復讐者慟哭。幕上がるは復讐歌劇   作:鎌鼬

1 / 45
復讐の始まり

 

ーーー復讐とは、世間一般では忌避される行為である。

 

 

誰々が殺された、だから殺したヤツを殺した。ハンムラビ法典からしてみればそれは正しい行いなのだろうがそれでもだ。

 

 

復讐は復讐を呼ぶ。例えばAが殺され、加害者であるBをCが殺したとしよう。そうすればBに関わりがあるDが現れてCに復讐する。そしてCに関わりがあるEが現れて……と、この通り負の循環、終わらない復讐劇の始まりだ。

 

 

復讐は虚しいだけだ。例えば復讐の為だけに人生のすべてを捧げた奴がいるとする。そいつは見事に復讐を果たした……その果てに待っていたのは虚ろな人生だ。復讐の為に生きて復讐に人生のすべてを捧げたが故に、復讐を果たしてしまえばそこには何も残らない。ただ空虚な肉袋が一つ出来上がるだけだ。

 

 

以上が復讐が忌避される行為だと考える。

 

 

それを踏まえて言わせてもらおうーーー()()()()()()()()()

 

 

復讐とは行為ではなくもはや感情に近い。するしないではなくて、しなくてはならないモノなんだ。

 

 

そうでなくちゃ殺された奴の無念はどうなる?そいつを殺された奴の怒りはどうなる?悲しみは?喪失は?忌避されているからと言って諦めるのか?それこそふざけるなと言いたい。

 

 

世間一般論や道徳に引き摺られて復讐を諦めるのなら、所詮その程度の関係だったとしか言えない。本当に殺されたそいつのことを想っているのなら、そんなものは振り払って復讐を成し遂げなければならない。

 

 

何故そんな事が言えるのかって?簡単な話さ。

 

 

ーーー俺も、復讐を誓った一人なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後5時。友達と遊びに出ていて夕方に家に帰った時、出迎えてくれたのはーーー家族の死体だった。

 

 

「ーーーとお、さん」

 

 

髭を蓄え、恰幅の良い笑顔の似合う父は首を360度回転させて崩れ落ちていた。

 

 

「ーーーかあ、さん」

 

 

いつも優しく微笑んでいた母は綺麗な顔を恐怖に歪ませ、内臓をブチまけて床に転がっていた。

 

 

「ーーー真輝」

 

 

お兄ちゃんお兄ちゃんと、俺の後ろを笑顔でついてくる妹は、下手人らしき男の腕の中で意識を失っていた。

 

 

「ーーーもう一人いたのか?いや、そんな情報はーーー」

 

 

俺の両親の血で手を汚した下手人ーーー赤髪の男は真輝を抱えて、何かを考えているようだった。が、そんな事は気にならない。俺の中に湧き上がるものがあるから。

 

 

家族を殺された事で恐怖した?殺されて悲しい?ーーー違う、殺されて、怒りが湧き上がってくる。

 

 

「ーーーテメェェェェェェェェェ!!!」

 

 

遊びに持って行っていた野球バットを振りかざして赤髪の男に向かう。彼我の把握や体格の有利不利など気にしていられない。父と母を殺し、妹に危害を加えようとしているこいつを()()()()()()()()と猛り狂う。

 

 

「ーーー」

 

 

それに対して赤髪の男は空いていた手を俺に向けて翳した。そして翳した掌から、紅い閃光が放たれた。紅い閃光に飲み込まれて、()()()()()()()。物理法則を完全に無視しているが、捻じ伏せるように分からされた。

 

 

俺という個人が消えていく感触が引き延ばされる。1秒が5秒になり、5秒が10秒になる。その時間の中で考えていたのはひたすらに赤髪の男に復讐をする事だった。

 

 

この男を殺す、殺された親の仇を討つ。攫われそうになっている妹を助ける。現在進行形で殺されているというのに心の内にあるのはただただ復讐の事ばかり。荒れ狂う怒りを赤髪の男にぶつけてやる事ばかりだった。

 

 

だからなのだろう。怒りしかない俺に干渉してくる存在があったのは。それを知覚した俺は心に浮かび上がった言葉を迷う事なく口にしていた。

 

 

「ーーーアクセス、我が(シン)

 

 

10秒が5秒に、5秒が1秒に、引き延ばされいた時間が元に戻る。身体を消される感触を味わいながら、俺は紅い閃光を()()()()、突き破る。

 

 

「なーーー」

 

 

閃光から飛び出した時に赤髪の男の驚いた顔があったがそんな事はどうだって良い。問題は腕が無くなった事だ。頭と足だけしか残っていなくて、バットは手と一緒に消えてしまった。

 

 

だったらと、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ガッ!?」

 

 

奥歯まで肉を詰め込んで渾身の力で口を閉じる。溢れる血が口に入って吐き気がしてくるがそんな事で力を緩めて男を逃したくないとさらに力を込める。

 

 

「このっ!!」

 

 

だが、悲しい事には大人と子供では力に差がありすぎる。頭を掴まれて引っ張られるだけで喉から離された。それでも力を弱めなかったからか赤髪の男の喉元は大きく抉れているが。

 

 

「ーーーサーゼクス様!?」

 

 

後ろから悲鳴に近い声が聞こえた。恐らくサーゼクスというのが男の名前なのだろう。その声に一瞬でも注意を引かれてしまった。

 

 

足元に円と文字が浮かび上がる。それが何かを認識する前に光り輝きーーー気がついたら、そこは家では無くどこかの森の中だった。

 

 

「ーーーは?」

 

 

何が起きたか理解出来ない。夕方だったはずなのに夜になっているが嗅ぎ分けられる土と草の匂いがリアルである事を教えてくれる。非現実的な光景を目の当たりにして俺の中にあったのはーーー混乱では無く怒りだった。

 

 

「ーーーあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

赤髪の男ーーーサーゼクスを殺せなかった。後ろから聞こえた声に気を取られて殺せなかった。父と母を殺したあいつを殺せなかった。妹に危害を加えようとしていたあいつを殺せなかった。

 

 

叫んで喉から血が吹き出るが、どうでも良い。

 

 

暴れて服が汚れるが、どうでも良い。

 

 

()()()()()()()()()、どうでも良い。

 

 

「殺す……殺してやる……!!!」

 

 

今更ながらに湧き上がってきた悲しみと殺せなかった悔しさで涙が出てくる。

 

 

「必ず殺してやる……!!!サァァァァァァァゼクスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

 

 

夜の森の中に、俺の絶叫が響き渡った。

 

 

 





《本日の被害》
成人男性一人死亡
成人女性一人死亡
少年、少女行方不明

犯人は一体誰なんだ……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。