イザイヤが終始押している一方で、クリスティアンの方は硬直していた。秒間に何百もの魔法と光の槍が飛び交い、ぶつかり、相殺しあう。稀に相殺されずに通過するものもあるのだがそれは本人たちには向かわずに、黒歌によって強化された結界にぶつかって消滅する。
「ハッハッハ!!良いぞ人間、なかなかやるなぁ!!」
高笑いをしながら黒い翼を羽ばたかせるのはコカビエル。最盛期よりも幾らか衰えているとはいえど彼の実力は未だに最上級クラス。ただの人間が自分に追いつけているのが嬉しいのか、どこか子供を思わせる笑みを浮かべて追加で数千の光の槍を放った。
「ふん、小賢しい」
それを見て不愉快だと鼻を鳴らすのはクリスティアン。魔法とぶつかり、それでも尚四桁を超える光の槍を
迂闊に踏み込めば即死してしまいそうな空間の中にあって彼らは未だに無傷。何故なら、これはまだ前哨戦に過ぎないから。
戦いを決めるのは必殺の一撃に他ならない。故にそれ以外の攻撃はすべて小手先だけの物に成り下がる。この派手に見える魔法と光の槍のぶつかり合いも彼らからすれば決定的な隙を作り出すための小手先だけの物でしかない。
「ならば、これはどうだ?」
膠着状態に焦れたのか、先に動いたのはコカビエルだった。光の槍の密度が上がり、徐々にクリスティアンの魔法を超え始める。それでもクリスティアンには届かない為に無視されているが、状況的には押され始めている。
「烏が儂を試すかよ。不愉快だ」
その状況、というやりもコカビエルの言動に苛立ちを覚えたのかクリスティアンの魔法の密度が跳ね上がる。それまで乗り越えていた光の槍が消滅こそはしないが撃ち落とされる。状況は一瞬で振り出しに戻り、そしてクリスティアンが押し始めた。
「ーーーそこだ」
コカビエルが右手を差し出し、虚空を握り締める。その一動で撃ち落とされていた光の槍が再び動き出し、魔法の弾幕の下からクリスティアンに向かっていく。
「チッ」
舌打ち一つ、そして視線を向けて迫る光の槍を魔法で迎撃。クリスティアンに被害は無い。だがそれはコカビエルからすれば決定的とも言える隙だった。
「そこだぁッ!!」
クリスティアンが視線を向けた一瞬の隙にコカビエルは10の光の槍を放つ。それに込められた光力は今までの光の槍がお遊びに見えるほどに強大。クリスティアンの魔法の弾幕を諸共せずに、目的に向かって最短距離を最速で飛んでいく。
「ーーー
それをクリスティアンは一切の動揺なく、復讐を誓った時に発言した
「返すぞ!!」
そして影の壁か10の光の槍が放たれる。射出されたそれはコカビエルが放った時と同じ速度でコカビエルの元に戻っていく。
「追加だ!!」
それだけでは無く、コカビエルの周囲に魔法陣を展開させて。全方位を囲まれたコカビエルに逃げ道は無い。怒涛の勢いで放たれる魔法を喰らい、返された光の槍がコカビエルのいた場所に着弾する。
立ち込める爆煙。手応えはあった、だが仕留めていないと分かった。それが正しいと証明するかの様に爆煙が無くなったそこには翼を楯の様にして魔法と光の槍を防いだコカビエルが無傷でいた。
「なるほど、ただの魔法使いかと思えば
「何故貴様に答える必要がある?」
「ハッハッハ!!確かにそうだな。しかし時間をかけて良いのか?今起動している術式の効果、貴様なら分かるだろう?」
「烏の力を使ってこの町を崩壊させる物だろう?不愉快な……人外風情が人間の世界に踏み込むなよ。それに、
クリスティアンがフィンガースナップを一度鳴らす、それだけでバルパーが作り上げた術式が音を立てて崩壊した。驚くことでは無い。ただクリスティアンはコカビエルとの戦いと並行して術式の解析、支配権の簒奪を行っていただけのことだ。
「人間の作った術式なぞ赤子の児戯の様な物だ、片手間で十分」
「ハッハッハ!!凄いなぁクリスティアン・ローゼンクロイツ!!貴様の様な人間は久しぶりだ!!」
「烏の賞賛なんぞいらん。儂から妻子を奪った貴様らの賞賛なんぞ、死んでも受け取るものか……それに、知りたいことは知れた」
それがクリスティアンを復讐へと駆り立てる原動力。愛している妻と息子を堕天使に殺された。その時に
そしてこの時点でクリスティアンの実験は達成された。それは自分の力だけで最上級クラスの堕天使とどこまで戦えるのかというもの。今までに始末してきた堕天使は中級クラスが精々で上級クラスがどれほどの強さなのか分からなかったのだ。
だが、それを知ることが出来た。聖書に名を残す堕天使コカビエル相手に魔法と
「だからーーー死ね」
知りたいことを知ったクリスティアンはコカビエルに向けて死刑宣告をした。それは偶然にもイザイヤがフリードに告げた時と同じタイミングだった。
「「天昇せよ、我が守護星ーーー鋼の
そして復讐を誓う
「巨神が担う覇者の王冠。太古の秩序が暴虐ならば、その圧政を我らは認めず是正しよう 。
勝利の光で天地を照らせ。清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる 」
それは至高。
それは最強。
それは究極。
それ以外に形容すべき言葉無し。
「百の腕持つ番人よ、汝の鎖を解き放とう。鍛冶司る
大地を、宇宙を、混沌を――偉大な雷火で焼き尽くさん 」
イザイヤが謳い上げるは全能の証明。我に能う敵無しと、傲岸不遜にただ
「聖戦は此処に在り。さあ人々よ、この
そして
「有翼の帽子と靴を身に纏い、双蛇の巻かれた杖を手に、主神の言葉を伝令すべく地表を流離う旅人よ
盗賊が、羊飼いが、詐欺師と医者と商人が。汝の授ける多様な叡智を、今かと望み待ち焦がれている
石を金へと変えるが如く、豊かな智慧と神秘の欠片で賢者の宇宙を見せてほしい 」
流れる様に言葉は紡がれ、クリスティアンの衣服に星の輝きが集っていく。
「願うならば導こう――吟遊詩人よ、この手を掴め。愛を迎えに墜ちるのだ 。
太陽へかつて譲った竪琴の音を聞きながら、黄泉を降りていざ往かん。それこそおまえの真実である 」
謳いながら冥府に落ちていくという二面背反。高き所にいる愛しい者たちの所に逝かずに自分は堕ちるのだというクリスティアン・ローゼンクロイツの怨嗟と嘆きの声であった。
与えた者曰く、最高にして最優の魔星がここに顕在化する。
「
「
そして二つの魔星がここに産まれた。
クリスティアン、コカビエルと互角。尚これは魔法と
そしてようやくケラウノスとアルケミストが出せた……このペースだと全部出すのにどれだけかかるやら。
イザイヤとクリスティアンが