美穂子姉さんはぽんこつ?   作:小早川 桂

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寝落ちしたから予約投稿した


美穂姉は彼色に染まりたい

 ◆◇◆『姉弟デート+α』◆◇◆

 

 

 合宿が終わって数日。

 

 無事に姉弟で全国への出場を決めた俺たち。

 

 そこへむけての準備と調整を進める中、息抜きを込めて美穂姉とショッピングモールへ来ていた。

 

「美穂姉。今日はなに買うんだ?」

 

「東京でも浮かないように服をちょっとそろえたくて。荷物持ちお願いね?」

 

「そういうことなら任せろよ」

 

 確かに美穂姉の言う通り。

 

 都会の東京と長野では文化が違う気がする。実際はそんなことないんだろうけど、不安になるものだ。

 

 大都会へ出かけたこともないのだから仕方がない。

 

 はっきり言って俺もそんなに詳しいわけではないし、美穂姉もあまりファッションに興味なかったと思うんだけど……。

 

「目当ての物は決まってるの?」

 

「もちろん下調べは済んでいるわ」

 

 そう言うと彼女は肩に提げるトートバッグから一冊の本を取り出す。

 

 パラパラとめくる雑誌のあちこちに付箋と可愛らしい一言メモが添えられており、十分に知識は蓄えてきたようだ。

 

「ちゃんとアドバイスももらったのよ」

 

「へぇ、東横さん? それとも部長?」

 

「国広さん」

 

「そいつを俺に寄越せ。早く!」

 

 どうして数多ある選択肢の中でそんなピンポイントを選んでしまうのか。

 

 限りなくアウトに近いアウトだ。

 

「なんでよりによって一なんだよ、美穂姉……」

 

「だって、最先端ファッションなんでしょう? お姉ちゃん聞きました」

 

 もし、あれが最先端なら東京の風紀はボロボロだろう。

 

 世界で取り上げられる珍事、半裸の住人。

 

 ……嫌すぎる。

 

「とにかく、その雑誌に書いてあることは参考にしたらダメだからな」

 

「もう……京太郎はイケズなんだから」

 

 ぷくっと頬を膨らませながら、美穂姉は雑誌を俺に渡す。

 

 案の定、胸元がかなり開いていたり、やけに短いスカートがチョイスされていた。

 

「これからどうするの?」

 

「……せっかく来たんだし、店を見て回ろう。最悪、マネキンの一式そのまま買ったらいいし」

 

「流石にそれは嫌よ」

 

「……まぁ、そうだよな」

 

 柔らかいほっぺを膨らませる姉に俺は困り顔で頬をかく。

 

 女性は男の何倍にも外装に気を遣う。ちゃんと自分でコーディネートしたい気持ちは強いのだろう。

 

「だったら、京太郎が選んでちょうだい?」

 

「やっぱりそうなるか」

 

「ええ、国広さんのアドバイスを全部否定したもの。これくらい責任は取ってもらわないとね?」

 

「……俺に任せていいのか?」

 

「大丈夫。京太郎が選んでくれたものはなんでも嬉しいから」

 

「……そういうこと言うなよ、恥ずかしいから」

 

「それに京太郎の色に染まれるから」

 

「そういうこと言うなよ、恥ずかしいから!」

 

 なにはともあれ方針は決まり、俺たち姉弟のコーディネートが始まる。

 

「これはどうかしら?」

 

 白いレース生地のワンピースに紺のカーディガンを羽織った大人しめのコーデ。

 

 彼女の持つ元々の雰囲気との相乗効果で増した清楚な感じが良い。

 

「美穂姉らしくていいと思うよ」

 

「でも、これだと普段と一緒じゃない?」

 

「じゃあ、これは?」

 

 ドレスチェンジ。

 

 カーテンから出てきた姉さんはその場で一回転してみせた。

 

 白と黒のボーダーに紺のパーカーを羽織り、下は薄いベージュのスカートでまとめている。

 

 大人びたファッションだけど、彼女は見事に着こなしていた。

 

「どうかしら?」

 

「俺はいいと思う。いつもより攻めてる感じで」

 

「可愛い?」

 

「綺麗だよ」

 

「……これにします」

 

 照れないでくれよ、こっちも恥ずかしいんだから。

 

 実直な感想を述べ、購入を決意した美穂姉はレジに並ぶ。

 

 心の底から嬉しそうな満面の笑みを浮かべる美穂姉の横顔がチラリと視界に入る。

 

 ………………よし。

 

「美穂姉」

 

「なーに?」

 

「これも買おう? 金は出すから」

 

 そう言って返却するために持っていた一着目もかごの中に入れる。

 

「京太郎?」

 

「……さっきの美穂姉も良かったけど、俺的にはいつも通りの柔らかな姉さんが好きだから」

 

 恥ずかしいからあんまり言いたくなかったけれど、こういうのは誤魔化さない方が良い。

 

 予想外だったらしく俺の言葉に美穂姉は目を見開き、口に手をあてる。

 

「告白……!」

 

「そういう意味じゃなく。だから、これは俺が買うからたまに着てやってくれないか?」

 

「……京太郎がそこまで言うならお言葉に甘えようかしら」

 

「ああ。弟にささいな見栄を張らせてくれ」

 

「ふふっ。私はいいお姉さんですからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっぱい買っちゃったわね」

 

 服を買った後はいつもの美穂姉だった。

 

 家事モードに入った彼女は家に不足していたものを買いそろえていた。

 

 完全に目的が変わっている。

 

「もう大会期間中の買い物はいいのか?」

 

「……はっ!」

 

「素で忘れていたのか……」

 

「だって、どれも安くてつい……。最初の服だけじゃあダメかしら」

 

「……いや、別にダメってことはないけど。せっかくなんだから美穂姉にもファッションに興味を持ってもらおうと思って」

 

「……お母さんが買ってきてくれるから……」

 

「女子高生がそれはどうかな……」

 

 咲でも和や優希と一緒に女子会をしているというのに、うちの姉は……。

 

 今度、部長に相談してみよう。

 

「じゃあ、帰る? 」

 

「ええ。久しぶりにたくさん歩いたから疲れちゃった」

 

 そう言うと姉さんは肩に頭を預けるようにしてもたれかかってくる。そっと手を重ねて、指を絡ませて、密着する。

 

 仄かに香る花の匂いが心地よい。

 

「……ねぇ、京太郎」

 

「なに?」

 

「私たち、どんな関係に見えると思う?」

 

「……恋人じゃないか。なんか悔しいけど」

 

「残念。夫婦よ」

 

「そうきたかぁ」

 

 まさか一段階飛ばしてくるとは予想外だったなぁ。

 

 実際、過去に何度もカップル扱いされてサービスを受けたことはある。

 

 そのたびに姉さんはすごくいい笑顔をするので何とも訂正出来なかったのが懐かしい。

 

「姉弟と見破れる人はいないだろうな」

 

「それだけ仲がいいってことよ」

 

「えっ。なんで手を繋いでるのバカ姉弟」

 

 ……と、話をしていた瞬間、こちらに罵詈雑言をぶつける人物が現れた。

 

「あら? 久? どうしたの?」

 

「大方、同じ用事よ。……で、私の回答になってないんだけど?」

 

「恋人ごっこ中」

 

「嘘つくなよ」

 

「あっ、そうね。夫婦ごっこだったわね」

 

「ひどくなってんじゃねぇか!」

 

「夫婦漫才してる時点で説得力は皆無だと思うのは私だけかしら……」

 

 呆れた様子でため息をつく部長。

 

 もう彼女も俺と同じこちら側の人間だ。

 

 ふふふ。これから駄姉のボケに振り回される苦しみを共に味わってもらおう。

 

「部長も最初は楽しんでいたから罰が当たったんですよ」

 

「今となってはおりておくべきだったと後悔しているところよ」

 

 部長は荷物を下に置くと、そのまま俺の隣に腰を下ろす。

 

 ……あれ? なんで、こっち? 美穂姉の隣じゃないの?

 

「……部長?」

 

「……何よ。私が隣に座っちゃ悪い?」

 

「読心術!?」

 

「顔に書いてあるの。誰にだってわかるわよ」

 

「……そんなに分かりやすいですか?」

 

「ほら、思ってるんじゃない。かまかけて正解ね」

 

「あ、ひどい」

 

 見事に騙されて、内心を吐露させられた。

 

 部長はものの見事に機嫌を悪くしている。そして、何故か美穂姉も怒っているに違いない。

 

 だって、さっきから手にかかる力が強いし!

 

「いや、その別に部長のことが嫌いってわけじゃなくてですね! どうしてこっちに座ったのかなぁと」

 

「……特に理由はないけど……そうね。しいて挙げるなら……」

 

 ちらりと横目で美穂姉を見る部長。ごほん、と咳払いをすると美穂姉の真似をするように寄りかかってきた。

 

「ぶ、部長!?」

 

「……私も疲れちゃったから。こうやって京太郎くんに休ませてもらおうと思ったの」

 

 ほぁ!? 

 

 やばい、やばい、やばい、やばい!

 

 なんか姉さんとは違うヤワラカイ感触が腕にあるし、温かいし、甘い匂いするし!

 

「あれ? 顔が赤いわよ、京太郎くん?」

 

「そ、そんなことはないですよ」

 

「あら、そう? じゃあ、こんなことしても平気よね?」

 

「ふぉぉ!?」

 

 腕を組んで、さらに体を密着させる部長。

 

 もう完全にわかる。

 

 おっぱい。

 

 俺の大好きなおっぱいが当たって、形を崩していることが。

 

 いいのか!? こんな幸せを味わってしまって!

 

 頭を冷やすんだ! 須賀京太郎!

 

 とにかく全神経を下半身に集中させて抑え込むんだ!

 

 この時、俺はいかにして二人に恥ずかしい姿を見せないかで必死だった。

 

 だからだろうか。

 

 俺は気づかなかった。

 

『ふふふっ。京太郎くんは悪い子ね』

 

『……悪い子は久じゃないかしら』

 

 眼下でバチバチと火花を散らす、自分を挟み込む少女たちの様子に。

 


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