善子は成長した花丸の美しさと可愛さに、花丸は善子の変わらぬ優しさに、お互い惹かれていく
そんな時、休日に花丸が男達にナンパされているのを善子が目撃する
善子の取った行動とは、そしてそれを受けた花丸の気持ちは…
「善子ちゃんと言えばヘタレ」みたいな認識が周囲でも自分の中でも固まりつつありますが、このssの善子ちゃんはヘタレ要素はあれどかなりイケメンだと思います、それこそ「誰だコイツ!?」レベルで
総文字数45000字超とかなりの大ボリュームですが、その分自分のよしまるへの想いをたっぷりと詰め込みました、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
※花丸父が登場します、一回しか出ないとは言え中々存在感のあるキャラになってしまったため、オリジナルキャラが苦手な方には申し訳ありませんが、ご遠慮いただければと思います
教師「~は~であるから…」
天気が良く、お腹も膨れて眠気に襲われる、午後の授業での事だった
善子(堕天使たる私でも、流石にこれは少し辛いわね…夜中まで配信するんじゃなかった…)
少し気を抜けば眠ってしまいそうだったが、頬を撫でた爽やかな風に乗ったほのかに甘い香りに、意識をすくわれる
ふと匂いがした方を向くと、そこには高校で再会を果たした幼稚園時代の幼馴染、国木田花丸がいる
道理で覚えのある匂いだと思った
幼稚園生の頃、私は彼女からほのかに香る花の匂いが、とても好きだった
よく彼女の足に頭を乗せてはじゃれ合ったものだ
善子(…それにしても)
その姿勢の良い姿を見て思う
善子(随分とまあ、美人になっちゃって…)
それは再開を果たしてから、ふとした折によく思っていた
流れる様な、肩過ぎまである美しい髪
栗色と亜麻色の中間の、地味な様でいてその実よく映える髪色
おっとりとしていて優しい物腰
そして何より、目が吸い寄せられてしまう豊満な…
善子(…って、これじゃちょっと変態っぽいわね)
でも、と思い直し、小さく溜め息をつく
善子(本当に…綺麗になったなぁ)
同性の自分から見てもしみじみと思うので、異性からしてみれば言わずもがなだろう
でも浦の星女学院には、名前の通り女子生徒しかいない
その事を少し残念に思う
善子(きっと共学に進学していれば、さぞかしモテたでしょうに…)
その時だった
自分に向けられた視線に気付いたのか、花丸が私の方へ振り向き、その結果ばっちりと目が合ってしまう
思わず私は固まった
やましい事をしていた覚えは無いが、何となくバツの悪さを感じる
凝固した私を見た花丸は少し首を傾げ、そしてにへらと笑って小さく手を振った
善子(うぐっ…!)
何とか手を振り返しながら、私は更に驚いていた
善子(か、かわいい…)
今の花丸は、恐らく誰が見てもとてつもなく愛らしいものだと感じるだろう。それが自分に向けられたものであれば尚更に
善子(ま、まさか、このヨハネが…あのずら丸にかわいいだなんて…!?と言うか、その前にも綺麗だとか美人だとかって…あ、有り得ない…!)
善子(ずら丸…侮りがたいわね…!)
褒め言葉か悪たれ口か分からない感想を抱く私だった
善子ちゃんはとても優しい
堕天使とかリトルデーモンとか、マルにはよく分からないけれど、善子ちゃんがとても良い子だと言う事は分かる
善子ちゃんはよくマルの事を助けてくれる
毎回とても些細な事なんだけど、善子ちゃんからは「助ける事が当たり前」と言うか「助けないと言う選択肢が無い」と思ってそうな雰囲気がする
善子ちゃんのそう言う所が、マルは好き
花丸「~♪」
善子「何だか嬉しそうね、どうしたの、ずら丸」
花丸「何でもないずら!」
帰り道を善子ちゃんと2人で歩く時間が好き
善子ちゃんはスタイルが良いと言うか、スレンダーなのでスラッとしているし、少し歩調が早い方だ
それに比べて私は、良く言えばのんびり、悪く言えばとろいので、誰かと一緒に歩くと少し距離が空く事がよくあった
そう言う時は相手が気付いて少しの間立ち止まってくれたり、私が一瞬小走りして追いつくから、大した問題ではない
でも、善子ちゃんは再開してから初めて一緒に帰ったその時すぐに、歩調を私に合わせてのんびり歩いてくれていた
善子ちゃんからしてみればそんな事は当たり前で、意識すらしてないんだろうけど
だから、帰り道は善子ちゃんの小さな優しさを感じられて、なんだか少し幸せ
花丸が何だか嬉しそうだ
にこにこと柔らかな笑顔を浮かべて、鼻歌まで歌っている
理由は気になるが、花丸が上機嫌だと私まで嬉しくなるし、ほっこりする
最近の帰り道では、花丸はいつもこうだ
何がそんなに嬉しいのかと聞いても、いつも何でもないと流されてしまう
この前までは何が嬉しいのかを考えていたが、花丸が教えてくれなければ仕方のない事なので、諦めて花丸の笑顔を眺めている事にした
花丸はとても良い子だ
勉強は真面目にやるし、優しいし、何より純粋だ
花丸「善子ちゃん、どうしたずら?」
善子「ヨハネ!何でもないわよ、と言うか、何でいつもそんなに嬉しそうなのよ」
花丸「えへへ、何でもないよ~」
う~ん、可愛い!100点満点中200点満点!!
善子(だから200点満点って何よ!?相手はあのずら丸よ…)
って、そうじゃなくて…
善子「そんなに浮かれてると転…」
花丸「ずらっ!?」
転ぶわよ、と言おうとした瞬間に花丸が段差を踏み外し、バランスを崩して後ろに倒れそうになっていた
善子「ちょっ!?」
間一髪、すぐに後ろに回ったおかげで、花丸を抱きとめられた
善子「あ、危ないじゃない…ちゃんと注意して歩きなさい」
花丸「ご、ごめんね…ありがとう、善子ちゃん…」
善子「怪我無かったから良かったけど…あ」
花丸を助けるのに必死で気が付かなかったけれど、今の体勢はまるで恋人同士がする様なそれだ
ほんの目の前にある、汗で少し肌に張り付いた、さらさらの髪
丸みを帯びた細い腰と、それと対照的にとても大きい、たわわに実った…
花丸「…よ、善子ちゃん、少し恥ずかしい、ずら…」
善子「あっ…ご、ごめん」
しどろもどろになってしまって、もう堕天使らしさなんて微塵も無い
そんな事よりも、私は花丸の柔らかな身体と、そこから香る甘い花の芳香に、完全に意識を奪われていた
善子(細いのに柔らかい…いい匂い…)
そんな支離滅裂な思考しか出来なくなる程に、国木田花丸と言う女性は魅力的だった
花丸「あの…善子ちゃん、ありがとう。善子ちゃんが支えてくれなかったら、マル尻餅ついてたずら」
花丸の言葉でハッと我に返る
善子(なんて変態的な思考…)
同性の女子、その上花丸相手に…と、少し情けなくなった
善子「べ…別に、いいわよ。それよりも、今度から気を付けなさいね」
顔を逸らしながらそう言うと、彼女は嬉しそうに大きく頷いた
花丸「今日はびっくりしたずら…」
花丸は、自宅で今日の帰り道での出来事を思い返していた
花丸「…善子ちゃん、いい匂い、したなぁ…」
倒れそうになった自分を後ろから支えてくれた時の、言い表しにくい感情
花丸(少し、ドキドキした…)
胸に手を置いてみれば、いつもより少し早く、少し大きい鼓動が感じられた
清涼感の中にもほのかに甘い香りが混ざった、善子ちゃんの匂い
自分と同じくらい細いのに、何故か安心感のある両腕
自分より少し高い背丈
花丸(これ、何だろう…)
この胸の高鳴りを説明出来る言葉は、今の私の中には見当たらない
善子「いい匂いだった…」
帰宅してベッドに倒れ込んで、開口一番がそれだった
善子(あの子、育ちすぎじゃないかしら)
でも、いくら花丸が魅力的だからと言って、流石に同性の幼馴染にそう言う意味で意識を奪われるのは…
善子(ずら丸に知られたら、軽蔑されるかなぁ…)
少し、花丸に申し訳なかった
善子(まあ、私は堕天使だし?それくらいアブノーマルでも…良くないけど)
善子「と言うか、あの子がスケベすぎるのよ!しかも何よあの可愛い生命体!!」
足をジタバタしながら、つい逆ギレしてしまう
善子(まさか、あのずら丸にこんな事…あのずら丸よ!?…私、熱でもあるのかしら)
善子「はぁ…」
善子「…眠い」
帰りの出来事のせいで随分と体力を使ってしまった為、眠気を催してきた
善子「…また嗅ぎたいなぁ」
この上なく変態的な欲求を口にしながら、私の意識は闇の中に沈んでいった
花丸「あ…おはよう、善子ちゃん」
善子「お、おはよう…ヨハネだってば」
翌朝、花丸と下駄箱でばったりと鉢合わせしてしまった
昨日の出来事のせいで、何だかどう接していいのかが少し分からなくなる
善子「あー…あれから、大丈夫だった?」
花丸「えっ?うん、善子ちゃんが支えてくれたから…怪我してないよ」
善子「そ、そうよね…」
お互い気恥ずかしくなってしまい、気まずい間が出来てしまった
善子「ま、まあ、怪我が無くてよかったわ」
花丸「う、うん…昨日も言ったけど、ありがとずら、善子ちゃん」
善子「あ、いや、うん…」
なんて返せば良いのか分からなくて、思いっきりどもってしまう
善子(何よ今のリアクション、おかしすぎでしょ…と言うか何で花丸相手にこんなに緊張する必要があるのよ)
善子「フッ…このヨハネにかかれば造作もない事…」
花丸「よ、善子ちゃん…?」
善子「ずら丸、アンタがいくら転ぼうと…このヨハネがいる限り、地につく事など有り得ないわ!」
花丸「!」
照れ隠しに、思わずまだ抜けていない癖が出てしまった
善子(何が「地につく事など有り得ないわ!」よ…意味分からないわよ)
思わずキメてしまったポーズを崩さないまま花丸の方を見ると、少し口を開けて固まった後…
花丸「…うん!ありがとずら!」
満面の笑みを浮かべながら、そう言った
善子(よ、良かった…)
内心でホッと胸を撫で下ろす
善子「ほら、早く教室行くわよ」
花丸「うん!」
それからは、あんなに不自然だったのが嘘の様に会話が弾んだ
後日の帰り道
のんきな花丸も流石に危ないと思ったのか、あれからの帰り道では浮かれ具合が控えめだった
それでも嬉しそうなのは変わらなかったけれど
善子「…ねぇ、ずら丸」
花丸「なーに?」
善子「そろそろ教えてくれないの?」
花丸「何度聞いてもダーメ!」
全く、輝く様な笑顔で言われるんだから、とても敵わない
善子「そう、じゃあ教えてくれるまで何度でも聞くわ」
花丸「ダメって言ってるのに、懲りないずらね~」
善子「だって気になるんだから仕方ないじゃない」
花丸「本当に大した事じゃないよ~。そんな事より善子ちゃん、もうすぐテストだけど、勉強捗ってる?」
善子「うぐっ…嫌な事を思い出させてくれるわね…」
花丸「分からない所あるなら明日にでもルビィちゃんも誘って図書室で勉強会するずら!」
善子「た、頼むわ…」
そんなくだらない話をしながら2人で歩くのが、とても楽しかった
善子「…ん?あれは…」
あの帰り道から、またしばらく後の休日の事だった
駅前あたりを通りかかった時、花丸を見かけた
善子「おーいずらま…?誰かしら、あの人達」
声をかけようとした時、花丸に話しかけている男2人組がいる事に気付く
善子「知り合いかな…?」
でも花丸の知り合いにしては、少しチャラすぎる様な気がする
それに、花丸も少し困っている様に見える
善子「もしかしてこれは…」
まさか、花丸はナンパされているんじゃないか?
そうだ、同性の自分があれだけ魅了されたのだから、異性からすればそれ以上に決まっているじゃないか
まあ、悔しいので自分がおかしいだけだとは思いたくないだけなんだけど…
自然と私の足は花丸の方へと向かっていった
善子「こんな所で会うなんて奇遇ね、愛しい私のリトルデーモン」
花丸「善子ちゃん…っ!」
切迫した声で花丸が私の名を呼んだ
チャラ男A「え?何この子、君の知り合い?」
チャラ男B「ちょいちょい、君もめっちゃカワイイじゃん、名前なんて言うの?」
見るからに軽薄そうな男達だ
服装も、髪型も、口調も、こちらを見る目線も、何もかも全く興味が引かれない
くだらない
花丸がこんな男達に目を付けられたと思うと、腹の底からふつふつと怒りが湧いてきた
花丸「よ、善子ちゃん、マルの事はいいから、早く離れて…」
チャラ男A「ちょちょそれは酷くなぁいー?俺達別に君達に危害加えようなんて気ぜーんぜん無いって」
チャラ男B「そーだよちょっと一緒にお茶しないって言ってるだけじゃーん」
そう言って男は、花丸の腕を掴んだ
花丸「ヒッ…や…やめて…!」
善子(こいつ…!)
花丸の腕を掴んだ大きい手を見ると、何か黒い感情が渦巻くのを感じた
次の瞬間、私は男の手を叩き払っていた
善子「この子に触れるでないわ!!」
花丸「善子ちゃん…!」
強い敵意を込めて男を見上げる
チャラ男B「いったぁ…ちょっと傷付くなぁ…と言うか君の名前聞いたのにまだ教えてもらってなくない?」
口角を上げ、ニヤリと微笑む
善子「そんなに望むなら…いいわ、教えてあげる」
鞄からついつい手放せないマントを取り出し、颯爽と羽織る
そして黒い羽根をお団子に一差し
チャラ男AB「「…え?」」
善子「私の名は堕天使ヨハネ…私と契約し、リトルデーモンとなる資格が、貴方達にはあるかしら?」
チャラ男A「えっ…堕天使?リトル…何?」
チャラ男B「ぶはっ、マジウケるんだけど!君そう言うキャラなの?」
案の定、男達は私を馬鹿にする様に笑った
問題は、私がここからどれほど堕天使になりきれるか…ただそれだけ
大丈夫、簡単な事だ
善子「…今の一言で、貴方達の事がよく分かりました」
そう、私は堕天使ヨハネ、ただいつも通り振る舞えば良いだけ
善子「貴方達は天界堕天条例に反する者達…汚れた心を持つ者は、天界から追い出され、滅ぶ他に道は無い!」
チャラ男B「天界…何だって?と言うか何気に酷い事言われたような…」
チャラ男A「ちょっ待ってよ、何でお茶誘ってるだけなのにそんな言われなくちゃ…」
善子「穢れた人間よ…貴方達にリトルデーモンになる資格は無い!さあ、早くここから失せなさい!!」
大声を張り上げ、男達を威圧する
通行人が何事かと目を向けるが、そんな事は知ったことじゃない
チャラ男A「言わせておけばこの…!」
チャラ男B「なーもう違う子探さね?この子意味わかんねーし、無茶苦茶言うし、萎えるわ」
チャラ男A「チッ…お前な、そう言う事ばっかしてっと友達出来ねーぞ」
捨て台詞とばかりに吐き捨て、男達は背を向けて去っていった
善子「…はぁ」
自分よりも背の高い男2人にあれだけの啖呵を切るのは、流石に緊張した
少し危険もある賭けだったけれど、なんとか上手くいって安心した
最悪男達が手を出してくる様なら、堕天使なんてかなぐり捨てて、大声で叫んで助けを求めるつもりだった
善子「大丈夫だった?ずら丸」
マントと羽根をしまい、振り向いて声をかける
花丸「……」
声をかけても、花丸は気が抜けた様な顔をして私を見つめるだけだった
善子「ちょっと、ずら丸?どうしたの?しっかりしなさいよ」
肩に手を置くと、花丸は抜けていた魂が戻ってきた様な反応をした
花丸「あ…うん…」
それでもまだ、目は私を見つめている様で、どこも見つめていない様な危なっかしいものだった
善子「本当に大丈夫…?そんなに怖かったの?」
花丸「ううん、大丈夫ずら…ありがとう…」
善子「とてもそうは見えないけれど…これからどこか行く予定あるの?」
そう聞くと、花丸は少し俯いて
花丸「ううん……」
小さく、首を振った
あの後、花丸に何を聞いても生返事ばかりで危なっかしいので、家に送っていく事にした
私の斜め後ろを歩く花丸は、ずっと少し俯いていて何を考えているのかが読めない
やっぱり男達に言い寄られたのが怖かったんだろうか
なんとも気に入らない事に、腕を掴まれていたし
男子との接触が皆無に等しい花丸にとっては、充分に恐ろしい出来事だっただろう
今回は私が通りがかったから何とかなったけど、次もそうとは限らない
善子(いつか花丸が、悲しい目に遭ってしまうかもしれない…)
そんなのは絶対に嫌だった、いつも明るいこの子から笑顔が奪われるなんて事、あってはならないと思った
善子(…よし)
私はある決意をした
覚悟を決めて後ろへ振り向き、何事かと顔を上げた花丸へ、背を正して言う
善子「花丸」
花丸「善子ちゃん…?」
善子「これからは私がアンタを守る、もうあんな目には遭わせないわ」
花丸「…っ!」
そうだ、こんな可愛い子を一人で出歩かせたらまたこう言う事が起こるに決まってる
だから、誰かが守らなければいけない
それが出来るのは…きっと自分しかいない
善子「また言い寄ってくる輩がいたら、さっきみたいに追い払ってみせる、花丸には指一本触れさせない」
花丸「善子…ちゃん…」
善子「だから、笑ってちょうだい…アンタに、沈んだ顔は似合わないわ」
それは、心からの言葉だった
ずっと笑っていてほしい、あのほわほわした笑顔で、私の隣にいて欲しい
花丸「…うん、うん…笑う、よ…マル、笑う、ずら…」
か細い声でそう言った途端、花丸は泣き出してしまった
善子「ちょ、ちょっと花丸!そんなに怖かったの!?大丈夫!?」
花丸「ちがっ…よ…ひっ…うれし、くて…」
大粒の涙を流しながら、それでも花丸は笑っていた
善子「ああもう、何も言わなくていいから!ほら、これで涙拭きなさい」
それからしばらく、花丸はぐしゃぐしゃの笑顔のまま泣き続けた
その日は、家について善子ちゃんと別れてから、夕方までずっとぼーっとして過ごした
本当の事を言うと、男の人達に絡まれた時、すごく怖かった
男子と喋った事すらほとんど無いので、腕を掴まれた時は本当に悲鳴を上げそうになった
でも…善子ちゃんが助けてくれた
自分と男達の間に立ちはだかった善子ちゃんの背中が、とてもとても、大きく見えた
善子ちゃんだって私と同じ、ただのか弱い女の子なのに、本当に男の人達を追い払ってしまった
善子ちゃんの声に、背中に、その瞳に、全てに意識を奪われて、身体の芯が熱くなる気がした
頭が動かなくて、心なしか顔が熱くて、心臓の鼓動がうるさかった
何故私の家への帰り道を歩いていたのか覚えていないけれど、そんな事はどうでもよくて…
善子ちゃんにどう接していいのかが、分からなくなっていた
私は少し俯いて、私の手を取って歩く善子ちゃんの事しか考えられなかった
それだけなら良かった、それだけなら、まだ抑えられた
でも、善子ちゃんが急に立ち止まったと思ったら
「これからは、私がアンタを守る」
だなんて、とても恥ずかしい事を臆面も無く言われてしまって
正直なところ、おかしくなりそうなくらいに、嬉しくてたまらなかった
そして…私は善子ちゃんの事が『好き』だと、気付いてしまった
勿論、恋愛対象として
その前から惹かれてはいたけど、多分、男の人達を追い払ってくれた時には、もう好きになっていたんだと思う
とてつもない嬉しさと、善子ちゃんへの気持ちを自覚してしまった戸惑いと、大事な友達にこんな感情を抱いてしまった後悔が、大粒の涙となって溢れ出した
よりにもよって寺の娘なのに、幼馴染の女の子の事を好きになってしまって、普通の人達から見たら異常な恋をしてしまって、親に対しても申し訳がなかった
守らせて、困らせて、友達と言う関係を裏切って、善子ちゃんには悪いことしちゃったかな
あたふたする善子ちゃんを歪んだ視界から見て、強く思った
自分はこの人の隣で、ずっとずっと笑っていよう、と
想いを伝えられなくたって構わない
善子ちゃんに笑っていてもらう為に、自分も笑っていようと
ただひたすらに強く、そう思った
花丸「…大事な友達にこんな事思っちゃうなんて、失礼ずらね…」
花丸「善子ちゃんが知ったら、どう思うかな…」
軽蔑されるだろうか、それとも引かれちゃうかな
もしかして、両想いだったり?
花丸「そんな訳、無いよね…」
たった今、伝えられなくても、ただの友達のままでもいいと、そう決意した筈なのに
この気持ちが伝わる事は永遠にないと思うと、涙が出そうだった
花丸(でも今は、少しだけ…)
花丸(…少しだけ、許して)
今は、今だけは『友達』ではなく『好きな人』の為に、涙を流したかった
花丸「善子ちゃん…」
かすれた呟きは、誰の耳にも届かずに消えていった
それからと言うもの、私は学校では当然の事、休日でも花丸の傍にいる様になった
今日は花丸の家に遊びに来たが、家にいるのに守るもへったくれもない様な気がする
花丸を守るとは言ったけど、休日にまで傍にいるなんて余計なお世話だっただろうか
善子「…ねえ、ずら丸」
花丸「何ずら?」
善子「その…守るとは言ったけど、流石に休日まで付きまとわれるって、鬱陶しかったかしら」
そう言うと、花丸は意外だと言いたげな顔をした後、満開の笑顔になって
花丸「マルは善子ちゃんと一緒にいれて嬉しいから、気にしないでいいよ」
と、心底嬉しそうな顔をして言った
善子「そ、そう…それなら、いいけれど…」
面と向かって「一緒にいられて嬉しい」なんて言われると、こちらも嬉しいけれど流石に気恥ずかしい
顔が赤くなるのが自分でも分かったので、花丸から顔を逸らした
善子(ほんと、ずら丸は何でこんなに可愛いのかしらねぇ…」
最初はあのちんちくりんの花丸相手に可愛いだなんて、と思っていたけれど、今ではもうすっかりこの気持ちを受け入れてしまった
花丸「ひゃいっ!?」
善子「えっ?」
しみじみと花丸の可愛さを噛み締めていると、花丸がとても変な声を上げた
何で変な声を上げたのかが分からなくて、花丸の顔を見つめる
花丸は顔を真っ赤にしながら口をわなわなさせて、こちらを凝視している
善子「ず、ずら丸…?どうしたの?」
花丸「か…かわっ…!」
善子「川…?川がどうしたのよ」
花丸「よ、善子ちゃん…今、可愛いって…」
耳まで真っ赤になった花丸が呟いた言葉の意味を、私は数秒の間理解出来なかった
善子「…え?」
善子(ちょっ…と待ってちょっと待って私思っただけよね!?えっ思っただけ…えっ、エスパー!?闇の異能者!?」
まさかの事態に驚きすぎて支離滅裂な思考になっているのが自分でも分かる
花丸「善子ちゃん…声に出てたずら…今も」
善子「!!?」
口を半開きにしたまま愕然と固まってしまう
この状態をまさに絶句と言うんだろう
花丸「よ…善子ちゃん…?」
善子「ず、ずら丸…今言ったことは、その、あの、違くて…あ、いや、ずら丸が可愛くないって事じゃなくて、ずら丸は、か、可愛いんだけどそうじゃなくて……」
流石にもう自分で自分が何を言っているのか分からないが、後で思い返したらのたうち回りたくなるだろう事はよく分かった
花丸「…ふふっ」
途中まで呆然としていた花丸だったが、私の反応がよほどのものだったのか、クスクスと小さく笑いだした
その直前まであれ程情けない弁解をしていた自分だったが、小さく笑う花丸の可愛さに言葉が出なくなる
花丸「可愛いなんて言われた事、ほとんど無かったから驚いちゃったけど、嬉しいずら、ありがと」
善子「そ、そう…?なら、良かったけど…」
花丸「…」
それから何を思ったのか、私の傍に寄ってきて、顔を近付けてきた
花丸「善子ちゃんは、すごくかっこいいよ」
善子「はえっ!?」
あまりにも意外すぎる事を言われて変な声を出してしまった
かっこいいだなんて、それこそ生まれて初めて言われた様な気がする
善子「えっ!?かっこ…えっ!?」
花丸「もう、善子ちゃんさっきから驚きすぎずら」
花丸は私の反応が面白くて仕方がないと言う様に、またクスクスと小さく笑った
善子「え…だって私がかっこいいって…どこが?」
花丸「そう言うところが、善子ちゃんのいいところずら」
善子「だ、だからどこがかっこいいのよ!いいところって何がよ!」
何が何だかさっぱり分からなくて身を乗り出して聞き出そうとするが、花丸は
花丸「教えてあげない!」
と嬉しそうに言うと、急に立ち上がって私に背を向けて逃げ出した
善子「ちょ、ちょっと教えなさいよ!逃げるな~!」
花丸「きゃ~!」
それからしばらく、私と花丸はうだる様に暑いのにも構わずに、ぐるぐると追いかけっこをし続けた
終わった頃には汗だくになっていて、お互いに背を預けあって荒い息をついた
酸素が足りない苦しみに苛まれながらも、私は背中合わせに同じ様に荒い息をついている花丸を意識していた
理由は教えてくれなかったけど、花丸に「かっこいい」と言われた時、とても驚いたし、それ以上に恥ずかしかったけど
身体の底から力が湧いてくる様な、でも少しむず痒い様な、なんとも面映ゆい気持ちになった
同時に「やっぱりこの子は自分が守らなきゃいけない」と強く思い直した
善子「…ねえ、ずら丸」
花丸「何?」
善子「明日は、私の家で遊びましょうよ、迎えに行くわ」
花丸「…うん!」
今からもう、明日になるのが楽しみで仕方がなかった
後日、学校
善子「ねえルビィ、最近のずら丸、少し様子がおかしくないかしら」
ルビィ「ふぇ?花丸ちゃんが…?そうかなぁ、気付かなかったけど」
花丸を守ると宣言してからと言うもの、私は常に花丸の傍にいたし、流石に本人の目の前で聞く訳にもいかない
練習も終わって、帰る直前に花丸がトイレに行った時を見計らって、ルビィに声をかけた
本人に直接聞くのも、何だか気が引けたし
それに、恐らく教えてくれないだろうし
善子「なんか、最近私を見る目が熱っぽい、と言うか…」
ルビィ「うんうん」
善子「胸を抑えてたり、顔が赤い時もあるし…熱風邪かしらね、心配なんだけど」
ルビィ「えっ?それって…」
熱心に私を見つめてくると思えば、何か堪える様にして目を逸らしている事もあるし、どうしたんだろう
善子「う~ん…」
ルビィ「…もしかして、善子ちゃん、本当に分かってない…?」
善子「え…?わ、分からないけど…」
ルビィ「……」
ルビィは口を半開きにしながら、信じられないとでも言いたげな顔でこちらを見つめている
ルビィ「善子ちゃん…なんか、意外だね」
善子「えっ?何が?」
ルビィ「花丸ちゃんは、苦労するなぁ…」
善子「何が!?」
何を言われているのかが全く分からなくて、もう少し話を聞きたかったのだけど、花丸が帰ってきてしまった
花丸「あれ、善子ちゃんとルビィちゃん、何話してるずら?」
ルビィ「花丸ちゃん…」
そう言うと、ルビィは花丸の手を取り
花丸「ずらっ?」
ルビィ「ルビィで良ければいつでも相談に乗るよ、頑張ルビィ!だよ、花丸ちゃん!」
と、こちらを軽く一瞥し、グッとガッツポーズを決めた
花丸「……」
花丸「…ほえっ!?」
言葉の意味を理解した花丸は、みるみるうちに顔を真っ赤にして変な声を上げた
花丸「るっ、ルビィちゃん!あのっそっそれは違っ…」
ルビィ「大丈夫だよ、ルビィ分かってるから!」
花丸「あ…あぅ…」
善子「ちょっと、私さっきから置いてきぼりなんだけど…」
すっかり話が進んでしまっていて、2人についていけない事に少し焦る
ルビィ「善子ちゃんは…花丸ちゃんの気持ちをもっと考えてあげて!」
善子「ええ!?」
予想外の事を言われた上に、人差し指でビシッと指差されてしまった
花丸の気持ちを考えてと言われても、これでもしっかりと考えているつもりなんだけど…
ダイヤ「ルビィ、帰りますわよ」
ルビィ「あ、お姉ちゃん…花丸ちゃん、善子ちゃん、また明日ね」
花丸「じゃ、じゃあね、ルビィちゃん、ダイヤさん…」
善子「…また明日」
ルビィはこちらに小さく手を振り、ダイヤと手を繋いで帰っていった
善子(…相変わらず、仲いいなぁ)
その背中を、何故か2人とも無言で見送った
善子「…私達も、帰る?」
先に帰った2人の影が大分小さくなった頃、呟きの様に小さく、ぼそりと言った
花丸「うん…」
私が数歩足を進めても、同じ様に歩き出す気配がしないので後ろを振り向くと、花丸は少し視線を下げて押し黙っていた
善子「どうしたの?ずら丸、帰らないの?」
花丸「ううん、帰るよ、帰るけど…」
少し顔を赤らめながら迷う様な素振りを見せて、少し間を置いた後、おずおずと片手を差し出した
花丸「手、繋いでも…いい?」
善子(…私、手汗出てないわよね)
ただ幼馴染と仲良く手を繋いで帰っているだけなのに、酷く緊張していた
善子(花丸は、何を考えてるんだろう…)
隣を歩く花丸が何故手を繋ぎたがったのか、今何を考えているのか、全然分からなかった
それでも分からない事をいくら考えていても仕方ないから、割り切ってひとまず置いておくことにした
特に珍しい風景も無い上に、お互いに無言なので、自然と繋いだ手に意識が行く
善子(すべすべしてて、気持ちいい手…)
善子(それと…少し熱い)
花丸は私よりも体温が高い様で、繋ぐ手には温かい熱を感じた
善子(…焼け付きそう)
隣を歩く花丸を、顔を動かさずにこっそりと盗み見る
夕焼けに照らされた花丸の横顔は、いつもより赤く見えた
善子(花丸も、緊張してるのかなぁ)
横顔が赤く見えるのは、夕焼けのせいだろうか、それとも…
少し尋ねてみたかったけれど、この無言を破るに足る気のいい台詞が思い付かなかった
結局、その日は終始無言のまま、花丸の家に着いてしまった
花丸「善子ちゃん、送ってくれて、ありがとずら。また明日ね」
善子「あ…うん、じゃあね」
お互いに別れの挨拶をしたのに、花丸は背を向けようとしなかった
花丸「ねえ、善子ちゃん…」
善子「…何?」
花丸は両手の指を組んだり、髪をいじったり、もじもじとしていて中々続きを口にしなかった
私は花丸を急かさずに、辛抱強く待った
花丸「善子ちゃん…また、手繋ぎたいって言ったら、繋いでくれる…?」
善子「っ…!」
心臓が、飛び跳ねた様な気がした
少し上目遣いで、頬は赤く染まって、不安げな表情…もう倒れそうだった
私は動揺を表に出さない様に、苦労して平静を装った
善子「…ええ、そのくらい、お安いご用よ」
花丸「ほ、ほんと!?」
善子「べ…別に手を繋ぐくらい、友達なら当たり前でしょ」
照れ隠しにそう言うと、花丸は少し目を見開いて顔を曇らし、先程より控えめな笑顔になった
花丸「そう…だよね、友達、だもんね」
善子「…?それがどうしたのよ」
花丸「う、ううん、何でもないずら」
花丸は隠してるつもりなんだろうけど、落ち込んでいるのは目に見えて明らかだった
善子「…私、何か悪い事言った?」
花丸「違うよ!善子ちゃんのせいじゃないずら!…マルのせい」
花丸の手は、拠り所を求める様に制服の端を掴んでいた
善子「ずら丸…」
なんとかして花丸の事を励ましてやりたかったけど、何を言えば花丸が笑顔になってくれるのか分からなかった
花丸「ごめんね、なんか、変な空気になっちゃったずらね…じゃあ、また明日ね」
花丸は会話を打ち切って、私に背を向けようとした
善子「…ずら丸!」
花丸「えっ?」
でも、私は花丸を呼び止めた
ここで花丸を帰らせてしまったら、何かが手遅れになってしまう様な気がして
何故そう思ったのかは分からないけど、その時抱いた焦燥は間違いなく本物だった
善子「えっと…」
何を言えば引き止められる?何をすればこの子を笑顔に出来る?
必死で頭を巡らせているのに、良い考えは一つも浮かんでこなかった
花丸「…じゃあね、善子ちゃん」
善子「あ…」
寂しそうに微笑みながら、彼女は私に背を向けた
少し、調子に乗っていたのかもしれない
ルビィちゃんに応援されて、もしかしたら望んでもいいのかもしれないと、思ってしまった
きっと心のどこかでは、善子ちゃんは優しいから、手を繋ぐなんて事くらい絶対してくれるだろうと分かっていたのに
そう分かっていても、自分の手が善子ちゃんの手に包まれた時、もう飛び上がりそうなくらい嬉しくなって
この想いは閉じ込めておくって、そう自分で決めたのに、いとも簡単に崩れてしまった
でもやっぱりそんな事は許されないんだと、自分は善子ちゃんの「友達」であって、それ以上では無かったんだと思い知らされた
善子ちゃんは好意で私の事を「友達」だと言ってくれているのに、その事を悲しいと思ってしまった
花丸(最低…)
自分で自分の事が滑稽だった、勝手に勘違いして、勝手に舞い上がって、挙句勝手に傷付いているんだ
その上友達としての気持ちを蔑ろにして、善子ちゃんに申し訳が立たなかった
花丸(…マル、ただの馬鹿みたいずら)
花丸(マルは、善子ちゃんの友達…友達は、友達らしく…)
もう勘違いして傷付かない様に、善子ちゃんとこれからも友達でいる様に、しっかりと自分に言い聞かせる
花丸(もう、勘違いはしない)
そう決意はしたけれど、善子ちゃんの手の感触を思い出して、それがどうしようもなく名残惜しく思えた
花丸(…善子ちゃんは、友達なんだから手を繋ぐのは当たり前って、言ってた)
花丸(じゃあ…これからも手は繋いでもいいのかな)
これからも善子ちゃんと手を繋いで帰れる、善子ちゃんに触れられる
そう思ったら、頬が緩む程嬉しいのと同時に、胸に鋭い痛みが刺した
いくら手を繋げるくらい近付けても、心の距離が縮まる事は無いんだ
花丸(…それでも)
それでも、自分は善子ちゃんのいい友達であり続けようと、強く思った
善子ちゃんの事が好きだから…自分の隣で、これからも笑ってくれる様に
窓の外の月を眺めながら、私はまだ手のひらに残る、繋いだ手の感触を思い出していた
善子「ずら丸、帰るわよ」
花丸「あ…うん」
初めて手を繋いで帰ったあの日から、私達はいつも手を繋いで帰る様になっていた
そんな私達を見た千歌はお気楽なもので「2人とも仲いいね~!曜ちゃん梨子ちゃん、私達も手繋いで帰ろう!」などと言っていた
私には何の事だか分からない会話を花丸としていたルビィはと言うと、心なしか嬉しそうに見えた
私と花丸が手を繋いで帰る事にクラスメイト達はもう見慣れているのか、「相変わらず仲いいねー」と言われる事はあったけど、皆特に気にしている様子は無かった
すれ違った人達は皆私達を見て笑顔になっていた、余程私達は仲が良く見えるんだろう
そうは言っても実際仲が良いのは事実なので、その事はいい、少し恥ずかしいけれど
でも、これはそんな簡単な事では無い気がする
花丸は手を繋ぐ瞬間、一瞬悲しそうな、痛みを堪える様な顔をする
手を繋いで帰っている最中も、そう言う事はたまにあった
きっと隠しているつもりなんだろうけど、花丸はどうにも嘘がつけない質と言うか、考えている事がすぐ顔に出る
だからと言って私には面と向かって理由を聞ける程の勇気が無い
でも、花丸が悩んでいるのなら力になりたい…我ながら、自分の軟弱さにうんざりする
繋いだ手を意識しながら、私は帰り道の間ずっと悩み続けた
善子「お願いルビィ!相談に乗って!」
ルビィ「え?花丸ちゃんの事?」
善子「…そ、そうよ」
後日、またもや花丸がいない隙をついて、思い切ってルビィに話してみる事にした
何度考えても、花丸が悲しそうな顔をする理由が分からなかったので、助言が欲しかった
どうやらルビィは前に花丸の様子がおかしくなった時、原因が分かっていたみたいだし(教えてくれなかったけど)
ルビィ「でも、最近の2人の間に相談しなきゃいけない様な悩みがある様には見えないよ」
善子「まあ、周りからは毎日仲良しに見えるでしょうね…実際そうだけど」
善子「って、そうじゃないのよ。あの子、手を繋ぐ時に一瞬辛そうな顔をするの…どうしてだと思う?」
ルビィ「手を繋ぐ時に…辛そうな…?何で?」
案の定、ルビィはとても驚いていた、きっと彼女からも、私達はとても仲睦まじく見えていたんだろう
善子「…私も分からないから聞いてるの」
花丸の事を分かってやれないのが悔しくて、歯噛みをする様な気持ちでそう返す
ルビィ「いつからそうなったの?」
善子「そうね…2回目に手を繋いで帰った時から…かしら」
ルビィ「2回目…じゃあ、初めて繋いだ時に原因があるのかな…その時の事、詳しく教えてくれる?」
少し思い当たる節があったので、私は初めて手を繋いで帰った時の事をルビィに話した
花丸から手を繋ぎたいと言われた事、お互い無言で帰った事、花丸の家の前での出来事
話を聞き終わった後、ルビィは眉を寄せながら考えていた
ルビィ「花丸ちゃん、どうしてそれまで嬉しそうだったのに、いきなり落ち込んだの?善子ちゃん、何か言ったか覚えてる?」
善子「ええっと…確か、これからも手を繋いでいいか聞かれて、友達なんだからそれくらい当然でしょって…」
ルビィ「それだよ!」
いきなりルビィがグイッと迫ってきて、面食らって後ろに一歩引いた
善子「な、何…?分かったの?」
ルビィ「分かったも何も…善子ちゃん、花丸ちゃんの気持ちを考えてあげてって言ったでしょ!」
強い剣幕で責められて、ついムッとしてしまう
善子「…考えたわよ、ちゃんと考えたわよ、私だって!それでも分からなかったの!だから相談してるのよ!」
私も負けじと、声を荒げてルビィに一歩迫る
ルビィ「でも…流石に鈍感すぎるよ!何で気付かないの!」
善子「そんな、何も言われないのに分かる訳ないじゃない、他人の考えてる事なんて!」
花丸「善子ちゃん、ルビィちゃん…?」
急に頭に冷や水をかけられた様だった
ルビィと私は同様に声のした方を振り向き、バツの悪い顔になった
花丸「2人とも、何で怒鳴り合ってるずら…?」
ルビィ「…花丸ちゃん、ちょっとこっち来て!」
そう言うと、ルビィは花丸の手を強引に引いて歩き出した
花丸「えっ、ルビィちゃんどうしたの?待ってよ!」
善子「ちょ、ちょっと!」
ルビィ「善子ちゃんはそこで待ってて!」
いつになく真に迫った様子のルビィにたじろいでしまって、私はその場を動く事が出来なかった
善子「…花丸の気持ち、か…」
もしかしたら私は、花丸の考えている事を分かった様な気がしただけで、見当違いだったのかもしれない
でも、やっぱり花丸の事を理解したかった
1人残された私は、2人が帰ってくるまで、花丸の事を考え続けていた
花丸「る、ルビィちゃん…どうしたの?」
善子ちゃんから充分離れたと判断したのか、ルビィちゃんは私の事を鋭い目で見つめてきた
ルビィ「…花丸ちゃん、善子ちゃんの事、諦めるつもり?」
花丸「っ!」
ルビィ「善子ちゃんから、最近花丸ちゃんの様子がおかしいって、相談されたんだ」
花丸「…そっか」
やっぱり、隠しきれてなかったらしい
昔から考えてる事が分かりやすいって、よく言われてたから気を付けていたんだけど
ルビィ「何で…何で諦めちゃうの?絶対、善子ちゃんだって花丸ちゃんの事…」
花丸「…諦めた訳じゃないんだよ、ルビィちゃん」
ルビィ「え?それじゃ…」
花丸「…ううん、やっぱり考えてみれば、諦める事と同じだね」
ただ諦めるだけとは少し違うと思ったんだけど、よく考えてみれば同じ気がする
花丸「善子ちゃんは大切な友達、善子ちゃんもそう思ってくれてると、勝手に思ってるんだけど…」
花丸「それはすごく嬉しいずら、なのに…それを裏切る様な気持ちを善子ちゃんに抱いちゃったのが、悲しくて」
その理由を聞いて、ルビィちゃんはしばらく押し黙った後、自分には到底思いつけない様な事を言った
ルビィ「…友達じゃなきゃいけないの?」
花丸「えっ?」
ルビィ「友達じゃなくたって…その先に、違うものだってあるんだよ?」
正直、驚いた
確かにそう言う考え方もあるんだと、まさに目から鱗だった
花丸「善子ちゃんとそんな風になれたら…すごく、幸せだね、夢見ちゃうずら」
ルビィ「だったら…!」
花丸「でも…そんな簡単な事じゃないよ、マルがいくら善子ちゃんの事を好きでも、善子ちゃんだってそうとは限らないずら」
自分は全然可愛くないし、野暮ったいし、そもそも善子ちゃんは女の子なんだ
花丸「善子ちゃんが男の子だったら、チャンスはあると思う。でも…善子ちゃんは、女の子なんだよ」
マルと同じ、と最後に付け加える
ルビィ「…善子ちゃんが女の子?それがどうしたの?」
花丸「え…?」
ルビィ「…性別なんて、そんなの関係無いよ、花丸ちゃんが善子ちゃんとどうなりたいのか、それが一番大事な事だよ!」
花丸「…!」
何を言うのかと思えば、やっぱりルビィちゃんにはとても敵わない
そう言う柔軟な発想が出来る事が羨ましいし、自分の頭の固さに嫌気が差す
花丸「ルビィちゃんは、凄いずら…マルには全然思い付けない事を、簡単に思い付けちゃうんだもん」
花丸「…でも、それもダメ。ルビィちゃん、マルが善子ちゃんとどうなりたいのか…って言ったよね?」
ルビィ「…うん」
花丸「マルはね、これからも善子ちゃんの傍で、笑っていたいずら…善子ちゃんの、友達として」
ルビィ「…!花丸ちゃん!!」
私の答えを聞いたルビィちゃんは、身を乗り出して声を荒げた
花丸「ルビィちゃん、わざわざ相談に乗ってくれて、ありがとう。でも、マルは大丈夫ずら」
ルビィ「花丸ちゃん!…本当に、本当にそれでいいの?」
ルビィちゃんは、知り合ってから今まで見た事が無いくらい真剣に、目を見つめて問いかけた
花丸「…うん、これでいいの」
花丸「ルビィちゃん、マルと善子ちゃんの事、こんなに真剣に考えてくれて嬉しいずら、ありがとう」
ルビィ「っ……」
花丸「それと、善子ちゃんが好きな事、善子ちゃんには言わないで欲しいな」
ルビィ「花丸ちゃん…」
ルビィちゃんは、苦しそうな顔をして俯いたまま、それからは何も言わなかった
ルビィちゃんに話した事で、自分の中でようやく決意が固まった
ずっと感じていたわだかまりも消え、スッキリした気がする
花丸(これならきっと大丈夫、これからもずっと、善子ちゃんの傍で笑ってられる)
善子ちゃん、マル達の帰り遅くて退屈してるかな
そう思うと、善子ちゃんの元へと向かう足は自然と歩みを早めていった
善子「ルビィと、何話してたのよ」
花丸「うーん…善子ちゃんには内緒ずら」
善子「またそれ…」
ルビィが花丸を連れて行ってからと言うもの、私はずっと花丸の事を考えた
花丸が何を感じ、何を思ったのか…本人じゃないんだから全ては分かりっこないんだけど、せめて少しでも花丸の事を理解したかった
でも、花丸とルビィが話し終えるまでの短い時間で考えがまとまる筈はなく、途中で花丸が帰ってきてしまった
帰ってきた花丸は、心なしかさっぱりとした表情をしていた
…その後手を繋ぐ時、花丸は辛そうな顔をしなかった
いつも通りのふんわりとした笑顔をしながら、まるで壊れ物を大事に扱う様に、そっと手を繋いだ
善子(…解決したのかな)
隣を歩く花丸の横顔からは、特に辛そうな感じはしない。むしろ、少し嬉しそうな雰囲気さえする
でも、これでこの問題が終わったとは、どうしても思えなかった
まだ何かある、そう直感は告げていたけれど、それがどう言うものなのかが、全く分からなかった
ルビィ「善子ちゃん、ちょっといいかな」
善子「…私に何か話でもあるの?」
授業も終わり、3人でアクアの部室へ向かおうとした時だった
ルビィ「うん、ちょっと来て欲しいんだけど」
ルビィの顔はとても真剣だ、きっと花丸の事だろうと直感する
花丸「ルビィちゃん!マルの事は…!」
ルビィ「大丈夫、その事は言わないよ」
花丸は切迫した様子だった、昨日何か2人の間で約束でもしたんだろうか
善子「…やっぱり、花丸の事なのね」
ルビィ「うん、善子ちゃんには話しておかないといけないって思って」
そう言うと、ルビィは教室の出入り口まで歩いて行った後、促す様にこちらを振り向いた
善子「じゃあ、ちょっと行ってくるわね」
花丸「あっ…善子ちゃん!」
善子「どうしたの?」
花丸は何度か口を開こうとしてやめるのを繰り返して、結局、何も言わなかった
花丸「…ううん、何でもない」
善子「…すぐ戻ってくるから、大人しく待ってなさいね」
花丸「うん…」
不安気な花丸を安心させる様に小さく笑ってから、私を待っているルビィの方に向かった
善子「…花丸がどうかしたの」
ルビィ「花丸ちゃん、辛そうな顔しなくなったでしょ」
善子「ええ…でも、解決したわけじゃない…そうでしょ?」
ルビィ「そこを分かってくれてて、良かった」
ルビィは少し険しい表情を崩して、安心した様に頬を緩めた
善子「まあ、その理由は分からないんだけどね」
ルビィ「ごめんね、それは言えないって約束だから…でもこれだけは善子ちゃんに伝えたかったの」
ルビィ「花丸ちゃんが辛そうな顔をしなくなったのは、善子ちゃんに対して心を閉ざしてしまったから」
善子「心を…閉ざす?」
その言葉は、昨日の花丸の様子からは見当もつかない様なものだった
善子「昨日の花丸からは、そんな感じ全くしなかったわよ、むしろ嬉しそうだった」
ルビィ「…そうだね、心を閉ざしたって言うよりも、開きかけてた部分を無かった事にしたって言う方が、正しいのかな」
善子「……」
その例えは、分かる様でいて全く分からない
善子「ルビィ…何が言いたいの」
辛抱してルビィの言う事を聞いていたけど、我慢の限界だった
自分が知らない事を知っている相手にそう言うぼんやりとした物言いをされるのは、厚い布越しに腹の中を探られている様で、面倒になった
ルビィ「善子ちゃんは、花丸ちゃんの事、どう思ってるの」
善子「えっ?」
ルビィは私の問いに対して、答えではなく違う質問で返してきた
花丸の事を話していたのに自分の気持ちを聞かれるとは思っていなかったから、驚いてしまってすぐに答えられない
ルビィ「善子ちゃん、花丸ちゃんの事好きなんでしょ、恋愛対象として」
善子「私が花丸の事を…?」
私は、花丸の事が好きなんだろうか
善子「…私は、花丸の事は可愛いと思うし、守ってあげたいとも思うし、いつも一緒にいたいとも思ってる」
善子「でも…だからと言って私が花丸の事を好きなのかは、分からない…」
そう、その3つは確かなんだけど、いまいちそれらが『好き』と言う感情に繋がる気がしなかった
私の答えを聞いたルビィは、すごい顔をした
いや…本当にすごい顔としか言えなかった、ただ、呆れ返っているのだけは分かった
ルビィ「善子ちゃん…」
善子「は、はい…」
ルビィ「…もう何も言えないよ、自分の気持ちにまで鈍感だなんて」
善子「面目次第もございません…」
自分の気持ちすらも満足に理解出来ないんだ、花丸の気持ちなんていくら考えても分かる筈がなかった
ルビィ「そこまで揃ってて好きかどうか分からないなんて…どうかしてるよ!」
善子「どうかしてるって言われてもねぇ…本当に分からないんだもん」
ルビィ「もうこうなったら力押しだよ、花丸ちゃんをその気にさせて、流れで善子ちゃんもその気になる!」
ルビィはグッと拳を握りしめて、天に突き上げた
善子「随分と抽象的な作戦ね…」
ルビィ「具体的には、花丸ちゃんと色んな所にデートしに行って、花丸ちゃんにカッコイイところを見せる!」
善子「意外にちゃんとした作戦だったわね」
ルビィは完璧!と言わんばかりに誇らしげな顔をしている
こう言うのを俗に言うドヤ顔と言うのだろう
善子「でも…カッコイイところってどんな事をすればいいのよ?」
見かけはちゃんとした作戦で、具体的な事が分からなければ実行のしようがない
そう私が言うと、ルビィはうんうんと唸りだした
善子「考えてなかったのね…」
ルビィ「い、今から考えルビィ!う~ん…あっ!さり気なく自分が車道側を歩くとか!」
その光景を思い浮かべたら、それはまさに「気遣いの男(女だけど…)」と言う様な感じがした
だが、問題が一つある
善子「確かにかっこいいけど…気付かれにくくない?」
そう、その洒落た気遣いも、そもそも気付かれなければ意味は無い
ルビィ「やっぱりそうだよね…善子ちゃん、何かある?」
善子「うーん…重い荷物を持ってあげる、とかかしら」
ルビィ「それ、いいんじゃないかな!」
善子「でも、私も花丸も重くなる程の買い物しないと思うけど…」
ルビィ「あー…」
正直、恋愛経験が皆無な私達がいくら考えたところでどうにもならない気がしてきた
しかもエスコートする側の行動なんて、どうすればいいのか余計に分からない
善子「…この作戦、無理じゃない?」
ルビィ「そうかなぁ、いい考えだと思ったんだけど…」
善子「私もそう思うけど、私達にはそう言う経験値無いからね…」
2人して意気消沈するが、ルビィは気を取り直して頑張ルビィのポーズを決めた
ルビィ「でも、デートには行くべきだよ!ルビィも後ろからついてくから!」
善子「えっ?ついてくるの?」
ルビィ「もちろん、陰ながら応援してるよ!」
善子「…貴方、私達の事になるとキャラ変わるわね」
ルビィは花丸と中学時代からの友達だし、それだけ花丸の事が大切なんだろう
それは私にとっても嬉しい事だった
ルビィ「じゃあ早速、花丸ちゃんを誘いに行こう!誘う時は遊びに、じゃなくてデートって言うんだよ?」
善子「わ、分かったから手を引っ張るのはよしなさい…」
私は若干人が変わったルビィに引きずられながら、花丸のところに戻っていった
花丸「善子ちゃんおはよ~、迎えに来てくれてありがとう」
善子「ヨハネだってば…守るんだから当たり前でしょ」
当然の様にそう言うと、花丸は
花丸「…そっか」
とだけ呟いて、それは嬉しそうににへらっと笑った
善子(…かわいい)
いつも通りの可愛さに一瞬我を忘れてしまうが、頭を振ってどうにか取り戻す
善子(しっかりしなさいヨハネ、今日はずら丸にかっこいいところ見せるんでしょ!)
後方の角に一瞬目線をよこすと、物陰に隠れている変装したルビィ(サングラス着)が頑張ルビィのポーズをした
ルビィに軽く頷き返し、花丸の手を取る
花丸は、嬉しそうに頬を緩めた
善子「じゃあ、早速行くわよ」
花丸「ずらっ」
善子(さて、まずは軽いジョブ…さり気なく車道側を歩く!)
その言葉通りに、さり気なく花丸を車道から遠ざける
善子(花丸の反応は…!?)
まあ案の定と言うべきか、花丸は私の行動には特に反応を示さなかった
善子(さり気なく、って時点で期待はしてなかったけどね…する必要無いかしら)
でも、花丸をそう言う気にさせると言う建前無しでも、花丸の事は出来る限り気遣ってあげたかった
善子(…事故とか、遭ってほしくないからね)
花丸がそんな目に遭うくらいだったら、その代わりになっても良いとさえ思えた
善子(…ん?何で私、花丸の身代わりになってもいいから無事でいて欲しいなんて考えてるの?)
善子(花丸がそんなに大事なの?ただの友達なのに…?)
花丸の事は大切な友達だと思っているし、傷付いて欲しくないとは強く思っている
でも、だからと言って自分を犠牲にしてまで助けたいと思うのは「友情」の範疇なのだろうか
花丸「水族館、楽しみずら!」
善子「え?ああ…そうね」
花丸「もう善子ちゃん、そっちから誘ったのに楽しみじゃないの?」
考えがはまり込んでる時に声をかけられたからか、返答が上の空になってしまった
善子「アンタと一緒なんだから、楽しみじゃない訳ないじゃない」
花丸「えっ…そ、そう、なんだ…」
思った事を言っただけなのに、それを聞いた花丸は顔を赤くして俯いてしまった
善子「?」
どうしたんだろう、私はまた何か悪い事を言ったんだろうか
そう思って不安になっていると、花丸は小さく深呼吸をした後、顔を上げていつもの笑顔を見せた
花丸「マルも、善子ちゃんと一緒だからすごく楽しみずら!」
善子「そう…それなら良かった、じゃあ早く行くわよ!」
今日は楽しい日になりそうだと思って、思わず笑顔になった
善子「特にかっこいい事出来ませんでした…」
水族館でデートをして、花丸を家まで送り届けた後の事だった
ルビィ「…ねぇ、善子ちゃん、本当にかっこいい事した自覚無い?」
善子「な、無いけど…?」
私がいつ花丸をその気にさせる様な事をしたんだろうか、全く見当がつかない
機会を探しはしたけど、結局実行出来ずに水族館を見て回った記憶しか無かった
ルビィはその答えを聞くと、もう過去に何度か見たことがある様な反応をした
ルビィ「…もう善子ちゃん、特に何もしなくてもいいと思う」
善子「えっ!?」
ルビィ「時間の問題じゃないかな…」
ルビィ(最初とか、あの時とかあの時とか、散々カッコ良かったのに…何でこの人は…)
ルビィ(花丸ちゃん…その決意、私だったら一瞬で崩れてるよ!)
善子「ちょ、ちょっと!何もしなくていいってどう言う事よ!」
ルビィ「力抜けちゃって何も言えないよ…」
善子「私本当にかっこいい事してた!?いつ!?」
そう言われた理由が本当に分からないので真剣に聞いても、ルビィは教えてくれなかった
ルビィ「そろそろ帰るね、それと、次からは2人で楽しんできてね」
善子「えっ!?ちょっと、まだ作戦は…」
ルビィ「善子ちゃんなら特に意識しなくても大丈夫、頑張ルビィ!だよ!」
善子「……」
なんだか適当に流されてしまって、何も言えなかった
ルビィは二の句を継げない私に「進展あったら教えてね~」と無責任な言葉を投げかけて帰っていった
私はしばらくの間、一人呆然と佇んでいた…
善子「…さて」
数日後、立つは花丸の家の前、私は躊躇していた
善子「今日は遊園地デート、なんだけど…」
ルビィは作戦から手を引くし、理由も教えてくれないし、正直どうするべきか迷っていた
善子(かっこいい事するって作戦、やる必要あるのかしら…)
ルビィは特に意識しなくても大丈夫、とは言っていたから、普通に遊ぶだけでいいんだろうか
そもそも、この作戦に意味はあるのか
花丸の心を開きたいと言う目的はあるし、それは重要な事だと思う
でも、それと「花丸にかっこいいところを見せる」と言う行為に関連性があるのかと疑問を持ってしまう
善子(…帰ってきたらルビィに聞いてみよう)
あまりルビィに頼りすぎるのもどうかと思うけれど…
善子「ま、まあ?それはともかくこの堕天使ヨハネにかかれば、リトルデーモンに闇の力を与えるなんて造作もない事…」
?「あの、どちら様でしょうか」
善子「ひゃい!?」
堕天ポーズを決めていたところ、唐突に頭の後ろ(上?)から降ってきた野太い声に、驚いて物凄い早さで振り向く
?「うちに、何か御用でしょうか」
善子(こ、この人は…まさか…)
見上げる程の偉丈夫に、法衣を身に纏った威厳のあるその姿は…
善子「花丸父ー!?」
花丸父「確かに私は花丸の父ですが…君は?」
善子「あっ、も、申し遅れましたっ!私花丸さんの友達のっ、津島善子と言います!あ、あの、今日は娘さんと遊びに行く約束をしてまして…」
思いっきりどもっている上に、緊張しているせいですごい早口になってしまっている
花丸父「ああ、君があの善子ちゃんか!」
善子「あの…?」
どうやら花丸父は私の事を知っている様で、得心が行ったとばかりに手をポンと叩いた
善子「お、お父さん、私の事をご存知で?」
花丸父「ああもちろん、最近の花丸はもっぱら君の話題で持ち切りだからね」
善子「そう、だったんですか…」
花丸父「一目見ておきたかったんだ、うちの娘をこんなに夢中にさせるのが、どんな子なのか」
花丸がそんなに私の事を考えていたのかと思うと、なんとも嬉しい気持ちになった
善子「そっか…花丸が…」
嬉しさを噛み締めていると、花丸父は咳払いをして真剣な表情になった
花丸父「…津島善子さん」
善子「は、はい!」
花丸父「花丸は鈍いし、おっちょこちょいだから、迷惑をかける事もあると思うが…これからもあの子を助けてやってほしい」
彼の目には真摯な光が灯っていて、その目に自分が映っている事が、そう頼まれた事が、とても誇らしく思えた
善子「…はい、花丸は私が守ります、安心してください」
そう言うと、彼は硬い表情を崩して朗らかに笑った
彼の笑った顔は、まるで雲間から太陽が覗いた様な、今までに何度も感じていた暖かさで
いつも傍にいる女の子のそれと照らし合わせながら「ああ、親子なんだなぁ」と思った
花丸父「良かった…堕天使?とかが好きだと聞くからどんな子だと思ったら、礼儀正しい良い子じゃないか」
善子「あ、ありがとうございます…あの、娘さんを守りますって、普通彼氏の台詞ですよね…なんかすみません」
花丸父「ん?ああ、花丸がいいなら、男でも女でも構わないさ」
花丸父「だから、あの子を頼んだよ」
本当に平然とそう言い放つものだから、私はたっぷり数秒間も放心してしまった
善子「……はいっ!?」
花丸父「なんだい?そんなに驚いて」
善子「い、いやいやいや、あ、あの、男でも女でも構わないって…」
花丸の父は慌てふためく私の様子を見ると、いきなり大きな声で笑い始めた
花丸父「あっはっはっは!君の反応、面白いなぁ」
善子「だ、だだだって…」
とても無様だとは思うけど、それほど驚いたんだから仕方がない
私が同性の女の子に対して「そう言う魅力」を感じてしまった事は絶対に両親には漏らせないなぁ、と思っていたから
花丸父「同性愛って言うのはね、仏教上では…人によって少し意見が分かれるんだけど、お互いが良くて周りに迷惑をかけないのなら、寛容とされているんだよ」
善子「えっ!?仏教で…ですか?」
宗教では同性愛は厳禁みたいなイメージがどこかにあったので、とても衝撃を受けた
日本の仏教には沢山の神がいるとかいないとか、そう言う色々と寛容なところがこの国に合っているのかもしれない
花丸父「ああ、それに親としても、あの子が一緒にいて一番幸せな人を選んで欲しいと思ってるんだ」
善子「そう、なんですか…」
善子「…すごく、いいお父さんですね」
いつの時代だって、自分の価値観を子供に押し付ける親は一定数いる
そんな中で子供の気持ちを一番に考えられるこの人は、本当にいい父親だと、素直に思った
善子「と言うか、私の気持ちは!?」
花丸父「はっはっは!これは申し訳ない、私が守るなんて言うからもう惚れているものだと」
そう言われて、思わず顔が赤くなるのが自分でも分かる
善子「はっ、花丸さんは大切な友達です!」
善子(あれ、何で私、こんなに焦ってるんだろ)
花丸の事はいい友達だと心から思っている、でも、それならどうしてこんなに慌てて訂正する必要があるんだろう
花丸の事になるとつい考え込んでしまう私を尻目に、花丸の父は笑いながら「そうかそうか」などと楽しそうに言っている
その時、花丸家の玄関が開いた
花丸「お父さん、どうしたずら?…って、善子ちゃん!」
善子「あ、おはよう、花丸」
出てきたのは花丸だった、花丸父は声が太くて遠くまでよく聞こえそうだから、それを聞いて様子を見に来たんだろう
花丸父「ああ花丸、丁度良かった、今呼びに行こうとしてたところだ」
花丸「お、お父さん!善子ちゃんに変な事話してないよね…?」
私と花丸父は顔を見合わせ、ニヤッと口角を上げた
花丸父「秘密だ」
善子「秘密よ」
花丸「な、何ずら~!?2人とも何話したの!?」
花丸は腕をぶんぶん振って抗議するが、2人揃ってその行為の可愛らしさにほのぼのする
花丸父「まあまあ、それより津島さんを待たせているんだ、早く支度してきなさい」
花丸「んん~!善子ちゃん後で問い詰めるからね!」
可愛らしく地団駄を踏みながらそう言い放って、花丸は急いで家の中に転がり込んでいった
善子「花丸さんは、とてもいい子ですね」
花丸父「君もそう思うか、流石見る目がある!」
それから私達は花丸が戻ってくるまで、花丸の魅力について延々と話し続けていた
花丸「善子ちゃん、お父さんと何話してたずら?」
善子「秘密」
手を繋いでバス停に向かう途中、花丸は何度もその事を聞いてきた
花丸「何でずら~!!」
私が秘密と言うたびに、花丸は繋いでいない方の腕をぶんぶんと振り回す
善子「アンタ帰り道であんなに嬉しそうにしてた理由教えてくれなかったでしょ、お返しよ」
花丸「でも~!」
あれだけ聞いても秘密にされたんだから、私だってこれくらいしても良い様に思う
善子「じゃあアンタが教えてくれたら、私も教えるわ」
花丸「うう~!」
そうすると花丸は唸りながら口を閉じるのだった
善子「アンタね、どんだけ言いたくないのよ…」
花丸「だ、だって…」
善子「別に大した事話してないわよ…そんな心配しなくても大丈夫だってば」
花丸「それでも気になるずら!」
善子「う~ん…」
善子「それより、遊園地楽しみね」
言ってしまうか悩むが、やっぱりはぐらかしておいた
花丸「そうだね!…ってはぐらかさないで欲しいずら!」
繋いでいない手で肩を持ってぐらぐらと揺さぶられる
そんな感じで、遊園地に着くまで私は花丸に揺さぶられ続けた(途中から気持ち悪くなってきた)
花丸「未来だったずら~!!」
善子「はぁ…はぁ…怖かった…!」
ジェットコースターには久しぶりに乗ったけど、まさかこれ程怖いものだとは思わなかった
流石に高校生にもなったので大丈夫だろうと思ったんだけど、あまりにも怖かったので思わず涙が滲んだ
そんな私と比べ、花丸は乗っている最中も降りた後も怖がっている様子が皆無だったのは腑に落ちない
善子「あ…アンタよくあんなの乗って平気な顔出来るわね…!」
花丸「善子ちゃん、堕天使の癖に怖がりすぎずら」
花丸はそう言って、ぷぷっ、と少し馬鹿にした様な笑い方をした
カチン、ときた
花丸の両肩をガシッ!と言う効果音が出そうなくらいしっかり掴み、俯いていた顔を上げる
花丸「よ、善子ちゃん…?」
善子「…ずら丸」
花丸「は、はい…」
善子「…お化け屋敷、行くわよ」
そして有無を言わさない調子で、花丸の手を引いて歩き始めた
花丸「ちょ、ちょっと善子ちゃん!」
花丸は焦って私を引き止めようとするが、今の私は怒りの堕天使、誰にも止めることは出来ない
善子「ふっ…ふふふふ…」
花丸「よ、善子ちゃん…怖いずら…」
そうこうしているうちにお化け屋敷に着いてしまった
花丸「善子ちゃん…本当に入るずら…?」
善子「も…勿論、私がアンタより度胸があるって事見せてあげるわ」
花丸「…怖くないずら?」
善子「こ、この堕天使ヨハネ様がお化け屋敷ごとき、怖いはずが無いでしょう!」
正直なところとても怖かった、別に私もお化け屋敷が得意な訳ではない
でも、あの花丸がジェットコースターで平然としていたんだから、ついライバル意識を燃やしてしまった
花丸「…善子ちゃん、足震えてるずら」
善子「へっ!?」
花丸は胡散臭いものを見る様な半目で私の膝を眺めていた
善子「ば、馬鹿ね、これは武者震いよ」
花丸「ほんと~?」
全く信じていなさそうな目に耐えられなくなり、顔を逸らす
善子「さ、さぁ行くわよずら丸!」
花丸「ちょっと心の準備をさせて欲しいずら~!」
私は無理矢理に花丸の手を引いて、古典的な外観のお化け屋敷へと足を踏み入れた
まあ中には待機列があるだろうから、そこで心の準備をする時間くらい出来るだろうと思っていた
でも、入り口を入ったところの受付には、待機列どころかスタッフの姿すら無い
花丸「何で…誰もいないずら…?」
花丸はいつの間にか繋いだ手を振り切って、私の肩越しに恐る恐る無人のカウンターを見ていた
善子「さ、さぁ…あそこに何か書いてある」
カウンターの上に何かの機械があって、そこには「パスポートをこちらにかざしてください」と書いてあった
善子「あの機械でパスポートのバーコードを読み取ればいいのね」
花丸「み…未来ずら…」
善子「持ってれば好き勝手に入れるから待機列が無いわけね…」
花丸じゃないけど、この発想は凄いなぁと素直に関心した
誰もいないのを良い事に無断で侵入されないんだろうかと思ったが、寺の門を模した入り口らしきものは固く閉ざされていて、開く気配は無かった
善子「ふぅん、よく考えるものね」
花丸「途中で道が切り替わって他の人達と会いにくくなるんだって!未来ずら~!」
善子「どんな仕組みよ…それより、早く入るわよ」
これからお化け屋敷に入ると言う事を忘れてはしゃいでる花丸を急かし、読み取り機らしきものに2人分の一日乗り放題パスポートをかざした
すると、純和風の門は重厚な音を立ててその口を開けた
その奥の風景は…まあ、寺と言えば案の定の「墓地」だ
扉が開ききり、辺り一体に静寂が押し寄せる
唯一耳に届くのは、門の奥から聞こえてくる物寂しげな風の音だけ
花丸「……」
善子「……」
ただの作り物とは分かっていても、その得も言われぬ雰囲気に呑まれ、つい無言になってしまう
花丸「よ、善子ちゃん…」
善子「はい…」
花丸「行かないの…?」
正直、とても怖いし、行かずに済むのなら行きたくない
でも花丸に豪語してしまった手前、入らずに逃げるわけにはいかない
善子「…行くわよ」
花丸「ちょ、ちょっと待って!」
花丸の手を取って、限りなく不気味な作り物の墓地に足を踏み入れた
少し奥に行った途端、もうこのまま動かないんじゃないかとも思える門が、これまた重厚な音を立てて口を閉じた
2人ともに立ち止まり、もう戻れない入り口を声も無く見つめた
花丸「…これでもう戻れないずら」
善子「ちゃっちゃと終わらせて外出るわよ…」
前に向き直り、墓やら柳やらが連なっている通路を歩き始める
こう言うものに心得が無いからか、今自分は本当に真夜中の寺の墓地にいるんじゃないかと錯覚してしまう
ちゃっちゃととは言ったけれど、雰囲気に気圧されて、歩く足は遅々として前に進まない
花丸「す、すごい本物っぽいね…怖い…」
善子「アンタ寺の娘でしょ…なんで怖がってるのよ…」
花丸「別に寺の娘だからって真夜中に墓地なんて行かないずら!」
そう花丸が言い返した時、生温い風に乗って何かが聞こえた気がした
善子「…ねぇ、今何か聞こえなかった?」
花丸「えっ…?」
一度そう意識すると、つい耳を澄ませて周りに集中してしまう
?「ァ…アァ……」
花丸「ひっ…!」
善子「っ…!」
今、確かに何かが聞こえた
聞こえた方向は…そう、恐らく、そこの道の脇にある柳の下
そこには丁度枝垂た葉で顔が隠れた、白装束を着た女性らしきものが!
善子「ひいっ!?」
花丸「きゃああぁ!!」
花丸の女の子らしい悲鳴が聞こえた時、腕に何かむにむにっとした感触を感じた
善子(こ…この柔らかい感触は…!?)
もう目の前のこの世にいない人の事は頭に無く、私の意識は全て自分の腕に集中していた
善子(む、むむむ胸!!?)
花丸が私の腕にしがみついていた
結果的に私の片腕はその豊満な2つの果実に挟まれる訳であって…
私は花丸とは違うベクトルで正気を失いつつあった
善子(は、花丸の胸がっ…!胸が…腕に…っ!と、と言うか何でこんなに柔らかいの!?普通ブラしてるから硬いもんじゃないの!?)
半分パニックになった私にしがみついた花丸は、固く閉じた目を恐る恐る開いて私を見上げた
花丸「よ…善子ちゃん…」
花丸に呼ばれるのが分かったので、悶々と考え込んでいた思考をとても苦労して頭の奥に引っ込める
善子「な、何…?」
花丸「あっ、ごめんね!あのね、えっと…その…」
花丸は慌てて私の腕から離れ、もじもじと言いにくそうにしていた
花丸「…お化け屋敷終わるまで、善子ちゃんに、くっついててもいい…?」
善子「っ!」
本当に、花丸は卑怯だ
そんな顔で頼まれたら、断るわけにはいかないじゃないか
善子「…仕方ないわね、私も怖いし、いいわよ」
ほら、と腕を差し出す
花丸「あ…えへへ、ありがとずら」
花丸はおずおずと私の腕に身体を絡めてきた
善子「じゃあ、こんな所早く突破しちゃうわよ」
花丸「うん…!」
まだそこにいた柳の奥さんは無視して、先に進む
また何か出てこないか周りに気を配る途中にも、やっぱりどうしても意識は掴まれた腕に行く
善子(お化け屋敷…いいわね)
腕に当たる感触だけでなく、幽霊達に怖がる花丸もとても可愛かった
花丸に触れていると、何故か心拍が上がってくる
それに、胸が押し付けられると言うか、どうにも表現しにくいものを感じた
善子(…身体が熱い)
花丸に掴まれた腕を中心にして、そこから原因不明の熱が全身に広がっていく様だった
それからお化け屋敷を抜けるまで、私の頭に幽霊だかが入り込む余地は無かった
花丸「怖かったずら~!」
お化け屋敷を出た後も私から離れようとしない花丸が、涙目で少し鼻をすすりながら言った
善子「そ、そうね…」
善子(別のものに夢中で怖かった記憶が無い…)
結局度胸を見せようと入ったお化け屋敷は、私に対しては怖がらせると言う役目を果たせずに終わってしまった
花丸「善子ちゃん、すごいずら…全然怖がってなかった…」
善子「えっ?ま、まあこの堕天使ヨハネにかかればどうってことないわね!」
片手でポーズをキメながらそう言うと、花丸は目を輝かせて私を見つめてきた
花丸(善子ちゃん、すごい…かっこいいな…)
その目線が気持ち良くて、少し誇らしくなる
善子(って、お化けの事が頭に無かっただけなんだけど…)
花丸「あっ、ごめん、いつまでもくっついてて…離れるね」
花丸は少しだけ躊躇った後、私の腕から離れた
善子「あ…うん」
その感触が名残惜しくて、少しだけ残念に思った
善子(…もっとくっついてたかった)
花丸「…それより善子ちゃん、次はどこに行く?」
善子「アンタね…怖かったんでしょ?それに来てから乗りっぱなしだし、少しくらい休んだらどうなの?」
少し心配になってそう聞くと、花丸は嬉しそうに顔を横に振った
花丸「怖かったけど、もっとたくさん色んな所行きたいずら!」
花丸「ほら…善子ちゃん、早く!」
花丸は目を輝かせながらそう言って、私の手を引っ張った
善子「ちょ、ちょっと、分かったから落ち着いて!危ないでしょ!」
いつもよりも活発な花丸を見て、来て良かったなと思った
花丸「楽しかったずら~!」
善子「疲れた…アンタなんでそんな元気なのよ…」
あれから本当に文字通り休み無く、色々なアトラクションを乗り回った
花丸が気に入ったものは二度三度乗ったりもした
花丸「まだ乗り足りないずら!」
善子「あ、アンタインドア系じゃなかったっけ…」
いつも本を読んでいて運動しているイメージの無い花丸にこんなバイタリティがあったとは思わなかった
花丸「それくらい面白かったって事!」
私の前を歩く花丸は、急に立ち止まったかと思うと、振り向いて微笑んだ
花丸「…善子ちゃん、今日はありがとう」
鮮やかな夕焼けに照らされたその笑顔は息を呑む程に美しくて、思わず言葉を失った
善子(あれ…)
花丸「また来ようね、善子ちゃん」
その提案に、私は言葉を返す事が出来なかった
善子(花丸って…こんなに…あれ?)
先程までの花丸が嘘だったのか、それともこの花丸が作り物なのか
そのどちらでも構わない、今私が見ているものは、本当に本物の花丸なんだろうか
本心からそう疑ってしまう程、今私の目の前にいる彼女が、今までとは全く違うものに見えた
美しいとか、可愛いとか、そんな言葉では到底言い表わせない何かを感じた
花丸「あれ、善子ちゃん…どうしたの?顔赤いずら」
花丸はそう言いながら、私の顔を覗き込んできた
善子「っ…!な、何でもないわよ!」
急に距離が近付いて、それはもう文字通りに、思いっきり心臓が跳ねた
善子(近い近い近い!!)
顔が火を噴きそうに熱く、自分でも赤くなっている事が分かる
花丸「本当に?すごく赤いし、やっぱり熱あるのかな…」
そう言って私の顔を覗き込む少し不安気な表情を見た瞬間、心臓が壊れそうなくらいに高鳴っているのを自覚した
善子「ほ、本当に!何でもないから!!」
あわあわと手で顔を遮る様にしながら、私は次にどう行動するのが正解なのか、もう考える事さえ出来なくなっていた
花丸「そこまで言うならいいけど…念のため、身体冷えない様にしないとダメだよ?」
少し眉を下げて微笑んだその表情を見た途端、あまり馴染みの無い感情が湧き上がってくるのを感じた
この感情をどうしても伝えたいのに、上手く言葉に代えられない、溢れそうで苦しくて仕方ないのに何故か心地良い
これは…愛おしさ?
善子(…そっか)
その感情の正体に気が付いた瞬間、すぐに実感が追いついてきた
善子(私、花丸の事、好きなんだ)
そう自覚するには、余りにも今更過ぎた
それでもやっぱり薄々分かってはいたのか、あまり衝撃は感じなかった
まるで一つだけ足りなかったパズルのピースがぴったりとはまった様に、胸にストンと落ちてきた様に感じた
善子(…笑っちゃうわね、本当に自分の気持ちすら分かってなかった)
善子「ルビィが呆れ返るのも分かるわ…」
花丸「え?ルビィちゃんがどうかしたの?」
善子「な、なんでもない」
また考えてた事が声に出てしまっていたらしい、この前あんな事があったので本当に気を付けなきゃな…と思い直す
この状態でまたあんな事があったら、本気で悶え死ぬ自信がある
善子「それより…もうすぐ閉園時間よ、どうするの?」
花丸「そうだね…じゃあ、最後に一つだけいいかな」
花丸は、夕焼けを背負って影になっている観覧車を指差して言った
花丸「あれ、乗りたいずら」
係員「次の方どうぞー」
係員に誘導され、思ったより広い観覧車の個室に乗り込む
花丸「まだ全然低いけど、落ちないか怖いずら…」
善子「だ、大丈夫でしょ…多分…」
それからかなり高い位置に上るまで、私達は無言のまま日が沈む夕焼けを見つめていた
花丸「…善子ちゃん、今日は本当にありがとう」
善子「何よ、改まって」
花丸「だって、こんなに楽しかったの初めてだったんだもん」
花丸「善子ちゃんと一緒だったからかな」
少し躊躇った後、花丸は嬉しそうにそう言った
善子(あ、いけない)
善子(…思いっきり、抱きしめたい)
さっきから花丸の笑顔を見るたびに、そう言う欲求ばかり湧いてきて、胸を満たす愛おしさでもうどうにかなってしまいそうだった
善子「私も…アンタと一緒で楽しかった」
花丸「…良かったずら」
優しく微笑んだ花丸の顔を見て思った
善子(…今しかない)
この想いを伝えるなら今日、今この瞬間しかないと
度胸の無い自分は、これを逃したらもう二度と伝えられないだろうと言う確信があった
いや、伝わらなくてもいい、言葉にして確かめられればそれでいいと思った
告白なんて大それたものでは断じてない、ただ、私自身が今まで花丸に感じた事を伝えたい
よし、と気合を入れて、思い切って口を開く
善子「…今だから言うわ、私ね、何て言っていいのか分からないけど…アンタの事、すごく大事に思ってる」
花丸「えっ…?」
私が唐突に変な事を言い始めたからか、花丸は驚いて面食らっている
善子「その…なんて言えばいいのかしらね」
善子「アンタの事…凄く可愛いって思うし、引かれるかもしれないけど、抱きしめたいとも思ってる」
花丸「なっ…」
善子「アンタの事考えると胸が痛くなるのに、ずっとその理由が分からなかった」
善子「そんなんだから、ルビィに相談しても鈍すぎるって呆れられたわ」
私は花丸の反応を気にも留めずに、ささやかな告白を続けていく
善子「アンタの笑顔があんまり可愛すぎるもんだから、もうヘトヘトよ」
まさか自分がこんな歯が浮く様な事を、こんな饒舌に喋れるとは思っていなかった
善子「まったく、何でアンタは…ん?」
目線を窓の外から戻すと、花丸の様子が少しおかしい事に気付いた
花丸は目を少し見開いて、いやいやをする様に頭を振っている
花丸「そんな…」
善子「…?どうしたの?」
花丸「っ、な、なんでもないよ…」
花丸はそう言ってから、何かを堪える様に俯いた
とても何でもなさそうには見えなかったけれど、花丸の雰囲気に気圧されて聞けなかった
係員「はーい、お疲れ様でーす」
長い様で短かった一周が終わって、私達は観覧車を降りた
花丸「……」
善子(…気まずい)
降りたのに花丸は一言も喋らずに俯いていて、どう話しかけていいのか分からない
善子「あの、ずら丸…」
花丸「善子ちゃん、マル、トイレ行ってくるね」
善子「えっ?」
花丸は後ろを向いて、何かを書く仕草をした後、私に四つ折りにした紙を渡してきた
花丸「善子ちゃん…後でこれ、読んで」
善子「え、これ何?」
花丸「…じゃあ、行ってくるね」
そう言って、私に背を向けた
その背中には、どこか見覚えがあった
今取り逃したら手遅れになってしまう様な、そんな焦燥を感じる後姿
善子「待って!」
花丸「…どうしたの?」
花丸は、微笑みながら振り向いた
善子「えっ、と…」
善子(私は…私はまた同じ事を繰り返すつもり…?)
もうこれ以上花丸に寂しい思いをさせたくなかった、強くそう思うのに
焦れば焦るほどに、花丸を引き留められる様な言葉が何も浮かんで来なかった
花丸「じゃあ、ちょっと行ってくるずら」
善子「ちょっ、待って!」
花丸「…善子ちゃん、どうしたの?ちょっとトイレ行ってくるだけずら、大丈夫」
善子「っ…」
その言葉は、柔らかいのに有無を言わせない調子だった
花丸「…じゃあね」
そう言って、花丸は私に背を向けた
確かに、花丸は「トイレに行ってくる」と言っただけだ
ただの勘違いかもしれない、と思い直して、花丸の後姿を見送った
それからしばらく、ぼうっと夕日を見つめていたけれど、ふと花丸の言葉に違和感を感じた
善子(…じゃあね?)
善子(じゃあねって…何?)
何故花丸はトイレに行くだけなのに「じゃあね」と言ったんだろう
その事について考え込むよりも先に、先程花丸に渡された紙の事を思い出した
善子(…後で読んでって、言ってたわね)
四つ折りになったそれを開くと、いつもより崩れた、それでもまだ綺麗な字でこう書いてあった
花丸『先に帰らせてもらうね、何も言わないでごめんなさい』
善子「っ!あの子…!」
私は花丸が歩いていった方へ向かって走り出した
善子(そんな…嘘でしょ、花丸…!)
本当に自分が情けなくて仕方がなかった
花丸の言葉を額面通りに受け取ってしまった
これじゃあ、本当に何も変わっていないじゃないか
善子「花丸…!花丸っ!」
善子(馬鹿…私の馬鹿!何してるのよ!)
本当に自分が情けなくて仕方がなかった、私はなんて愚かなんだろうか
私はそれからしばらく、駅や遊園地の周りを探し回った
どうしても、今からでも花丸を捕まえて問い詰めたかった
でも、結局花丸は、どれだけ探しても見つからなかった
教師「えー、今日の授業は終わりです、部活ない人はすぐ帰る様に」
教師「今日は配布物あるんだけど、誰か国木田さんに持っていってあげられる人いる?」
善子「あ、私届けます」
教師「じゃあ津島さん、よろしくね」
花丸と遊園地に行った日から数日後、あれから花丸は学校に来ていなかった
あの後、花丸の家を訪ねるか悩んだが、結局行けなかった
ルビィ「…善子ちゃん」
善子「ルビィ…」
ルビィが私の事を真剣な眼差しで見つめている
ルビィは一度、花丸が学校に来なくなった理由を聞いてきたが、どうしても相談する気にはなれなかった
その後、ルビィがもう一度理由を聞いてくる事は無かった
ルビィ「花丸ちゃんの家、行くんだよね」
善子「ええ…そのつもり」
ルビィ「花丸ちゃんに会って…何て言うの?」
そう言われると、言葉に詰まってしまう
善子「…正直、分からないわ」
ルビィは私の返事を聞くと、少しムッとした顔になった
ルビィ「花丸ちゃんが学校来ないのって、善子ちゃんが原因でしょ、そんな事じゃ花丸ちゃんには届かないんじゃないかな」
やっぱり、ルビィは少し怒っている様だった
語気は強いし、言葉には若干棘がある
善子「…届くかどうかなんて分からない」
善子「それでも、私はこの気持ちを、花丸に伝えなきゃいけない」
強い決意を込めて、ルビィの瞳を正面から見返す
ルビィ「自分の気持ち、本当に分かってるの?」
善子「今更で情けなくて仕方ないけど、ようやく気付いたわ」
ルビィ「じゃあ…わたしにも分かる様に言って、言葉にして」
ルビィの表情は真剣そのもので、言うまで絶対に動かない、と言いたげな強情さを感じた
もう恥ずかしがっている場合じゃないと割り切って、私は花丸への想いを言葉にする
善子「私は…私は、花丸の事が好き。勿論、恋愛対象としてね」
善子「抱きしめたいし、これからも手を繋ぎたい…でも、今のままじゃそんな事出来ない」
善子「だから…花丸に伝えたい、アンタの事が好きだって、気付けなくてごめんって」
私がそう言い切ると、ルビィは固い表情を少し崩して、やれやれとでも言いたげな呆れ顔になった
ルビィ「やっとかぁ…長い…長すぎだよ、善子ちゃん」
善子「…自分でもそう思うわ」
私だってルビィと同じ立場だったら、盛大に溜め息でもついているだろう
そう考えると、ルビィには頭が上がらないなと改めて実感した
ルビィ「…今度こそ、花丸ちゃんの事、寂しくさせないであげてね」
ルビィはそう言って、眉を下げて優しく微笑んだ
それからふと思い出した様に口を開いて、爆弾発言とも言える代物を落としていった
ルビィ「約束もあるし、言おうかどうか迷ったけど、これなら大丈夫だよね…あのね、花丸ちゃんも善子ちゃんの事好きだって思ってるよ」
善子「え?」
ルビィ「善子ちゃんが花丸ちゃんに感じてるのと同じ、ね」
善子「……えっ」
いや…花丸は本当に分かりやすいから、あれから薄々勘付いてはいた
いたけれど…こうもはっきりと言われると思考が止まってしまう
ルビィ「善子ちゃんと花丸ちゃん、両想いだったんだよ」
善子「両、想い…」
なんだか実感が湧かなかった、あの花丸と両想いだなんて、過去の自分に話して信じただろうか
思わず飛び跳ねたくなるくらいに嬉しくなると同時に、それ以上に花丸に対しての申し訳なさ、自分に対しての情けなさが込み上げてくる
ルビィ「善子ちゃん、やっぱり気付いてなかったんだね…花丸ちゃん、本当に苦労してるなぁ」
ルビィはやれやれとでも言いたげに頭を振っていた
善子「いや、薄々は…でもそうね、鈍いってもんじゃないわね」
今思えば、花丸はほとんどそうとしか思えない様な行動や反応しかしていなかった
灯台下暗しとはよく言ったものだ、まさか自分が恋愛漫画の主人公の様な体たらくを演じてしまうなんて
善子「…私、花丸の所に行かないと」
ルビィ「うん、頑張ってきてね」
ルビィは、全部分かっていると言う様に、頼もしく笑った
思えば、ルビィには最初からずっと世話になりっぱなしだった
この問題がどうにかなった暁には、花丸と一緒にルビィにサービスしないといけないな、と思った
鞄を指に引っ掛ける様にして持ち上げ、教室を飛び出して廊下を駆け抜ける
先生に見つかれば怒られるが、今回くらいは勘弁して欲しい
善子(花丸…)
花丸の事を思い浮かべれば、脳裏にはいつも笑顔の彼女がいた
その彼女が自分のせいで笑顔じゃなくなっていると言う事実に、悔しさと、強い憤りを感じた
善子(私は本当に大馬鹿者ね…あの子に合わす顔が無いわ)
男達を追い払った時、この子から笑顔が奪われるなんて事があってはならないと強く思った筈なのに
善子(それでも、やっぱり花丸に悲しい顔は似合わない)
善子「花丸…!」
私は花丸の元へと、走って走って走り続けた
花丸「…今日も学校、休んじゃった」
あの日から数日経った今でも、自分は学校には行けずにいた
善子ちゃんと顔を合わせた時の事を考えると、どうしても学校に行く気は起きなかった
花丸(マル、不良ずらね)
まさか自分が色恋沙汰に囚われて学業を疎かにしてしまう日が来るなんて、思いもしなかった
両親は深く理由を聞こうとはせずにそっとしてくれていたけど、それが余計に申し訳なかった
それに、Aqoursの練習にも顔を出せていないのが気がかりだった、実際、身体を動かしてもやもやを発散したいとは思ったんだけど
学校に行けば善子ちゃんと顔を合わせなくてはいけなくて、それも出来なかった
ルビィちゃんが皆に病気で休んでいると伝えてくれているけれど、それもそろそろ限界だ
早く学校に行かなければ…とは思うのだけど、善子ちゃんの事を考えたらどうしても萎縮してしまって、家を出る事が出来なかった
花丸(でも、だって…仕方ないよね)
善子ちゃんに友達と言われた時は、自分の気持ちを抑え込むだけで良かったけれど、今回は違う
花丸(善子ちゃん…あんな事言って、軽蔑されるかも、とか思わなかったの?)
花丸(相手がマルじゃなかったら、大変な事になってたよ)
まあ、今実際に自分の中では大変な事になっているんだけど
善子ちゃんは濁したつもりかもしれないけど、あれじゃ遠回しに好きと言われたって誰だって分かる
花丸(告白って感じじゃなかったし…でも…)
善子ちゃんがどうしたいのかが分からないし、私自身どうすればいいのかも分からなかった
いつも通り、何も無かった様に振る舞えばいいんだろうか
そう言う事をここ数日の間ずっと考えていたけど、結局答えは出なかった
そんな時、玄関のチャイムが鳴った
花丸(誰かな…)
重い腰を上げて、玄関に向かった
善子「…どうしよう」
私は花丸の家の前で、ずっと悩んでいた
善子(あの子に何を言えば…どうすれば心を開いてくれる?)
私はしばらくうんうんと唸った後、急に悩むのが面倒臭くなった
善子「ええい、ままよ!」
勢いのままに玄関のチャイムを鳴らした
つい勢いで押してしまったけど、まだ花丸に何を言えばいいのかが分からない
鳴らしてからしばらくは何の反応も無かったが、辛抱強く待っていると花丸らしき足音が聞こえた
善子(…私が不登校だった時は、立場が逆だったなぁ)
玄関が内側から開かれる
寝巻き姿の花丸は、驚いた顔をして私を見つめていた
花丸「え…善子ちゃん…?」
善子「アンタ今日も学校休んだでしょ、プリント、届けに来たわよ」
そう言って、先生から受け取ったプリントを差し出した
花丸「あ、ありがとう、善子ちゃん…」
花丸の伸ばした手がプリントを掴む直前で、それを持った手を後ろに引いた
花丸には背伸びしても届かない高さまでプリントを持ち上げる
花丸「ずらっ!?」
善子「ずら丸、ちょっとお邪魔していい?」
顔をずいと近付け、そう聞くには似つかわしくない語調で迫る
花丸「は、はい…」
花丸は私の気迫に気圧された様だった
花丸「お茶、持ってくるね」
善子「お、お構いなく…」
善子(強引に上がっちゃったけど…この先どうすればいいかしら)
この前までは何も考えなくても話題が思い浮かんだのに、今は緊張でそれどころでは無い
善子(とにかく、花丸がお茶取りに行ってる今の間に考えないと…!)
そう思って、急いで花丸に伝えるべき言葉を考えていたけれど、焦った頭では何も思い浮かぶはずもなく
花丸「はい、善子ちゃん」
無為に悩んでいたら、すぐに花丸が戻ってきてしまった
善子「あぁ…ありがと」
冷えた麦茶を素直に礼を言って受け取って、一口飲んだ
花丸「…プリント、届けてくれてありがとう」
そう言った花丸は、なんだか不自然なくらいに穏やかだった
何も伝えずにいきなり来たからもう少し慌てているものだと思っていたので、それが少し不安になる
善子「…ずら丸、アンタ何で学校休んでるの?」
思い切ってそう聞くと、花丸は少し身体をこわばらせた様だった
花丸「うーん、ちょっと風邪気味っぽくて」
花丸は私と目を合わせない様にしながら、もっともらしい事を言った
でも、それが嘘である事くらい私にだって分かる
善子「私に言われた事、気にしてるんじゃないの」
気合を入れて一歩踏み込んだ事を聞くと、花丸は動揺した様に一瞬身体をびくっと痙攣させた
花丸「…そんな事、言われたっけ?忘れちゃったずら」
花丸はそう言いながら、立ち上がって私に背を向け、部屋を出ていこうとする
核心に踏み込んでいく程に、花丸はのらりくらりと私の質問を受け流して、私から距離を置こうとする
善子(だったら…!)
あまり心地良くない胸の高鳴りが、私の意識に割り込んでくる
今ここで引き返せば、きっと『友達』のままでいられる
進んでしまったら、きっと二度と元の関係には戻れない
善子(いいの?それで、本当に…いいの?)
心の内で、何度か自分に問いかける
不安はあるし、緊張もしている、正直なところ腰が引けてしまって、このまま素知らぬフリをしようかと悩んだ
善子「ルビィから聞いたわよ」
それでも、私は進む方を選んだ
自分が原因で花丸が悩んでいるのに見ないフリをするなんて、そんなのは絶対にごめんだった
私の声の震えが伝染した様に、花丸の背が少し震えて、その歩みを止めた
善子「…アンタが、私の事を、好きだって」
花丸「っ!」
花丸は、バッ、と音がしそうなくらいの勢いで振り向いた
その表情は、見ている私まで泣き出したくなる様な痛ましいもので
彼女が今受けている衝撃を思うと、つい言った事を後悔してしまいそうになった
花丸「う、そ…何で…?」
花丸の狼狽えぶりは、にわかに尋常ではなかった
こっちまで不安になってくる程に、触れれば壊れてしまいそうな程不安定に見えた
善子「…花丸、ちょっと落ち着いて」
あまり刺激しない様に、諭す様に優しく言っても花丸の動揺は収まらなかった
花丸「そんな…いや…いやぁ…」
花丸はふるふると緩く頭を振りながら、ゆっくりと後ずさっていく
花丸「マル…善子ちゃんが気が付いてないなら、無かった事にしようって…思ったんだよ…?何で…何で、ルビィちゃん…」
善子「花丸…待って、そこを動かないで」
花丸はなおも後ずさりを続け、このままだともうすぐに階段に差し掛かるのが目に見えた
流石に危機感を感じて立ち上がり、花丸に近付こうとする
花丸「いや…!来ないで!」
不用意に動いてしまったのが仇となったのか、花丸は更に一歩後ずさった
善子「ちょっと、花丸!そのままでいて、そこから動かないで!」
必死にそう呼びかけても、半分パニック状態になった花丸には聞こえていないらしく、なおも後ろへ下がろうとする
これ以上近付くと本当に危ないかもしれないと頭では分かっていても、花丸の様子があまりにも危険なのが我慢出来なくなって、思わず一歩踏み出してしまった
善子(しまっ…!)
花丸「あっ…」
足を踏み外した花丸が後ろ向きに倒れていくのが、スローモーションの様に見えた
花丸は少し目を見開いて、何が起こったのかが分からない様子で、口をぽかんと開けていた
善子「花丸っ!!」
大声で叫んで、私は駆け出した
身体が許す限りの全力で駆けているつもりなのに、のんびりと歩くよりもずっと時間がかかっている錯覚を覚えた
私が近付いていくたびに、花丸は後ろへ倒れる角度を増していった
あと一歩…そのたった1mちょっと程度が、あまりに遠く、あまりにも長かった
善子(もうすぐ…あと少し…!)
花丸に向けて、全力で手を伸ばす
ようやく事態を理解したらしい花丸が、恐怖に顔を歪ませながらも私の手を取ろうとした
伸ばした手の指先が、軽く触れ合う
瞬間、脊髄が凍る様な怖気が走った
善子(間に合わない…っ!)
そう判断すると同時、私は壁に手をついて身体を前に押し出した
人間は本当の危機に陥った時、脳のリミッターを解除するため一瞬がスローモーションに見えると、テレビ番組で耳にした
多分その状態だからこそ出来た事で、いつも通りだったら到底不可能な芸当だったと思う
そのおかげで花丸を助ける方に頭をフル回転してしまって、自分まで落ちてしまうと言う事まで頭が回らなかったけれど
とりあえずその事は一旦忘れ、花丸の手首を掴んで思いっきり自分の方へ引っ張る
花丸「きゃっ…!」
花丸を自分の方へ引き寄せると言うよりも、その反動で自分が加速して花丸の後ろに回り込むと言った方が正しいかもしれない
近くにしっかりと踏みとどまれる様なものが無かったので、咄嗟の判断だった
うまく自分と花丸の位置を入れ替える事が出来たけれど、反射的に何段も下にある床が目に入り、宙を舞う恐怖が身を締め付けた
それを「花丸を守らなきゃ」と言う使命感で隅に押しやり、目の前の花丸を腕で掻き抱く
私が床に向かって背を向けている状態なので、私はダメでもきっと花丸は助かるだろうと冷静に判断した
善子(もう堕天使とかどうでもいいんで、神様お願いします…死にません様に)
まさか死にません様に、なんて本気で神様に祈る時が来るなんて、全く思っていなかった
勢いをつけた上に花丸の更に前に飛び出したので、転げ落ちると言うよりそのまま一気に床に叩きつけられる形になるだろう
宙を舞って落ちていく最中、着地の事を考えると怖くて怖くて仕方なかった
花丸「善子ちゃん…!」
それでも、腕の中で胸に顔を押し付けながら震えた囁きで私の名を呼ぶ花丸を見ると、不思議と恐怖は少し収まるのだった
花丸が助かるのなら上等だ、これくらいきっと耐えてみせる
まだ視界はスローモーションのままだけど、それでも一瞬一瞬、着実に落下していく
目の端に見える階段の段数で、そろそろ床に着地するだろうと検討を付けて少しだけ身体を捻る
善子(花丸…っ!)
覚悟を決めて、より強く花丸を抱きしめた
次の瞬間、背中に爆発したのかと錯覚してしまう程の衝撃が襲いかかった
善子「がっ!!」
善子(あ、まずいかもこれ)
思わず苦悶の叫びが漏れると同時に、更に頭に追撃をくらった
落下の勢いが収まらず、壁に頭を強打してしまったらしい
背中を強打した事による呼吸困難に苛まれながら、私の意識は段々曖昧になってくる
善子(…私、やっぱり死んじゃうのかなぁ)
暗くなっていく視界に、今にも泣き出しそうな花丸の顔が映った
何かを叫んでいる様だけど、私にはそれがいまいちよく聞こえない
遂に花丸は泣き出してしまい、大粒の涙がぼろぼろと溢れて私の顔に落ちた
善子(花丸、そんなに泣かないで…)
その涙を拭ってやりたかった、大丈夫だよ、と言って安心させてあげたかったけれど
それは叶わないまま、私の意識は闇に沈んでいった
花丸「…ちゃん……善子ちゃん!!」
必死に私の名を呼びかける誰かの声で、意識が浮上してくる
善子「ん…?」
花丸「…!善子ちゃん!大丈夫!?どこか痛いところある!?」
花丸はぼろぼろ涙を流しながら、私の横に座りながら身を乗り出して、私の顔を覗き込んでいる
善子「は、な…まる…?」
何が起きたのかが理解出来ずに、呆然と号泣している彼女の名前を呟く
花丸「善子ちゃん、マルを庇って、階段から落ちて、背中打って、頭も…!」
花丸に説明されて、やっと自分の置かれた状況を理解した
どうやら気を失っていたのは、運良く一瞬で済んだらしい
永遠に目覚めないなんて事にならなくて本当に良かったと、強い痛みを感じながらしみじみと思った
善子「そっ、か…花丸、大丈夫…?怪我はない…?」
一時的な呼吸困難からはもう回復していたので一応喋る事は出来たけど、背中を打ち付けた痛みは勿論健在なので、一言発するたびに身体が強く痛んだ
それでも、身体を捻って多少なりとも一度に背中に全ての衝撃を与えるのを避けたおかげか、あの高さから落ちたにしてはまだマシだと思える痛みだった
私の言葉を聞いた花丸は、とても苦しそうに顔を歪めた
花丸「何で…!何で善子ちゃん…マルの心配するの!!自分の方がよっぽど大変な目に遭ったんだから、自分の事心配するずら!!」
花丸は一気に啖呵を切ると、堰が外れた様にわんわんと、それまでよりも大きく泣き出した
善子「何で、心配しただけで怒られなきゃいけないのよ…ぐっ」
そう言いながら、痛みで少し呻きながらもなんとか身体を起こした
花丸「だっ、て…マル、怖かったん、だよ、ひっ…善子ちゃん、死んじゃうかも、って…ふっ…」
花丸は服の袖でむちゃくちゃに涙を拭って、嗚咽を堪えながら言った
善子「…アンタを残して、死ぬもんですか」
そう言っても花丸は泣き止まずに、しばらく袖で涙を拭い続けた
善子「アンタ、そろそろ泣き止みなさいよ、何がそんなに悲しいの」
そう聞くと、花丸は本当に苦しそうな顔をした後、絞り出す様に喋り出した
花丸「善子ちゃん、マルと、一緒にいたら…っ、もっ、と、大きな怪我、しちゃうから…」
花丸「マル、善子ちゃんと…善子ちゃん、と…」
聞いているこちらの胸が締め付けられる様な、痛ましい声だった
ふとその姿に、いつかと同じ…いや、それよりもずっと強い焦燥を抱いた
初めて手を繋いだ日と、遊園地に行った日に感じた、あの焦燥を
きっと今回を逃したら、本当に花丸はもう二度と戻ってこないだろう
手を繋ぐなんて事は愚か、口さえきいてくれなくなるかもしれない
善子(…でも)
それでも、焦る事は無い
まだ泣き止まない花丸の背中に、思い切って両腕を回す
背中と頭の強い痛みよりも…それよりも、ずっとずっと大きな愛おしさと胸の高鳴りを感じた
花丸「善子、ちゃん…?」
花丸は自分が何をされているのか理解していない様だった、そのぽかんと開いた口も可愛いな、とズレた事を思う
善子「ねえ、花丸」
あの時と違って、私は今何をすればいいか分かるし、何を言えばいいのかも分かってる
だから私はこの想いを、この子に伝えるだけでいい
花丸「な…何…?」
困惑した様な花丸の瞳を見つめながら、口を開いた
善子「認めるのは悔しいけど…私もアンタの事、好きよ」
その言葉は、遠回りして、傷付けて、後悔して、やっと辿り着けた一言だった
別に思い切りをつける必要は無かった、こう言う台詞は衝動で言えてしまうものなんだな、とやけに穏やかな心で思った
善子「…大好き」
少し恥ずかしくなってきたのを我慢して極めつけとばかりに一言囁くと、花丸の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていった
花丸「え、えっ…?え?善子ちゃん…今、好きって…え…?」
花丸はあわあわと忙しない動きをしながら、真っ赤な顔が「信じられない」と叫んでいた
善子「聞こえなかった?じゃあ何度でも言ってあげるわよ、好きよ、花丸…好き、大好き、抱きしめたい、頭撫でたい、膝枕してほしい、キスしたい」
最後あたりはもうどうにでもなれと思って半ばやけっぱちになっていた
そんな雑な告白を目の前で囁かれた花丸は、更に頬を赤らめながら静かに一筋の涙を零した
花丸「嘘…善子ちゃん…」
善子「誰が嘘でこんなこっ恥ずかしい事言わなきゃならないのよ、本気よ」
花丸は私の言葉を聞くと、ふるふると緩く頭を振りながら、今まで見てきた中で一番最高に幸せそうに微笑んだ
緩く抱きとめながら、鼻先が触れ合いそうな程近くで見るその微笑みは、筆舌に尽くしがたい美しさだった
花丸「ほんと?ほんとにほんと?夢、じゃないんだよね、善子ちゃん…マル、こんな幸せでいいのかなぁ…」
善子「いいに決まってるじゃない…あんなに悩ませて、こんなに傷付けたんだから、まだまだ足りないくらいよ」
そう言って、緩く抱きとめるだけだった腕で花丸の身体をより強く引き寄せた
花丸「あ…」
お互いの身体が密着して、心臓の音が混ざり合って、どの鼓動がどちらのものなのかが曖昧になってくる
少しすると花丸も私の背中に腕を回してきて、ぎゅっ、と強く抱きしめた
ドクン、ドクンと叫ぶのを止めない鼓動の音に、しばらくの間、2人黙って聞き入っていた
花丸「…ねえ、善子ちゃん」
心地良い沈黙を破ったのは、花丸の方だった
善子「何?」
花丸「その…マルのせいで、怪我させちゃってごめんね…痛いよね?」
抱きしめ合っていた身体を離しながら言ったその声音はとても不安そうで、少し震えていた
善子「まったく…アンタ、何言ってるのよ」
花丸「え?」
何故そう言われたのか分からずにきょとん、とする花丸の顔を眺めながら、私は少し芝居がかった様な調子で喋りだした
善子「確かに痛いわよ、ものすごーく痛い、まさに生きてたのが奇跡ね」
花丸「あ…ほ、本当にごめんね、つ、次からは気を付ける、ずら…」
段々俯きながら消え入る様に小さく呟いたその返答を聞いて、私は更に呆れた
善子「あのねぇ、そうじゃなくて…私はアンタを守るって決めたの、これくらい当然でしょ?」
当たり前の様にそう言い切ると、花丸は驚きながらも嬉しそうな苦しそうな、複雑な顔をした
花丸「善子ちゃん…でも…」
善子「あーもう!アンタは余計な心配しないで、この堕天使ヨハネに守られてればいいの!」
痛みを堪えてすっくと立ち上がり、なおも不安気な顔をしている花丸に向かって、手を差し伸べた
善子「…アンタは私が一生守ってあげるから、覚悟しておきなさいよ?」
花丸「っ!」
私の一世一代のプロポーズを受けた花丸は、目を見開いて驚いた後
花丸「…うんっ!」
差し伸べられた手を取り、輝く様な満面の笑顔になって、大きく頷いた
善子「あっ…あいたっ!あいたたた!!」
女医「当たり前です!階段から床まで飛び降りて背中を強打なんて、これくらいで済んで幸運ですよ!」
私の背中の様子を診る女医さんのその言葉を聞いて、少し不思議になる
善子(私、いつもは運悪い方なのに…本当に神様のおかげかしら?)
流石に今回ばかりは運が悪かったら本当に死んでいたので、心の中で神様に深く感謝する
女医「強い打撲ですね…でも、今言った通り本当に幸運です、これに懲りたらこれからは気を付けてくださいね」
善子「はい…すいません…」
流石にぐうの音も出ないので、項垂れながら大人しく頷いた
女医「じゃあ強めの湿布と塗り薬出しておくので、忘れずにつける様にして、しばらくは安静にする事!」
善子「はい…」
大会前とかじゃなくて良かったけれど、しばらくAqoursの練習に参加出来ないと思うと、メンバー達に対して申し訳なかった
肩を落として診察室を出ると、花丸は入った時と同じ様に眉を下げて心配そうな顔をしていた
花丸「よ、善子ちゃん…大丈夫だった?」
善子「ええ…強い打撲だって、これくらいで済んだのは運がいいって」
私の言葉を聞いた花丸は、ほっとした様に表情を緩めた
花丸「そっか…背中も大丈夫なんだね、良かったずら…マル、善子ちゃんが歩けなくなったりしたらどうしようって…」
善子「何よそれ…大袈裟ね」
花丸「…でもね、本当にそうなっちゃったとしたら、マルは一生善子ちゃんのお世話するって、覚悟してたよ」
善子「なっ…」
花丸が本当に真剣な顔をしてそんな事を言うので、流石に恥ずかしくなってしまって顔を逸らした
善子「あ、アンタね…フッ、堕天使ヨハネが人間ごときの手を借りるなんて有り得ないわ!」
照れ隠しについ堕天ポーズを決めてしまうが、そんな私を見た花丸は顔を傾げながら私の顔を覗き込んで
花丸「マルは善子ちゃんのリトルデーモンじゃないの?」
と、痛いところを突いてくるのだった
善子「あー…」
善子「だー!分かったわよ!そんなに想ってくれて嬉しいわよ!」
花丸「ずら!」
渋々認めると、花丸はそれは満足そうな笑顔になった
善子「でも…自分でも良かったと思うわ、本当に、頭も背中も大したことなくて」
病院を出て、手を繋ぎながら夕焼けに染まる帰り道を歩いていた
身体を少し動かすだけで結構強い痛みが走るが、それでも歩くくらいは出来て良かった
頭は一応念の為にまた今度検査しに来るようにとは言われたが、一瞬とは言え意識を失ったのになんとも無かったのには驚いた
花丸「今回運が良かっただけずら!ほんとに今度からこんな事しちゃダメだよ?」
善子「うっ、分かったわよ…じゃあアンタも身体張って守らなきゃいけない様な事故に遭わないでよね」
花丸「…うん」
花丸は小さく頷くと、繋いだ手をきゅっ、と少し強く握りしめた
花丸「ねえ、善子ちゃん」
善子「何?」
そして何を思ったのか、赤い顔をしながら私を見上げて、とんでもない事を言った
花丸「キス…して欲しい、な」
その言葉を咄嗟に理解する事が出来なくて、数秒間固まってしまう
善子「はぁっ!?」
善子(えっ…今キ…キスって言った!?い、言ったわよね!?何、鱚?魚?魚なの!?)
自分の大声で我に返るが、すぐに意識は斜め上の方向にすっ飛んでいった
花丸「ダ…ダメ…?」
善子「い、いや、だってここ外だし…」
花丸「マル達の周りに人、いないずら」
そう言われて咄嗟に辺りを見回してみると、本当に誰もいなくて呆然としてしまう
花丸「それに、花丸ちゃんさっき『キスしたい』って言ってたずら」
善子「うっ…!」
流石に勢いで口走ってしまった事を後悔した
善子「で…でも…こう言う事は、もっと段階踏んで、いい雰囲気の時に…」
花丸「でも善子ちゃん、マル達手も繋いだし、デートもしたし、もう恋人になったよ」
花丸「…段階は踏んだずら」
やけに強気な花丸の気迫に押されて、思わず一歩後ずさってしまう
善子「い、いや、その…も、もっとロマンチックな雰囲気な時に…ね?」
花丸「…それなら問題、無いよね」
その言葉にハッとした
私達と他に誰もいない道路を照らす鮮やかな夕焼け
そして目の前には、それに照らされて顔を真っ赤に染められた、不安気に眉を下げた女の子
雰囲気どうこうなんて、そんなもの既に十分すぎる程揃っていた
そう気付いて、少し腹が据わる
善子(据え膳食わぬはなんとやら…ね)
以前聞いた事のある意味はうろ覚えな格言を思い出し、よし、と心の中で覚悟を決める
善子「花丸…」
花丸の頬に手を添え、ふにふにと触り心地の良いそれを優しく撫でる
花丸「善子ちゃん…」
花丸はとうとう夕焼けに照らされていても分かる程に頬を赤く染め、私を待つ様にぎゅっと目を瞑った
力が入りすぎた瞼に胸が痛む程の愛おしさを感じながら、顔を近付ける
そして、お互いのそれが触れ合う直前に、小さく囁いた
善子「…花丸、愛してる」
斜交いに、合わせる
花丸は大きく目を見開いた後、満足した様に細めてから、もう一度閉じた
触れ合った感覚は、言葉に出来なかった
ただただ愛おしくて、ただただそれだけに支配されていて、それがどうしようもなく、心地良かった
軽く触れ合うだけだったそれを、ゆっくりと離す
花丸「…えへへ」
頬を夕焼けよりも真っ赤に染めた花丸は、にへらとだらしなく笑った
花丸「キス…しちゃった、ね」
善子「…うん」
少しの無言が生まれる
でも気まずい無言ではなくて、少し恥ずかしくて、歯痒くて、心地良い無言だった
善子「さ…さあ、早く帰るわよ!」
それでも流石に気恥ずかしさが勝ってしまって、顔を逸らして歩き出す
花丸「あっ、善子ちゃん!」
歩き出した足を止め、振り返って手を差し伸べる
善子「…ほら」
差し伸べられた手を見た花丸は、少し間を開けてから満面の笑顔になり、その手を取って元気よく頷いた
花丸「…うん!」
もう離さないとばかりに、繋いだ手をしっかりと握り直す
…やっぱりこの子には笑顔がよく似合うと、手のひらに伝わる熱を感じながら、そう思った