美穂子姉さんはぽんこつ?   作:小早川 桂

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適任という言葉があってだね


美穂姉は悪魔を呼ぶ

◆◇◆『看病』◆◇◆

 

 

「くそっ、ついてねぇ……」

 

 そうぼやいて寝返りを打つ。

 

 恥ずかしいことに、俺は風邪をひいて寝込んでいた。

 

 幸いなのは微熱であること。

 

 不幸なのが美穂姉が休日登校の日であること。

 

 家には両親も仕事でいない。

 

 つまり、手助けを頼める人がいない状況にある。

 

 辛い、これが何気に辛い。

 

「あー、のど痛い」

 

 昨日、風呂上がりに美穂姉の作ってくれたアイス食べ過ぎたかな。

 

 美味しかったから仕方ない。

 

 今度、作り方を聞いてみよう。

 

「特別な調味料を入れてるって言ってたけどなんだろうな……」

 

 何はともあれ、まずは風邪を治してからだ。

 

 美穂姉が言うには助っ人を呼んであるとのことだが……。

 

「京ちゃん、お見舞いに来たよ」

 

「やぁ、京太郎。邪気に侵されたと聞いて助けにきたよ」

 

「京太郎くんの艶姿が見れると聞いて、急いできました」

 

 まさかこいつらのことじゃないよな……?

 

 むしろ悪魔の使者なんだけど。

 

「えっと……みんなどうしてここに?」

 

「ボクは急用でこれなくなった東横さんの代わりに」

 

「私はその国広さんに聞いて」

 

「私はちょうど咲さんと咲×京の可能性を探っていましたので、ついてきました」

 

 まともな助っ人一人もいねぇ……!

 

 本命はやっぱり東横さんだったか。

 

 美穂姉も流石に常識人を呼ぼうとしてくれたらしいが、来たのは……はっきり言ってポンコツばかり。

 

 いや、でも、俺が辛いということを理解しているなら普段のノリはないか……?

 

「何でも言ってね、京ちゃん! 私、頑張るよ!」

 

「友が困っているんだ、助けるのは当然のことだよ」

 

「私も家事は得意ですのでお任せください」

 

「みんな……」

 

 ……そうだよ。

 

 こいつらも普段はちょっとあれだけど、やるときは真面目なやつらだよ。

 

 疑っていた自分が恥ずかしい。

 

 心配してきてくれたのに……最低だな、俺。

 

「……ありがとうな、三人とも」

 

「お礼なんて水くさいよ。私たちの仲じゃん!」

 

「だな。……じゃあ、お粥でも作ってくれるか? あと、汗かいて気持ち悪いからタオルとか持ってきてくれると助かる」

 

「わかったよ。任せてね」

 

 オッケーサインを作ると咲は部屋を出ていく。それについていく一と和。

 

 良かった。

 

 これなら安心してゆっくりできそうだ。少し休ませてもらうことにしよう。

 

 俺もちょっとあいつらのことを見直さなきゃいけないな。

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後。

 

 前言撤回。

 

 やっぱりこいつらダメだわ。

 

「……おい、咲」

 

「なに、京ちゃん?」

 

「この粥は誰が作った?」

 

「私だよ?」

 

 ……どうして和にやらせなかった……。

 

 口に含んだ時点でおぞましい味が広がった。

 

 思考的にも本能的にも理解を拒否する味覚。

 

 見た目はしっかりしていて、漂う匂いも美味そうで、食欲をそそって俺も楽しみにして食した。

 

 瞬間、頭に衝撃が走る。

 

 どうにかして吐き気を我慢して笑顔を作り上げた。

 

「……そういえば一と和の姿が見えないけど……どうしたんだ?」

 

 二口目を食べないですむように話題をそらす。こんなものをもう一度、食べたら待っている未来はDEATH or DIE。

 

 絶対に避けないと!

 

「和ちゃんは着替えを用意してくれてるよ。私に任せてくださいって息を巻いてた」

 

「それはそれで嫌な予感しかしねぇ……」

 

「あと国広さんはリビングで寝ちゃった」

 

「ますます意味がわからんぞ……」

 

「私の粥を食べたら急にバタッてテーブルに突っ伏しちゃって……」

 

 なるほど、すべてを理解した。

 

「疲れてるのかも。ここから龍門渕まで遠いから」

 

 違うぞ、咲。

 

 お前が作った兵器(おかゆ)で倒れたんだ、一は。

 

 南無阿彌陀仏。

 

 風邪が治ったら何かお礼してやる。

 

「ところで、京ちゃん」

 

「なんだ?」

 

「美味しかった……かな?」

 

「新しい味だったよ。世界観が広がった」

 

「良かったぁ。隠し味が聞いていたのかも」

 

「隠し味?」

 

「そうだよ。白菜、白ごま、白ネギ、白子、ホワイトチョコ……」

 

「白いものぶちこんだらいいってわけじゃねぇからな!?」

 

「あと…………愛情かな」

 

「…………お、おう」

 

「お、お、幼なじみとしてのだよ!? その、変なあれじゃないから!」

 

 あたふたと誤解を生まないように弁明する咲。

 

 その頬が朱に染まっているのは暑さが原因ではないのは、流石にわかる。

 

「あ、安心してくれ、咲。それで惚れるのは童貞だけだから」

 

「えっ、京ちゃんは童貞じゃないの!?」

 

「あっ、そういう捉え方しちゃった!?」

 

「京太郎くんはもう何度も突いて、貫かれていますから童貞でも処女でもありません!」

 

「それお前の本の中での話じゃねぇか!」

 

 突如として現れた和。

 

 咲とは別の意味で赤らんでおり、鼻息も荒い。

 

 もうやだ、この淫乱ピンク。

 

「と、とにかく、咲は料理作ってくれてありがとう」

 

「えへへ、どういたしまして」

 

 咲はお礼を言われて嬉しかったらしく、指をモジモジさせていた。

 

「じゃあ、次は私の番ですね」

 

 そんな彼女の横から身を乗り出した桃色少女の手にはタオルと寝間着のセットが用意されていた。

 

「どうぞ。体をふくものを持ってきました」

 

「あ、ああ、ありがとう」

 

「あと少しで温めたホットタオルも持ってきますので、そちらで気持ち悪い箇所は念入りにどうぞ」

 

「そ、そっか」

 

「着替えは通気性のいいものを選んできました。これで少しは楽になると思います」

 

「和、お前はいい嫁さんになるよ」

 

「そのセリフは私にはあまり効力がありませんよ」

 

「あ、いや、別にそういう意味で言ったわけじゃ」

 

「わかってます。でも、誉められて悪い気はしません。嬉しいですよ?」

 

 ニコリと年相応の笑みを浮かべる和。

 

 さ、流石、のどっち。

 

 本当に天使だった。

 

「では、京太郎くん。着替えてください。お手伝いしますから」

 

「お、おう。助かる――って、ちょっと待て、和! 一人でできるから!」

 

 あまりに自然な流れで服を脱がせようとするから、つい了承しかけた。

 

 気がつけば上半身を脱がされていた。

 

「の、の、和!? 」

 

「さ、早くしなければ体が冷えてしまいます。急ぎましょう」

 

「いや違うだろ! 自分で出来るから和たちは外に出ていてくれ!」 

 

「なるほど。それならお構いなく。着替えのシーンを写真に撮りたいので」 

 

「構うわ!咲も和を連れていってくれ!」 

 

「私も久しぶりに見たいかな~って」  

 

 ダメだ、味方がいない! 

 

 思春期の女の子ってこんなに男の裸に興味深々なの。いや、そんなことあるはずがない。 

 

「お、お前らは恥ずかしくないのか!?」 

 

「ええ。上なら普段から見慣れていますから。それよりも下を。Hurry up!」 

 

「デジカメ覗きながら言われて着替える奴がどこにいるんですかねえ!?」 

 

「なら、触ってもよろしいですか。筋肉の形を、その筋肉を堪能させてもらえれば私はそれで……!」 

 

「舌なめずり怖い!? てか、お前ら、本当にいい加減にし……ろ……?」 

 

 ……あれ? 

 

 なんで視界が傾いて……和たちが横になってんだ……?

 

 次いで、訪れる先ほどまでとは比にならない疲労感と痛み。 

 

 熱い。体が熱い。 

 

 やべっ。熱が悪化して……。 

 

「京ちゃん!?」 

 

「京太郎くん!?」 

 

 消えゆく意識の最後に聞こえたのは二人が俺の名を呼ぶ声だった。 


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