マギ -もし練紅炎に妻子があったら-   作:7seven

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第4話です。
次あたりでシンドリアを離れます。
シンドリアを離れると話が加速します。仕様です。


第4夜 最後の宴

船が島に近付く。

接岸なんて待たず、赤毛に屈強な体つきの八人将殿は力強い踏み込みと跳躍で、島に上陸した。

船が強く揺れて、船員が数人海に落ちたが、島の近くには危険生物はいないと聞いているから大丈夫だろう。

 

「ど、どうしたんでしょうか」

「……もしかして、マジでヤバイのかもな。俺達は島見回ってくる、黒炎サマは船で待ってろよ!」

「わかりました」

 

後を追っていくヤムライハ殿とシャルルカン殿を見送って、海に落ちた船員を引き上げてから甲板に治療にいる道具を集める。

心配だが、俺は武の心得こそあるが、金属器や眷属器、魔法に対抗するほどの力は残念ながら持っていない。俺が行ったところで文字通りの足手纏いにしかならない。

 

 

甲板に大体の道具を集め終えたかどうかという頃合。

先程からやけに光線が空を飛び交っていると思ったら、向こうの空で一際大きな光の柱が立った。

 

「……ヤムライハ殿は水の魔法がお好きだと言っていた。そして、海はすぐそこのはず、つまり光魔法をヤムライハ殿が使うはずはない」

 

つまり。

あれは、敵による大魔法か何かだ。

 

でも、あんなのマギの力なしでできるのか?

いや、難しいんじゃないか。それなら金属器による極大魔法と考えたほうがすっきりする。

 

……6年前のことなど、俺ももう覚えてはいないが。

それでも、待ちぼうけるしかない立場というのは、存外に歯がゆい。

 

 

あの光の柱からすぐ。

アリババ殿の義兄上が、俺達を呼びにやってきた。

 

「君は、ええと、シンドリアの子供ではないね? さっき、アリババたちを、送りに来てくれた子だ」

「はい。俺は練黒炎、煌帝国第一皇子練紅炎が第一子です」

「煌帝国の……! ぼ、僕は、サブマド・サルージャといいます。あの、ヤムライハさんが、もう戦いは終わったから来てほしい、と」

「わかりました、今参りましょう」

 

広げていた道具をまとめて、持てる範囲で持って船を降りる。

サブマド殿に案内されるがままに道を進むと、倒れ伏している見たことのない男3人がいた。ぴくりとも動かないし流血具合や諸々を考慮すると、おそらく死んでいる。

 

兄上は……打撲痕ぐらいしか見当たらない。

座り込んでいる赤毛の八人将殿には外傷はなし、その膝に抱えられているモルジアナ殿は酷く殴られたような痕。

アリババ殿とアラジン殿も打撲が多く、ヤムライハ殿は火傷に近い傷があるものの重傷というわけではないが……。

 

「……シャルルカン殿のその背中、酷いですね」

 

官服で止血をしてはいるようだが、その服でさえ血に染まって真っ赤だ。

 

「そんな顔するなよな~! 子供は子供らしい顔でいるべきだぜ」

「あなたの傷がこの顔をさせているんでしょう、座ってください」

 

止血に使われていた服を解くと、傷が露わになる。

だが、出血量から見ればかなり浅いほうとも言えるだろう。

 

「これぐらいならすぐ治りますけど、あくまで完治じゃないので、しばらくは大人しくしておくべきですよ」

「へーへー……いってぇ!? いだだだ、いてぇじゃねぇか!! 押すな!!!」

「圧迫は止血の基本です」

 

ハグを広げて傷に当てて、圧迫し、魔力をハグに流し込む。

ほんの50ほど数えるうちに、外見上はさっぱりと傷がなくなった。

 

「すげぇ……黒炎も金属器使いなのか……」

「いいえ。これはただの魔法道具です。……次は……モルジアナ殿、でしょうか」

 

ふむ。

モルジアナ殿の衣服はワンピースだから、俺が処置をするとなると腰紐を解いて下から手を入れるところだが……。

 

「……ヤムライハ殿、この布をモルジアナ殿の腹部にのせてもらえますか」

「服の上からじゃだめなんですか?」

「はい。以前に試してみたところ、患部に直接当てる必要があるようです」

「わかりました、貸してくれますか?」

 

お願いします、とハグを手渡す。

 

「ふふ、黒炎くんも男の子ですね。女の子のスカートがめくれないなんて」

「からかうのはやめてください」

 

モルジアナ殿の腹に当てた布と服の上から手を当てて、魔力をそそぐ。

こちらは目に見えてよくなる様子がわからないからなんとも言えないが。

 

「……ひどく、内臓が傷付いていますね。しばらくは起きないかもしれません」

 

手を放すと、ヤムライハ殿が布を回収してくれた。

……モルジアナ殿は、危うく子を残すことが一生望めない体になるところだった。むしろ治療をしたところで、残せるとも限らない。

……趣味が悪い。女性の腹を狙い撃つなんて。

 

「白龍皇子のほうは大丈夫ですか?」

「……ええ。急を要するほどではなさそうですから、船に運んでから治療します」

「なら、船に撤収すっかァ」

 

 

ヤムライハ殿はアラジン殿を抱えて。

アリババ殿とサブマド殿は兄上を抱えて。

シャルルカン殿とトランの民たちは、眷属器使用の反動で動けないという赤毛の八人将殿、もといマスルール殿に肩を貸して、そして倒れていた商人を名乗っていた女を抱えて。

俺はモルジアナ殿を背負い。

 

一同、命あるまま、船へと辿り着き-シンドリアへと戻った。

 

 

***

 

 

シンドリアへと戻ると、国中を挙げての宴が開かれた。

 

しかし-。

 

「……ジュダル殿が、そのようなことを」

「ええ……。けれど、距離はそれなりにあったとはいえ、もう30年ほども見てきた紅炎様を見誤るようなこと、決してないわ。あれは、少なくとも紅炎様の願いではない」

 

ちょうど、俺達がトランの島に行っている間のこと。

ジュダル殿がわざわざ訪れ、シンドリアは敵であると、戦争をしようと言って帰っていったらしい。

 

けれど、父上がそのようなことを命じることはまずない。

それなりに父に愛されている自覚はあるし、母上のことも姉上のことも夫として兄として好意を抱いている。

そんな俺達が滞在中にそんな挑発行為を命じるはずが、有り得るはずがないのだ。

 

「わかりました。……文化交流もできました、俺にとってはもう留学の真の目的を勝ち取れたと言っていいでしょう」

「そうね……。明日、シンドバッド王にそのように伝えましょう。黒炎、最後の宴になるでしょうから、モルジアナ様は私に任せて、宴に行ってらっしゃいな」

「では、そうします」

 

まあ、宴とはいえ俺の目当ては食事くらいしかないけどな……。

 

 

 

宴の会場に行くと、兄上を見つけた。その近くでは姉上が酔い潰れている。

 

「兄う……え!?」

 

そこで座っていた兄上は。

 

「……黒炎殿」

 

左手が。

 

「そ、それは……一体何が……!?」

 

なかった。

 

「……俺がドジを踏んでしまったのです……」

 

 

話を聞くと、迷宮で襲ってきたあの商人を名乗る3人組を倒したはいいが、その時謎の蛇に左手を噛まれたらしい。

そして、その蛇は商人のうち一番大きかった、仮面をした怪しい男の変身した姿であり、その男は堕転した魔導師だったと。

 

その魔導師は兄上の魔力を吸って育ち、左腕を食い破って出てきてしまい。

更には、死の呪いとやらを、シンドバッド王とアリババ殿にかけたとか。

 

「……姉上、よく起きませんでしたね……」

「俺達が船にいる頃、ジュダルがここに来ていたと聞きました。その気苦労もあったのかもしれませんね……」

 

立場としては母上よりも姉上のほうが位が高いので、俺も兄上もいなかった当時、シンドバッド王に謁見し、謝罪したのは間違いなく姉上だろう。

俺が言うことではないが、姉上とてまだ齢18の娘でしかないのだから。

 

「……兄上。俺はもう十分学べたので、1週間後にシンドリアを発とうと思います」

「……そうですか。……俺も、そうしようと思います。俺も留学の目的は果たせました、それどころか予想以上の収穫でしたから」

 

……留学の目的、ねぇ。

まあ、俺の気にするべきことではないだろう。

 

宴の夜は、賑やかに更けていった。

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