真剣で私たちに恋しなさい!   作:黒亜

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一子に関してはエンドとアフターの2つがあります


一子エンド「告白」

「待って!!海斗!!!」

 

 

この世界に別れを告げた俺を止めたのは一子の声だった。

もう会わないつもりだった、というか会わせる顔なんてない。

だが、無視できるはずもなくその場に立ち止まる。

 

 

「どこに行く気なの…」

 

 

おそらくもう全て知っているのだろう。

俺の過去も俺がこれからどうしようとしているのかも。

わざわざ来たのはやはり裏切り者に直接文句でもあるのだろうか。

 

 

「なんで行っちゃうのよ!行かないでよ!」

 

「へっ?」

 

 

今なんて言った?“行かないで”?

意味が分からない、どうして俺を止める必要がある。

どんな意図が隠れているにせよ、それは俺の決心を鈍らせる。

 

 

「なんでなのよ…!」

 

 

止めてくれている。

それは嬉しかったが、俺が戻れば…

俺は気持ちを悟られぬように努めて冷静な口調で返す。

 

 

「俺は元々あっちの世界の人間だ。それこそ物心ついたときからな。だから、

別に何もおかしいことはない。俺がいることでお前らに迷惑かけちまうから

な。……違うか、結局俺が弱いからただ逃げてるだけだ。」

 

 

そうだ、人に迷惑をかけるなんて言い訳。

今、初めて分かった。

俺はこっちの世界でまた孤独の退屈を味わうのが怖かったんだ。

 

 

「そんなことない!!」

 

 

俺のそんな重い思考を知ってか知らずか、一子は吹き飛ばすように叫ぶ。

 

 

「アタシを何回も守ってくれた。アタシのために努力を馬鹿にした相手に怒

ってくれた。アタシと一緒にいてくれた…」

 

 

一子の剣幕に俺は口を挟めはしなかった。

 

 

「海斗は強い!海斗は頼もしい!海斗はかっこいい!それで何よりも海斗は

優しい…。面倒くさがったり、ちょっと鈍かったりするけど、誰よりも海斗

は優しさを持ってる。」

 

 

一子はそこで一呼吸おき、決意したように頷く。

 

 

「そんな海斗だから、アタシは海斗に恋をしたの!大好きになっちゃったの!」

 

「…一子が俺のことを好き?」

 

「そうよ!好きな人じゃなきゃ、作ったことも無いお弁当に挑戦して食べて

もらおうなんて思わない。好きな人じゃなきゃ、柄じゃないおしゃれなんか

して二人きりで水族館に行きたいなんて思わない。海斗のことが本当に好き

なの…。」

 

「……………………」

 

 

何も言葉が出なかった。

好きだと、恋をしていると目の前の彼女は言う。

俺に…?

正直、意味が分からなかった。

 

だが、そんなことは有り得ないと一言で片付けられない。

それほどに一子の瞳は真剣だった。

なら黙っているわけにはいかない。

 

 

「一子が本当に俺のことをそんな風に思っているなら、尚更一緒にいられな

い。俺といたら確実に不幸になる。大切な奴を幸せに出来ない俺じゃ優しい

お前とはつり合わない。」

 

「え…」

 

「一子、お前と会えて最高に幸せだった。」

 

 

最後に本当の気持ちを、甘えを断ち切るために。

そう言って、背を向ける。

つくづく自分は最低な奴だと自覚する。

 

辛い。

今までにだって、別れはあったのだと思う。

だが、それを別れだと認識することはなかった。

自分にとって他者の存在など、それほどどうでもいいものだったから。

 

しかし、今はどうだろう。

どちらも身体は何ともなく、それこそどちらが死ぬわけでもない。

ただ、少し前の時間に戻るだけ、出会う前の時間に。

こんな平和的な別れがどうしてこんなに辛いのだろう。

どうして胸が締め付けられるようにきしんでいるのだろう。

 

相手の顔を見ることが出来ない。

笑顔で別れを言うことが出来ない。

 

ゆっくりと歩いていたはずの俺の足は、その場から逃げるように速く動いて

いた。

もしも俺が普通の生活を送って、普通の高校生として一子と出会っていたら、

同じような関係になって、真正面から気持ちに向き合えたのだろうか。

そんな叶いもしない非現実的妄想も虚しいだけだ。

馬鹿な考えを振り払うように、寝ぼけた頭を叩き起こすように、俺はさらに

早足になる。

忘れられるものなら忘れたい。

そんなことを考え、全てを閉じようとしたとき…

 

急に後ろから引っ張られた。

見れば、左手の袖が掴まれていた。

とはいっても、指でギュッと握っているだけ。

だが、それが強く強く押さえられていることは握られている服のしわから一

目瞭然だった。

とてもじゃないが顔なんて見る気にはなれなかった。

 

 

「海斗…」

 

 

一子がポツリと呟く。

俺はどれだけ責められるのも、胸に刺さる言葉も覚悟のうえだった。

それだけのことをしたのだから…。

 

 

「アタシね、海斗が好きなの。」

 

 

だが、続いた言葉は意外なものだった。

ついさっきも聞いた同じ言葉。

しかし、先程とは声の大きさも調子も違う。

ゆっくりとした口調だった。

激しくぶつけるような声ではなく、脆く消えてしまいそうな震えた声。

 

 

「海斗が初恋なんだ、アタシの。初めて人を好きになったの。ファミリーの

皆は小さい頃から一緒にいて、全員大好きなんだけど…その好きとは全然違

くて、いっぱい楽しくて、いっぱい苦しいの。一緒にいて海斗が笑ってくれ

るとアタシもすごく満たされた気持ちになって、でもその笑顔が他の子に向

けられてるとモヤモヤした気持ちになっちゃうの。」

 

 

何故だろう。

とても小さく不安定な声なのに、驚くほどその強い想いが伝わってくる。

指で掴んだだけの簡単に外れてしまう結合。

それでも俺に振り払うことは出来なかった。

 

どうして俺のことをここまで真っ直ぐに思えるんだ。

その声の端々には嗚咽すら漏れている気さえする。

ますますもって、顔は見られない状況になった。

故に背は向けたまま、動けない。

 

どんだけ良い奴なんだかな。

だからこそ、俺は…。

 

 

「一子、俺なんかをそんな風に見てくれてありがとな。お前は俺のかけがえ

のないパートナーだ。だから、大切なお前には普通の奴と恋をして、幸せに

なってほしい。俺といたら、不幸になるのは目に見えて…」

 

「違う!違うよ、海斗!!」

 

「は…?」

 

 

俺の言葉を遮って叫ぶ一子。

背中越しでも必死な様子がひしひしと伝わってくるようだった。

 

 

「海斗がほかの人とは違う大変な世界で生きてきたのは分かった。だけど、

アタシはそんなの実際に見たこともないし、海斗の辛さが全部分かるわけじゃ

ない。…それにアタシ、バカだから。一緒にいたらどれだけ大変なことが待っ

てるのかとか、どれだけ危険なのかとか、海斗の心配していることだって、

はっきり見えてないんだと思う…。」

 

 

言葉の1つ1つがしみこんでくる。

それだけ一子は本気で話している。

俺は後ろからの声に黙って耳を傾けるしかなかった。

 

 

「でも、そんなことは関係ないの!アタシの想像以上の辛さがあったとして

も、そんなのは海斗がいないことに比べれば、全然なんともない…。海斗の

笑顔が見られないほうがアタシには数百倍も辛いの…。逆に海斗が隣にいて

くれれば、アタシはそれだけで世界一幸せ。どんなことだって乗り越えられ

る自信がある。アタシも人間なんだから生きてれば、不幸がないなんてあり

えないわ。だから、アタシは海斗がいない不幸だけの人生と、たとえ不幸が

あっても海斗がいる幸福もある人生だったら、絶対どっちもあるほうがいい!

ただアタシは海斗と歩きたいだけなの…。」

 

 

一子の一切包み隠すことがない感情の吐露。

それが途切れたかと思うと、いきなり強烈な力で顔を押さえつけられた。

突然だったからとかではなく、抗うことの出来ない力。

一子に悲しみを与えてしまっている現実から目を背けている俺。

そんな俺の顔を無理矢理動かし、自分と向き合わせる。

 

 

「アタシは海斗に真剣に恋してるから!」

 

 

その瞳は涙で溢れていて必死に流すまいとこらえているようだったが、数滴

がこぼれてしまっていた。

発する言葉は完全にくぐもった涙声で、けど何度も聞いたはずの告白は今ま

でで一番心に深く入り込んできた。

本当にこいつは………っ…。

 

 

「…一子、お前は本当にバカだなぁ…」

 

 

そう言って、ぐりぐりと頭を撫でる。

声を発した俺はどんな表情をしていたのだろう。

色々な感情があったが、少し笑みがこぼれていたかもしれない。

一子の悲しみに染まった顔に驚きがあらわれる。

 

 

「な、なによぉ…、ひどいわ。アタシだって頭悪いなりに一生懸命話したの

にぃ…」

 

 

ぐずぐずと鼻をすすりながら、そんなことを言う。

お前の今の崩れた顔を見れば、必死なことくらい嫌でも伝わるっての。

その真剣さも。

 

だから俺も真剣な気持ちで返す。

 

 

「俺にふりかかる危険はそんなに簡単なもんじゃねぇんだよ。それこそ、全

部なくなるのには一生かかっちまうかもな。」

 

「えっ…?」

 

「だからよ、こっちで俺が平和に暮らせるようになるためには、それまでず

っと一生俺のパートナーとして、嫌でも隣にいつづけなきゃいけないんだぜ。

呼び止めるっつーことはそういう責任を取る覚悟がだな……」

 

「海斗っ!」

 

「うわ!」

 

 

一子が俺の言葉の途中で待ちきれなかったとばかりに思い切り抱きついてく

る…いや、正確には飛びついてきたか。

安心して、今までこらえていたものも決壊してしまったのか。

笑ってんのか泣いてんのか分からないようなぐちゃぐちゃの表情をしてやがる。

 

 

「絶対よ!行っちゃヤダからね。もう二度とアタシの前からいなくならない

って約束して!」

 

「ああ、一子が泣きわめくのが面倒でもうそんな気は起きねぇよ。」

 

「な、泣きわめいてなんていないでしょ!もぅ、またそんな適当な理由つけ

て……。ほんとのほんとに約束してくれるの?」

 

「大丈夫だって、約束するから信じろ。」

 

 

一子はその言葉にすぐに頷くことはなかった。

こちらをジロジロと見てくる。

 

 

「ん〜、黙っていなくなろうとしちゃった海斗が言ってもいまいち説得力に

欠けるわよ。こんな口約束じゃ簡単に覚えてないこととかにしそうだし…。

信じられるかビミョーだわ。」

 

 

なんという疑心暗鬼状態。

俺、えらく信用がなくなってるなぁ。

まあ、全部自業自得なんだけどさ。

だけど…。

 

 

「俺は本気だぞ、一子。」

 

「へ?」

 

 

俺はふてくされて、そっぽを向いている顔を優しく且つ強引にこちらへ向け

て、そのへの字になっている唇に自分のものを重ねた。

数秒触れ合ったあと、顔をゆっくりと離す。

 

対峙する一子の顔は今まで見たことがないくらい朱に染まっていて、まだ上

手く状況が飲み込めないのか、絶えず口をパクパク動かしていた。

なんか餌を欲しがっているひな鳥みたいだな。

 

 

「今、キキキキキキキ、キス……キス!?え、え!?」

 

 

信じられないといった顔で何度も自分の指で唇に触れて確認している。

いや、そんなので分かるわけないのだが…。

 

 

「あんだけ好き好き言っといて、今更文句なんか言うなよ?」

 

「いや、あの…キスが嫌なわけじゃなくて、そのいきなりだし…」

 

 

落ち着かない一子の手を上から包み込んでしっかりと握る。

 

 

「俺はもう離れねぇよ。俺だって好きな奴のそばで生きていきたいんだ。」

 

「か…海斗…。」

 

「こんな心のこもった接吻(くちやくそく)でも信用できないか?」

 

「…一回だけじゃダメよ。今まで心配させた分、もう一回…」

 

 

その後、もう一回と頼んだはずの一子は何度も何度も口付けをしてきた。

 

俺のことを好きと言ってくれた少女。

自分はずっと許されない存在だと思っていた。

友達もいなければ、親にまで嫌われた。

だけど、今俺がここに残ろうとするのは一子に許してもらったからじゃない。

俺がこいつと一緒にいたいと思ったから。

誰にも縛られずしたいことをする、それが俺だ。

 

数えてもいない何度目かのキスが終わったとき、一子は満面の笑みを浮かべ

て、こちらを見る。

 

 

「海斗、大好きよ。」

 

 

一生つきあってくれよな、パートナー。




次回は一子アフターをお届けします
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