Fons - ep1 『hat-ape(ヘイテイプ)』 作:わんふー
1話は全体で2万5千字程度の分量になる予定です。
序章は約5千字なので、これで大体5分の1程度です。
初投稿初作品で、かなり手さぐり状態で作業しています。
すでに下書きは書ききっているため、大幅な変更はないですが、場合によっては後に大きな変更があるかもしれません。ご了承ください。
ふと、目を覚ます。
――――――暗闇。
眼前に広がるは漆黒の空間。
――――――無音。
静寂がこの場のすべてを支配している。
「……ここは、どこ……?」
手足の感覚すらなく、まるで意識だけが宙吊りになっているかのような、不気味な浮遊感のみがそこには存在していた。
――――――声?
どこかで何かを囁く声を感じる。
「……だれか、いるの?」
恐る恐る声をかけるが、五感を支配されたこの場では気配を感じ取ることすらできない。
「―――憎イ」
耳に届く低音は、憎悪を謳っていた。
「憎イ、憎イ憎イ、憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ―――」
無機質な、怨嗟の声が徐々に近づいてくる。
その音源はついに眼前へと迫り――。
「貴様ガ憎イ」
突如として浮かび上がる、小さな人型の影。
その言葉と共に、私の意識は暗闇の中へと溶けていった。
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「よし、こんなもんだろ」
炎が燃え盛る古ぼけた教会の中で、真紅のスーツに身を包んだ黒髪の少年は呟いた。
群青の十字架が刀身に刻まれた、妖刀【
そこには今しがた戦闘を繰り広げていた【夢魔】が倒れ、徐々にその形を崩し始めていた。
夢魔とは、人間の意識・記憶の中に棲み憑く魔物の事であり、主に取り憑かれた人間が睡眠状態の際にその本性を現し、取り憑いた人間に対して様々な悪影響を及ぼす。
その強さは大小あり、小さなものは殆ど影響がないとされている。
しかし、強力な夢魔に限っては、取り憑いた人の記憶によってその姿形を変化させるため、同一個体は存在せず、その能力も多岐に渡る。
瞬の眼前で倒れる夢魔は、蝋燭の姿を持ち、炎を操っていた。
「瞬、まだまだ修行が足りないわ。もっと周りをよく見て。援護する方の事も考えてよ」
背後からの嘆息混じりの静かな声。
振り返ったそこには、左腕が半袖、右腕が長袖という特殊な形状をした、純白のパンツドレスを身にまとい、髪をサイドテールに纏めた少女、清水涼が気だるそうに佇んでいた。
「なんだよ涼。上手く攻撃も捌けていただろう?」
「そうじゃなくて。瞬が下手に動きすぎるから、後衛の私が逆に攻撃しにくくなってたの!」
涼は深いため息を吐く。
「いつになったら一人前の【対魔師】になってくれるのやら」
「まーた説教か?戦闘はだいぶ慣れてきたんだから勘弁してくれ。…それに、説教ならここじゃなく帰ってからのほうがいいだろう?」
あたりを包んでいた炎は夢魔の消滅と共に静まり、完全に鎮火していた。
涼は頷くと、辺りに夢魔の残滓がないことを確認し――。
「Open/Gate」
前方にかざした涼の左腕に、渦を巻くような紋様が浮かび上がる。
青白く発光するそれは手の甲に集合すると魔法陣へと姿を変え――。
刹那、目が眩むほどの閃光が辺りを包む。
次の瞬間には、何もなかったはずの涼の前に、身の丈の倍を遥かに超えるほどの重厚な金属扉が出現していた。
「さぁ、現実世界に帰りましょう。今日の仕事は終わりよ」
涼は軽々しく扉を開け放つと、光を放つ扉の中の空間に消えていく。
瞬はこの後に待ち構える講評を想像し、辟易しながらも涼の後に続いた。
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『【対魔師】とは、古来より人を無意識下で苦しめてきた【夢魔】を討伐することを生業としてきた者たちの総称である。
夢魔は通常は人間に感知されることはない。
しかし、ごくまれに自らの意識の中に存在する夢魔を認識してしまう人間が存在する。
夢魔の認識が発生すると、夢魔が引き起こす様々な影響をより大きく受けてしまい、自分の中のもう一人の存在に耐えきれず、最悪の場合精神病等を引き起こす場合がある。
この状態になると、専門の医師が人知れず対魔師による討伐を依頼する、というのが現代の夢魔討伐の基本的な流れになっている。
しかし、夢魔を感知した人間が全て精神を侵されるという訳ではなく、事実ほとんどの人間が『気のせい』で済ませている。
夢魔との戦闘は依頼者の精神世界で行われる。
対魔師は【ゲート】と呼ばれる魔術を使用し、肉体のコピーと、意識を夢魔の元へ転送する事ができる。
精神世界で死亡した場合、意識が元の肉体に戻ることはなく、事実上の死亡となる。
そのため、対魔師は夢魔の討伐のために、自らの特性に合った様々な技能を有している。
剣術、魔術、武術、その他さまざまな技能が無数に存在するが―――』
「―――ダメだ。俺には理解できん」
瞬は読んでいた古い文献をぱたん、と閉じると、無造作に本棚に戻した。
「ちょっと、貴重な教本なんだから杜撰な扱いはやめてよね」
「要は夢魔を倒せればそれでいいって事だろう?」
「極論を言ってしまうとそうだけれど、教本を読んだでしょ?私達の意識は一つ。精神世界で死んだ場合、現実世界でも死ぬことになるのよ?」
「それでこの毎度の勉強会ってわけね」
依頼を終えた二人は、涼の自宅である喫茶店【フォーンス】へ戻ってきていた。
フォーンスは対魔師であった涼の父親が経営していたが、三か月前に夢魔との戦闘で死亡して以来、涼が後を継ぎ、高校が終わった後と休日に開店している。
一人で夢魔との戦闘を行わなくてはならなくなった涼は、対魔師の最低条件である魔術適正を持つ人間である後輩の瞬を勧誘し、見習いとして雇っている。
対魔師の家系ではない瞬が危険な目に逢わないために、定期的にこうして対魔師および夢魔に関する文献を教本として、涼が座学を教えているのだ。
「じゃあ、今日説明することは夢魔の特性と形態よ」
依頼があった日は、瞬は涼の家に泊まるのが通例になっている。
夢魔が何らかの遅効性の術を発動させていないとも限らないためだ。
それでも疲労から通常は早々に寝てしまうのだが、今日は存外早く夢魔を倒せてしまったため、寝るには早い時間であると、急遽課外授業を実施したのである。
フォーンスは一階が喫茶店スペース、二階が居住スペースになっており、授業は2階の涼の部屋で行われる。
すでに二人とも風呂をすませ、瞬はスウェット、涼はパジャマを身に着けていた。
「特性と形態ねぇ。たしかに夢魔は色々なやつがいるんだよな」
「そう。夢魔は姿形が様々でしょう?でも、その姿形から強さを、与える影響から属性を推し量ることができるのよ」
瞬はメモ帳を取り出し、ペンを走らせる。
わからないわからない、と言っていても、瞬は教えられたことはしっかりと学習し、戦闘に生かす。
だからこそ、夢魔との戦闘においても最も危険のある剣術特化スタイルの近接戦闘がこなせるのである。
涼は部屋に設置されているホワイトボードに夢魔の情報を書き込み始める。
「まずは形態の方から。これの見分け方は簡単よ。【物質形態】【動物形態】【
「それぞれの形態での特徴はなにかあったりするのか?」
「それは夢魔ごとに異なるから、あくまで目安にしかならないわ。ちなみに今日私達が倒した蝋燭の夢魔は物質形態の夢魔ね。」
瞬は今日の戦闘を思い起こし、納得する。
確かに蝋燭は物質であり、ここまでわかりやすければ、自分にも見かけで判断できると確信したからだ。
「なるほどな。動物や人の姿をした夢魔には無策に突っ込んで行くのはまずいってことか。」
「そうよ。まだ瞬が来てからの依頼には動物形態以上の夢魔とは戦ったことはないけれどね。実際、動物形態なんて滅多にいないのよ」
瞬はペンを走らせながら、涼に続きを促す。
「次に特性について。これは少し細かい、そして長い話になるわ。メモの準備はいいかしら」
「ああ。大丈夫だ。」
「なら始めるわ。まずは特性の大まかな分け方。これもおよそ三種類に分けられるわ。それぞれ【暗示性】【強制性】【作用性】。まずは【暗示性】について。これは主に取り憑いた人間の性格面に対して影響を与える特性よ。一番知名度が高く、代表的なものは『泣き虫』と呼ばれる夢魔ね。小さな子供くらいにしか影響を与えられないほどの低位な夢魔だけど、これは取り憑いた人間を感傷的に、つまり泣きやすくする夢魔ね。」
思いがけない単語に瞬はつい吹き出してしまう。
「泣き虫なんて言葉知らない人いないだろ?それほどに夢魔は身近な存在だったってのか?」
小さな子供が数人いたら、一人は泣き虫がいると、相場が決まっているものである。
そんな時期から夢魔に影響されて人間が育ってきていたのか、と考えると、瞬は身震いを堪えきれなかった。
「ええ。他にもいろいろいるわよ?そういうのはあまりに数が多いし弱いから、対魔師が出るまでもないレベルの夢魔だけどね」
「確かに、泣き虫でも日常生活には問題はないもんな…」
「続けるわ。次は【強制性】について。これは無意識、感情的な行動を強制する夢魔よ。例えば、いきなりボールが飛んできたときに避けさせるとか、捕らせるとか、そんな簡単な強制しかできない夢魔もいるけれど、この夢魔の凶悪なところは、感情に左右させる点よ。普段大人しい人がカッとしたとして、その時にこの夢魔の強制力によってはその場で人を刺し殺したりさせる場合があるの。ニュースとかで『そんな人にはみえませんでした』って言ってるような事件は、大体こいつが原因だったりするのよ。そして、最後【作用性】について。これは取り憑いた人間の肉体そのものに影響を及ぼすわ。一見してわからない程度にウィルスへの抵抗力を下げたり、筋力低下を招いたり…、とにかくわかりにくくて、見つけにくいのがこいつの特徴よ。そしてこいつの凶悪なところは、取り憑いた人間が死に至るほどの力を発揮すると、夢魔自身がその場で消滅してしまうこと」
「ん…どういうことだ?もう少しわかりやすく説明できないか?」
うーん。と考えるそぶりを見せながら涼は紅茶をすする。
「簡単に言うと、対魔師が何らかの方法で先に対処しないと、取り憑いた人間を道連れにして死ぬっていう特性かしら」
瞬のペンがピタリと止まる。
涼を訝しく見上げると、眉間にシワを寄せる。
「理解はしたが…いや、それどう考えてもまずいだろ…?」
「まずいけれど、実のところ全部は対処不能なのよ。通常の病死に見えるから、一見何の問題にもなってないのだけども、事実かなりの犠牲者は出ているわ。運悪く脳血栓で即死させるなんてパターンもあるから、本人が先に認識して対魔師に討伐を依頼するしかないわね」
「良くも悪くも、夢魔は現実世界と同化して、人間とは隣り合わせになってるっていうことはよくわかった」
「ええ。ここまでで何か質問はある?」
ポリポリ、と頭をかく瞬はメモ帳をめくる。
メモのいたるところには瞬の感じた疑問が書き込まれ、クエスチョンマークが点在していた。
「あぁ。いくつかある。今の話だと、人は夢魔をまるで存在しないかのように受け入れているっていうとも取れるわけだよな。なら、対魔師はなんで存在するんだ?」
瞬の質問に涼は唸る。
事実、対魔師は依頼がない限りわざわざ夢魔を討伐したりはしない。
「確かに、放置しても現実世界は何の問題もなく機能するはずよ。でも、犠牲になる人が増えるわ。例えば人の感情を増幅させる夢魔が、ストレスを多く抱える会社員に取り憑いたとしましょう。しかも、その会社員はひょんな拍子に夢魔の存在を認知してしまった。この人はこの後どうなると思う?」
「自分の中の何かに永久に悩み続ける…か」
「自力での解決の方法がないって、怖いでしょ?そんな人を助けるために私達対魔師は存在しているのよ」
「わかった。じゃあもう一つの質問だが、人間が夢魔を認識するってのがよくわからない。何か原因があったりするのか?」
「勿論その引き金も全部わかっているけど、これも話が長くなるから、また今度にしましょう。もういい時間だわ」
涼が時計を指さす。
気が付けば、針は零時を回っていた。
「質問の答えはまた今度、ね」
涼はホワイトボードの板書を丁寧に消していく。
瞬は頷くと、メモをスウェットのポケットにしまい立ち上がる。
「それじゃ、俺は部屋に戻って寝るかな」
おやすみ、と言い残し部屋から出る。
立て込んだ依頼もない。明日は平日だ、学校もある。
―――早く、涼の横で戦えるような強さを身に着けないとな。
ほどなくして、喫茶店から明かりが消える。
疲れもあったからか、瞬が眠りにつくまで、そう時間はかからなかった。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
設定等まだ完全な裏付け等とりきれてませんので、多少のミスは寛容のほどよろしくお願いします。
常識で考えて明らかに致命的なミスがありましたら、批判の範囲に入らない程度に指摘していただければ幸いです。
ここから物語はしっかりと展開していきますので、お楽しみに