「はっはっは…うくっ…は」
息が切れる。
幾重にもそのか細い喉から勢い良く風が吹き出る。
今にもその口から血を吐き出しそうなのに少女は走る。
足には何もはいてなく、地面の石ころや何やらで足はすり切れ、傷から出た血で、とても痛々しい。
一歩、また一歩、地面にその足が付くだびに、足には激痛が走る。
その都度、少女の顔は苦悶に満ちた表情になるが、だけど少女は走るのをやめない。
それは何故か、簡単なことだ、少女は襲いかかる脅威から逃げているのだ。
少女の後に追いかけてくるのは二人の男。
片方の男の手には一つのボウガン、腰には沢山の矢が入った矢筒。
もう片方の男の手には鋭く研ぎ澄まされた剣。
どちらも生き物を殺すに特化したものだ。
そして今回の標的が今まさに追いかけている少女だった。
二人の男の顔には獰猛とした笑を浮かんでいた。
まるで、狩人が狩るべき獲物を見つけた時のように。
そして子供に向けていいはずのない殺意、それが、か細い小さな少女を追っていた。
少女にとっては地獄の時間、走る一秒一秒が酷く長く、そして、その一秒で、少女に恐怖、疲れ、絶望がのしかかり、少女の気力、体力を削り取っていく。
だが、二人の男にとっては笑を浮かべるほどの至高な時間。
一秒一秒が少女に恐怖や、絶望がのしかかってい行くごとに、彼らはを喜びを感じ、少女が疲れを感じていくごとに、獲物を狩る事ができるという思考が体中に駆け巡る。
何も知らない者から見ると明らかにこの二人の男は異常者だ。
気が狂っている、誰もがそう思うだろう。
だが、それらを思う者など彼らの周りには誰一人としていない。
いるのは少女、そして二人の男、それを見守るのは辺に生い茂る沢山の木々くらいだろう。
彼らはずっとこの森の中で少女を追い掛け回しているのだ。
更に言おう、彼らは大人、そして少女は子供、本来なら少女は直ぐにでも疲れて彼らに捕まえられてしまうはずなのだ、しかし彼らはこの行為を何時間も行なっている。
二人の男が全くといっていいほど足が遅いわけではない。
むしろ速い部類だ。
だがしかし彼らが少女に追いつけないのは少女の身体が異常だからだということだ。
「おい!止まれ!」
「くそ!逃げるんじゃねえよこの化物が!」
彼らが少女に言う言葉、【化物】その言葉が、少女が異常だということを証明する。
おもむろに片方の男がボウガンを少女に向け構える、そして腰の矢筒から何本かの矢を取り出し、ボウガンに装填する。
弦を張り、狙いを少女に定める。
瞬間、“ヒュンッ!!”と、風を切る音と共に、少女の直ぐ横の木に矢が突き刺さった。
それを見た少女は顔を真っ青にする。
「っはっはっは……。ひぃっ!?たっ、助けて、誰か助けて」
小さく少女は悲鳴を上げ、誰もいない森の中に助けを乞う。
それから何度か男の一人は矢を放つが、なにぶん走りながら撃っていることと、彼らが走っている場が、森という障害物が沢山ある所で、男が放った矢は全て外した。
男は全ての放った矢が外れたことに舌打ちをした後、またボウガンに矢を装填した。
「おい!やめろ、今は徒に矢を消費するんじゃねぇ!!」
剣を持った、もう一人の男がボウガンを持った男を嗜める。
障害物が多い森の中、遠距離の攻撃ができる矢を、あまり消費したくなかったのだろう。
その意図を汲んだボウガンを持った男は、矢は装填したまま、追いかけることに専念した。
こんな深い森の中、こんなやり取りがもう少し長く続くだろうと思っていた男二人には、次の光景を目にした男二人はさっきより獰
猛に笑を浮かべた。
そこに在ったのは道を絶たれた断崖絶壁だった。
勿論、直ぐに少女はそれに気づき、横に逃げようとした、が、此処ぞとばかりにボウガンを持った男が少女の行く手を、矢を放つことで塞ぐ。
剣を持った男は、歪な笑を浮かべながら
「よし!追い詰めたぞ。」
「後ろは崖だ。もうお前に逃げ場はないぞ。おとなしく死んでもらうか、化物が!」
もう一人も男も同じような笑を浮かべながら言う。
追いつめられた少女の顔には深い絶望と恐怖がにじみ出ていた。
「い、嫌!来ないで!」
ジリジリとにじり寄ってくる剣を持った男、逃げようとすれば躊躇なく矢を放ってくる男。
そんな二人に少女は彼らを見つめたまま一歩、また一歩その足を断崖絶壁である崖の方へと追いつめられて行く。
剣を持った男が少女の息の根を止めようと、剣を高々と掲げ、少女
の所へと振り下ろそうとした瞬間、少女の姿が消えた。
少女は落ちたのだ、無情にも崖の下にはクッションになるものなど無く、更には追い討ちに少女が落ちたと同時に誘発されて落ちた大きな岩。
「はっ!自分で落ちたか化け物め。」
「ふん、いい気味だ。」
二人の男は少女が落ちたことに拍子抜けた顔をして、直ぐにまた獰猛な笑みを浮かべ少女に向けて言い放つ。
だが、そこにいきなり轟音が届いた。
「な、な、なんだぁ!?」
「お、おい!なんだよこの音!」
二人はハッとしておとの方向に目を向けると、
「知らねぇよ!って、おい、あれ見ろ、なんか近づいてくるぞ!?」
「くそ!なんだって言うんだよ!おい!逃げるぞ、化物は死んだんだ、
ここに居る必要もねぇ、ほら、さっさと逃げるぞ。」
「お、おう!」
男二人は轟音が近づいて来るのに気づき、直ぐに森の方へと走って逃げていった。
◆
少女は崖から落ちた瞬間、なけなしの気力を振り絞って言う
「誰か、助けて。」
それだけ言って彼女は目の前に迫る大きな岩を前に意識を手放した。
岩が少女に迫る瞬間、彼女はふわりとした感覺が奔ったが、それを感じるより早く意識を手放したため、少女がそれを確認することは無かった。
◆
少女は意識を失ってから後、何時間かして目を覚ました。
辺は薄暗くなっていた。
そこで少女がまず先に疑問に思った。
──此処……どこだろう?私、崖から落ちて……それから岩が私の前まで迫ってきて…。
段々と寝ぼけていた顔は青ざめたものへと変わっていく
だが、そこで少女は一つ疑問に思った。
それで…それに潰されて…?なら私…何で生きてるの…?
目の前まで岩が迫ってきて、地面にたたきつけられる前に岩にぶつかり、そのあと岩と共に地面にたたきつぶされるそう思っていた少女は何故今自分が生きていることに疑問を抱いた。
そこで自分の身体を確かめようと身体を起こそうとした時、少女は自分に布状の何かが、かかっていることに気づきそれを手元に寄せる。
それは所々切れたように破けたボロボロのマントであった。
──……これ、誰のだろう?
そう思った少女は辺をぐるりと見渡すと、少女の近くに在った木にもたれて眠っている一人の男が目に入った。
一瞬だけ警戒した少女だったが、直ぐにその考えを改め直した。
それは何故か、何故んなら男の衣類が所々マント同時に切れたような穴が所々に開いており、更にはその中から、切り傷が見えたからである。
寝息を立てていることから男はまだ生きているだろう。
寝ている様子から、かなり疲れたのだろうと予想が出来た。
──この人が私を助けてくれたのかな?
目が覚めるまで、二人の男に追われ、更に崖から落ちた少女にとっては、誰かに助けられる、そう思えるだけで無性に嬉しかった。
少女は男の横まで寄っていった。
一歩一歩が足の擦り傷に響き、痛かったが、それよりも少女は自分以外の温もりに触れたかったのだ。
男の横まで着くと、男の腕の横で座る。
そして少女は温もりに触れようと男の手に自らの手を伸ばす。
少女の指先が男の手に触れると、一瞬男の手が“ピクッ”とふるえ、それに少女は驚き少したじろぐが、直ぐに持ち直し、また腕を伸ばす。
そして少女の手は男の手に触れた。
その手には確かに温もりがあり、鼓動も感じた。
ただそれだけ、自分の他の温もり、それを感じるだけで少女は安堵感に包まれた。
少女は安堵感に包まれた瞬間に睡魔が彼女を襲った。
長らく走っていた疲れがまた来たと同時に温もりを感じれるという安堵感に少女は直ぐに眠ってしまった。
だが、少女は眠る直前に男に身を寄せ、その腕にしがみつくようにして眠った。
眠っている途中自らに触れていた温もりがなくなってしまったように感じた少女はまた温もりを求めるように眠ったままその手を伸ばすが、その手は虚空をつかむばかりで、少女はそのまま、自分を抱くようにして眠った。
◆
──……なん…だろう……?
少女は瞼の裏にまで届く光と同時にぱちぱちと何かが爆ぜる音と暖かさをその身に受け、目を覚ます。
未だ眠たいその目を擦り、光のもとに目を向けると、小さな焚き火と共に先ほどの男が目を少女の方へ目を向けていた。
「今日はずっと逃げて疲れただろう。何故君が追われているのかはまだ聞きはしない。君の身体がどんなので在っても、私も同じようなものだからな……。まだ疲れていて眠いだろう。とにかく今はまだ眠っ
ていなさい。」
「……うん…。」
男から少女に眠るように促すと同時に男は何故か自分を卑下するようなことを言った。
だが、その目は優しく少女は寝惚けていたこともありそのようなことは気にしなかった。
しばし少女は男を見つめながら沈黙し、男の言葉に頷きを返した後、彼の元へと歩みをすすめる。
また、少女は温もりを求めて。
男はそれに少し驚いたようでたじろぎながら
「な、なんだ?」
と聞いてくるが少女はただ
「寝る。」
とだけ返し、痛む足も気にせずに彼のもとまで行く。
そうして男の前まで来た後、胡坐をかいていた所に少女はポスンと座る。
焚き火の光が眠ろうとする少女には少し鬱陶しいようで、先ほどの少女にかけられていたマントを男が羽織っていたので、それにくる
まって少女は光を遮ろうとした。
そしてそのまま、彼の胸に寄りかかるようにして少女はまた眠った。
少女が眠ろうとした瞬間、少女を包み込むように腕が回され、少女は温もりを感じながら、スヤスヤと夢の中へと落ちていった。
一瞬、男が困った様な顔をしていたような気もするが、少女にとっては、眠ることのほうが優先で、男の心情など関係もなしに眠っていった。
その表情はどこまでも安らかで、気持ちのよさそうな寝顔であった。
そうして少女は彼女を包む温もりに抱かれてこの森での一夜を過ごすのであった。