男と少女は門を通る。幸いにも検問などはなく、何事も無く街の中に入ることが出来た。少女はやはり人が雑多としているところが苦手らしく、男の外套の中に身を隠す様にして歩いている。
男はさすがに直ぐ手に触れられる程近くで歩かれると歩きにくいらしく、少女が追われていたこともあってか、街に入って直ぐに、近くの服屋に行くことにした。そこで男は少女の格好について思うことがあった。少女が着ているのは白色のワンピースで、丈の長さは大体膝より少し下、腕は肘のあたりから露出している。
材質は少女が逃げ回っていたせいか、所々汚れていたり、ボロボロになっていたので分かり難かったが、安い素材で出来たものではないと思う。結構上質なもので出来た服だと男は思った。
──元はどこかの貴族の出か、それともただ単に金持ちだったか、……しかし……。
そして何より、男から見て、少女に傷が一切ないことが、男には不思議に思えた。少女の傷は足が主だったが、あんな深い森の中で、ずっと走っていたのだ、擦り傷やら何やらが在ってもいいはずなのだが、少女にはそれがない。少女の身体は華奢で、長い時間逃げるには余りにもか弱く思えた。髪は黒い短髪、肌は薄い小麦色。顔は整っているが、まだ幼さが見える顔立ちだ。眼の色は暗く深い翠色。
その顔は人ごみの中、不安に彩られている。
── もし少女が誰からも追われること無く、平和に過ごしていたなら外で元気に遊んでいたのだろうか、部屋の中で静かに勉強するようには見えないな。
と、男はそんな事を考えていたが、服屋に行く途中で考えることでもないとして、それを考えるのはやめた。
だが男は考えるのをやめると同時にふと思うことがあった。
それは男の服装と今の状況についてだ。
男は今、足元まで隠す程の外套を羽織って、首元に紐がありそれを結ぶことにより外套が落ちないようにしている。簡単にいえば男は首から上、頭だけ出ていて、それ以外は外套の内に隠れているということだ。そして外套の色は夜を思わすほどの黒色。
──これ、周りから見たら俺は誘拐犯なのか……?ふむ、大丈夫だ、俺にそんな趣味などない。
そんな事を思っていた。が、勝手に割り切って、それも考える
やめた。考えていく内に泥沼になってしまいそうだったからだ。
そんな事をしている内に男達は服屋の前に着いた。其処は活気づいた街の大きな街道ではなく、其処から少し離れた、落ち着いた感じの店だった。中を見ると丁度客はいないらしく気兼ねなく入ることが出来た。玄関にはショーウィンドウがあり、服を展示るわけでもなく、扉の上の方に小さく服屋と書かれた看板があるだけ。外見は木でできていて、客を呼び込むためのきらびやかな装飾は一切なく、看板がなければ服屋とは分からなかったただろう。中に入ると扉についていたのか、客が店に入る時と出る時を伝えるベルがカランと鳴った。中はと新しい服特有の匂いと、余り手入れをしていないのか埃のにおいが鼻を突いた。辺を見渡すと中は木造で、歩くたびにコツンコツンと其処まで広くない店内に響き渡る。店内には雛型に着せられた服が、三列ほど並んでおり、奥の棚には畳まれた服が置かれていた。
店のカウンターは、玄関から最も遠い店の端っこにあり、その近くにはカーテンで仕切られた試着室がある。どこまでも質素な作りで、こんな所に客が来るのかと男は思った。少女は人気のない店の中で、安心したのか、先程までの不安な顔は薄らぎ、未だ外套の中に隠れながらだが、店の中を伺っていた。此処で何で少女が服屋に来たことに疑問を持たないかというと、男が事前に少女に伝えていたからだ。
そうして、二人何か話すでもなく、店の中の品を見て回っていると、男達の足音か店内に入った時になったベルの音に気づいたかはわからないが、カウンターの奥のほうから、男達のいる方への足音が聞こえてきてた。それを聞いた男は、少女を伴いながらカウンターへ向かう。男達がカウンターの前に来た数秒後、カウンターの奥にある扉から、一人のふくよかな女性が出てくる。
「おや、見ない顔の客だね!!。」
その女性は若干耳に障るくらいの大きな声で言う。
「嗚呼。この街には先刻ついたばかりでね、早速だがこの娘の服と外套、あと靴もあれば貰いたいんが。」
そう男は言って、自らの外套に隠れるようにしていた少女をグイッと、そのふくよかな女性の前に押し出す。勿論の事、少女がかなり驚いていたが。
──こんなに驚いてばかりじゃ、何時かふとしたことでショック死するんじゃないか……?まあ、そんな事はないか。
あまりに少女がよく驚く態度を見せるので男に一瞬そのような考えが浮かんだが、そんな事はあるはずはないと、女性に向き直る。
「この娘のかい?服と靴は用意できるがまた何で外套なんてものも必要なんだい?」
少女を見て女性は不思議そう言ったが
「少し、旅をしていてね、それで必要なんだよ。この娘のふくだけじゃ生傷が絶えないだろ?こんな可愛いのに怪我なんかしたら可哀想だからね。」
男はそう返す。ちなみにこの時、男は少女のことを可愛いと言ったことが恥ずかしかったのか、少女が俯きながら頬を少し朱に染めていた。
「そうかい。なるほどねぇ。」
男の言葉に何かに気づいたのか、ニヤニヤとした笑を浮かべながら女性は男を見る。
「どうかしたのか?」
男はそれに怪訝そうな顔をする。
「そりゃあ、いい男が一人、いたいけな少女を拐って、少女を拐ったことに気づかせないために、服や、外套を買いに来たんだと思ってね。違うかい?」
女性のその言葉に思いっきり男は顔を顰めた。
「断じて違う。この娘は知り合いから頼まれたんだよ。少しの間家を出る事になるから、その間その知り合いから預かってくれととね。俺は旅人だから旅を止める訳にもいけないから、その少しの間この近辺を回ろうと思ったんだよ。」
男のまくし立てる様な言い様に気圧されたのか女性の方は男に「分かった、分かったから。」となだめるように言った。それに男も落ち着いたのか、男も女性の方に「嗚呼、済まなかった。」と、謝罪した。
だがしかし、そんなに拐ったやら誘拐犯やら言われるのが嫌だったのか、即答に近い形で在りもしない事実を述べる辺、流石とも言える。だが、その言葉を聞いていた少女は、信頼している男が、自分の事を拐っていたとしてもそれはそれで嬉しい気持ちもあったので、男の拒絶の言葉を、残念に思ったのか、シュンと顔を俯かせた。……そんなに頭を上げたり下げたりで疲れないのか?まあ、そんな事はどうでもいいが。
「じゃあ、服を用意する前にサイズを測らしておくれよ。」
女性はそう言って、カウンターからメモリの着いた紐を取り出して肩に掛けてから、カウンターから出た。そして少女の肩に手を起き
「さ、行こうか?」
と言って、少女の肩を押して、試着室の所まで行く。勿論の事、少女は女性が肩に手をのせた時に、もう傍から見ても分かりやすく、分からない筈がないほど分かりやすく身体をビクッと振るわしていたが、男も女性もさして気にすることもなかった。逆に女性の方は少女の反応が楽しいのか、先程、男にも向けたような、ニヤニヤとした笑していた。それを見た男は若干ながら引いていた。
そして少女達は試着室の中に入ると、多分、店主だと思われる女性がカーテンをシャッと閉めて、男の視界を遮る。
──……にしても、サイズを測るだけなのに何で試着室の中へ行く必要があるんだ?
と、考えていたが、考えている途中試着室の中から
「ひゃっ。」
と少女の声が聞こえてきてた。
男は、何をしているのか気になったが、店主が客に何かをするわけじゃない、そのまま待つことにした。
だいたい二、三分経ってから、試着室のカーテンが開かれ、少女と共に女性が出てきた。少女は直ぐに男の元まで走り寄って来て、女性から隠れるように男の後に回った。急なことだったのでさすがの男も驚いた様子だったが、直ぐに女性に向き直り
「この娘に何かしたのか?」
少し威圧も含めた視線を女性に向ける。
「そんなに睨まないでおくれよ。ただ少し反応が楽しいから……ついね……?」
女性のその言葉に男は心底、呆れた様な溜息を零した。
「まあいい、それで?服は用意出来るのか?」
「嗚呼、大丈夫だよ。だけど此処には大人用しか置いてないから少し取ってくるよ。まあ、要望があれば聞くけど何かあるかい?」
「嗚呼、それなら外套をこの娘の身を包むくらいのと、それに被り物が付いているなおいいが、まあ、在ったらでいい。」
「分かったよ。」
そう言って女性はカウンターの奥の部屋へ入った。話も一段落した所で少女の方へ目線を向けると未だに怖かったのか、少し震えながら、女性の入っていった所を見ていた。男は少女を落ち着かせようと、少女の頭に手をのせ、頭を撫でた。少女は最初こそは驚いていたが段々と慣れたのか、震えることもなくなり、男に撫でられ続けていた。何分か男が少女を撫で続けていると、カウンターの奥の方から足音が聞こえたので、男は撫でるのをやめた。その時、少し少女は残念そうに声をあげていたが、何分、声が小さかったので、男が気にすることはなかった。
「持ってきたよ。」
女性はそう言って、カウンターに何種類かの服を並べていく。
「どれにする?」
と、男は少女に聞く。少女は何度か、並べられた服に手で触れて「これが、いいです。」
少女が指を差したのは女物のスカートやフリルやらが付いたものではなく、唯一、男物の、膝より下まである丈のズボン、そして、少し厚手の袖の長いシャツ、上は暗い赤、下はベージュ、男の子が外で遊ぶ時に着るような格好だ。
男と女性も少女が選んだ服に納得していた。少女が男物の服を選ぶと、男も女性も予想していたからだ。
──なるほど、この娘は見た目に違わない性格だということか。…いや、そんな直ぐに他人の性格を決めていいのだろうか……。
何故か男は悩み、勝手に思考の迷路の迷いこんでいく。考えるのが好きなのか、単なる馬鹿なのか。だが男の思考など心底どうでもいいことだ。が、男にとっては少女が男物の服を選んでくれて好都合だった。
それは、少女と共に旅をするとともに、もし少女が女物の、スカートなどを選んだとすると、たとえ外套を羽織っていたとしても、多少でも怪我を許してしまうからだ。
男が少女に何故怪我をさせたくないか、それは男が少女を可愛がっているからとか、女性が怪我をするものじゃないと、紳士的な事を考えている訳ではない。
さらに言えば、そんな感情、男には持ち合わせていないのだ。
話を戻すが、理由としては至極簡単なこと、旅をする上では当たり前の基本中の基本、感染症を防ぐためだ。
擦り傷や、切り傷により出来る傷口から発症する感染症を、だ。
旅をするにあたって病に罹るということは高確率での死を表す。男のような、異常な身体ならば、病の抗体もすぐにできしまうかも知れないが、少女と男の身体は一緒ではない。例えば、病にかかった場所に元から住んでいた動物などは、その場の環境に慣れている上に、ある程度の抗体を持ってる。だがそれはあくまでも其処に住んでいる者の話であって少女の事ではない。今回男が少女を助けた場所のような、大きめ街のような所が近くにあればまだいい。(実際はあまり近くなかったのだが、それは少女と旅をするのが異常な身体をもつ男なため。)が、それはたまたま近くにある場合の時。
実際の現実はそんなにうまくいくわけじゃない。旅をしている以上、ちゃんとした薬品は望めない。薬草などの知識があったとしても、実際にそこら辺一帯に薬草が生息しているとは限らない。
たとえ近くに何かしらの集落があったとしても病を持って来られる側としてはたまったもんじゃない。そうすると助けてもらえないことがある。
それらを考えると、旅の途中、何か病に罹るということは、出来うる限り、避けておきたいのだ。
故に少女が怪我ができにくい男物の服を選んでくれたのは好都合だった訳だ。
「分かった。それじゃあ、これに似た服を二、三着たのむよ」
「分かったよ。ああと、そうだ。お前さん。」
何故か女性は男に向けてニヤニヤとした笑を浮かべている。
「ん?なんだ?」
男は怪訝な顔をして女性を見る。
「少女の下着は買わないのかい?」
より一層、女性はニヤニヤとした笑を浮かべた。
「ふむ、それもそうだな。俺としたことが失念していた。じゃあ、この娘に合うものを何着かたのむ。」
それを聞いた女性はつまらなそうな顔をする。
「何だよ……?」
男の方はこれまた一層深まった怪訝な顔で女性を見る。
「いやぁね、アンタが下着って言葉に何かしら反応するかなって思ってたら全然反応しないから……ねぇ?」
「いや、ねぇ?と言われてもなぁ。第一、下着に何を反応しろっていうんだ。」
男は溜息を付く。かなり深い溜息を。少女は何のことかとキョトンとしていたが。
「とにかく、下着は用意できる中から、何着か、あとは外套だな。」
男は話を打ち切るように言う。さすがの男もこの様なタイプの女性は苦手なようで、先程から男の顔には、少女を助けた時とは違う疲れの表情が浮かんでいた。
「外套はこんなのでいいかい?」
女性は男の疲れた表情に少しは満足したのか、つまらないそうだった顔は満足気で、外套がコレでいいかと男に聞く。
女性が選び、男に見せた外套は、男と同じ黒色の外套に、男の要望どうりに被り物が付いた外套だった。大きさも、少女の身体をすっぽりと覆う程の大きさで、コレも男の要望どうりだ。
「ああ、コレでいい。それでいくらになる?」
男の希望の物は手に入った。ならば後はそれに対する代金を払うだけ。
「そうだね、しめて銀貨十六枚に銅貨五枚ってところかね。」
その言葉に男はほんの少しだけ、顔を顰める。
「服を買うのにそんなにかかるものなのか?」
「かかるもんさ。服ってもんはそんなもんだよ。」
女性はケタケタと笑いながら言う。
「そうか……。」
男は腑に落ちない様な顔をしながらも、お金を払うべく、懐から金の入っている袋を取り出す。
男がその袋かお金を取り出そうとしている時、女性はカウンター腰から顔を近づけささやくように言った。
「と言っても、この代金の中には口止め料ってことで少しだけ入ってんだけどね。」
男はそれを聞くと、直ぐに少女に視線を向かわせる。少女はその視線に気づき、何だと言ったように首を傾げる。
「済まないが、ちょっとだけこの人と話すことがある。此処にずっと経っていても退屈なだから、他の服も見て回っていてくれないか?」
少女は少しだけ考えた後、一度だけ頷きトテトテと、服の並んでいる所へと行った。この店の雰囲気に慣れたのか、当初の頃の様にビクビクと怯えた様子はなかった。
男は女性へと視線を戻す。
「口止め料とはどういうことだ?」
男は少女に聞かれないために、小声で話す。
「そのまんまの意味さ。」
「ふむ、それはあの娘のことか?」
「そうだよ。」
女性の顔は、先ほどまでの軽快な様子は一切無く、真剣さが帯びていた。
「あの娘はこの街、多分ギルドのある所には全部から指名手配されているよ。」
男の顔は一層、顰められる。
「どういうことだ?あの娘は何かしたのか?」
「さあね、そんな事は私は知らないよ。だけど指名手配されてるだけならあまり気にしなくていい。たいていは皆、そんな事は覚えていないから、みられたとしても、誰も見向きもしないだろうさ。一部の几帳面な奴以外はね。」
「あの娘について指名手配されているだけではないってことか?」
「ああ、そうさ。指名手配されている奴は大抵賞金がかかっているが、そんな物、微々たるものだろ?だから皆関わろうとしない。そりゃちょっとの賞金のためだけに、指名手配された奴に向かうなんて、リスクのほうが高いに決まっている。だけどねぇ……。」
ちらりと女性は、男に言われたととおりに服を見て回っている少女に視線を向けた後また男に視線を戻す。
「あの娘にかかっている賞金がべらぼうに高いんだよ。」
「どういう……ことだ?あんなに人に怯えていた娘だぞ?それにあんな小さな身体でなにができるって言うんだ…。」
「さてね、ちなみにあの娘にかけられている賞金は百金貨だよ。」
男の顔は驚愕に染まる。
「金貨百枚だと?金貨十枚でも相当なものだぞ?」
「本当にねぇ、なんでこんなことになってんのかね。」
「子供でも人を殺すことは出来る。だがそれでも一金貨かそこらだ。それ以上の事をあの娘がすると?そんな事はないに等しいだろう。」
「そうだろうね、あんなに私に採寸されるだけでも怯えていた娘だからね。人に近づくことさえできないんじゃないかい?」
「ああ、そうだろうな。多分あの娘は何もしていない。なら考えられることは一つか。」
その言葉と同時に、男の顔は嫌悪感に満ちた顔になる。女性の方も男ほどはないが嫌悪していることが見て取れる。
それは今までの話によって推測されることに対してだ。それも、ほぼ確実といっていいほどの。
「あの娘が何かしたのではなく、あの娘じゃない誰かが無理矢理に罪を着せた、と言う事になるな。」
「大方、そんな事だろうね。」
男の言葉に、異論なしと女性は頷く。
「金貨百枚も出ているんだ。どっかの国のお偉いかた達が、って言うのが妥当だな。」
「嗚呼、そうだろうね。じゃなきゃ百金貨なんて大金、用意出来る筈がないだろうさ。」
「とすると、だ。あの娘がお偉い方の何かを見てしまったか。それか、お偉い方があの娘に何かをしたか。」
「で?どうするんだい?」
「ん?どうするとは、何だ?」
「どうするも何も、百金貨がそこにいるんだ。ギルドにでも持っていけば大金が手に入る。誰にとっても魅力的な話だと思うけどね。」
女性は何かを探るような、そんな目で男を見る。
「だから?どうしたと言うんだ。俺はあの娘を助けたいと思ったから助けただけだ。そこに何の他意もない。」
即答といえるほどの速さで答えが男から帰ってくる。その顔には嘘など微塵もないと言わせる様に真剣だった。男は少しだけ間を開けると、また言葉を紡ぎだす。それは先刻までも真剣さを取っ払ったようなおどけたように、顔を同じく少しだけ緩んで。
「それに、だ。俺は旅人だ。金貨百枚なんて大金、持っているだけで重くて疲れてしまう。旅人に無駄な金なんていらない。路銀なんてものはその場で稼げばいいだけのことだ。無駄に重い物は省くに限る。そうだろ?」
その言葉を聞いた女性は先刻までの内緒話のように小声で話したのとは打って変わって豪快な笑い声を出す。
「あ~はっはっは!!あんたって奴は面白い人だね、まったく。」
「君はどうなんだ?君にだっていい話のはずだ。」
男は女性と同じ質問を女性に返す。
「あたしは今の生活に十分満足していてね。これ以上、望む気は全くないんだよ。それならそんな大金無駄なだけだろう?あたしもあんたと同じで無駄なものは省く性格でね。」
女性は男にニヤリとした笑みを浮かべた。
「そうか、アンタは相当な変わり者なんだな。」
男は微笑みを浮かべる。
「あんたこそ相当変わり者じゃないか。」
「それも、そうだな。それならお互い様ってことか。」
そんな事を話していると、男は自らの外套が、少しだけ引っ張られるような感覺がした。そこに男が目をやると少女が男の外套を摘んでいた。
少女の顔にはありありと不思議そうな感情が滲んでいる。それも当たり前のことだろう。先刻まで自分は店に置いてある服を見て回っていた。そうしたらカウンターの方で、いきなり大きな笑い声がするのだ。不思議に思うのは必然というものだろう。
男はそんな少女の頭に手をやり、少女を落ち着かせるためにやったのと同じく頭を撫でた。
「何でもない。ただ世間話をしていただけだよ。」
そう男は言って、少女の頭を撫で続ける。そんな折、男はふと思い出した様に女性に目を向ける。
「一つだけ忘れていたんだが。まだ靴を貰っていないんだ。」
「靴かい?嗚呼、そういえばそうだったね。勿論、この娘のでいいんだろう?」
「嗚呼。そうだ。」
男の肯定に、女性は一瞬だけ考える素振りを見せる。
「ちょっとまっていな。直ぐ持ってくるよ。」
そう女性は言って、カウンターの奥に入っていった。
ちなみに言うとこの時男は少女の頭を撫でる手を休めてはいない。
それに少女は何を言うわけでもなく、撫でられ続けている。傍から見るとやはり、父と娘だろうか。
カウンターの奥からコツコツと足音が聞こえ、女性が出てくる。
「こんなのでいいかね。」
女性が持ってきたのは、上質な革のブーツだ。
「嗚呼、コレでいい。いくらだ?」
「いんや、この御代は要らないよ。」
女性の言葉に男は怪訝な顔をする。
「なに、今日はなかなかに楽しい話が出来たからね。お礼としてもらっておくれよ。」
「ふむ、それならその好意を受け取ろう。」
「それじゃ、早速あの娘に着せなきゃね。」
女性は、先程買った服一式を少女に渡す。少女はそれを受け取り試着室の方えと行く。随分とこの店の雰囲気には慣れたようだ。この店の女性の性格のお陰も、少しはあるかもしれない。
ほんの数分、少女の話ではない世間話。男の旅などの話をしていると、着替えるために閉めていた試着室のカーテンが開く。
男がそれを確認すると、カウンターの上に置いてあった革のブーツを少女の所えと持って行っやる。少女は履いたことがあまりなかったのか、革のブーツを少し手こずりながら履いていた。
「大きさは問題ないか?」
男が言うとそれに少女は首を縦に振ることで答える。
「それじゃ、さよならだね。また近くに寄ったら来ておくれよ。今度は店の客じゃなく、友人としてもてなすから。」
「嗚呼、ありがとう。今回は世話になった。もし此処にまた来ることがあったら寄ることにするよ。沢山の土産話を持ってね。」
しかしよくもまあ、こんなに短時間の間に仲良く出来るものだ。だが、どこかしら似たもの同士で馴染み易かったのかもしれない。
「さて、行こうか。」
男の言葉にコクリと少女はまた首を縦に振ることで答える。
「っと、その前に。」
男は買ったばかりの外套を少女に着せてやる。少女も男と同様に黒ずくめの人となった。それも被り物も付いて、男よりも黒いかもしれない。
店の外に出、大通りにまで来ると少女はやはり外にはまだ慣れていないのか店に入る前と同様に男の外套の中に隠れる様にし歩く。
──まあ、未だに人には余り慣れていないが、それも少しずつ慣れていけばいいだろう。
男は依然、少女のお陰で歩きにくいながらも、そんな事を考えながら歩く。さすがに黒ずくめで多少目立つのか、男は気にしない。顔を見られ正体がばれる方がもっと厄介だからだ。
──旅の準備は粗方整った。後は今後の事を話し合うだけか……。今更ながらに思うが、お互いまだ名前も知らないのだからな。
まあ、成るようになればいいか。
男と少女はお互いを知るために。
そして疲れた身体を落ち着けるために。
二人は大きな街道を進み、宿へ向かう。