自慢じゃないが俺は村で一番の働き者であった。品性は良いとは言えない農民であったがあらゆる礼儀を欠かさず、一日も休むことなく畑を耕し、同じ村の者が苦しんでいるときには手を差しのべ、その度に身を削りなんとか現状維持にまで持ち込んだ。自分で言うのもなんだが、聖人のような人間であったと思っている。
人は俺に感謝をした、人は俺に敬服した、人は俺に好意を抱いた。そして俺もまた人に好意を抱いて、結婚するのにそう時間はかからなかった。子にも恵まれ、我が家系は安泰が約束されていると言っても過言ではなかった。
しかし呆気ないものだった、それらが全て我欲に変わるのは。
一瞬にして全てが敵に変わった。人は俺から財も米も奪い取った、人は俺を化け物と罵り人であることを奪った。そして人は、俺から家族を奪った。
村から一人からがら逃げ切った俺は老婆に拾われ養生をしていたが、日に日に心は軋むばかり。そうしあの畜生共の夢を見る。妻が男共の食い物にされ、妻似の息子でさえも例外ではなかった。貯蓄していた食料で大々的に祭りをあげ、どいつもこいつも下卑た笑みを浮かべ何もかもを充実させていた。
ああなんと汚いことか、ああなんと許せぬことか。
あぁなんて、憎い。
憎くて、憎くて。
憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎―――――――
――気づけば、景色は朱に染まっていた。 いや、景色だけではなくその手すらも真っ赤に染め上げられていた。それは液体で、暖かさすら感じる。よく嗅げば、鉄臭いこともすぐにわかった。思わず嫌悪しそうなその臭いに、俺は笑った。もっと欲しい、もっと寄越せ。貴様らが俺から何もかもを奪ったように、俺も貴様らから奪い取る。その血を、その恐怖を、その心臓を。そして、その誇りすらも。
まず老人と成人済みの男は殺した。残った女は端から端まで犯し例外なく全て喰らい、残した男共には互いに犯させ殺させた。最後の一人に全ての死体から心臓を取り出させ後に、川に落とし溺死させた。
そうした復讐劇は僅か二日で終わった。だが、まだだ。まだ足りない。この喉が、この心が、この角がまだ血を求めて乾いている。
殺すのだ、全て。人間を、全て!
そんな時だ。俺の奢りを一切合切へし折り、無傷で俺の前に貴女が君臨したのは。
「
満身創痍の俺に、貴女は手を差しのべてくれた。かつて俺が人であった頃と、同じように。童子のように無邪気に。
「
月明かりが貴女の顔を照らす。その残酷なれど慈悲に溢れた笑顔は、空っぽで哀れな復讐鬼に全てをくれた。
希望と、気力と、焦がれるこの想いを。
俺は迷わず手を取り、そこで意識を手放した。
「所で汝の名は……む、ん? つ、冷たい……? な、にゃんとぉ!? 酒呑、しゅてーんっ! 赤子が、赤子が冷たいぞ!? 吾の練習を証明する唯一の鬼が息をしておらぬ! しゅてぇんっ!!」
もちろん俺に命に別状は無かった。