それでは短めですが、プロローグをどうぞ。
「我らが煌帝国のために、不敬を承知で申し上げます」
男、練紅炎は、自らの進路を塞ぎ跪く女のつむじを見下ろした。
---『マギ -もし練紅炎に妻子があったら-』---
「紅炎殿下、あなた様は既に御年16であらせられます」
殿下。
そう呼ばれるようになったのは、つい1年ほど前からだ。
未だに違和感は残っている。
一年前、煌帝国は大火によって偉大なる王「練白徳」とその子息である白雄、白蓮を失った。
直系の皇位継承者にはたった10歳の第一皇女白瑛と5歳の第三皇子白龍しかいない。
そうなると、即位するのは当然、生存している中で継承権三位である我が父「練紅徳」だった。
最も、父は戦にも政治にもあまり明るくはなかった分、現在の第一皇位継承権を持つ俺に期待が向けられたのだが。
「だというのに、子息はおろか許嫁の一人もおらぬというのは、些か第一皇子としての自覚が足りぬのではないかと思われます」
確かに、女の言うとおり、俺には子供どころか妻も、妻の候補もいない。
そもそも俺の皇位継承権は一年前の大火までは白雄殿から数えて七位だったのだ。まず謀略でもない限り、俺が玉座に座ることなどないと思っていた。だから妻子は遅くとも構わない、いっそいなくてもいいとさえ思っていた。
だが、実に何が起こるかわからないものだな……。
この一年、父の即位とそれに付随して国の方針を少しずつ変えて、そして先帝崩御の隙を突いて支配を逃れてしまった地域の再侵略について議論していたのだ。
当然、妻など娶っている暇もなかった。
「殿下、是非とも、早急にご婚姻を」
見下ろした女のつむじを、もうひとたび眺める。
俺や弟妹たちは父に似た赤毛をしているが、女は黒々とした髪をしていた。頑丈な髪留めで結わえられたその髪は窓から漏れ入る光を照り返して白く輪を作っており、今は亡き先帝やその子息を想起させた。
「……そうか」
女はこうべを垂れたまま動かないので、顔こそ見えないが、声は若く聞こえた。
着物は女中、それも下位のものを身に着けている。
俺の背後から従者たちが駆け寄ってくる足音がドタドタと聞こえようとも、肩のひとつすら動かなかった。
「紅炎様、いかがなさいましたか!」
「おのれ、女中の分際で紅炎様の道を塞ぐとは、なんたる無礼! 不敬罪にかけ、死刑にしてやる!」
頑として動こうとしない女を、俺の従者たちは力で押しのけ、牢に入れようと引き摺り歩く。
「やめろ、その女は俺の妻にする」
「えっ? 紅炎様、御冗談を。これは下位の女中、いわば紅炎様のお目に入っただけでも処分ものですよ?」
「構わん。それより、皇帝への面会を取り付けろ」
やっと顔をあげた女と、視線が交わる。
……フッ、
困惑する女と、従者たち。
構わんだろう、初代皇帝もあの女と契ったのは15の頃と聞いているからな。
ぷ、プロローグなんだから1000字ギリギリでもいいじゃない!