子やヴァレリオにステラも少なからず酒精により白い肌が血色づいている。
「良ければ、その話について詳しく教えてもらえないかしら?」
「構わないわよ。そう、あれは――――――」
――――――雪の降る寒い日だったわ
そんな始まりと共に彼女は物語を紡ぎだす。