RE:ぼくらのウォーゲーム   作:ひょっとこ_

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オリ主くんはヒカリ、タケルとタメですね。
の割には頭が回るようですが、小さいことは気にしないでください。


Hello!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「太一さーん、まぁたケンカですかー」

 

 勝手知ったる人の家、といわんばかりに八神家の居間に置かれたソファでくつろぐ俺は、壁一枚隔てたところでパソコン相手に奮闘しているツンツン頭の少年に声を投げた。

 横になって、非常にだらしのない姿勢になっているせいか、やけに間延びした調子になってしまったが、まぁ気にすることもない。

 投げた問いに対する反応は、いくらかの間を空けて返された。

 

「うるせーっ」

 

 勢いよく打ち返されてきたその悪態に、ツンツン頭の少年――太一さんの今の心境と状況が容易に読み取れて、思わず苦笑が漏れる。

 

「……あとで俺からも、空さんにフォローのメール、送っとこうかな」

 

 あの二人、相性はいいはずなのに、だからこそなのか、結構ケンカの数が多い。

 かと思えば仲睦まじくしている場面にも何度か出くわすものだから、男女の仲ってやつは、いやはや、未だ八歳の俺にはよくわからんことだらけである。はっはっは。

 なんてことを考えながら、ソファから見える窓、その外に広がる麗らかな春先の景観をぼうっと眺めていると、ふと、横合いから声をかけられた。

 

「要くん、春休みだからってあんまりだらだらしてたらダメだよ?」

 

 叱責、と表すにはあまりに柔らかな調子の言葉。

 見やると、俺がくつろぐソファの肘掛けに頬杖をつき、見慣れた顔の少女がこちらを見つめていた。

 

「よっ」

 

「うん」

 

 手馴れた調子で、短い挨拶を交わす。

 それから、なにやら普段よりめかし込んだ様子の彼女――ヒカリの姿に見惚れていると、彼女の視線がじとっとしたものになってきたので、いそいそと姿勢を正し、ソファに座り直す。

 その様子を見たヒカリは、納得したように一つ頷いた。

 

「ん、よろしい。……お兄ちゃんは?」

 

 きょろきょろと周囲を見渡し、目的の人物がこの居間にいないことを確認するヒカリ。

 そんな彼女に、俺は太一さんがいるであろう隣の部屋を指先で示した。

 

「あっちで空さんへのメール打ってる」

 

「……また?」

 

「また」

 

 呆れ顔のヒカリと二人で肩を竦めて、首を振る。

 ほんと、やれやれだ。

 ああ、いや、今はそんなことより、だ。

 

「それより、ヒカリ。そんなにめかし込んで、どっか行くの? デート?」

 

 だとしたら嫌だなぁ、非常に。などと思いながら、けれど、そんな心情をぐっと呑み込んで、あくまで平静を装う。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、問いかけを冗談だと捉えたのか、柔らかく微笑んだヒカリは本日の予定を教えてくれた。

 

「ふふっ。違うよ。今日は千里ちゃんのお誕生日会なの」

 

「あー、そういえば」

 

 いたな、たしか、そんなやつ。堀さんだっけかな。

 たしかヒカリが仲良くしている子たちの中の一人だったと思う。

 というのも、些か記憶が曖昧なので、少し自信がない。どうにも、人の名前と顔を一致させるのは、俺は苦手なのだ。

 いや、にしても、なるほど。それで、おめかしね。

 

「うん。……どう、かな?」

 

 やや不安げな様子で、その場でくるっと回ってみせてくれたヒカリに、親指を立ててみせる。

 

「ばっちり似合ってんね」

 

「えへへ、ありがと」

 

 俺からの賛辞にはにかみ、再び微笑んでみせたヒカリは、じゃっと手刀を切って太一さんのほうへ行ってしまう。

 太一さんに出掛けの挨拶をして、そのまま出かけてしまうのだろう。

 その背中を見送って、俺はまたソファに横になった。

 さっきと同じように窓からの景観を望みつつ、なんとなしに俺は、半年前の、あの夏のことを思い起こすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1999年8月1日。

 その日、俺を含む九人の子供たちが、現実世界と隣り合って存在する電子の世界――デジタルワールドへと、闇より出でし災厄と戦うために招かれた。

 災厄と戦う者――選ばれし子供となった俺たちは、数々の戦いを切り抜け、最終的には現実世界とデジタルワールド、その二つの世界を救ってしまうに等しいことを成し遂げた。

 そんな一夏の、忘れられない、忘れることのないであろう冒険。

 そして、その冒険を俺たち選ばれし子供たちと共に歩んでくれたパートナーデジモンたち。

 九人各々に各一体ずつ、隣だって歩んでくれた彼らの存在もまた、この話には欠かすことのできない重要なファクターの一つ。

 嬉しいこと、悲しいこと、辛いこと。様々なものを分かち合い、共感しあって、俺たち選ばれし子供とそのパートナーデジモンたちは、広大なデジタルワールドを駆け抜けた。

 すべてがすべて、大切な、掛け替えのない記憶、思い出である。

 

「元気かなぁ、あいつら……」

 

 デジタルワールドと変わらぬように見える青空。

 でも確かに違うのは、ここは現実世界で、隣にはあいつ(・・・)がいないということ。

 

「はーぁ、行きたいなぁ、デジタルワールド……」

 

 叶うならば、あの世界にもう一度――――最近、そんなことを考えることが多くなったように思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、要くん、来てたのね」

 

「お邪魔してます、裕子さん」

 

 太一さんとヒカリ、八神兄妹の母――裕子さんが、出かけてしまったヒカリと入れ違いに買い物から帰ってきた。

 玄関でビニル袋を受け取って、手伝いを買って出る。

 昔、俺がもっと小さい頃から、家の事情で八神家に厄介になることが常だったので、このくらいの手伝いは当たり前で、加えて言うなら、お手の物である。

 

「ありがとうね、要くん。ふぅ、太一も、もっと積極的にお手伝いとかしてくれないものかしらねぇ」

 

 来る日も来る日もサッカーがどうの、ヤマトがどうの、空がごにょごにょと、忙しない子よね。

 そんなふうに溢しながら、頬に手をやってため息をついてみせる裕子さん。

 さて、どう返したものかと逡巡していると、噂をすればなんとやらで、太一さんが居間に姿を見せた。

 得も言われぬタイミングでの登場に裕子さんと二人で笑っていると、太一さんは訝しげにしつつも、気にしないことにしたらしく、おもむろに冷蔵庫を漁り始めた。

 

「母さーん、なんかないのかよー。ヒカリのやつはこれから誕生日会でケーキだってのに」

 

 どうやら小腹を空かせ、間食を求めているらしい。

 

「ケーキくらい私が焼いたげるわよ」

 

「えー……」

 

「ホントだってば。……小麦粉、買ってきてたわよね、うん。太一、卵、出しておいて」

 

「うーぃ」

 

「返事くらいしゃんとなさい。もう」

 

 親子、家族特有の気安い会話を尻目に、手伝いを終えた俺は、再びソファへ。

 裕子さんは家事と太一さんのケーキ作り。太一さんは裕子さんの手伝いや自分のことで手一杯。

 ぶっちゃけ、暇なのである。

 宿題は終わらせてあるし、ここへ来て勉強をする気もない。

 お小遣いもないし、この時間帯のテレビ番組はつまらないものばかり。

 本当に、やることがなかった。

 また、空を見て、ぼうっとし始めたそんなときであった。

 焦燥感いっぱいの顔で、息を切らした光子郎さんが駆け込んできたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ネット上に新種のデジモン……!?』

 

 思わず溢した台詞が、太一さんのそれと被った。

 

「はい。コンピュータのバグとかがあちこちからネット上に寄り集まって、それがデジタマになった結果生まれてきた、まったくの新種デジモンです」

 

 いくらか事情に通じているのか、光子郎さんがそう補足を入れてくれる。

 

「いや、待て。なんで新種だってのに、そんなことがわかんだよ?」

 

 が、そこで太一さんが疑問を切り返す。

 気になったことはすぐに口に出す、太一さんらしい調子の問答であった。

 

「ロスに住んでる僕のメール仲間、そいつは僕らと同い年くらいで大学にも籍を置いてるんですけど、彼が卵の殻のデータ構造を解析をしてくれたんです」

 

 さらに詳しい補足を入れつつ、持参したノートパソコンを立ち上げ、件の新種デジモンの姿を見せてくれる光子郎さん。

 

「なんだ、結構かわいいじゃん。クラゲみたいで。こいつがどうかしたの?」

 

 思わずといった体で、太一さんがそう言った。

 まぁたしかに。すわ危険なデジモンかと思えば、ノートパソコンに映っていたのは、明らかに幼年期丸出しの脆弱そうなデジモンだったのだ。その気持ちもわからないでもない。

 

「でも、太一さん」

 

「ん、なんだよ、要」

 

「これ、まだ幼年期なだけで、この先どんな進化をするかわかんないんですよ……?」

 

 そう、このクラゲは、まだ幼年期なのだ。

 例えば、このまま放っておけば、かつてデジタルワールドで戦ったデビモンやヴァンデモン、ピエモンのような凶悪なデジモンへと、ネット上で進化を遂げてしまうかもしれない。それは想像するだに恐ろしいことのように思えた。

 この意見を聞いて、太一さんもその表情に真剣味を覗かせた。

 

「それも、そうか……」

 

 三人並んで裕子さんにもらったアイスバーを舐めつつ、このクラゲをどうしたものかと思い悩む。

 光子郎さんも何は無くともまず相談だとここへ来たらしく、具体的な対処法についてはまだなにも考えてないようだった。

 そして、選ばれし子供たちきっての頭脳派になんの作戦もないとなれば、俺と太一さんも焦燥感に煽られ、必死に頭を働かせた。

 しかし、なんの案も浮かばないままに、先に進展したのは事態のほうであった。

 なんとも軽快なポップアップ音と共に、画面に映っていたクラゲの姿が変化する。

 丸みを帯びていた姿から、全身が爪のようになった鋭利なフォルムへと進化(・・)していく。

 

「やっぱり……」

 

「進化ってことは……えっと、幼年期って二段階あるんだっけか、光子郎」

 

「はい。差し詰め、幼年期Ⅱってとこですね」

 

 同時に、またポップアップ音。

 今度はメールの着信を告げるものであった。

 光子郎さんがその新着メールを開くと、ただ一言、片仮名で、

 

 

 ――――オナカスイタ

 

 

 その一文のみが綴られていた。

 

「腹減ったぁ?」

 

 真っ先に反応したのは太一さんであった。

 まるでさっきの太一さん自身みたいだなぁとそんなことを思って、すぐさまその思考を払い除ける。

 今はただ、状況の理解に努めよう。

 

「もしかして……」

 

 固唾を呑むようにして呟いた光子郎さんが、ノートパソコンのキーボードを叩き始める。

 俺や太一さんが見てもわからないような画面がいくつか続いて、ばっと切り替わった先に、そいつはいた。

 

「やっぱり、こいつ、データを食べて成長するんだ……」

 

「それに、食欲も凄そう……」

 

「そう、ですね。今はまだ幼年期ですが、これが成長期、成熟期になっていって……ともすれば、ネット中のデータを虫食い状態にされてしまいます……」

 

 嫌な予感がした。

 かつてデジタルワールドで幾度となく感じたことのある気配。

 なにか、危険極まりない事態を臭わせる、そんな感覚。

 

「データが虫食い状態になっちまったら、どうなる……?」

 

 答えなど聞きたくないといった感情を滲ませての太一さんの質問に、光子郎さんは、ただ淡々と答えた。

 

「ありとあらゆる電子機器の不能化が進み、また、そこかしこのコンピュータが暴走を始めます」

 

「マジかよ……」

 

「…………」

 

 太一さんは唖然とし、俺はただ、絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 データを食べるデジモン。

 付け加える情報は、そのデジモンがかなりの健啖家であるということ。

 導き出される結論は――――マジやばい。

 

 

 そこまで考えを至らせた俺たちは、すぐにでも行動を開始した。

 先ほどまで太一さんが使っていた八神家のパソコンを立ち上げ、それを使って、クラゲの足跡を追う。

 突き止めた奴の居場所は、近所のテーマパークのメインコンピュータ内であった。

 

「な!? もう一段階進化してるぞ、こいつ!」

 

 その姿を捉えた太一さんが叫ぶ。

 たしかに、そのとおり。クラゲは成長期に進化していた。

 

「なんて成長スピードだ……」

 

 光子郎さんが戦慄した様子で、一人ごちた。

 そして、そうして居場所を突き止め、奴の進化を認めたところで、俺たちの手は止まった。止まらざるを得なかった。

 そう、結局、こちらからはいっさい手出しができないのである。

 相手はデジモンで、しかも、ネットの中に潜んでしまっている。対してこちらは、普遍的な小学生が三名。

 真に、どうしようもなかった。

 なにもできない自分に、知らず、拳を握りこみ、歯噛みしていた。

 

「そのクラゲ、ネットからなんとか排除できないのか? 電話会社とか、コンピュータの専門家とかに言えばどうにかならねぇの?」

 

 焦燥に塗れ、上擦った声音で、太一さんが光子郎さんに問いを投げた。

 その意見を光子郎さんは、無理です、との一言でばっさり切り捨てる。

 

「さっき言ったロスの友人ですが、彼が卵の殻の解析結果を添付して各国各機関に警告を呼びかけたそうなんですが、すべて相手にされなかったらしいです」

 

 続くその言葉に、三人の間に沈黙が降りた。

 どうしようもない。

 手詰まり。

 けれど、今、こうしている間にも、クラゲの暴食によって確実にあちこちでコンピュータと電子機器の不具合、暴走が進行している。

 思わず、頭に手をやった。

 

「……あぁ、こんなときに、アグモンがいればなぁ」

 

 ふと、太一さんが溢したその一言で、先ほどから覗いていた思いに火が着いた。

 ああ、そうだ。

 あいつ(・・・)がいれば。

 頼りになることこの上ない、あの相棒がいれば。

 こんな状況、いくらでも引っ繰り返せるのに。

 そんな思いが胸中で逆巻き、燻り始める。

 

「クロ……」

 

 口が勝手に動いて、相棒の名を呼ぶ。

 

「テントモン……」

 

 光子郎さんもまた、同じであるようだった。

 三人で、それぞれのパートナーデジモンの名を呼ぶ。

 あいつらと一緒なら、なんだってできたから。

 傍で共に在り、力を合わせれば、そう、世界だって救ってみせることができたから。

 けれど、今は隣にいるのは、自身と同じようにパートナーの不在を嘆く仲間の姿のみ。

 しかし、だからこそ、強く求めた。

 強く。

 

「アグモン……!」

 

「クロ……!」

 

「テントモン……!」

 

 果たして、その願いは、聞き届けられた。

 

『太一ぃ』

 

『要』

 

『光子郎はん』

 

 今、なにより求めていた懐かしき声が、俺たちの名を呼んでくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうですかね。
tri第三章を見まして、熱がぶり返した結果、ぼくらのウォーゲームへ行き着き、さらにそこでも燃え上がった結果でした。
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