アジトが衆目に晒される事となり、幾人もの幹部や構成員が逮捕されていく中、ロケット団は急ぐように立て続けに大きな事件を起こし始めた。
シオンタウンでの老人誘拐事件。狙いが良く分からないと言われていたこの事件は、結果的には何者かの手によって解決した。不思議な事件だった。誘拐されていた老人が、何事もなかったかのように歩いて出て来たのだ。
そして、その僅か数ヵ月後、ヤマブキシティを完全に抑えたロケット団が、とうとうシルフカンパニーという大企業を乗っ取った前代未聞の大事件を起こす。連日テレビではこのニュースを取り扱っていたが、私はその浮世離れした事件をテレビの向こうの話として、ポカンと傍観する事しか出来なかった。
タマムシとヤマブキというよりは、カントー全体がロケット団の手に落ちようかという事件だ。シルフが乗っ取られるレベルと言う事は、軍事技術も危ない。あそこはそういうものにも絡んでいるという話を聞いた事がある。
きっとカントー全体に広がっているであろうロケット団下部組織の動きも活発になり、いよいよ大戦争か、などという話も現実味を帯びてくる。
ジムリーダーだけでは手に負えず、四天王やチャンピオンまでも駆り出される事態なのは火を見るよりも明らかだった。ヤマブキの乗っ取りを成功させる計画力、政治力は見事としか言う他ない。これまでカントーの乗っ取りを綿密な計画の元行い、そのカリスマ性で組織を引っ張っていたあの大ボスの事だから、何の手も打っていない訳がないだろう。四天王やチャンピオンが出張ってきたところで、彼らは所詮ポケモンバトルという競技内でのエリートだ。犯罪組織の撲滅エリートではない。
だが、この前代未聞の大事件も、エリート達の力を借りずとも、何者かの手によって突然の解決を見た。
シオンとヤマブキ、共通するのは何者かの手によって解決したという事。
警察やその他報道機関は、頑なにその人物を報道していなかったが、あいつしかいない。
あの”赤帽子の少年”だ。
私は確信していた。タマムシアジトの件だって、誰が潰したのかは報道されていないが、世間的には突然明らかになったように報道された。
本当に、あいつは一体何者なんだ。
一見ただの少年にしか見えないのに、嵐のような勢いで過ぎ去っていき、全てを薙ぎ払っていく。
正義感でロケット団の企みを潰して回っているようにも見えなかった。思い返すとどこかこう、アウトローな世界で自分の力を試しているかのようだった。
テレビの様子を見ていると、私が同じ場所に居た事が場違いにしか思えない。瀬田さんや、瀬田さんと同じくらいの力を持つであろうアポロという幹部。大ボスに、”赤帽子の少年”と、私が知っているだけでも登場人物は化物揃い。他にも強い人間、強いポケモンがゴロゴロしている事は容易に想像出来る。あの少年の事を抜きにしても、私はあの世界ではきっとやっていけなかったのだと思う。負けて焦って、アジトを露呈してしまった時の自分の慌てぶりは、とてもではないがあんな大きな犯罪組織でやっていくには厳しいだろう。
街の半グレ、下部組織で街のやつとゴタゴタ揉めるくらいで精一杯なのだ。
家で謹慎していて、私はだんだんと自分の身の丈を納得しつつあった。瀬田さんには申し訳ないが、期待に応える事はきっと難しい。
たまに近況を伝えにくるカイの話だと、瀬田さんはもう随分事務所に戻って来ていないそうだ。
カイは細かい事情を知りたがっていたが、私は頑なに口を割らなかった。瀬田さんの言っていた事――後の事は心配するな――というのは、私だけに向けられた言葉ではない。瀬田さんは事務所の皆だって賢明に守るに決まっている。私がここで話してしまっては、瀬田さんの行動が無駄になる。私が話して事務所の皆が何か行動を起こせば、今ならロケット団との関わりをすぐに疑われるだろう。あの組織に関わるというのは、それだけで大きなリスクを伴う。
お前はこの道でいいのか? という瀬田さんの言葉の重さを私は理解していなかった。いや、理解出来る訳がない。
しかし、私は全てを事前に話してくれなかった瀬田さんを責める気はまったくなかった。彼だってせめぎ合っていた。きっと苦しんでいた。
その中で彼がやってきた事は、事務所の皆を養い、育て、教育する事に尽きる。大ボスが言うような組織の駒を育てる事なんて、出来ていないのだ。彼は組織の人間に成り切れなかった。
あの人は身内に対して致命的に優しすぎる。私達は飽くまで彼のために頑張っていたし、タマムシという街で威張るために一生懸命だった。
だからこそ、私たちはきっと彼を責めない。捕まっても、こんな私たちの面倒を見てくれた瀬田さんに対して感謝しかない。
私達の繋がりは、私達と一緒に居た者だけが知っている。
他人にどうこう言われたくない。
やってきた事の内容とは関係なく、私達の繋がりはそこに居たものにしか分かり得ないものだからだ。
「たくさん、勉強させていただきました。ありがとうございました」
ロケット団という組織が、テレビの向こうで目に見えて崩壊していく様子を見つつ、私は一人頭を下げた。
ヤマブキ、タマムシでの一斉摘発により、カントー地方が元に戻ろうとしていた。
事務所の仲間達も、ロケット団関係者の可能性があるということで摘発が続き皆警察に捕まっていく。そんな中、誰も告げ口をする者はおらず、私の元に警察がやってくる事はなかった。
瀬田さんがどういう行動を取っていたのだとしても、きっとこの結果を避ける事は出来なかったと私は思う。
そんな中、私だけがこのままで良いはずがない。
瀬田さんからの連絡はずっとない。テレビで逮捕されたようなニュースも聞かない。
だが、彼はきっとその他大勢として捕まっているのだと思う。
ここらが潮時なのだろう。
親元を離れ、暴れに暴れたチンピラ時代から、瀬田さんに拾われ色々な事を教わった。
やってきた事が良い事だなんて思った事はない。裁かれ、批判され、制裁を受けるべき立場なのは間違いない。
だがそれでも、私は瀬田さんの元に、皆の傍に居られて幸せだった。
善と悪という二元論では収まりきらない、複雑な事情がタマムシには存在していたし、私達は私達のやり方を全うした。
だが、やりすぎだったのだ。
大ボスはやる事が大きすぎた。世界がそれを許さなかった。まるで神が罰を下すかのように、その使いとして現れたかのような、あの”赤帽子の少年”に蹂躙された。
歪みは戻され、また世界は元通りになっていく。
私は一人、
自首を決めた。