「あー、それで、これから俺はどうなるんすかね?」
ナツキ・スバルの問いに、無愛想な看守は相変わらずその仏頂面を崩すことなく黙りこんでいた。
騎士に取り押さえられたスバルが連れてこられたのは、冷たく暗い牢獄。入り口を含む前面は鉄格子に阻まれ、三方は固く分厚い石壁に囲まれている。
「どうなってやがる……」
スバルがこの牢屋に放り込まれたのは、これで
騎士の男達に袋叩きにあって拘束されたのも二度目だし、情けなく王城の中を手錠に繋がれたまま歩いたのも二度目だ。牢獄の看守長が犬の獣人だったことなど、驚くこともない。これも二度目だったからだ。
冷たい石床に胡座をかきながらスバルは考えていた。
この場所に来るまでの出来事、そのすべてにスバルは経験があった。それも昔のことではない。体感ではおそらくたった二日程度前のこと。デジャブ、という現象が稀に起こることは知っている。しかしそれは一時のもので、こんなに何度も連続して起こるものではないだろう。
まさか一連の流れが夢で、今起こっていることが現実でその夢を忠実になぞっている……いわば正夢なんてことはあるだろうか。
「いや、ありえない……」
スバルは二日前から、つい先ほど意識がはっきりとするまでの間のことを思い出していた。
その中でも最も衝撃的かつ印象的だった記憶だ。
突如牢獄を襲った瓦礫の大波。
地面を抉り取り、そのまま質量で押しつぶそうとしてくるそれは、スバルのことを巻き込みながら牢獄の中を蹂躙した。
もちろんスバルに抵抗する術はない。
状況を確認する時間など与えられなかった。理解する暇どころか、理解するための情報がなかった。
大災害は前触れもなくやってくる。
孤立した島国かつ地震大国である日本の出身であるスバルにとってそれは理解できていたことのはずだが、そんなことは実際に体感しないとわからない。
自然が牙を向けてしまえば、容易に人間など滅ぼせるのだ。
瓦礫の雪崩に巻き込まれたスバルは、全身がボロボロと表現するには優しすぎる状態になっていた。
ボロボロと身体からパーツが外れていたという意味ならば、的を射ているとは言えるがそれすら合っているか危うい。それらを拾い上げてつなぎ直したところで、たとえ彼を溺愛する父・賢一でさえそれが我が子であるとは気づかないはずだ。
身体の一部が消失する、という感覚は初めてだった。むしろ、身体の一部が奇跡的にも残ったと表現する方が正しいくらいだったと思う。
兎にも角にも、あれほどの体験を忘れることの方が難しい。
父の武勇伝ならいくらでも聞いたことがあるが、さすがに全身が離れ離れになる話を聞いたことはないし、地元の中学の不良でも精々タバコを咥えたとかそんなもんだ。
全身が瓦礫によって打ち砕かれ、まさに死に迎えられようといった時、スバルの身に大きな消失感が襲った。
ゾクリ、と半分以上が削り取られていたはずの背中に悪寒が走ったのだ。
自分が消えてしまうという単純な、それでいて圧倒的な感覚は、スバルの脳裏に、そして魂に恐怖という名前で刻まれた。
あの瞬間、死に迎え入れられる瞬間、あの感覚は忘れられない。できるなら二度と感じたくはない死の感覚。
死とは怖いものである、という原始的な感情が噴水の如く噴き出した。
思い出すと今でも全身が震えてしまう。身体が無事だとしても、魂に刻み込まれた恐怖は拭うことはできない。
そしてそれを、ただの夢の出来事だと断ずることはスバルには不可能だった。
「俺はあの時、確かに死んだはずだよな?」
あれだけのことがあって、誰かに助けてもらえたとは考えづらい。
この世界に、魔法に類するものがあるかはわからないが、身体がぐちゃぐちゃになって、肉塊の内側と外側が全く判別できないほどの状態から、これほどまでに元通りに戻せるとしたならそれはあまりに万能すぎる。現実的に回復したとは考えない方が良いだろう。
スバルの身体の状態、死んだと確信した後に意識がはっきりと戻った時、その時の周りの反応、その後に起こった出来事。
あらゆることを加味した結果、スバルは状況を静観することに決めた。
もし今、スバルが二日前に体感したと思われる事象をなぞっているというのなら、まだ猶予はあるはずだ。
あの時、スバルの処刑の日に騒動は起こった。テロのようなものだろう。馬鹿なことをするものだと思う。
だがそれはつまり、二日後まではスバルの身の安全がほぼ確保されているという意味だ。
だからスバルは、この今日を含めた三日間を使って状況を見定めることに決めた。まずは一日目二日目は大人しく過ごす。周囲がどのように動くのかを観察する。そして三日目に行動を起こすのだ。
そこまで決めたところで、牢獄の奥からコツコツと靴の裏が地面を叩く音が聞こえてきた。
その音は徐々に大きさを増し、鉄格子に背を向けるスバルの後ろで止まった。
誰なのかは見当がついている。
これがもしスバルの知っている流れをなぞるものなら、スバルの元を訪問する者など一人しかいないからだ。
「もう良いぞ。下がっていてくれ。私はこの男に話がある」
「はっ」
狭い牢獄の中を幾重に反響してもなお、凛とした声はその美しさを失われない。
その声にスバルのことを見張り続けていた騎士は鎧をガチャガチャ言わせながら、奥の方へと消えていった。
これでスバルを見下ろす来訪者。それに背を向けて胡座をかくスバルという構図が出来上がった。
そう言えば騎士とのやりとりを忘れていたな、とスバルは思い出していた。
スバルの記憶が正しければ、スバルの安すぎる挑発に簡単に乗っかった見張りの騎士がこの場所についてポロポロと零してしまう、というやりとりがあったはずだ。しかしすぐさまそれを阻むかのように、真後ろの人間が介入する。そうして彼女の登場となったのだ。
まあ気にすることもない。大体の流れは踏襲しているし、彼女が騎士にかけた言葉も全く同じだった。
「ーーーーー」
背後に立つ彼女は一向に喋り出す気配がない。黙ってスバルを見下ろしているだけだ。
人が二人いる時の、沈黙が流れる時間ほど長く感じものはない。一秒は一分に感じるし、一分は一時間にも感じてしまう。長い引きこもり期間を経ることで対人スキルが大幅に削れてしまっているスバルにとって、沈黙とは苦痛と同意であった。
くそ、なんで話し始めないんだ、とスバルは心の中で悪態をつき始めるくらいになってようやく気付く。
そういえばここでの彼女との会話は、スバルの方から切り出していたのだと。
「はっ、なんだ。人生最後の会話が美少女になるなんてな。みゃい、め、冥土の土産ってやつ?」
か、噛んでしまったーーーーー!
くそ! なんたる失態!
顔を見合わせていないのが幸いだ! なんたって顔から火が出そうなほどに真っ赤っかだからな!
ここにきてコミュ力の無さが露呈してしまった!
口からぽんぽん出てくる言葉ならそう噛むことはないが、頭の中でこの時はなんて言っていたかを思い出して整理してから発すると、どうしても意識してしまう。意識してしまえば噛んでしまう。スバルのコミュニケーション力はその程度だった。
「………………自らの置かれている状況は理解できているようだな」
「なんか沈黙長くなかった!?」
あまりに長い沈黙は、スバルが噛んだ件をそのまま流すという意味のようだ。
しかしスバルにとっては好都合である。
ファーストコンタクトでの失態が、この後の流れを変えてしまう恐れがある。スバルはなるべく、前に体験したと思われる出来事を踏襲したいと思っている。
「一応聞いとくけど、俺を釈放しに来たとか、期待しても?」
「ない。貴様の処遇はすでに決定している」
「ですよねー」
同じだ。
スバルが記憶している会話と一字一句重なる。
もはやこれを単なる偶然と片付けてしまうことは難しくなりつつある。
ここまでの出来事、その重なりを無視することはできないし、このまま静観を貫いたとして違いが生まれるとは考え難い。
その上でスバルはある決心をすることにした。
それは
二日後、この牢獄は何者かの襲撃を受ける。
単独犯ではなく、グループでの犯行だ。目的は定かではない。戦力の大きさもわからない。もしかしたら、ここ以外の場所も襲撃されていて、ここが主戦場ではなかった可能性もある。
ただ、この牢獄が襲われることだけをスバルは理解していた。
そして手錠や足枷によって身動きが取れない以上、この場にとどまるしかないスバルは必ず戦闘に巻き込まれる。自衛手段を含む戦闘力が皆無のスバルは、ほぼ確実に死ぬだろう。
だから、
それによって事態がどのように変化するのか。それが良いことなのか、悪いことなのかはわからない。
まずは一つ目の変化だ。
スバルは今まで背中を向けていた相手に、今度は身体の正面を向ける。これでスバルとクルシュは対面する形になる。
……目にするのはこれで五度目か。
そのほとんどが一瞬の出来事だったが、何度見てもこの麗人の美しさは変わらない。そして何より、スバルには彼女が眩しすぎる。彼女が輝いて見えれば見えるほど、スバルは自分の鬱屈とした影が強くなる気がするのだ。
「あー、君はなんで俺の元に来た? 君はおそらく……カルステン公爵家当主のクルシュ・カルステンだろ?」
「……ほう」
クルシュは品定めするようにスバルのことをジロジロと眺める。
一つ目の変化はこれだ。
元の世界から異世界に召喚されて、まだ一時間といったところか。体感としては三日か二日以上は経っているが、限られた時間の中でスバルがクルシュのことを知る時間はないはずだ。
「いかにも。私がカルステン公爵家当代当主、クルシュ・カルステンだ。貴様の名は?」
「……!」
クルシュはスバルが自身のことを知っていても不思議がったりはしなかった。自分の名がある程度、市井に知り渡っていることを理解しているらしい。本当にみんなが知っているのかは怪しいところだ。
しかし問題にすべき点はそこではない。
体感で三日前、クルシュと交わした会話の内容が思い出される。
『「おい! 待ちやがれっ! 勝手に期待して、勝手に失望してんじゃねえよ! 俺の名前も聞かねえで、お前の物差しで計ってんじゃねえよ!!」
「貴様の名など、覚えておく必要は無いだろう」』
思い出しても胃の奥が苦くなるような記憶だ。
縋りつくスバルから離れていくクルシュは、ゴミを見るかのような目で吐き捨てるようにそう告げた。
それは完全な拒絶だ。スバルとの交流の全てを拒んでいた。
だから、名乗ることすら許されなかったスバルにとってクルシュからそのような申し出を受けることは、大きな衝撃となってスバルにぶつかってきた。
「……俺の名前はナツキ・スバル。右も左もどころか、上も下も、俺の行く先もここがどこなのかも全くわかってねえ。金もねえし帰る家すら……。ちょっと待て、俺って結構やばくね!?」
「身元不明で無一文。無知で無謀とはある意味恐れ入るものがあるな」
現状を省みてスバルは己の窮地っぷりに驚く。能天気に捕まってはいるが、釈放されたところで頼るようなアテはない。
そんなスバルをクルシュは哀れなものを見るような目で皮肉った。
二つ目の変化だ。
意図したわけではないが、スバルの名前をクルシュに伝えることができた。
「ナツキ・スバルか。貴様は罪人だが、私ならば貴様に救済の道を与えることはできる」
その話ならば、大まかな話としては把握している。カルステン家は何か大きな事を起こそうとしていて、それには人手と物が足りない。スバルが一芸を持っていて、それをクルシュが欲したならば家名が汚名に変わることも辞さないという。というのもスバルの推測では、その汚名を挽回できるほどの何かを起こそうとしているのではないかと考える。
クルシュはカルステン公爵家の当主にして……そう、王選の王候補だとも言っていた。その言葉の意味を知るには、この国の背景を詳しく知る必要があると思うが、クルシュは国の大きな利益になりうる何かを成そうとしている、ということまでスバルの思考は行き着いていた。
「カルステン家は今、人と物を集めてんだろ?」
「……む?」
「そんで俺に何ができるか、それを確認しに来たってわけだ」
「……」
クルシュはスバルの言葉に対して、沈黙を選択する。
二度目になるが、沈黙とは肯定である。
クルシュが図星を突かれて黙っているのか、それともそれ以外の理由があってそうしているのかはわからない。
そうしていると、スバルの前髪を小さく風が撫でた。
こんな閉鎖されているような場所にも風が吹くのかと、不思議に思っているうちにクルシュがその口を開いた。
「どうやら嘘は吐いていないな。確信を持って言っているらしい」
「……うん?」
「して貴様、
「……」
どこの陣営の者だ? だと?
言っている意味がわからない。
スバルは無宗教者だし、両親だってそうだ。人類が対立する場合、最も大きな枠組みで分けられるのが宗教だが、スバルは無所属ということになるだろう。
さて、いよいよクルシュの言っていることはわからない。
異世界で何かしらの派閥を作れる、または派閥に入れてもらえるような身分であればスバルはこんな場所でこんな無様な姿を晒してないはずだ。
「陣営……って何だ?」
「……嘘を吐いていない、か。何も知らぬ一般人のはずが当家についてそこまで知っているのでは、敵対陣営のスパイだと勘繰られても仕方ないだろう。許せよ、ナツキ・スバル」
「うん、これっぽっちも意味がわからん」
一連の流れはスバルの理解の範疇を超えた者であることだけが、唯一スバルに理解が及ぶものだったりする。
「『風見の加護』という加護がこの身には備わっている。易く言うならば、嘘を見破れる。これを知らずに話すのも、心持ちが良くないのでな」
「……加護って何だ?」
「……驚いたな。貴様、無知を通り越して最早赤子のようではないか。時間が惜しい。察してくれ」
「了解」
『加護』という言葉自体はわかるが、この世界ではまた特別な意味を持つようだ。
スバルは今まで溜め込んだファンタジー要素をひたすらに網羅、取捨選択していくことで近いものを選び取る。
おそらく……生まれついた能力、神からの祝福とでも言おうか。才能の中でも目に見えて分かる才能のことだ。異能に近いもの、と判断する。
つまりクルシュは、生まれついた時から嘘を見破れるようになっていたのか。
「オーケー。分かった。一言いいか?」
「構わん」
「それは反則だろ!」
「十分に承知している。だからこうして打ち明けているのだ」
ふざけるな! と言いたいくらいだ。
嘘を見破れる? ありえない! と叫びたい。それはもう、スバルの常識内の人間の域をはみ出している。
どうやらこの世界の人間の力は、元の世界の人間基準で考えてはいけないようだ。一個人としての力が違いすぎる。
クルシュが特別な人間であること。それはスバルにも何となくであるが、掴めていた。しかし実際にこうして目に見える形での才能を突きつけられると、ああやっぱり違うのだと実感させられる。彼女は生まれた時から世界に愛されているのだ。
「待てよ? 嘘を見破れるなら、俺の潔白も証明できるんじゃないか?」
「……ほう。どうやら本当に貴様は自分が潔白であると信じているようだな」
「分かるかっ? 『風見の加護』、流石だぜ!」
クルシュはあっさりとスバルの言葉は真であると頷いてみせた。
スバルは今知ったばかりの『風見の加護』に対して親指を立てる。グッジョブだ。
こうしてスバルの無実が証明された。今にもこの牢獄から脱出できるはずだ。
「期待させてしまったのならすまない。貴様が潔白だろうと、有罪であることは変わらない」
「ははははは! 加護サイコー! いえー……い?」
「貴様が自分のことを無実だと思い込むのは勝手だが、実際に王城に侵入したという罪が流れることはない。そういうことだ」
「そういうことかー!!」
なるほど、クルシュの言っていることは簡単だ。
スバルが無実だと確信しているのは当然だ。罪の意識があって王城に現れたわけではないのだから。しかしスバルは王城に現れてしまった。犯罪は起きている。
結局のところクルシュからしたらスバルは、「無罪だ!」と叫び続けているようにしか見えないのだから看守の見方とあまり変わらない。
「本題に移ろう。貴様は
「どこまで、なんて言われてもな……。クルシュが……あ、名前で呼んでいい?」
「かまわん」
横文字の名前は慣れない。家名に「卿」とな「様」とか付けられるような身分であるはずだが、スバルはこういう呼び方の方が慣れている。おそらくアニメの見すぎ、ラノベの読みすぎである。
「クルシュがカルステン公爵家の当主で、しかも王選? とやらの王候補なこと……。そんで何かでっかいことをやらかそうとしてて、それが国にとって利益になること……てとこか?」
「概ね間違いない……。それだけか?」
「……うん」
クルシュに問われてスバルは記憶の隅までクルシュとの会話を思い出すが、クルシュに関してわかっているのはこの程度だ。
「一般人の知る範疇を僅かに超えている。他陣営の斥候だと考えるのが常識。しかしそれには明らかに人選ミスだ」
「人選ミスっておい」
クルシュに敵対する人物の差し金でないことは、スバル自身がよく理解しているが、それでも人選ミスと言われることに少しばかりがっかりする。
まあ無様に捕まったり、敵であるはずのクルシュの目の前に姿を現したり、不自然なほどに無知であるはずなのに、カルステン家の事情にほんの少しばかりの理解がある辺り、怪しさ満点だ。疑ってくれと言われているようなものである。
「貴様、何ができる?」
「できないことの方が多いけど、あえて言うのなら裁縫だな!」
これでも手先の器用さには自信がある。
人一人の規格がおかしいことになっている異世界で、スバルの手の器用さがどのように活躍するかはわからないが、家庭科の授業で「あら、菜月くん上手ね」と言われる程度だ。何の役にも立たねえな。
「……期待した私が悪いのか?」
「残念ながら、クルシュの望むような物は俺は持ち合わせてないよ。天衣無縫の無一文だって言ったろ。才能の方も無一文だから」
残念人間すぎる。
むしろスバルのどこに期待したのかと聞きたいくらいだ。
「ただ、一つだけ聞いておいてほしい」
「何だ」
「二日後、この牢獄は誰かに襲撃を受けるはずだ。クルシュにはそれを止めてもらいたい」
「……何を根拠にそんな可能性のないことを、寸分の嘘も交えることなく断言できる? ルグニカ王国の王都のど真ん中に攻め入る者なんていないだろうに。そんな狂ったこと、同じように狂った魔女教くらいにしかできまい。大罪司教の『怠惰』か『強欲』、その辺りが出てくるのならば話は別だがな」
「……その魔女教がどうとかはわからんが、頼む」
スバルは自分が生き残ればそれでいいと思っている。
スバルはクルシュならば、ある程度の人を動かせる力があると信じている。
こうして注意喚起しておけば、何かが変わる可能性が出てくる。
そしてそれに乗じて、スバルの扱いにも変化が起きてほしいと思っている。
理想としては万全の状態でクルシュが襲撃者を迎え討ち、これを殲滅。その功績が王国に認められて称えられるが、その場でこの襲撃の報はスバルによってもたらされたことを告げる。そうしてスバルは釈放される、という流れだ。
あくまで理想なのだからこの通りにいくとは思っていないが、せめてクルシュには襲撃を食い止めてもらいたいと思っていた。
「時間だ、ナツキ・スバル。良い獄中生活を過ごせ」
「だったらもう少し部屋の明るさとか改善した方が良いと思うぜ。あと飯がマズイ」
「それは貴様が捕まったことが悪いだろう」
「言えてるな」
捕まらなかったら夜を過ごす場所もなかったし、飯も買えなかったことを考えるとこの場所も悪くはないのかもしれない。
飯に関しては、日本食で舌が肥えまくっているというのもある。味付けが大雑把すぎて、カップ麺やスナック菓子を食べていたスバルでさえ辟易してしまうほどだ。
クルシュはスバルのことを一瞥した後、長い髪に揺らしながら背中を向けて去って行った。
スバルはそんなクルシュを眺めながら、何とか最低ラインはクリアしたのだと実感していた。
ナツキ・スバル処刑、何者かによる牢獄襲撃まで、残り二日。
運命のカウントダウンは止まることを知らない。