王道と邪道   作:ふぁるねる

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第一章 怒涛の三日間
交わる道


 

「いやぁ、まあ、これはこれで……」

 

 ーー本気でマズイことになった。

 

 どうせなら馬車や人の行き交う街道になんか出てしまった方が、何とかなっていたかもしれない。

 一文無しではあるが、 もう少し金銭感覚の近しい環境に身を置きたいというのは少年の純然たるささやかな願いだ。

 正確に言うのならば、少年は一文無しというわけではない。

 ポケットにある財布の中には英世さんが複数人シェアハウスしている程度だが、これが少年の全財力で間違いない。一高校生が持っている分には妥当な金額だろう。

 しかし、そんな現実的なお財布事情を鑑みても、少年が一文無しであるという事実は覆らない。

 なぜなら、この場所……この地域……最悪の場合この世界、と言った方が良いのかもしれない。ひとまず、()()では少年の持つ日本円はただの紙切れと金属の塊になりかねない。貨幣価値が全く違う可能性があるのだ。手の中の十円玉ーー希少な『ギザ十』など、誰に見せても頭にハテナマークが浮かぶことだろう。

 

 呆然と立ち尽くす少年は、もう一度確認するように周囲を見渡した。

 

 まず最初に目に入るのは、異様な雰囲気を醸し出す巨大な扉だ。見上げるほどに大きな扉は、取っ手だけでも少年の背丈はあろうかという程に大きいのだ。その上、扉全体に華美な装飾が多くなされているのだから、圧倒される。現代日本で平均的な暮らしをしているなら、これほどの宝飾を見ることは無いだろう。

 

 そして頭を更に天頂へと向けると、突き抜けるように高い天井が見える。落ちてきたら間違いなく下敷きにされて死ぬとしか思えないシャンデリア。しかもどうやらその灯りはガスランプや電球ではないらしい。何かしらの鉱石のようなものが光っているのが遠目に分かる。

 

 180度変わって真下、少年の踏みしめる地面は見慣れたアスファルト舗装された道路や、自室の万年床と化した敷布団ではなく、処女の血をぶちまけたのではないかと思えるような、真っ赤な絨毯が敷かれている。レッドカーペットである。そして少年が立っているのはそれが交差する場所。レッドカーペットの交差点である。

 

 通路の壁面には、ピカソやダリもかくやという一般人では理解できないレベルの芸術品が並べてある。さらに皿や壺などの骨董品らしき物も飾ってある。

 

 少年はその場から重い足を動かし、ピカピカに磨かれた大きな鏡の前に立って、自分の身なりを見直した。

 何度見ても特徴が無いな、と自分でも思う。

 安物のグレーのジャージを着ている、普通の顔に普通の肉体だ。若干鍛えている意識はあるので、だらしないということはないが、それでも普通の域を出ない。

 唯一特徴的な三白眼の鋭い眼も今や覇気が無くなり、ただの悪い目つきだ。

 

 この、明らかに高貴な身分の者が住んでいるであろう場所と、平凡代表のような自分のミスマッチ感をありありと感じる。

 

 そして急速に口の中が乾いていくことを実感する。

 

 このレベルの家……個人で持つクラスの邸宅ではない。恐らく城か、それに準ずる建造物。そしてこの過度な装飾から、ここが日本ではないことはほぼ明らかだ。少年の中二病時代の記憶検索エンジンをフル回転させても、こんな内装の建造物は見たことがない。

 

「日本はありえない……。装飾の豪華さからしてヨーロッパ圏か……? 最悪の場合は……」

 

 少年は自分の置かれた現状の把握が一番だと考え、目の前にそびえる巨大な扉を開けることに決めた。

 

 この先には何があるかわからない。

 これが少年の見ている夢で、扉を開けることによってまた別の見たこともない場所へと繋がっているかもしれない。

 はたまた現状を説明してくれる何かがあるかもしれない。

 どちらにしろ、変化はあるはずだ。

 

「よっこらせ、と」

 

 取っ手に手をかけて扉を押し開くと、見た目のような重さは感じずに、少年の意思通りに扉は素直に開いてくれた。

 

 そして少年が扉を開いた後に、最初に目にしたのは……

 

「……何者だ?」

 

 円卓に座る、美しい深緑の髪をした男装の麗人であった。

 

「…………」

 

 時が止まる。

 

 その代わり、彼女と少年の間に沈黙が流れる。

 

 少年はその麗人を前に言葉を失った。

 見たことのないほどに美しい女性。気品さを損なわない軍服のような男装。そして気高さを物語る顔つき。

 少年の意識はその女性に釘付けになってしまっていた。

 

 ゆえに。

 

「侵入者だ! 捕らえろ!」

 

 扉のすぐ横に立っていた甲冑を着込む男がそう叫ぶまで、自分がどんな部屋に足を踏み込んでしまったのかを理解しなかった。できなかったのだ。

 

 甲冑を着た騎士風の男達。

 円卓に座る男性達の服装。

 部屋の内部の構造や装飾。

 同じ人間とは思えないような美しさを持つ、男装の麗人。

 

 ここまで見てしまえば、少年は自身の置かれた状況が想像した最悪のパターンであることを理解した。

 

「異世界召喚ってやつか……」

 

 騎士風の男達に後ろ手に縛られながら呟いたことは、そんな言葉だった。

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