「体調でも悪いのか?顔が少し赤いが。」
少女の顔が若干赤くなっていることに気づいた男は少女に気をかけるが、少女の赤い顔の原因は決して体調が悪いなとと言ったものではない。だが、それに気づける男ではないのだが。
「だ、大丈夫です。」
少女も少女の方で、自分の顔が赤い事に気づき、一瞬何と答えればいいか、言葉を失ってしまったが、無理やり言葉を紡ぎ答える。
しかし少女の言葉に男は頷きでは返さず、少女に近づいた。少女は何事かと思ったが、確認よりも早く男が動く。少女はより顔が赤く熱くなることを感じた。
「本当に大丈夫か?顔が大分熱いが…。」
少女は何も言えない。いや言うことが出来ない。顔が直ぐそこにある。身体が緊張して固まってしまっている。
「ふむ、やっぱり君は少し休んだほうがいいな。」
また少女の体に浮遊感が襲う。
「君は少し休んでいなさい。私は下から食べ物を持ってくる。」
男はそう言って少女をベッドに寝かせた後、大きな身長故に身を屈めて扉をくぐり行ってしまった。
「うぅ…恥ずかしい……。」
なすがままに男に抱き上げられた少女はさっきの事を思い出し、どこまで赤くなるんだと思うほどにまた顔を赤くし、今の自分の顔を隠そうとしたのかベッドのシーツの中に顔を埋めた。
何故少女がここまで顔を赤くしたのか、何のことはない。少女の顔の赤さを風邪の熱だと思って少女の熱を男が測ったのだ。おでことおでこをくっつけて。
さぞかし少女は驚いただろ。さっきまで見つめていた男の姿が一瞬の内に目の前に来るのだから。身体は石の様に固まって、心臓の鼓動は早鐘を打つ。体温が走った後のようにカッと熱くなり、だけれども男の顔に自分の息がかからないようにぐっと、息を止める。その所為で熱は下がらずより上がり、鼓動は更に早くなる。
それだけなら良かったが、極めつけは、男は少女の身体に腕をまわし、少女を抱き上げた。多少は慣れたことだが、慣れたがゆえに気恥ずかしく感じる。
ベッドに降ろされ、男が部屋から出た時には風邪でもないのに、病気かと言うくらいに顔は朱に染められていた。
しばらく少女が頭を埋めていると、扉の奥から木の間の上を歩く音が聞こえる。男が戻ってきたのだ。
少女ははっとしてシーツから頭を出してベッドの端に座る。頭を埋めたまま男を迎えることが恥ずかしく思えたからだ。
扉が開かれる。奥から片手に温かな料理を載せた盆を持った男が現れる。
「寝ていなくて大丈夫なのか?」
先ほど寝かせた少女が身体を起こし、ベッドの端に座っていたので、男は少女の身を案じるが、少女は顔を少し俯かせ気味に。
「大丈夫です、一寸だけ疲れていただけなので。」
未だ顔を俯かせているのは、少女の顔がまだ熱いからだ。
「大丈夫ならいいが。食欲があるなら食べるといい。」
男は少女の直ぐ横に盆を置き、男の分の料理を二皿ほど取って少女の正面になるようにもう一つのベッドに座る。
「あ、有難うございます。」
小さな声で少女が言う。
「遠慮はしなくていいからな。」
男はそれだけ行って、自分の料理を食べ始めた。少女は最初こそ食事に手を付けなかったが、男が食べ始めてから少し後、ようやく食べ始めた。
かちゃかちゃと食器同士がぶつかる音、それだけが部屋の中に響く。お互い、声は出さず、黙々と食べは進めていく。大人の男と子供の少女、食べ終わりが早いのは勿論男の方で、男は食べ終わった食器を二つのベッドに挟まれた部屋の端にある燭台の乗った棚の上に置く。
「済まないが少し疲れたのでネルが、風呂に入りたければ起こしてくれ、案内しよう。お互いのことを話すのは明日でいい。今はただ、休みなさい。」
男はそう言って、自分の履いていた靴を脱ぎ、ベッドに身体を任せて眠りに入った。
少女は眠る男の姿を見てまた冷めた筈の顔に少しだけ熱が灯るが、それを振り払うように首を振り、早く料理を食べて、自分も眠ってしまおうと、口と手を動かした。
「あり、がとう…。」
少女は改めてぼそりと感謝の言葉を述べた。
「どういたしまして。」
男は少女に顔は向けず、それだけ言った。
少女お耳に入るのは自分の動かす口と食器の音、そして早鐘を打つ鼓動。顔は真っ赤に熱かった。