美穂子姉さんはぽんこつ?   作:小早川 桂

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美穂姉は武器を得る

 ◆◇◆『勝負下着』◆◇◆

 

 

「あ、部長。遊びにきたんですか?」

 

「ええ。あなたのお姉さんにお呼ばれしてね」

 

 ピンポンが鳴り、ドアを開けると見覚えのある少女の姿があった。

 

 切れ長のまつげに二重瞼。スラっと鼻は出ていて、モデル顔負けの整った美人顔。スタイルもスレンダーで美しい流れを描いている。真っ直ぐに伸びる脚線美を惜しみなく晒していた。

 

 彼女の名は竹井久。

 

 俺が通う清澄高校麻雀部の部長で姉さんの友人でもある。

 

「まぁ、立ち話もあれですから中にどうぞ」

 

「お邪魔するわね」

 

 彼女が靴を脱いだのを確認すると、先を歩いて案内する。

 

 リビングのドアを開けると姉さんがソワソワしながら待っていた。

 

「……美穂姉。動きが怪しい」

 

「だ、だってお友達を呼ぶのは初めてで緊張しちゃって」

 

「じゃあ、私は美穂子の初めての人ってわけだ」

 

「わ、私の初めては京太郎ですっ」

 

「嘘つくなよ、駄姉」

 

「あ、相変わらずの溺愛っぷりね。普段の貴女からは想像できない」

 

「そ、そんなことないわ。私だってダメダメで……」

 

「……美穂姉がダメだったら結構な人がダメダメになっちゃうよ。美穂姉はしっかりお姉さん出来てるから」

 

「京太郎……」

 

「あ、ダメだ。このシスコンとブラコン」

 

 部長から背中に冷たい視線を喰らう。ついつい普段ののノリで返してしまったが今日は客人が来ているんだ。

 

よし、いつもは美穂姉が家事をしてくれるので、今日は俺が担当しよう。

 

「じゃあ、俺は洗濯してくるから。姉さんたちは楽しく女子会でもしておいでよ」

 

「はい、お言葉に甘えます」

 

「頑張れ、少年」

 

 声をかけてくれる部長にペコリと一礼して部屋を出る。すると、すぐに二人の談笑する声が聞こえてきた。笑い声が廊下に響く。きっと会話で盛り上がっているのだろう。

 

「……たまにはこういう日も悪くないな」

 

 そう呟くと俺は洗濯物を干しに、二回のベランダへと向かうのであった。

 

 

 ◆◇◆

 

 

 私、竹井久は今日、県予選大会の後に親交を深めた須賀美穂子の家に遊びに来ていた。

 

 発端は昨晩の電話。

 

 私が風越との練習試合についてお願いしようと話したときに美穂子の家にお邪魔する流れになった。何やら悩みがあるみたい。

 

 それにしても須賀くんのことを大切に思っているのね。

 

 彼女は私と話しながらも時たまにチラチラとドアの方を見ていた。

 

 多分、心配しているのだろう。

 

 そんな姿を見ると思わず笑みが漏れてしまう。

 

「本当に美穂子は須賀くんのことが好きなのね?」

 

 私がそう言うと彼女は分かりやすいくらいに顔を一気に真っ赤にさせる。

 

 焦るように視線を横に流すものの、誤魔化せないと思ったのか視線を合わせた。

 

「大好きですっ。……男性として」

 

「弟とし……えっ」

 

「実はそのことで相談があってお呼びしました」

 

「えっ、えっ」

 

「経験豊富な上埜さんならどうにかしてくれるって染谷さんが……」

 

 あの子……!

 

 面白がって変なこと吹き込んだわね……!

 

「ちょ、ちょっと待って、美穂子! ストップストップ!」

 

「は、はい」

 

「いい? ちょっとだけ時間が欲しいわ。少し、少しだけ待ってくれる?」

 

「だ、大丈夫ですよ」

 

「ありがとう」

 

 えーと……私は今、すごいことを聞かされているんじゃないかしら。

 

 美穂子と須賀君は姉弟で、でも美穂子は男性として好きで……。

 

 ったく……なによ、この恋愛漫画みたいな展開。

 

 すごく好みなんだけど!!

 

 すっごく好みなんだけど!!!

 

「美穂子!」

 

「は、はい!」

 

「その件、私に任せて! 数多の恋愛を(少女漫画で)経験したラブマスター・久に不可能の文字は無いのよ!」

 

「た、頼もしい……」

 

 純粋な尊敬のまなざしが心に刺さる。

 

 この視線を裏切らないためにも精一杯の努力はしましょう。

 

 ……面白い方向に!

 

「早速、行動に移しましょう。美穂子、あなたの部屋に案内してくれる?」

 

「は、はい!」

 

 彼女に着いていき、たどり着いた部屋。ドアを開けて視界に飛び込んできたのは部屋に似合わないカッターシャツだった。

 

「? どうしてこんなものが?」

 

「あっ、それは京太郎が使っていたものでもったいないから私がお下がりを……」

 

「み、美穂子……」

 

 呆れた私は怪訝な視線を彼女に送る。

 

 美穂子は素直で嘘をつくのが下手くそだ。典型的なパターンでいつも目が泳ぐ。

 

 ……彼女も健全な高校生ってわけね。

 

「ち、違いますよ? 他意なんてあ、ありませんからね?」

 

「……まぁ、いいわ。貴女の下着を仕舞っているのは?」

 

「し、下着ですか? それならここに……」

 

 クローゼットの中のタンスの引き出しを開けると、並ぶ可愛らしい下着の数々。

 

 どれもおおらかな美穂子らしいチョイス。

 

 それもいいかもしれない。だけど、攻めるには物足りないわね!

 

「いい、美穂子。貴女の弟が好きなものは何だと思う?」

 

「好物なら把握していますっ。しょうが焼き、ハンバーグ、ポテトサラダ……」

 

「おっぱいよ」

 

「おっぱい……おっぱいっ!?」

 

「ええ。貴女にもついているこれよ!」

 

 自己主張の激しい胸をたぷたぷと揉みしだきながら言う。

 

 寄せれば凶悪なそれはこれでもかというくらいに揺れていた。

 

「う、上埜さん!? な、何して」

 

「須賀くんはね! 部活動中、和の胸に視線が何度も釘付けになっているのを私は見ているの!」

 

「…………へぇ」

 

 あ、やばっ。

 

 開眼してる……!

 

 羞恥は消えて、真顔になっているのが余計恐い。

 

 さっさと話題を変えましょう。

 

「と、とにかく! 貴女にも同じ、いやそれ以上の武器があるのだからこれを利用しない手はないわ。その為にも今から下着を買いに行きましょう」

 

「そ、それは勝負下着という……」

 

「その通り。さぁ、出かける準備をして。行くのよ、乙女の戦争に勝つために!」

 

「は、はい!」

 

 ふぅ。我ながらナイスアドバイスね。

 

 美穂子のその食べ頃な果実を使えば間違いなく須賀くんは女として性を意識するはず。

 

 これで美穂子の勝利は間違いなしよ!

 

「あ、上埜さん」

 

「なにかしら?」

 

「あとでその和さんとの件についても教えてくださいね」

 

「あっ、はい」

 

 

  ◆◇◆

 

 

「もう一サイズ大きくなりました……」

 

「美穂子ったら普段はキツいの使っていたのね」

 

「違いますよ? いつの間にか成長していたみたいで……」

 

「喧嘩売られてる? 買うわよ?」

 

 そんなやり取りをしながら帰宅。

 

 ショッピングをしている間にわかったのは美穂子の須賀くんへの愛情はかなり凄いというか、世間一般で言うならば……重い。

 

 いや、聞かされる聞かされる義弟自慢。

 

 どれだけ好きなのよ、この子って感じよね。

 こんなに好き好きアピールしていたら須賀くんも気づいていると思うんだけど……そこのところ、どうなのかしらね。

 

 何はともあれ、無事に帰還。靴を脱いで玄関に上がると美穂子の背中を押して彼女の部屋へ直行させる。

 

「う、上埜さん? これは一体……?」

 

「美穂子の部屋で早速、着替えちゃうのよ」

 

「い、今からですか?」

 

「そうよ。善は急げって言うじゃない?」

 

 それに私も結果が気になるし。

 

「いい? 美穂子の部屋には偶然にもこのエロい下着を活かせて、なおかつ須賀君に効果テキメンな服があるわ」

 

「……そんな服、あったかしら?」

 

「あるじゃない。そこに」

 

 そう言って指さすところにあるのは本人曰くおさがりのカッターシャツ。

 

 ここまでくればわかる人もいるだろう。私がお勧めしようとしているのはお泊り女子の攻め技の一つ。

 

「裸ワイシャツ……!」

 

 厳密には下着をつけるから違うけど。

 

「は、裸ワイシャツ!? は、破廉恥です!」

 

 普段から破廉恥以上のことしている自覚はないみたいね、この子。

 

「破廉恥でもやるしかないわよ。聞いて、美穂子? 清澄麻雀部の部員構成は知っているわよね?」

 

「……はっ」

 

「そう。女5に男1……。これが示す理由はわかるわよね?」

 

「は、はいっ。やらねばやられる……」

 

「そうよ。和もデジタル仲間として気に入っているし、優希も犬として気に入っているし、咲とは中学からの幼馴染……」

 

「……上埜さんは?」

 

「えっ」

 

「上埜さんは……私の味方ですよね?」

 

「え、ええ、もちろんよ。私は須賀君のことを好きになったりはしないから安心して」

 

「良かったです。上埜さんとはお友達でいたいから」

 

「わ、私も美穂子とは末永い付き合いをしたいと思っているわよ? それで須賀くんを落とすための方法を伝授するわ。私が教えるポーズ、セリフを覚えて、彼を誘惑するのよ!」

 

「お、おー」

 

 慣れない大きな声を出しながら美穂子は可愛らしい小さなガッツポーズを作った。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 最初は簡単に済ませようとしていた家事だったけど、気が付けば細々した作業にまで手を付けてしまうのはよくあることだと思う。

 

 終われば夕方で買い物を完全に忘れていた俺だったが冷蔵庫にあるもので何とか品を用意することはできた。

 

 今は部長と対面しながら食卓を囲っている。

 

「美味しい! 美味しいわ、これ!」

 

「喜んでもらえたら何よりです」

 

「須賀くん! 今度から私の弁当も作って!」

 

「週一でいいなら」

 

「ありがとう!」

 

 お礼を言って部長はまた食事に戻る。

 

 うん、こんなに美味しそうに食べてくれたら気分がいいな。

 

 つい弁当も引き受けてしまったけど、まぁ二人、三人も変わらない。

 

 それよりも気になるのは姉さんだ。

 

 三人で夕餉を楽しむ手筈となっていたが、立案者である姉さんは途中で具合が悪くなったのか、自室へと戻っていた。

 

 なので、今は俺と部長の二人きりということになる。

 

「ねぇねぇ、須賀くん」

 

「なんですか?」

 

「美穂子なんだけど大丈夫なのかしら?」

 

「俺も心配ですけど、姉さんのことですから今頃ゆっくりしていると思いますよ」

 

「私の相手は気にしなくていいのよ?」

 

「そういうわけにはいきませんよ」

 

「いいの、いいの。それにもう完食しちゃったし」

 

 ほら、と部長は空になった茶碗を見せてくる。おかずが盛り付けられていたプレートにもわずかなソースしか残っていない。

 

「驚いた。部長って早食いですか?」

 

「失礼ね。シェフの腕が良かったってだけよ。さ、私はもう帰るから美穂子の相手をしてあげて?」

 

 部長は口元をハンカチで軽く拭うとバッグを肩にかけて、立ち上がる。

 

「いや、でも」

 

「そもそも私を呼んだ美穂子が倒れている今、私がここにいる意味もないでしょう? だから、ね?」

 

「……わかりました。部長がそこまで言うなら」

 

「そうそう。素直な子は好きよ?」

 

「部長ももう少し素直な性格していたらモテると思いますよ?」

 

「シメるわよ」

 

「ごめんなさい」

 

「許してあげない。だから、今度、お姉さんにちょっと付き合ってね?」

 

 ドアを開けると振り向きざまに部長はウインクをして、そのまま出ていった。

 

 こういういちいち格好のいい行動ができるあたりに竹井久の魅力が詰まっていると再確認させられる。じゃないと、議会議長なんて役職に就けるわけがない。

 

「……ありがとうございます」

 

 だから、このお礼も別に聞こえてなくてもいい。

 

 部長を見送ると俺は言われた通り、姉さんの部屋へと向かった。一応、熱とかで寝込んでいたらいけないからお盆に薬とペットボトルの水を乗せて。

 

「美穂姉? 入っても大丈夫か?」

 

 コンコンとノックして確認を取る。

 

「え、ええ。どうぞ……」

 

 すると、中から震えたような声が返ってきた。これは結構重症かもしれない。

 

 少し焦り気味に部屋へと入る。刹那、電撃が体中をめぐる。

 

 ベッドの上で姉さんが女豹のポーズを取っていた。

 

 前を第一ボタンだけ留めて全開にしたワイシャツから覗けるきめ細やかで雪のように白い肌。黒を基調としたブラが下から支えて、さらに大きくなった胸が作り出す谷間。

 

 零れ落ちそうな肉感。

 

 ほんのりと朱色に染め上げられた頬。

 

 ……お、恐るべき吸引力。

 

「が、がおー。きょ、京太郎をたべちゃうぞ?」

 

「ぐはっ!?」

 

 お盆を落として、その場に膝をつく。

 

 ま、まずい。これはいかん。いかんぞ……!

 

 食べられてしまう……。

 

 もしくは食べちゃう……!

 

「きょ、京太郎?」

 

「来ちゃダメだ、美穂姉!」

 

「ダ、ダメよ。急に倒れたんだもの」

 

 そう言って姉さんは俺の制止も無視して、こちらに近づいてくる。

 

 距離が近くなったせいで、さらに強調されるおっぱい。

 

 エロい服装をした美穂姉はずっと俯いた状態の俺を抱きしめる。

 

「み、み、み、美穂姉!?」

 

「やっぱり熱い! 熱でもあるのかしら?」

 

 や、柔らかい!

 

 ふにゅふにゅしてる! ていうか、やばいやばいやばい!

 

 マシュマロみたいに押したらふんわりと返してくる弾力。

 

 漂う女性特有の甘い香り。

 

 ……楽園はここにあったのか。

 

「あ、あれ? 京太郎? 京太郎ー!?」

 

 そんな美穂姉の声を聞きながら、俺は意識を失った。




下着店の店員さんはマジですごいと思う。
皆もプロに任せてみよう。
マジでカップ数大きくなるから

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