ポケモン色の本棚   作:@早蕨@

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未開見たいテレポート

【一】

  人間ってえのはえてしてポケモンの邪魔にしかならねえ。あいつらは俺達をふるさとから強引に引っぺがし、わけのわかんねえ球にぶち込んで連れ去っちまう。そんでもってひたすらこき使ってあっちこっち連れ回すってんだからそら邪魔でしかねえだろう。ふざけんじゃねえってんだこんにゃろう。

 というのもよ、いつもこの辺の森に餌を取りに来るもんで仲良くなったヤミカラスってえのが最近来なくなったもんだから、どうしたもんかと同じ場所に住んでいるピカチュウっていうのに聞いてみると、人間に捕まったってえ話じゃねえか。正直言うと、俺は恐い。その突然襲いかかってくる人間ってえのがもの凄く恐い。ああああ情けねえ。あんなひょろっこい人間をびびるなんて情けねえ。けどよ、あいつらの連れて歩くポケモンってえのがめっぽう強い。そらあもう闘うお人形のように、人間達の言う事を聞いて攻撃してくんだ。というと恐いのは人間じゃなくてポケモンだろう? なんてことを言われるかもしれねえが、それは違う。そのめっぽう強いポケモンに命令できる人間の力ってえのが、きっと一番おっそろしい。歯向かえば絶対に倒せるのに、あのめっぽう強いポケモン共は、人間を攻撃しやがらねえ。それどころかはいほいと言うことを聞いて、俺達をぼかすかと攻撃してきやがる。こりゃあ一体どういうこった。

「あ、ケーシイいた!」

 そんな風にボンヤリ考えながら森の中をブラブラしていると、俺の前にのこのこと現れやがった奴がいた。黒い短髪頭のそのガキは、俺を見つけたことにあたふたしながらも、腰についたあのいまいましい球を俺の前に投げやがる。

「お願い、スリープ!」

 中から出てきたのは、何考えてんだかよくわかんねえ、鼻のなげえ二足歩行のエスパーポケモン。っへ。俺の敵じゃないさ。今まで幾度となく人間に攻められながら、一度たりとも捕まってねえどころか、一度たりとも攻撃を受けていない。そんな俺を捕まえようなんざ百年はええ。なんたって俺には、伝家の宝刀テレポートっちゅう技がある。それがある限り、一生人間なんかに捕まるわけがねえ。はは、残念だったな。この間抜けそうなスリープは捕まえられても、この俺は捕まえられないぜ!

「ようし、スリープ! 金縛りだ!」

 ん? んん? あれれ? や、やべえやべえ、テレポートが出来ねえよ。ああ、やべえやべえ。逃げられないんじゃ俺には勝ち目なんてねえ。実を言うと、生まれてこの方バトルなんてほとんどしてねえ。誰かと喋ってるか、寝てるか、飯食ってるかだけだ。だから、本当は連戦無敗なだけであって、連戦連勝なわけじゃねえ。

「今度ははたくだよ!」

 スリープは、またも人間の言いなりになってとことこ向かってきやがる。でもやべえ、俺ったら逃げられねえ。おたおたしているうちに、そのまま俺はスリープにはたかれる。ああ、いってえ。こんにゃろ、思いっきりやりやがって。

「おいおいおい! いてえじゃねえか!」

「そらあバトルなんだから当たり前ですわ」

 ……なんだよ、その語尾。

「なんだっててめえは俺を殴ってきやがる。何か恨みでもあんのかい!」

「恨みなんかないですわ。ただ、うちのご主人がそう命令するんで」

「あんなのに従っていて楽しいか? 俺にゃあまったくわかんねえ」

「じゃあ、あんたもどうだい? 同じような力を持つ者同士一緒に旅をするっていうのも中々いいんでないかい? 外に出りゃ楽しいし、楽しい理由がわかるってもんですわ。それに、こんな森ん中にずっといるんじゃ、頭がくさっちまいますわ」

「スリープ! もう一度はたくだよ!」

「俺はこの森が好きでここにいるんでえ。お前らなんかと一緒にいけ、ぶぁ! お前こんにゃろ、話し合ってる途中なんだから叩くんじゃねえやい! 舌かんじまっただろ!」

「いやあ、ご主人からの指示だったもんで。ほんで、なんだっけ? 嫌だって話だっけ? なら、一度一緒に来てみっといいですわ。うちの主人は、他の人間とはちっと違うんですわ」

「どこが違うんでえ! あのいまいましいボールをこっちに投げて無理やり押し込むだけだろう!」

「ほう、あんたはあれが気に入らんのかい。じゃあ、ちょっと待ってな」

 何か妙なことを言い出したスリープは、俺に背を向けボウズの方へ何か身振り手振りバタバタし出した。自分のポケモンが何やってんだかまったくわかんねえ様子のボウズだったが、スリープがモンスターボールを指差すとどうやら気付いたらしく、それを手にとって「これ?」なんて言いだしやがる。こいつ、本当に俺を捕まえる気があるのか。

「え? モンスターボールはだめってこと?」

 スリープは何度も首を縦に振り、再び俺の方へ振り返る。へへ、と得意げな顔をしてその間抜け面をこっちに向けやがった。

「ほうら、後はあんた次第だ。一度旅っつうのを経験してみるのもいい。気に入らなかったら勝手に逃げちまえばいいさ。どうだ? 来るかい?」

 森は好きだ。生まれた場所だから好きだ。当たり前だ。ただ、俺にだって外の世界がどうなってんのかくらい、見てみてえ気持ちも少しはある。少しだ。ほんの少し。だからって一人で行くのは危ねえし、人間に従うってえのも癪だし、あのボールも嫌だ。

「うちの主人、前からあんたのこと気に入っていて、一緒に旅がしたいってうるせえんだ。ここはこっちの顔を立てると思って、一つ乗ってみないかい? 気にらなかったら逃げていいし、逃げるんだったら協力しますわ。それに、あんたにとったら外は未開の地だろう? ぼくらと一緒にそこを探検するっていうのも悪くない話かもしれんですわ」

 へ。間抜け面しやがって、中々口は達者でやがる。この俺の心を揺り動かすたあなかなかやるじゃあねえか。ちっとボウズの方を見てみると、目をキラキラさせてこっちを見ていやがる。ボールはもう腰にしまっちまって、それを投げてくる様子もねえ。人間は嫌いだ。ついていくポケモンだって嫌いだ。俺はこの森が好きだ。ここにいる奴らが好きだ。りんごが好きだ。でも。

「し、しっかたねえ、このケーシィが、ちっとだけ、ちっとだけお前のそのまったく面白そうでもなんでもねえ提案に乗ってやろうじゃねえか!」

 スリープは、不気味に笑みを浮かべながらボウズの方に二人で向かい合うように並んできて、俺の肩に手を回してくる。なんでえ、気持ち悪い。

「まあ、よろしく頼ますわ」

「ちっとだけだぞ、ちっとだ」

 俺とスリープとのやり取りをわかっていないながらも、それを了承と理解したらしいボウズが、すぐさま走ってきて俺を抱き上げやがった。ぐお、苦しい。この、こうなったらテレポート! って、そうだ、金縛りがまだ効いてる……。

「うわあ、かわいい! よろしくね、ケーシィ!」

 人間のくせに、なんてえ奴だ。痛くない抱擁なんかしやがって。まったく、わけのわかんねえ奴らだ。

 

【二】

  俺はこの世界の中の砂粒ほどの存在、いてもいなくてもそれほど変わらない小さなものだってえことに気付いたのは、ぐるぐるといろんな場所を旅した後たどり着いた、とんでもねえ数の人間がうじゃうじゃしてやがる、ポケモンリーグセキエイ大会でのことだった。人間達がポケモンを戦わせ始め、やれハイドロポンプだの雷だのとんでもねえ技を繰り出しながら喧嘩を始める。人間の言いなりになっているだけのくせして、誰も彼もが俺より強い。なんだってあいつらはあんなに強いんだ。

「いやあ、強いねえどっちも。あんたはどっちが勝つと思う?」

 俺がボウズの膝の上で我慢してやっているというのに、のうのうと席一つ分を使って座るスリープは、その野太い声でたずねてきた。

「知らねえやい。俺には全く興味がねえ」

「これ決勝ですぜ。見なきゃそんですわ。この試合が、最高のポケモンと人間を決めるっていうのに」

「この世界の頂点の人間だろう。あのポケモンはお人形だ」

「はあ、でもきっとあの連中はトレーナーについていきたくてついて行ってるんでしょうよ。じゃなきゃあそこまで強くなれませんわ」

 いんや。と、俺が反論してみると、スリープの興味はすでに再び動きだしたバトルへと移っていた。こんにゃろう、相変わらずマイペースな奴だ。

 バトルを見てみっと、カメックスというでっけえ亀がちっこい電気野朗のピカチュウにやられ、交代するところだった。やっぱり興味ねえやい、と居眠りでも始めようとすると、カメックスを出していた方、元世界の頂点、そして次期トキワシティジムリーダー候補らしいグリーンとやらが、フーディンを出しやがった。その姿は、俺がいつかそうなるかもしれねえ姿だ。

「あんたもやっぱりトップレベルの同属とあれば、見ずにはいられんでしょう」

 スリープの声を無視した。俺はあのもの凄く厳かな、誰が何をしても動かないような、どっしりと直立した姿に目を奪われていた。

 強いだろうな。

 俺がそう思った瞬間、奴はまったく目に追えない速度で移動し、ピカチュウの目の前まで迫りやがる。そのまま一瞬の動作でピカチュウをスプーンで殴り飛ばし、宙に浮いたそいつはそのまま静止した。あれは、サイコキネシスだ。俺がずっと小さいとき、おやじ(フーディン)が俺を人間から守るときに使っていた技で、初めてみたときそれは驚いた。自分も似たような力を使えるってえのに、そのあまりの力の差を不思議に思った。きっと、あのレベルのサイコキネシスに捕まっちまうと、指一本も動かねえだろう。その通り、ピカチュウは先ほどのあのカメックスとのバトルの消耗もあってか、体をピクリとも動かせないままさらに宙に放られ、そのまま地面に落下させられる。あの勢いで受身もとれず落下したとなればもう無理だ。フーディンはサイコキネシスを解くが、やはりピカチュウは動けなかった。

「わあっ、あのフーディン強い!」

「おほっ。すんげえ力だ」

 ボウズとスリープが感嘆の声を上げていた。無理もないぜこりゃ。くそ。なんだって人間に従っているだけのくせしてあんなに強いんだ。

「……むかつく。なんで、あんなに強いんだ」

 思わずボソっと漏れた俺の言葉を聞いていたのか、スリープがニヤっと笑った。こいつ後でシメる。

「ケーシイもあんな風になれたら格好いいね!」

「…………」

 なんだかしらんがチクっとした。

 

 その夜、興奮気味なボウズと、ケツいたいですわあの椅子かたいですわと呟くスリープと、トキワポケモンセンターの宿舎へ戻ってきた。夜寝るときはモンスターボールの中がいいんですわ、とスリープは自分からあの狭っくるしそうなボールの中に入っていき、俺はいつも通りベッドの上、ボウズの横で寝ることとなる。しかしいつも通りには眠れねえ。くそ。何か今日はむしゃくしゃする。どうしたってんだこの野朗。スリープに言われた言葉やボウズに言われた言葉が妙に頭にはっついて離れない。なんだよ。俺が間違っているっていうのか? お人形じゃなくて、本当にあいつらはあのトレーナーにくっついてるっていうのか? ああ、むかつく。むかつく。こんなこと、あの森にいたときにはなかった。だらしなくいつも寝てやがるピカチュウや、ピタピタと地面に絵を書くことが好きなドーブル。えさをとりに来てはやれあそこのニドランがあっちのニドランとくっついたとか、そんなくだらないことを喋ってやがったヤミカラス。ああ、森が懐かしい。帰りてえ、そろそろ帰りてえ。

「んん、むにゃ」

 めちゃくちゃ気持ち良さそうに眠っているボウズを見て、俺はむくりと起き上がる。

「……ちょっと散歩してくるだけでえ」

 その顔から目を背け、俺はテレポートした。

 

【三】

  夜の町をふわふわと浮かんでいると、ジムやトレーナーハウスといった、強い奴らが集まるらしい建物が見える。ぼんやりそれらを何も考えずに見ていると、トキワシティには凄く強いトレーナーがたくさんいるんだって! といつかボウズが言っていたのを思い出した。……俺もあんなところに入って頑張ってみれば、なんてことが一瞬だけ頭がよぎっちまって、ぶるぶると顔を横に振ってそれをかき消す。俺はバトルなんて嫌いだ。それに、あのボウズもスリープも、申し訳程度にしかバトルなんてやったことがねえ。あいつらは本当にただ世界を見て周ることが目的らしく、ジムにだって入ったことがなければなるったけバトルは断ってきた。それを馬鹿した奴もいた。笑った奴もいた。それはいいねと言った奴もいた。頑張れよと言った奴もいた。いろんな人間が、いた。俺が思った以上に人間っていうのはいろんな種類がいて、俺の思った以上にいろんなポケモンもいた。タマムシシティにゃ、イーブイとかいう巷じゃ人気らしいが、やたらと性格の悪いポケモンがいた。サイクリングロード(自転車とやらは貸し出しだった)に入ろうとしたところにでーんと寝ていたカビゴン。ありゃあ、すげえ。今まで見た中じゃ一番でかいポケモンだった。セキチクシティのサファリパークで見たウツボットの群れに近づいちまったときは、死ぬかと思った。ああ、そういやあそこには歯のない人間もいたな。

「……なんだ。俺、何考えてんだ」

 とんでもねえことを考えている気がして、俺は戻ることにした。

 

【四】

「おや、ケーシイさんじゃないですか。こんなところで会うなんて、こりゃ驚きました」

 テレポートを使わずだらだら飛んでセンターへ戻ろうとしていると、突然横から声をかけられた。

「……お? お前、ヤミカラスか?」

「ええ、そうです、ヤミカラスですよ。覚えていますか? 久しぶりですねえ。ああ、懐かしい。あの森でよく喋りましたよねえ」

「本当久しぶりだなあ。お前、今何やってるんだ?」

 そういやこいつも人間についていったんだった。つーことはこいつ、バトルやって、ジム行って、もしかして、そうとう強いのか。うわっ、森にいたときはただの軟弱やろうだったのにそれはむかつく。でも、懐かしい。久しぶりに森の仲間に会えてうれしい。森での生活を思い出す。ああ、もの凄くのんびりしてたよなあ。

「私ですか? 私はあのクズトレーナーに捨てられたんで、森に戻ろうかと思ってるんです」

「……捨てられたあ?」

 思わず、素っ頓狂な声を出しちまった。ヤミカラスの言葉は、俺の頭ん中を驚き一色に染めあげるには十分だった。

「私のような弱くて格好悪いポケモンは、いらないそうですよ。最初しぶいとか言われて気に入られたのをいいことに、調子に乗った私も悪いんですけどねえ。ニューラとかいうやたらキザな野朗を仲間にしてから、私なんてもうクズ扱いですよ。でもだからってすぐ抜けては癪なんで、私も嫌嫌ここまでついてきたんですけど、とうとうお払い箱になっちゃいました。ああ、本当人間ってクズですよねえ。こんなに連れまわしておいて、お前は弱いからいらないだって。ああ、本当にゴミ。ありゃあ世界のゴミですよ……」

 ヤミカラスは最後はもう、顔をしかめながらゴニョゴニョと恨み言を呟いていた。

「……後悔は?」

「なんのですか? ……ああ、ついていったことにですか? しているに決まってるじゃないですか。バトルばかりさせられて、あちこち連れまわされて、まあ無駄に力はつきましたが、それだけですよ」

「……そうか」

 ヤミカラスのトレーナと、ボウズを重ねる。そんなことを考えたとき、俺は自分に驚いた。不思議と、きっと怒ったり恨んだりしねえなあ、と思った。いや、むしろ――。

「ねえケーシイさん。あなたもトレーナーに捕まってここまで来たんでしょう? だったら、この辺でそんなのやめにして森へ帰りましょうよ。どうせ人間なんて私らのことをバトルの道具としか思ってませんって。ちょっと好みが変わったり強いのが手に入ると、途端に態度が変わるんですから」

 人間はクズ。ヤミカラスの言葉が、俺の頭をつんざくように刺さってきた。ボウズと旅した記憶が、切り取られた絵のように頭にたくさん浮かんだ。ボウズは笑っていた。いつでも楽しそうに、笑っていやがった。スリープもそんなボウズを見るのが好きらしく、ニヤっと間抜け面を歪めて笑っていた。……じゃあ、俺は? 俺は?  ――俺は?

「何ぼうっとしてるんですか。もしかして、人間についていくなんて言うんじゃないでしょうね。あんなのについていっても損するだけですって。ケーシイさん、いつもそう言っていたじゃないですか」

「あ、ああ。わかってる」

「うーん、じゃあ明日の昼、朝は眠いんで昼です。北の森の前で待ってますから、来てくださいね。……ああ、ケーシイさんと話していたら、早く戻りたくなっちゃいましたよ」

 そう言って、ヤミカラスはパタパタと去っていった。今日は、トキワの森の木にでもとまって眠るつもりだろう。

「明日、ねえ」

 小さくなっていくヤミカラスを見ていると、考えるのが億劫だった。

 

【五】

  翌日。太陽の光を浴びながら、一睡もできなかったようなダルさを覚える体を起こす。ボウズは、すうすうと寝息を立てて眠っている。スリープも、多分起きない。それが何故かとても残念なことのように感じる。……だめだだめだ。俺はもう、帰るんだから。

「じゃあなボウズ。ついでに、スリープも」

 ボウズの顔をもう一度見ておこうと思ったが、それをやってはいけない気がして、それをやったら何かがどうにかなる気がして、俺はすぐテレポートした。

 俺のテレポート範囲なんてたかが知れている。案の定森まで一気に移ることは出来ず、森から大分離れたところに移り、そのままふわふわと浮かんで森へと移動する。だんだんと、森が鮮明になってくる。森への入り口となる木の上に立つ、ヤミカラスが見える。ああ、俺は帰るのか。なんとなく躊躇する自分がいる。このまま、このまま行っていいのか? 結構な期間、俺をひたすら仲間だと信じたあいつらと一緒に旅をしてきたその終わりが、これでいいのか? なあ、おい。俺。どうなんだよ。そんなんでいいわけ? あいつら、クズだったか? 外の世界の探検は、つまらなかったか? 足りなくはないのか?

「あ」

 もう、森に着いてしまった。ヤミカラスは、まだ木の上で眠っていた。あいつらが寝ているうちに飛び出してくるのはいいが、くそ、昼までは少し時間がありすぎる。

「……仕方ねえ。こいつ元々夜行性だし、今は寝かしておいてやるか」

 

【六】

「あんな馬鹿な奴らの顔を一生拝まないで済むなんて、本当せいせいしますよね」

  ヤミカラスが起きるのを待とうと木に寄りかかっているといつの間にか寝てしまったらしく、昼近くになって起きだしたヤミカラスが俺を起こしにきた。なんだかやたら元気に、嬉しそうにしていた。

「……一生会えない、か」

「なにぼそぼそ言ってるんですか。さ、行きましょう」

「ああ」

 ヤミカラスはぱたぱたと空へ羽ばたき、俺も一緒に浮かび上がる。

「ああ、本当楽しみだ。皆、僕らのこと覚えてますかねえ」

 ヤミカラスの後ろについていきながら、ちらっと後ろをふり向くと、トキワシティがどんどん遠くなっていく。

 おい俺。どうなんだよ俺。探検は、つまらなかったか? ディグダの穴、面白かっただろう? ポケモンタワー、恐かっただろう? ヤマブキシティ、凄かっただろう? リニアモーなんとかってやつ、乗りたいだろう? まだ行ってないところがたくさんあるよなあ。まだ面白いポケモンがきっといるよなあ。あいつらと一緒に、まだ、旅したいよなあ。今まで旅をしてきて、楽しかったよなあ。あいつらのこと、好きだよなあ。なあ、俺。どうなんだよ。

「……ケーシイさん?」

 突然止まった俺に気付いて振り返ったヤミカラスは、怪訝そうにこっちを見た。

「何、やってんですか? 早く行きましょうよ」

「…… なあ、ヤミカラス。知ってるか? この世界にゃさ、いろんな人間がいて、いろんなポケモンがいる。中にはクズみてえな奴もいるし、とびっきり楽しい奴だっているんだ。いつも間抜け面してるくせに変なところ鋭い奴や、いつもにこにこしてて世界を探検するのが大好きな奴とか。そいつら、本当に本気で俺のこと信用してやがってよ、隣にいる俺がなぜかいっつも悪者みてえなんだ。その間抜けの奴なんか、最初の条件なんかぜってえ忘れてるぜ」

「へ? 何、言ってるんですか?」

「悪い。俺、森は好きだけど、あいつらのことも好きだ」

 まだ、探検したりねえよ。まだ見てないことばっかりだ。なあ、俺。

「なに言ってんですかケーシイさん! そんなのやめたほうがいいですって! 無駄ですって!」

「無駄じゃねえよ。楽しいぜ、探検。森以外に、こんな楽しい場所があるなんて、俺、知らなかったもんな。俺にとっちゃ、この世界はまだまだ未開の地ばかりだ。まだまだ足らねえよ」

「な、なにを……なにを馬鹿なこと言ってんですか!」

「馬鹿か。俺も、昔はこんなことする奴は馬鹿だと思ってたけど、でもさあ、馬鹿でいいじゃん。馬鹿、楽しいぜ」

「なっ!」

「悪いヤミカラス。先、戻っててくれよ」

 わーわーと反論するヤミカラスに背を向け、俺は、すぐにテレポートをした。体が軽い。ああ、俺のくせして、なんてざまだ。あんな奴らが大好きなんて、本当、どうかしてるぜ。

 

【七】

  人間ってえのはえてしてポケモンの邪魔にしかならねえ。修正。人間ってえのはポケモンの邪魔にも人間自身の邪魔にもなる。そう確信したのはいつごろだったか、もう、大分前だったように思える。でも、それを再確認したのは、たった今だった。俺が急いでトキワへ戻るとすでにポケモンセンターにはおらず、一体どこに行ったかと思えば、そのまま次の目的地のマサラへ向かおうと南下していた。南下していて、柄の悪い頭がおっ立ったトレーナーに絡まれていた。セキエイ大会一回戦でグリーンとかいうあのアホみたいに強い奴に負けたことにまだむしゃくしゃしていて、ボウズで憂さ晴らしなんつうアホな真似をするつもりらしく、そんな様子を上空から見ていた俺は、バトルなんかからっきしなくせして、迷わずボウズの盾になるスリープの隣に突っ込んだ。迷うはずがなかった。

「あ、ケ、ケーシイ! どこ行ってたんだよ! 探したんだぞ!」

 震えた声で騒ぐボウズにすまんと一鳴き入れ、俺はすぐさまスリープの横に並び、へらへらと笑いながらモンスターボールを構えるトレーナーとにらみ合う。ああ、俺達、もうちょっと強くなったほうがいいよなあ。旅とか探検っつっても、ボウズを守れなきゃ話になんねえ。洞窟とか山でいつもいつも逃げてるばかりじゃまずいよなあ。こりゃあやっぱり、あのグリーンとかいう奴のとこ乗り込んでみた方がいいかもなあ。

「お、もういいんかい? ヤミカラスとのお話は済んだんかい?」

俺が戻って来たのがまるで当たりめえかのように、スリープは俺の方を一つも見ずに喋りだした。

「……なんだよ、おめえ、知ってたのかよ」

「ぼかぁ、ゆめくいが使えるんですわ」

「……朝やたら体が重かったのって、もしかして寝不足じゃなくておめえのせいか」

「へっへへ。まあ、硬いこといいっこなしですぜ。今は、こいつをどうにかしないと」

 そういえば、いつの間にかこいつの変な語尾も気にならなくなってる。

「一つだけ、提案してやる。俺をもう一度入れてくれるってなら、俺がこの場をどうにかしてもいい」

 俺のその提案に、くつくつとスリープは笑った。いつも通りの展開。俺達の自然体。探検仲間の自然体。ああ、いい。こいつら、やっぱり好きだ。

スリープは、今度はちゃんとこっちをふり向いて、口を開く。

「ま、一つよろしく頼んますわ。いつもの通り、やって頂戴」

「がってんしょうち!」

 相手はライチュウ。どうひっくり返っても勝てっこねえ。というわけで、いつもの通りやってやらあ!

 選択肢は、未だ一つ。スリープの手をとり後ろへ逃走。そのままボウズの手をとって、あらよと発動伝家の宝刀テレポート!

 

[了]

 

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