な、何を言っているかry。
第3話、始まります。
兄上たちを迷宮のある島まで送り届けた後、俺達送迎船団はシンドリアに戻ってきていた。
どうやらあの島はあのトランの民の住んでいる島で、トランについての研究の為に、元バルバッド王国の王族だった男たち-アリババ殿の義兄上たち-が調査団として派遣されていた。
詳しくは知らないが、あれはシンドバッド王としての適材適所ということなんだろう。アリババ殿まで含めて、バルバッドの元王子たちは先住民たちと何の不便もなさげに言葉を交わしていたから、おそらく彼らが王族たるための教育の一環にトラン語もあったんだろう。
しかし-。
俺達送迎船団がシンドリアの港に到着して早々に、港が騒がしい。
どうにも民間の船や貿易船といった感じではない船が港で出発準備を始めている。
八人将というらしいシンドバッド王直属の精鋭の戦士の1人である、豊満で大きな黒い帽子をかぶった魔導師の女性がてきぱきと出発に向けて声を上げている。そう、シンドバッド王が姉上に淫行を働いたという疑惑が上った時に、無実を証明したあの女性魔導師だ。
「八人将の-ヤムライハ殿でしたね。いかがなさったんでしょうか」
「あっ、黒炎くん! 島で怪しい人物を見ませんでしたか!?」
俺は一応皇子の子息であって皇子ではないので、本国でも様や殿下を付けて呼ばれることが多い。それと似たようなことだと思えば、黒炎くんという呼び方も存外に否定できないものだ。
「怪しい人物、ですか。……そういえば、トランの民芸品を買い求めにきたという自称レームの商人3人組が、どうにも胡散臭いとは思いましたが」
「商人?」
「申し訳ありません、金属器の力なども持っていない子供の直感なのですが。でも、思い出せば思い出すほど、黒いですね」
彼らの纏う空気はどす暗くて、眩しいほどの明るい空気を纏うアリババ殿と対比すると眩暈を起こしそうなほどだった。
そう、まるで、あの商人たちは、煌の神官連中と同じだ。
「……私達、嫌な予感がするので、八人将3人で今から島のほうに行こうと思っているんです。危険ですから、黒炎くんは王宮で待っていてください。いいですね!?」
「……いいえ、俺も同行させてください。戦闘では確かにあなた方八人将には遠く及びませんが、場合によっては船での移動時間にも治療を施したほうがいいこともあるでしょう」
俺は治療の魔法道具を父から受領している。
この魔法道具は父が迷宮から持ち帰った魔法道具の1つだ。
魔力量に関しては、神官ジュダル殿曰く「バカ殿と並べても遜色ない魔力持ってやがる! 流石紅炎と黒蝶の子だ!」ということらしい。
ああ、母は魔導師でもなく将軍でもないが、それが勿体ないほどの魔力量を秘めているそうだ。以上情報元ジュダル殿。
堕転したマギとはいえ腐ってもマギの言葉を、魔導師たる彼女に伝えると、苦い顔をした。
「無論、医術の心得もあります。船で大人しく待機しますので、どうか」
「……わかりました。もしもの場合私も戦闘に回る可能性がある以上、万全を期すにはそれが一番確かなのも事実です。このことを王と、練黒蝶様、練紅玉様にお伝えして、了承をいただけたら、同行をお願いします」
「ありがとうございます、ヤムライハ殿」
礼をして、送迎船団として共に島に行っていた兄上の部下たちに、母上、姉上への話を通すように命じる。
しばらくのうちに、島へ向かう船の準備ができたと同時に母上、姉上、シンドバッド王からの許可が下りたという知らせが届いた。
船には船を動かす船員と、俺と、俺の付き添いに俺の部下数人、そしてヤムライハ殿と、八人将である2人の男性が乗り込み、出港した。
父から授かった魔法道具「
フェニクスの金属器自体が、慈愛と調停のジンらしく治療能力を有しているが、あちらはより大きな損傷、四肢欠損ですら治せるものの、その代償として契約者の同じ部位がなくなるという諸刃の剣である。
このハグはそこまで重篤な怪我の治療こそできないものの、逆に俺にとっては使い勝手もいいから問題なかろう。
船尾で風を受けながら、ハグを今一度眺めて、不備がないかを確認する。
一見ただの装飾がついた派手な乳白色の布でしかないが、止血帯と思えばまあ実用性のある形状とは言えるかもしれない。
え? いつから持っていたかだと? 帯にいい長さだから、ねじって帯として常に身に着けている。
「よう。皇子サマは布なんて眺めてどうしたんだ?」
「八人将の……」
装飾である金属部分を重点的に見ていたところ、声をかけられた。
褐色肌に銀髪の男性だ。八人将であるとは聞いたことがある。
「俺はシャルルカンってんだ」
「ご丁寧にどうも。俺は練黒炎です」
俺の手元の布、特に刺繍で付けられた金属製の装飾に、シャルルカン殿は物珍しそうな視線を投げてくる。
「これは迷宮にあったという魔法道具です」
「ほおー……。布状の魔法道具なんてのもあるんだなァ」
「あと、俺はあくまで皇子の子であり、皇子ではありませんので、どうか皇子以外の呼び方でお呼びください」
遠いけど、目的の島が見えてくる。
もうひとりの八人将の、赤毛の男性も島のほうを見ているから、見えているのだろう。
今はまだかなり遠いから、目がいい俺でもあれだろうなという程度にしか見えないのに。
「ちょっと! 黒炎くんにアンタの剣術バカが移るから離れなさい!!」
「うるせー! 男はみんな剣術が好きなんだよ!! アリババだってそうだったろ!」
「アラジンくんは違うじゃない!!」
……嫌な予感がして島に行くというのに、呑気な人たちだ。
杖と手とで互いに取っ組み合うヤムライハ殿とシャルルカン殿を後目に、トランの民の住まう島を見つめる。
先程より、些か暗い何かが漂っている気がした。
個人的に、シンドリアではヤムライハが一番動かしやすい気がします。
16/10/22 タイトルつけるの忘れたまま投稿していました。訂正いたしました。