マギ -もし練紅炎に妻子があったら-   作:7seven

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展開の練り直しをしていたら随分と遅くなってしまいました。
偶数日に毎日更新、というスピードには戻せそうにもありませんが、ほどほどの速度を維持して長くならないうちに完結できるよう努めます。
それでは第5話、どうぞ。


第5夜 出国

俺と母上は、一足早く出国することになった。

まあ、行先はバルバッドだから、帰国、というわけでもないのだが。

 

確かに、諸々の出来事のせいで、留学というにはあまりにもささやかな期間ではあった。

だが母曰く、今のシンドリアはバルバッドが王国だった時代よりも多民族が集まっているらしい。そんな各国の若者たちとの交流はかなり発見があったように思う。

 

そして天才魔導師という称号を自他共に認めるヤムライハ殿と、マギたるアラジン殿の魔法の修行の様子は見ているだけで参考になった。

これからの戦は魔法と金属器の使い方で左右されていくと習っている。

俺が魔導師ではなくとも、魔法というものについての見識を深めることに大きな意味があることに変わりはないだろう。

 

もう嗅ぎ慣れてしまって判別がつかない果物の香りが漂う港。

この国に到着した時と大体同じ人数での見送りがなされている。

 

「此度は留学の許可を頂き、ありがとうございました」

「こちらこそ、俺の国の食客たちは煌独特の文字に強い興味を抱いていたからね、君との交流で見識が広まったと喜んでいたよ」

 

煌帝国の人間で読み書きができる者であれば誰しもが扱える文字、煌字は、煌帝国が起こる前にあった小国乱立時代よりも遥か昔から存在していた東方特有の文字を初代皇帝が政策を立てて体系化したものだ。

あれしきは俺のみならず、平民でも少し学があればわかるだけに、黒秤塔で知識を交わした彼らからもらったものの対価にはいささか不釣り合いのような気もしなくはないのだが。

 

「俺も若い頃は、この世には俺達の使うこの言葉とトラン語しか存在しないと思っていたのに、煌字というものを知って大変驚いたものだよ。それが一体何なのか知れてよかった、ありがとう」

 

煌で書かれた出版物が外国に流れないというわけではないが、やはり煌字というのは独学で見につけるのは困難なのか、他国で売られている煌帝国の書物は売れない。

いっそ文法の本と煌字の読みの本を売れば売れそうだ。

 

「私からも、御礼申し上げます。黒炎の勉強だけではなく、私までも勉強させていただき、感謝いたします」

 

母上も黒秤塔の魔導師たちと知識交流をしていたそうだ。

俺もその魔導師たちと会話したが、母の博識ぶりに大層驚いてもらえたのが少し誇らしかった。

 

「黒蝶殿はとても魔法の知識がおありなのだと、ヤムライハも称賛しておりましたよ。我が国の魔導師たちにとっても、東国の魔法知識は新鮮だったようです」

「うんっ、黒蝶さん、また会ったらお札の魔法、教えてね!」

「ありがとうございます、シンドバッド王。アラジン様も、また」

 

暖かい土地に名残惜しくなりつつも、船に乗り込む。

その時。

 

「姉上!!」

 

腕の療養のため見送りには来ていなかったはずの声が、母上を呼びとめる。

 

「白龍様、いかがなさいましたか?」

 

振り返ると、兄上が冠に付けていた髪飾りを、右手一本で外そうとしていた。

この髪飾りは竜胆が描かれており……つい先日まで、母上が身につけていたものだ。

 

「俺はシンドリアを発ったら北天山に行くので、姉上とはもうしばらく会えません。なので、この髪飾りをお返ししなければ-」

 

焦って外そうとするものだから、余計に外れない。

そうして余計に焦れる右手を、母上は優しく掴んだ。

 

「よいのです」

 

掴んだ手を下ろさせて、乱れてしまった髪飾りを冠に付け直す。

 

「それは伯父の-白徳様のもの。今まで私がお預かりしていたまでに過ぎません」

 

母上は渡し板に昇っていて、常なら同じ位置にあるはずの2人の頭の位置は大きく離れていて。

まるで、戴冠式のようで。

 

「子息であらせられる白龍様が、お持ちください」

 

髪飾りがきちんとついたのを確認した母上は、にっこりと満面の笑みを浮かべる。

 

「もしどうしてもとおっしゃるならば、義手を自在に操れるようになってから、お返しください」

「……はい、姉上」

 

そしてすぐに渡し板を上り切り、船に乗り込んだ母上に続いて、俺も船に乗り込んだ。

船からのシンドリアの景色を目に焼き付ける。

 

大きく手を振って見送ってくださるシンドリアの方々を見つめつつ、海原を船は進んでいった。

 

 

***

 

 

バルバッド共和国。

 

父上の部下たちの出迎えを受けて、バルバッドがまだ王国だった時の城へと案内される。

この城を修理して、今そのまま拠点として再利用しているそうだ。

とはいえ、俺も国外に出たのは留学が初めてだったから、勿論バルバッドに来るのも初めてなんだが。

 

 

父上は今自室で休んでいるそうだけど、部下の人曰く、到着したら俺と母上を案内するようにと言われたそうで、城を歩いている。

ある意味バルバッドは前線基地のようなものだから、俺や母上がいるべき場所ではないのだろうが、それでももう1年ほど父上に会えていない。子供っぽいとは思うが、しかし父を恋しく思うくらいは、許してほしいところだ。

 

父上の部屋に入ると、1年前に見た時とそう変わらず、強く、逞しく、かっこいい父がそこにいた。

 

 

母の教育方針-というよりも母の母、つまり母方の祖母の教育方針に従って母に育てられた俺は、武芸は並みの武官よりちょっと強い程度、知力と作法は国で一番を目指して日々を送っていた。

しかし俺も男の子なのだから、強い姿に憧れても自然だろう。

 

「留学、ご苦労」

「ただいま戻りました、父上」

 

俗にいう「お父さん子」の俺は、父に頭を撫でてもらい、大変満足だ。

 

「黒蝶もご苦労」

「紅炎様もお疲れさまです。黒蝶、戻りました」

「白龍と紅玉は一緒に帰らないと聞いたが?」

「白龍様は私たちが出発した一週間後、アクティア経由で北天山へ向かうそうです。紅玉様は10日後、直接本国へ」

「そうか」

 

今の皇子たちは晩婚なのだが、初代皇帝はもっと若い頃から結婚していたと聞いている。

俺の年は今10、あと6年ほどすれば妻を娶り、練家を栄えさせなくてはいけない。

 

だが、こんな両親を見ていると、ただ子をもうけるためだけに妻を娶るのではなく、きちんと愛した女性を妻としたいと思う。

多くの子をなすには、勿論側室も何人かいないといけないだろう。

その全てに平等に愛を分けれるかといえば、おそらく無理だ。

 

でも、ぶすっとした顔でいても母上を優しい眼で見ている父上。

それを知っていて、いつも以上に優しい微笑みを浮かべている母上。

少なくとも正妻とは、そんな夫婦(めおと)になりたい。

 

 

 

 

 

 

月日は流れ-約1年後。

煌帝国を大きく揺るがす、一つの出来事が起こった。

 

二代皇帝・練紅徳の 死 。




煌字
…要するに漢字。煌字による文章は、中高で習う漢文のようなもの。返り点等の知識があって、字の読みさえ知っていれば子供でも読める。ただし和訳した際に古語になったりすることはない。
なお、煌帝国の人間は、学があれば他国が使っている書き文字も勿論使える。

(名前がシンドバッド!とかアリババ!とかアラジン!!なのに漢字使って喋ってるとは思えなかった&ならなぜ煌帝国組は漢字の名前なの?と考えた結果、煌字というものがあることにしました)
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