美穂子姉さんはぽんこつ?   作:小早川 桂

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咲ちゃん? いいえ、咲さんです


美穂姉は見逃さない

「み、美穂姉?」

 

「京太郎……。お姉ちゃんはショックです」

 

「な、なにが?」

 

「京太郎が嘘をついたことが」

 

「いや、嘘なんかついてないって!」

 

「そうね。東横さんの服については聞いた通りでしょう。だけど、手をつなぐことは関係ないわ」

 

「うっ」

 

 くそっ、上手く流せたと思ったのに気づかれてた!

 

 俺だってたまには姉さん以外の美少女の手をにぎにぎしたくなる時もある。

 

 男だから。

 

 男だから!

 

「そうだぞ、須賀弟。君には少しがっかりした」

 

 加治木さんはため息を吐く。

 

 え? 俺なんかこの人にしたっけ?

 

 初対面のはずなんだけど。

 

「君のことは須賀姉から聞いている。君には大切な人がいるはずだろ?」

 

「え? え?」

 

「それなのに他の女子と仲良くイチャイチャと……それも本人の前でするとは鬼の所業だな」

 

「……うーん」

 

 この人もしかして盛大に勘違いしている?

 

 俺が東横さんを毒牙にかけようと思っているのかもしれない。

 

 ちょっと話が噛み合わないけど、これしか考えられない。

 

 そうだよな。いきなり後輩が男と手を繋いでいたら怒るよな。

 

 なら、精一杯誤解を解かなければ。

 

「いや、違うんですよ、加治木さん。俺は東横さんとは別に怪しい関係じゃ」

 

「当たり前だ。君の愛する者は姉である須賀美穂子だろう!」

 

「あっ、全ての謎が解けました」

 

 ギギギと首を美穂姉の方へと回す。

 

 彼女は頬に手を当てて、恥ずかしがっていた。

 

 その反応、ギルティ。

 

 俺は彼女に近づくとその頬を引っ張った。

 

「美穂姉ぇ? 嘘をつく悪い口はここかなぁ?」

 

「いふぁい! いふぁいは京太郎!」

 

「自業自得だろ!? ほら、早く本当のことを説明して!」

 

「ふぁい」

 

 了解の返事を聞いてからパチンと頬を離す。さっきとは違う意味で赤くなった頬っぺたをさすりながら、美穂姉は戸惑っている加治木さんに弁解を始めた。

 

「あのね加治木さん。京太郎って照れ屋さんだから今も必死に誤魔化そうと」

 

「それ以上嘘を重ねたら今度から一緒に寝ない」

 

「――ごめんなさい。嘘をつきました。京太郎は私より胸が大きい女の子が好きな男の子です」

 

「うぉぉい‼」

 

「いや、ちょっと待って。須賀くんの口からもっとすごいこと聞こえたのって私だけ? ねぇ、私だけ?」

 

 復活した部長が袖をグイグイと引っ張ってくるが無視。確実に話がこじれる。

 

 目の前の駄姉で手一杯だから。

 

「余計なことは言わなくていいんだよ、美穂姉!」

 

「あら、素直になっていいのよ? 昔、私の胸が膨らみはじめて急に抱きついて甘えてくれるようになった時のように!」

 

「人の黒歴史を暴露するのやめてくれる!?」

 

「ほら、今の方が膨らんでいるわ」

 

 腕で持ち上げて寄ってくる美穂姉。

 

 マ、マシュマロが二つ……!

 

「やめて! 犯罪っぽくなっちゃうから! 周囲の視線が辛いから!」

 

「その割にはチラチラ指の隙間から見てるわよね、須賀くん」

 

「須賀弟は巨乳好きの変態……と」

 

「ちゃ、ちゃうねん! えっと、その貧乳も! 貧乳も好きだから!」

 

「それ反論になってないわよ」

 

「須賀弟は胸フェチのド変態だったのか……」

 

「あなたたち! いつになったら部長会議を始めるんですの!?」

 

『あっ』

 

 龍門渕代表の叫びで騒ぎは終わりを迎えた。

 

 結局、誤解が誤解を呼び、それは解かれることのないまま、俺は部長会議に連れていかれることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、本日は自由行動。合同練習は明日の朝10時からでよろしいですわね?」

 

『異議なし』

 

「でしたら、解散! 部員たちにも教えてあげてくださいまし」

 

 龍門渕さんが最後を占めて、部長会議は終了する。一番年下の彼女が仕切っているのはきっと先ほどのやり取りが原因なんだろうなぁ。

 

「お疲れ様、須賀くん。ちょっといい?」

 

「あ、部長。お疲れ様です。俺も用がありまして」

 

「あら、奇遇ね。もしかしてあなたの部屋のことかしら?」

 

「ビンゴっす」

 

「大丈夫。今から私が案内して」

 

「私が案内するから問題ないわ、上埜さん」

 

「あ、そ、そう? なら、任せるわね」

 

 そう言うと部長は手を振って、清澄の部屋へと戻っていった。

 

 続いて俺と美穂姉も会議室を後にし、廊下を歩いていく。

 

「あ、三階だからね」

 

「ねぇ、美穂姉」

 

「そこを左に曲がって」

 

「いや、だから美穂姉」

 

「角から三つ目だからここね」

 

「なんで俺の部屋を知ってるんだよ!?」

 

 おかしい。実におかしい。

 

 俺が部長に部屋番号を聞こうとしたら案内役を買ってでた時から怪しいとは思っていたけど。

 

「どうしてって……京太郎の部屋は私が指定したもの」

 

「通りでみんなとはフロアが一つ違うと思った!」

 

「そう不満を漏らさないためにお姉ちゃんも一緒に過ごすから安心して」

 

「一向に満たせてねぇよ! 俺は年頃の女の子とキャッキャウフフしたいの!」

 

「私がいるじゃない。面白い冗談ね」

 

「全く笑えないんだけど!? 美穂姉は姉弟じゃん!」

 

「いい、京太郎? 義理の姉弟は結婚できるの。そして、今日私たちは同じ部屋に二人きり。後は……わかるわよね?」

 

「ああ、自分の貞操の危機がな」

 

「欲にまみれていいのよ?」

 

「ああ、ぜひとも溺れたいね。美穂姉以外の女の子と」

 

「ねぇ、スケベしましょう……?」

 

「なんて魅力のないお誘い!」

 

 そんなやり取りをしながら部屋のドアを開ける。

 

 すると、中では見知った人物が一人いすに座って呑気に読書をしていた。

 

「あっ、おかえり京ちゃん。もう部屋の前で漫才長いよー。待ちくたびれちゃった」

 

 んーっと伸びをしながら凝り固まった体をほぐすとトテトテと歩いて抱きついてくる。

 

 あまりにも自然な動きに反応が遅れてしまった。

 

「って、おい! なにしてんだよ!」

 

「ほら、言ってたじゃん。年頃の女の子とキャッキャウフフしたいって。だから、させてあげようと思って」

 

「えぇ……」

 

「それに京ちゃん成分補充しなくちゃ」

 

「咲ちゃんも京太郎成分がわかるの!?」

 

「あ、美穂姉ちゃんも来てたんだ。こんにちは」

 

「ええ、こんにちは」

 

 咲の挨拶に姉さんは笑顔で返す。

 

 ちなみに姉さんはこんなだが性格は聖人な上に天然も入っているので全く嫌みに通用しない。

 

 咲も苦笑いしていた。

 

「相変わらずだね、美穂姉ちゃん」

 

「……? 咲ちゃんも読書が好きなのは変わってないのね。最近、遊びにきてくれないから寂しいのよ?」

 

「ごめんね? 部活が忙しくって……」

 

「全国終わったらまた遊びましょう」

 

「うん! 久しぶりに美穂姉ちゃんと遊べるの楽しみにしてるよ!」

 

「そう、よかった。ところで、咲ちゃん」

 

「うん、なに?」

 

「ここに置いてあった私の荷物が見当たらないのだけど……どこか知らないかしら?」

 

「あっ、あれなら返しておいたよ。だって、ここは京ちゃんの部屋だもん。いらないよね?」

 

 ……ん? あれ、雲行きが怪しくなってきて……。

 

「……あら。でも、代わりに可愛らしいトランクがあるけど、あれは……」

 

「それは私のだよ? 清澄の部屋だけ偶然(・・)、四人部屋しか空いてなかったから私はここで寝泊まりする予定なの」

 

「……そんな咲ちゃんみたいな可愛い子と京太郎が二人なんて心配だわ。私もこっちに移りましょう」

 

「必要ないよ。私、京ちゃんのこと信用してるから」

 

「……うふふふふ」

 

「……あははっ」

 

 向かい合って笑いあう二人。

 

 仲睦まじい光景のはずなのに、なぜか俺はゾクリと寒気を感じたのであった。

 




ぽんこつが加速する……!

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