ある晴れた青空の下、街のバトル場に息子のコキヒと繰り出し、私達は向かい合った。
「パパ! ちゃんと教えてよ! いいね!」
刑期を終えた私は、その後真っ当に仕事を続けた。カイとだけは繋がっていたので、皆の近況はそこそこに聞いていたが、最近ではそんな事ももうなくなってしまった。
カイだって今は立派に働いているし、私も、妻と子を持つ事が出来た。あの頃とはもう何もかも変わって、昔話をする事もない。
敢えてするなら、”赤帽子の少年”が史上最速、最年少チャンピオンとなり、伝説のトレーナーとして祭り上げられているニュースには、ギョっとした。。もっともっと怖い奴なんだぞこいつは、と声高らかに言いたいものだ。
瀬田さんとは、一度も会っていない。連絡も取っていない。どこにいるのかも分からない。
ただ、後の事は心配するなと言っていた通り、ロケット団としてではなく、まったく関係ない街の非合法組織の一員として私達は捕まった。
あの当時、カントー最大マフィアのロケット団員として捕まった者は、私達に比べれば重い罰を受けていたから、ロケット団と関係がないというだけで、私達はまだ早く外に出て来る事が出来た。
最後まで面倒見の良い人だ。
そして、常識的には悪い事でも、最後まで頑なに部下を守ろうとする姿勢は、変わらなかった。
私はまだ彼を尊敬している。彼のように慕われる人間になりたいと思う。
彼が私達にしてくれた事だけは、混じりっ気のない愛情であると信じているのだから。
「おーいコキヒ! リザードの他にはいないんだな? 倒したいのは一体だけでいいんだよな?」
私の左右に、ラッタとクロバットが控えている。
たまに小さなバトル大会にも繰り出して暴れさせてはいるのだが、こうやって手解きをするのは初めてだ。分かってるな、と目配せすると、二匹とも言われなくともとばかりに頷いた。
リザードには苦い思い出がある。こいつらにコキヒのサポートを任せていもいいのだが、やっぱりそれでは教育上よくない。
「えっと、リザードとねえ! ヘルガー!」
またそれは、随分な巡り合わせ。リザートにヘルガーか。なるほど、尚更こいつらに行かせてやりたくなるような展開だ。
「アキヒコ君が言っていたけど、リザードよりヘルガーの方が強いんだって! 耳に裂けた跡みたいに傷の残ったヘルガーなんだよ! 僕も見せて貰った!」
どきりとした。そんな事があるのか? コキヒの言うその特徴には、見覚えがあった。
裂傷が刻まれたヘルガーは、ラッタとクロバットの憧れの存在。私から見ても、とても素晴らしいポケモンだった。
「なあコキヒ! 今度友達とバトルをする時、私も見に行っていいか?」
「ええ! 嫌だよ! パパ付きなんて恥ずかしい! バトルには一人で行って来る!」
そう言うな息子よ。
私だってそのヘルガーを見たいのだ。
彼の期待には応えられなかったが、それでも一生懸命ここまで生きてきた。
今の私の姿を見てもらいたい。
あの頃の気持ちを、私は思い出し始めた。
「いいじゃないか! 私だけじゃなくて、ラッタとクロバットもきっと行きたがる!」
嫌がる息子をしぶしぶ納得させ、オニスズメとラッタが対面する。
私だって変われたんだ。コキヒだってオニスズメだって変われる。
あの人から教えて貰った事を、私は何一つ忘れていなかった。
今度は私が、伝えていく。
【了】