少女は夢見心地に
そこは深さも知れぬ海のような、果てしない闇のような、茫漠とした空間。
上下の別も無く、触覚も無い、ただぼんやりとした視覚と思考だけが残されていた。
それにいささかの不安も覚えないのはこれが夢であるからか、あるいは既知であるからか。
そう、少女はその場所に見覚えがあった。
それはかつて少女がただの村娘であった頃、そしてそれを境に激変する己の日常のその最後の日であったか。
その空間に泡沫のように浮かんでは消える、見覚えの無い景色や人、あるいは人ならざる存在。
それはこれから己が辿る道程なのだろうかと何とはなしに眺めていた。
「…ル、ジル」
──とそこへ己を呼ぶ声がする、ああそういえば自分の名前はジルだったな、などと取り留めの無い事を考えながら意識を声のするほうに向けると──
そこには一人の少年が立っていた。
「もう、ジルったらさっきから呼びかけてるのに全然返事しないんだもの、僕が分かる?」
黒い衣服に身を包み露出した顔や手だけが白皙の、まるで
やや明瞭になりつつある意識の中少女は答えた。
「君の事は忘れたくても忘れられないよシャリ、で?、
「ひどいなぁ、まるで僕がいつも君に何か仕掛けているような言い草じゃないか!」
まるで拗ねたような顔をしながら、からかうような口調で少年 シャリは答える、ジルはそれを冷ややかな目で眺めながら言い返す。
「事実じゃないか、僕はもう君のせいで何度トラブルに巻き込まれたか知れた物じゃないよ!」
「それは違うよ、僕はただ強い願いを叶えるだけさ、それが
「そしてジル、君もまた
「とまあそんな事はどうでもいいじゃないか。重要なのはジル、君が大陸を出て新しい旅に出た、という事さ。そして僕がその手助けをしてあげようじゃないか」
またぞろ何か厄介ごとを持ち込む気だな、とジルは呆れ半分警戒半分に聞き返す。
「手助け?」
「君は新たな世界を冒険したいんでしょ?、だったら僕が水先案内人として新しい世界に連れて行ってあげようじゃないか」
「拒否はできるのかな?」
「言ったでしょ、僕は願いを叶えるだけ。勿論君の心からの願いをね。」
憮然としたジルにシャリは笑いかける。
「ほらほら、そんな顔しないの、こんな大サービスになんて顔してるのさ、喜んでよ。君の持ち物もインベントリに全部収納して送ってあげるからさ、なんなら特典も付けてあげる、着いてからのお楽しみさ!」
「それにさ、
───と、シャリはにんまりと悪戯な笑顔を浮かべながらそれを口にする
「自由な旅を!」
そうしてシャリは姿を消し、ジルもやがて意識を手放し深く深く眠りの底に沈んでいく。
かつてバイアシオン大陸において幾多の戦乱を駆け抜け、数多の旅を踏破し、彼の地において無類の伝説を打ち立てた少女が目覚める時──
──大いなる魂の物語が再び幕を開ける──
さしあたって、まずは目標五万字を目指して書いていけたらと思います。