ポケモン色の本棚   作:@早蕨@

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ポケモン赤/緑 FR/LG ピカブイのどれかを1作でもやっていれば、
話の内容は分かるかと思います。


したっぱロケット団員の備忘録~赤帽子の少年~①

「リザードンが欲しい!」

 息子のコキヒは、自宅へ帰って来て早々に騒ぎ出した。

 緩やかな時間の流れる休日を満喫していた私は、泣きべそを掻いた息子の表情を眺めつつ、ダイニングテーブルに腰掛け、苦みの強いブラックコーヒーを喉に流す。さあどうしたものか。

「どうした急に。何があったんだ?」

 でもまずはただいまだろう? と諭すと、はっとした顔をしてただいま、と言ったかと思えば、次の瞬間にはまた泣きべそを掻いて騒ぎ始める。

 言う事を聞けるくらいには話が聞けるらしい。

「どうしてリザードンが欲しいんだ?」

 息子の両腕を取って真っ直ぐ尋ねると、だってねずるいんだよ、と始める。

「アキヒコ君が、リザードを出してきたんだ」

 目に髪がかかって鬱陶しそうだな、と思った記憶がある。髪型をいつもばっちり決めている、良い服を着たお金持ちの子どもだ。

「リザードを? ヒトカゲじゃなくてか?」

「リザードだった。お父さんから借りたんだって言って、そいつをバトルに出してきたんだ」

 なるほど、分かってきた。コキヒのオニスズメでは、今すぐに勝つ事は難しい。それを理解出来ていて、その進化先であるリザードンが欲しいという訳か。

「リザードンなんてそう簡単に捕まえられるもんじゃない。コキヒだってそんな事、分かってるだろう?」

 分かってるけど欲しい。とにかく悔しくて、勝ちたくて仕方がないのだろう。子どもとはそんなものだ。

「嫌だ! リザードンが欲しい!」

 落ち着くまではこの調子だろう。

 さてどうしたものかと腕を組んで息子を眺めていると、腰のボールホルダーに付いたモンスターボールが揺れている。

「なあコキヒ。オニスズメも何か言いたいんじゃないか?」

 騒ぎつつも無視は出来ないらしい。モンスターボールを手に取って、リビングに向かってそれを放った。

 ボールから出たオニスズメは、すぐにコキヒに向かって声高らかに鳴いた。ズボンの裾を引っ張って、外に連れて行こうとする。リベンジに燃えた目だ。

「どうせだめだよ! いくらやっても勝てないって!」

 コキヒも頑固だ。頑なにそこを動こうとしない。

 私から見たら微笑ましくも見えるのだが、当の本人達にとっては大問題。 

 オニスズメは縄張り意識の強いポケモンだから、負けると自分の居場所を取られた気になるのかもしれない。元々、群れからつまはじきにされ、倒れていたところを保護したのがコキヒだった。オニスズメにとってコキヒの隣こそ自分の居場所で、それを守る事に必死なのだろう。きっと勝つのが難しい事も分かっている。

 コキヒがリザードンを欲しいなんて言うもんだから、余計焦っているに違いない。

 あんなに鋭い目つきをしていて健気なオニスズメが、私には可愛くて仕方がなかった。

「じゃあ、リザードンを捕まえてきたら、オニスズメを貰ってもいいか?」

 引っ張り合っていた双方が、え? とこちらを見やってぽかんとする。その間の抜けた表情にくすりと笑いそうになってしまった。

 あれだけ頑なに動こうとしなかったコキヒが、今度は「嫌! 駄目だよ! 駄目に決まってるでしょ!」と騒ぎだす。

「じゃあ、リザードンは無しな」

 ずるい! と不満そうな息子は、安堵するオニスズメを見ていなかった。

「なあコキヒ。リザードンじゃなくちゃ駄目なのか? オニスズメと一緒に頑張るっていうのはどうだ?」

「それだと直ぐに勝てないし……」

 それはその通りかもしれない。だが、私はコキヒがオニスズメと一緒に強く、逞しくなって欲しい。私にリザードンを捕まえられるかどうかは置いておくとしても、ただ強いポケモンを渡したところで、コキヒのためにもオニスズメのためにもならない。

「直ぐに勝てないからって、アキヒコ君と同じようにポケモンを借りて行くのか?」

 だって、でも、悔しいし、ずるいし、とぶつぶつ言いつつも声は小さくなってきた。コキヒなりに理解は出来ているのだろう。同じ方法で勝ったってどうにもならない。ただ、それでも負けた事が悔しくて、熱くなってしまった。負けず嫌いは悪い事ではない。ただ、行き過ぎは禁物だ。

「オニスズメと一緒にリザードに勝ったら、凄く嬉しくないか? どうだ?」

「嬉しい……。オニスズメともっともっと一緒に強くなって、色んな奴に勝てたら、凄く嬉しい」

 そうだろうそうだろう。我ながら上手に説得出来たなと思い頷いていると、

「じゃあ、どうやったら勝てるのか教えて!」

 前向きで、やる気に満ち溢れた質問をされてしまう。

 さあ困った。私はポケモンバトルが得意なトレーナーではない。バトルの事に詳しくもなければ、特になんの実績もない。形だけは出来るかな、というレベルだった。もちろん、今のコキヒとオニスズメに負けるレベルではないのは間違いないが、教えるとなるとどうだろう。捕獲の仕方や育て方なんかは自分で経験してきたものを伝えられるが、バトルで教えられる事なんてあるだろうか。

 しかも、それでリザードに勝てなければ責任重大だ。

「それだったらいいでしょ? オニスズメと一緒に頑張るから、お願いだよ」

 両手を合わせて懇願してくるコキヒの屈託のない言葉と、オニスズメからも感じる似た視線。親として一肌脱ぐ時か。

「よおし分かった。教えられる事は全部教えちゃおうかな」

 私の言葉に、いつの間にかリザードンの事など忘れて喜ぶコキヒとオニスズメが微笑ましい。どうにかして勝たせてやりたいが、実際に何を教えられるのだろうか。

 自分のバトル経験を思い出す。初めてのポケモンはズバットだった。初バトルはボロ負けだったっけなあ、なんて苦い記憶が蘇ってくる。恥ずかしながら、人様に迷惑をかけるチンピラみたいな時代もあって、若い頃はまともなバトルをした記憶がない。

 そんな私の一番印象に残っているバトル、いや、バトルとも言うべきかどうか怪しい一件がある。忘れられない記憶。私の汚点とも言っていい。

 ロケット団のしたっぱをやっていた頃の、記憶だ。

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