ペアが決まったとはいえ、その後の俺の扱いや生活に変化があるわけでもなく
ほとんど誰とも話さず、学校にいる間は本を読んで、ごくたまに川神一子が話
しかけてくるという、なんら前と変わりない日々を過ごしていた。
そして、あっという間にタッグマッチ前日となった。
「では、残りの時間はペアで過ごすように。」
話の流れからすると、午後の授業を明日のタッグマッチに向けてペア同士の練
習や打ち合わせにあてるようだ。
当然、しらばっくれて帰るわけにもいかないだろう。
さて、どうするか。
肝心の川神一子は遠くで何か言われている。
「気をつけろよ。」
「何かあったら、すぐに連絡しろ。」
うむ、警戒心はあいかわらずMAXのようだ。
そして、仲間にうなずき返した少女がこちらにやって来た。
「じゃ、流川君、ヨロシク!」
「ああ。」
「明日はアタシが敵を倒すから、流川君は身を守るだけでダイジョブよ。」
「おう。」
「出来る限り、守りながら戦うわ。アタシに任せて!」
胸をはって、自信満々に話す目の前の少女。
やはり、この状況でも負ける予定はないらしい。
勝ち上がることしか見据えていない、尊敬に値するほどの自信だ。
まあ、当然か。
この少女を初めて見たのは同じクラスになる前だった。
やっと日が出てきた頃の早朝、川辺にタイヤをひきずって走る姿があった。
ものすごく時代錯誤の光景に最初はなんかの撮影かと思っていたが、次の日も
その次の日も同じ姿がそこにはあった。
その少女は休憩も少々に、登校時間ギリギリまで走り続けていた。
その毎日の積み重ねが彼女の自信、支えになっているのだろう。
自分で築いた土台だからこそ、安心して堂々と立っていられる。
見ていて気持ちのいい生き方だった。
目の前の少女は笑顔だ。
あれだけの鍛錬をしていても、苦に感じていないのだろう。
努力が好きなのだ。
「…っと、聞いてる?流川君。」
「あ?」
「だから、これから何しよっか?」
知らないうちに話が進んでいた。
といっても、俺は話しすぎると目立ってしまうし、練習や特訓なんてするのは
論外だ。
だが、仮にも授業の代わりの時間だ、帰るなんてことは出来ない。
さて、どうしたものか。
「じゃあ、しりとりでもしましょ。」
「は?」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまった
おそらく練習とかは俺がしたくないというのを察して、避けてくれたのだ
ろうが、まさか選択肢にしりとりがあるとは思わなんだ
「じゃ、アタシからいくわね、”りんご”」
なんか勝手に始まった。
別に二人だけだし、目立つこともないか。
だからといって、あまり危ない橋は渡りたくない、ここは……
「“五感”」
「…………」
「…………」
「勝ったわ、初めてしりとりで勝てた!」
ものすごく笑顔だ、てか初めてなのか。
相当、強い奴とやっていたのだろう。
その後、何度か勝負をして2ターン目で必ず俺が敗北していた。
そして、6度目くらいの勝利にさしかかろうというその時、
「アタシ、もしかして遊ばれてる?」
あ、ばれた。
流石に気づかれたか。
……いやここまで気づかないのがどうなんだ。
「ひどいわ、ひどいわ、そうやってアタシで遊んでいたのね~」
なんというか本気で悔しがっている。
若干、涙目でこちらに訴えかけてくる。
演技でもなんでもないその姿が妙に可笑しかった。
「あ!」
「ん?」
「今、笑ったわよね」
「な…!」
なんだと、まずい、不覚だ。
今まで根暗のキャラで通してきて、笑みなんて微塵も見せてこなかったのに、
まさかこんなとこでミスるとは…、顔を前髪で隠しているとはいえ油断しすぎ
たな。
というか、この場をどうするか、否定するのもおかしいし…
そんなことを考えていると絶好のタイミングで終了のチャイムが鳴った。
「それじゃ。」
「あ、待って…」
僥倖と思い、静止を振り切り、すぐに教室から飛び出した。
その後は目立たぬよう普通に歩いた。
いよいよ明日がタッグマッチだ。
感想くださってる方ありがとうございますね。
しっかり読ませていただいてますよ。
ログインしなくても大丈夫なのでどんどんください!
私の糧になりますw