真剣で私たちに恋しなさい!   作:黒亜

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前触れ

様々な電子音が混ざり合い、雑音となっている。

周りには学生の姿があり、学校帰りなのか制服姿も少なくない。

 

ジーー

 

そう、ここはとあるゲームセンター。

俺の場合、特にゲームが好きなわけでもないので、あまり縁のない場所では

ある。

実際、来た回数も片手で数えられるほどだろう。

 

ジーー

 

そんな俺が後輩の1年生の女の子二人を連れ添ってゲームセンターに来てい

るという奇特な状況にあるというのには勿論理由がある。

言うまでもなく、デートなんかではない。

 

ジーー

 

だから、そんな目で見ないでくれ…。

さっきから知らない男とすれ違う度に羨望と憎悪のこもった目で見つめられ

る。

手をつないでいるのが誤解を生むのだろうが、これだって1年の子が“はぐ

れたら困るので、手借りていいですか…?”とか言ってきて、特に断る理由

もなかったからつないだだけである。

確かに人は多いし、そこに深い意味なんてないんだよ。

 

 

「おい、そこの兄ちゃん、贅沢なご身分じゃねぇか。」

 

 

うわー、ベタベタな不良来たよ。

その数は3人ほど、いつも夜に相手しているのに比べればかなり少ない。

まあゲーセンだし、昼間っから群れてはいないか。

 

無論、相手にするはずもないので女の子の手を引き、素通りしようとするが

そこは流石ベタベタの不良、

 

 

「何シカトきめてくれてんだよ、アァ?」

 

 

こんな反応が返ってくるわけで。

案の定、前に立ち塞がってきた。

ほんと、こういう人種って暇だよなぁ。

 

 

「邪魔なんだけど。」

 

「あ?お前今の状況分かってんのか?」

 

 

なんだろう、前にも同じような台詞を聞いた気がする。

異常なまでに現状を見せたがる奴らだ。

こいつらは基本自分たちが優位に立ってると勘違いしてるからな。

 

 

「あのさ、怪我する前にどいたら?」

 

 

いちいち答えるのも面倒くさいので、さっさと最後のチャンスをやる。

いや、それを受け取る奴には今まで会ったことないんだけどさ。

 

さりげなく、自分が前に出ることで1年生の子たちを後ろに下げておく。

こいつらも例にもれないだろうからな。

 

 

「てめぇ、女の前だからって調子に乗りやがって…。手出さないと思ったら

大間違いだぞ。」

 

 

先頭に立っていた一番きれやすそうな大柄な男が殴りかかってくる。

最近こんなのばっかだな……慣れたけどさ。

 

力任せの直線的な攻撃。

昨日の百人組み手のせいか、いつにも増して単調すぎるように感じる。

首だけを動かして、つまらないそれを避ける。

そして、空ぶって距離がつまった相手の頭に頭突きを決める。

 

見かけだおしのでくのぼうは、ガクリと白目を剥いて崩れ落ちた。

あっけねぇ…。

 

 

「て、てめぇ!!」

 

 

仲間が倒れて焦ったのか、1人が思い切り突っ込んでくる。

だが、そんな動揺しながらの突撃なんてな…

 

俺はそんなフラフラの小心者を足払いして、バランスを崩す。

転ばせはしない。

あくまでバランスを崩すだけ。

だが、予想よりも相手は足元がおぼつかなかった。

 

 

「うぁっ…」

 

 

その不安定な体に駄目押しするように背中を蹴り飛ばす。

勿論、残りの1人に向かってな。

小心者は面白いほど倒れこみ、きっちり巻き込んで転んでくれた。

まあ、頭突きとは違って気絶するほどのもんではないが…

 

 

「まだやるか?それとも、これ使って欲しい?」

 

 

そう言って、華奢な手を握る両の手を見せる。

こいつら相手にわざわざ解く必要もないと思ったので、手はつないだままで

使わずに戦った。

それでも、このザマなんだからいくら馬鹿でも意味は分かるだろう。

 

 

「いや、帰るよ。帰るからさ。」

 

 

声がうわずっている。

どうやら察してくれたようだ。

意識がある2人の男はもう1人を担いで、足早にゲームセンターから出てい

った。

 

ふぅ、後輩も無事に守れたし、良かった。

と、その二人は…

 

 

「ありがとうございます、先輩。やっぱ、カッコイイです。」

 

「頼りになります♪」

 

 

そう言って、先程よりも密着してきた。

いや、だからそんなことすると…

 

ジーー

 

…もう諦めよう。

 

っと、話がだいぶ逸れたな。

俺がこんなところに来ているのは理由がある。

 

昨日の今日で依頼の真っ最中なのだ。

ちなみに分かったと思うが、依頼主は俺の両サイドにいるこの二人。

依頼内容は…

 

 

「あ、これですこれです、先輩。」

 

「あのウサギのなんです。」

 

 

クレーンゲームの景品を取ってほしいというものだった。

 

 

「ウサギって…。結構でかいな。」

 

「はい、というかこれ自体が在庫処分の特別な台で…」

 

 

彼女が言うには、これはお店で売れ残った商品がごちゃまぜになっている少

し他とは変わったものなんだという。

確かにジャンル問わずに色々な商品が入っている。

 

そして、その目的のウサギのぬいぐるみは外見も非常に丁寧に作り込まれて

いて、とても売れ残るような物には見えない。

だが、どうやら販売されていたときは高価すぎて買い手に恵まれなかったの

だと言う。

 

それがクレーンの景品となれば、かなりの得だ。

まあ、でかすぎて飾りのような扱いだが。

大方取らせる気なんてないのだろう。

客引きというやつだ。

 

まあ、かかりやすいとこを探して、計算でもすればいいんだろうが、何しろ

クレーンゲームなんて生まれて初めてだ。

しかも、初陣がこんな大物ときた。

果たして、取れるのか……日が暮れるんじゃないか?

 

 

 

ガコン

 

 

 

「凄いです!先輩、まさか一発でだなんて……」

 

「しかも、なんか他にも落としてましたよ!ダブルゲットっていうのじゃな

いですか、これって!」

 

「………………」

 

 

ビギナーズラックとはよく言ったものだ。

お望みのぬいぐるみと共に、これは…狐の面だろうか。

慎重に計算はしたが、まさか一回目で取れてしまうとは。

 

 

「先輩、ありがとうございました。その狐の面は先輩の物で結構ですんで。」

 

「本当に今日は感謝でいっぱいです。」

 

「では、失礼します。」

 

 

呆気なく、依頼達成。

どうしよう、時間も大幅に余ったし、たまには遊んでくか。

 

そこで右手に持った狐の面に目がいく。

…せっかくだしな。

 

俺は狐の面をつけて、ゲームセンターで暇を潰すことにした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

不良もいれば、様々な人が集まる施設。

 

 

「くっそ、ムズイんだよ!どれもこれも!」

 

 

ゲームセンターは騒がしい。

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