アズマ工房の脱線しまくり繁盛記 ~空気読まないゆるゆるライフ~ 作:マリシャス
澪ちゃんお世話係りの大友凜の性格や性癖は本編置き去りのオリジナルです。
澪は困惑していた。
「ちょっとだけだから! ね!」
男のちょっとはちょっとに非ず。そんな微妙な言葉が脳裏に浮かぶ。先っちょだけ、に変換されていないだけまだ更正の余地が有ると最近諦め気味の真琴なら思うかもしれない状況である。
澪と『澪ちゃんお世話係り』ことクラスメイトの大友凛は学校帰りにちょっと寄り道を、とショッピングモールを歩いていた。
ファンシーな雑貨を見たり「これなら同じの作れる」などと某ネズミマスコットのぬいぐるみを見てコメントして「それってどうなんだろ。犯罪にならない?」という微妙な返答にも「売らなければオッケー」と返事をする、というゆるゆるな過ごし方をしていたら二人の男に声をかけられたのだ。
「カラオケ行かない? おごっちゃうから!」
「そそ!」
要はナンパである。澪はまだその年頃の平均からすると大分痩せているものの美少女と言って差し支えない造形だ。が、ナンパは初めてであった。
「結構です。行こ、澪ちゃん」
「ん」
あっさり断り澪の手を取って去ろうとする大友凛にホッとしたのも束の間、
「まぁまぁ!」
「割引券もあるからさ!」
澪と大友凛の肩と手を掴んで逃がさないようにする男二人。澪が見たところ二人はチャラい高校生。澪と大友凛を誘う時点で同じ十代という点ではロリコンかどうか判断が難しいところではあるがどちらにせよまともな神経をしているとは言えない。
そして何より
「自分らカラオケ奢る言うといて割引券有るとか無いとか何おもろいこと言うとんねん」
ということだ。
「あ?」
「なんだお前?」
「ツッコミ待ちかと思ったわ。この人ら自分らのツレか?」
そして登場するのは我らがヒーロー(し)。東宏である。昔の宏ならば遠くから観察してるか立ち去るかしていただろう。デントリスに粉を掛けられていた春菜に助け船を出さなかった頃からするとかなりの成長である。
勿論力を制御しているとは言え神である宏がナンパ男が刃物を持とうが銃器で攻撃しようがかすり傷つけることが出来ない、という安心感と、澪を助けなかった、という事実が残り露見した場合に後から仲間達から詰られたくない、という危機回避のためでもあった。
そこで澪が居なければ例え女性がナンパを嫌がっていたとしても暴行や性的犯罪に至らないであろう白昼堂々とした中では当然の如くスルーしていたであろうところは流石宏である。
「って、お前東か」
どうやら宏の知人らしい、というには剣呑な雰囲気の男三人。澪と大友凛は宏の登場に驚きつつ安堵し、そして澪は澪で自分を助けにきてくれた宏の姿に感動すらしていた。わしが育てた、などと名球会な元監督のようには言えないが、春姉が育てた、と姉貴分の功績を便乗して誇れる位には共に過ごしてきた実績と誇りが澪には有る。
「師匠。知らない人達。ちょっと困ってた」
「そか。僕が話しとくから寄り道せんと気ぃつけて帰り」
二人を背に手を振って去るよう促す。
「東、てめぇ邪魔すんな」
宏や春菜が通うのは一応進学校。だがやはり少数とは言え馬鹿な底辺は居るもので、その二人に引っかかってしまったのである。
「いや中学生ナンパすなや」
道理である。しかし、その道理が通用せず高校生や大学生、さらには恥知らずな社会人が年下、それも中学生や高校生、果ては小学生までこうやってナンパしてその毒牙に掛ける、というのはいつの時代にも起こっている事である。
「お前に関係ねぇだろ」
「あんま調子に乗ってんじゃねぇぞ?」
「一人は僕のツレでもあるけど春菜さんの妹分やから、これ以上は下手すると自分ら学校に居場所無くなんで?」
これは事実である。澪に物理でどうこうは難しいのは事実だが、あまり目立つ事もしたくはない上にあとあと家族や大友凛に危害を加えられたくない澪としては当然春菜や深雪に相談せざるを得ない。
「え」
「ま、じか」
そして春菜の影響力が凄まじい事は想像出来る二人の顔が青褪める。
「むしろ自分ら助けにきた感じやで? このまま平和に解散しようや」
「師匠。色々台無し」
「事実やん」
そうではあるが颯爽と現れたヒーローにはそのまま颯爽と助けて欲しい、と思うほどには色々手遅れではあるが乙女な澪は唇を尖らせる。
角を立てないように、と思ったからであるが澪的には余計な一言を添える流石は宏である。
「取り敢えず解散や」
手をパンパンと叩いて解散するよう促す宏にナンパ男二人は悪態をつきながらだが従い去っていった。
「師匠、ありがと」
「かめへんかめへん」
「澪ちゃん、師匠?」
「ん。深雪姉のお姉さんと同じ学校」
「じゃ、僕はもう混む前に帰るから自分らもまっすぐ帰り」
「あ。有り難うございました!」
「師匠、ありがと」
そして宏は先に立ち去った。澪の友人とは言え極力話をしたくない宏は流石である。余計な会話が始まる前に颯爽と去っていった。逃げたとも言う。
「あの人、格好良いね」
「え……ボクが言うのもなんだけど、師匠が初対面でモテる方では……」
例外も居るには居たが、あれは大分趣味が拗れている。
「いやそういうんじゃなくて、こう、大人って感じ?」
「ああ」
フェアクロの世界で修羅場を潜ってきた上に工房主として人を使う立場に居る宏がそんじょそこらの学生に人生経験という意味で負ける訳がない。その培った経験はやはり風格としてにじみ出ているのだろう、と澪は考える。そして大友凛の方はファザコンの気があったのも理由の一つである。
「あの、澪ちゃん。さっきの人紹介してくれたりとかは」
恋に恋する乙女な大友凛。どこかダサい雰囲気はあったし十代の少女受けする顔立ちではないがファザコンの気がある少女にとっては有る意味で現実的な恋愛対象に見えていた。そしてお笑い好きなだけに関西弁という点も親しみやすく感じられた。
「深雪姉のお姉さん、春姉や同レベルの美少女、さらに爆乳美女とプラスα、全員と渡り合う覚悟が必要」
そしてそんな友人の無謀な恋心を瞬殺する澪。恋愛クラッシャーというエクストラスキルが有れば拾得していたであろう一撃を放った、
「えぇ? うわぁ……ちなみに澪ちゃんも?」
そこまで執着があったわけではない大友凛は即座に気持ちを切り替えた上でおそらくは澪が先ほどの師匠と呼んだ男性に恋心を抱いているのだろうと推測し確認する。
「プラスα。恋愛対象になれてない」
自分に限らずだが何も女性不信だとか余計な情報を与えない。
「へぇ……うん、でも解るよ。頼りがい有りそうって言うか、立派っていうか、本当に高校生?」
苦笑するしかない澪ではあるが、自分の想い人が初対面の人間に対して高評価なのが嬉しくない訳がなかった。
その後も話せる範囲で澪も宏や春菜たちの話を交え、恋話に花が咲かせた。それはそれで中学生らしい放課後の過ごし方なのだろう、と澪は健康の重要性と己の幸運を噛みしめるのであった。