──なんだと言うんだ。
──どうしてこうなった。
男は一人悩んでいた。
辺は夜に包まれて、月がそれを照らそうとする、だけど茂った木に阻まれて、その光は森の奥には届かない。
暗く深い森の中、月の光も届かないそんな森の中、ただひとつの明かりのまえで、悩んでいるのであった。
男は体全体を覆う黒い外套を着て、もし目の前の明かりがなかったら闇の中、その姿を捉えることはできなかっただろう。
全てが闇に包まれる中に溶け込んでしまいそうな中、どうしようもない状況に悩む男はは胡坐をかいて、目の前で爆ぜる焚き火を見ながら今のことについて考えているのであった。
確かに傍から見たら彼一人、焚き火の前で悩んでいる、だが彼の悩んでいることは、かれの外套の中のことについてだった。
もぞりと彼の外套の中で何かが動いた。
そう、彼の外套の中には一人の少女が眠っているのだ、その姿は、胡坐をかいているそこに座り、彼の胸に持たれるように眠っているのである。
そんな彼女を、地面に転がり落ちない様に彼は腕を回していた。
それを誰かば見ていたのならば、その人の目には大切な娘を守るように抱き見守る父親のように見えるかもしれない。
だが、あいにく少女は彼の外套に隠れて見えないし、そもそもそんな彼らを見る人など、誰も居ないのである。
そんな少女の様子を見ようと男は目線を今もなお、眠っているであろう少女に向ける。
そこには安心して眠っているのか、すやすやと寝息をたてて眠っている少女の顔があった。男の回した腕に抱きついてさえいる。
彼は一つため息を吐くと、再び焚き火に目を向け、また一人悩みにふけるのであった。男と少女はまだ会ったばかりの他人と同然の関係である。しかし今ではこうやって彼の胸のかで眠る彼女に男は声をかけることも出来ない。
今まで求めていたものがようやく手に入ったみたいに顔に微笑みを浮かべている少女に乱暴をするなど出来るはずもないのだ。
男もまさか出会ったばかりの少女に自らの胸の中で眠られるなど考えてもみなかっただろう。
真っ暗な闇のなかで彼の目だけが焚き火の炎を受けて光っていた。
その目には何故こうなったという、困惑が写っている。
そんな彼を面白がるように、焚き火の火は、ゆらゆらと燃え、パチパチと爆ぜていた。男はただ燃えるだけの焚き火に、何も答えを出さぬ焚き火を憎らしげに見た後、考えるのも無駄だと知り、既に重くなっている目を閉じた。
森の中には光と二人の寝息の音。
日が昇るとともに彼らの物語は始まるのだ。
消す前と同じなんて、消さなくてもよかったじゃないか……