「死が満ちる、死を満たせ、死を
狂乱と破壊と炎と災いで、見渡す荒野を深紅に染める
青銅の鎧を纏え。両手は槍を携えよ
戦車へ騎乗し突撃すれば、敵兵はものみな等しく髑髏の山と成り果てようぞ 」
レージから放たれていた不可視の赫怒に色が付く。燃え盛り、尽き果てぬ怒気を象徴しているが如き暗赤色。それがまるで爆発したかのような勢いで激しく流れ出し続ける。
愛していた父と母を侮辱されたことに対する怒り、サーゼクスだけではなくアジュカという悪魔も敵だったという怒り。父と母が開発した
「おお、芳しきかな、人肉の脂が燃える
打ち震えるかな、無意味で無情な流血よ
ただ理不尽に散りゆく
野獣の如き蹂躙だけがこの身を至福へ誘うのだ。城壁の破壊者は、泰平をこそ打ち砕く 」
冥府の底から響き渡るかの如く、低く滅滅と木霊する呪詛の羅列。朽ち果てろ、朽ち果てろ、
「永遠たれ、凶兆たる災禍の紅よ。神々の弾劾さえ我が悦びを裁くに能わず 」
そこに宿っているのはただ一つの感情ーーー殺意だけだ。
殺してやる、殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるーーーと、尽き果てぬ
「
魔星顕現ーーーレージが宿した
「ーーー全員警戒!!一挙一動を見逃すなぁ!!」
それを目撃していた上級悪魔は驚愕こそあれど想定内だったので檄を飛ばす。彼の実力こそは上級悪魔の平均値から頭一つ飛び出した程度だが、それを補える優れた観察眼と指揮力があって此度の任務のリーダーとなった。
魔王から受けた命令は、【ある力を持った人間の確保】。その力は魔力とも
他の悪魔たち5人も彼の指示に従い、魔星になったレージを警戒する。それに対してレージは暗赤色のオーラを纏ったまま獣の様に四つん這いの体勢になりーーー全身の筋肉を使って突進した。
速度は速い、だが遅い。ただの人間の子供なら驚くほどの速さであるが、悪魔である自分たちからしてみれば見てからでも対応出来る程度の速さでしかない。それどころかアテナの庇護を自分から出てきたのだ。
さっさとレージを捕まえ様と捕縛用の魔法を使おうとしてーーーレージの目の前に飛んできた木の葉が、
「ッ!!散開しろぉ!!」
叫びながらなりふり構わず上級悪魔は回避行動をとる。彼の指示を実行に移せたのは3人、全力でレージから離れたので難を逃れることが出来た。
そして残る2人、彼らの1人は命令を実行しようとしたが間に合わず、もう1人は命令を無視してレージを捕らえようとした。結果として捕らえようとしていた悪魔がレージの突進をまともに喰らい、逃げようとしていた悪魔は片腕がオーラに触れてしまった。
その結果ーーーレージの突進をまともに喰らった悪魔は
「なんだと!?」
「ヒィ……!!あぁ……!!嫌だ!!助けーーー」
そしてもう1人の悪魔もオーラに触れた片腕からもう1人の悪魔と同じ様に崩れて消滅した。中途半端に時間があった為に、後者の方が恐怖は大きかったかもしれない。だが、今の光景だけで生き残っている悪魔たちを警戒させ、戸惑わせるには十分過ぎた。
彼らは魔王から簡単な任務だと伝えられていたのだ。子供1人を捕らえるだけの簡単な任務だと。それなのにどうだ?
「アァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
雄叫びをあげながら再びレージは突進する。生き残りはリーダーの悪魔を含めて4人、誰もが翼を広げて空にいる。それを追いかける為にレージはーーーただ全力で、跳躍してみせた。
未熟な身体に力の行使が追いついて行かず、肉の断裂する音と骨がヒビ割れて砕ける音が鼓膜に届く。それでもレージは跳躍を果たし、一番低いところにいた悪魔の足に手を届かせた。
「や、辞めーーー」
懇願の声も虚しく触れられた悪魔は崩れて消滅する。
「こ、このーーー!!」
恐怖に駆られた生き残り2人がレージ目掛けて魔力を放った。上級悪魔の一撃をまともに喰らえば、人間は容易く死んでしまう。今の2人の頭の中には魔王からの命令は消え失せており、ただ恐怖の原因を消し去りたいという思いだけがあった。
空中にいるレージは回避不能、肉が断裂し骨が砕けた足は
そんな中でレージが取った行動はーーー
飛ぶ力と重力が完全に釣り合ってゼロになった瞬間に全力で蹴る事で足の肉と骨は破裂して粉々になる。強引な行使による代償だが、レージはたとえ足を失ったとしてもこれをやってのけただろう。
そして魔力とレージはぶつかりーーー
その代償は、死である。魔力も消滅させられると思わなかった悪魔たちはその結果を見て硬直し、その間にレージに腕が届く距離まで近づかれてしまう。
「あーーー」
遺す言葉は一言だけ、間抜けな呟きを遺して、2人の悪魔たちはそれまでと同じ様に消滅させられる。
「くっ……この事をサーゼクス様に報告しなくては!!」
残ったリーダー格の悪魔が選んだ手段は撤退。実はこの悪魔、他の悪魔たちとは違い、サーゼクスからとある指示を受けていた。それは【任務達成が困難であると判断したのなら、撤退して情報を持ち帰る事】。
そしてその指示通りに任務達成は不可能になった。今更ながらに悪魔の中にサーゼクスに対する猜疑心が生まれてくる。もしかしたら、サーゼクスは何かを知っていたのでは無いかと。あの子供が使う力を知っていたのでは無いかと。
生きて帰り報告し、この事をサーゼクスに問い質そうと決めて悪魔は翼を羽ばたかせて上昇する。この場を離脱して、転移で冥界に帰るためだ。その気になればその場でも転移する事は出来るのだがそんな隙を見せれば他の悪魔たちと同じ様に消滅させられるという判断から。
実際、その判断は正しかった。逃げようとする悪魔を追いかけようとレージは再び空を蹴り、オーラを噴出して悪魔に迫る……が、寸のところで届かない。足は皮一枚で繋がっている状態で、これ以上動けそうも無かった。
再生される前に逃げられると、悪魔は淡い希望を持つ。
「ーーー逃すものか」
「ガアッ!?」
その希望はすぐ様打ち砕かれた。悪魔の背後に現れたアテナの鎌の一閃、それで悪魔の翼を切り裂かれる事で。
飛ぶ手段を失った悪魔は頭から地面に墜ちる。だが人間よりも遥かに頑丈な為に軽い打撲程度で済む。
「さて……こうなればこの悪魔を拷問すべきかと妾は思うが、レージはどうしたい?」
「ーーー殺す」
アテナの質問に簡潔な一言で答え、レージは再生した足で着地するのと同時に地面に墜ちた悪魔目掛けて突進した。
「サーゼクス様ーーー」
そして悪魔は最後にサーゼクスの名を呟き、他の悪魔たちと同様に塵芥を遺して消滅した。
悪魔たちがいた痕跡である塵芥を見ながらレージは息絶え絶えにオーラをしまった。初めて使った力には慣れていないのだろう、レージの顔は真っ青で今にも倒れてしまいそうだった。
「……アテナ、ごめん」
レージの口から出たのは謝罪の言葉。アテナはあの悪魔を拷問にかけるべきだと言っていたがレージは感情に任せて殺してしまった。生かしておけば情報を引き出せていたかのしれない。その後で殺せば良かったと今になって気付いて謝ったのだ。
「何、気にするな。妾はどうしたいのかと尋ねた。それにレージは殺したいと答えて、殺した。謝る事では無い」
そんな事よりも身体は大丈夫かと、アテナはレージの身体を診る。限界を超えた行使で皮一枚で繋がっていた足は状態は酷いが一応繋がっている。立ててはいるがボロボロで、いつ倒れてもおかしくは無かった。
「休め、色々な事がありすぎた。休んで考えてから、どうするか決めると良い」
「わか、った……」
そう言ってレージは気を失った。全身を弛緩させてその場に崩れ落ちる……その前に、アテナが受け止める。
「良くやったな」
そう言ってアテナはレージの頭を優しく撫でた。レージはアテナの手も借りずに混乱していたとはいえ上級悪魔を倒した。それはレージの復讐の始りに違いない。
どうか彼の復讐が果たされる様にと、アテナは無邪気な顔で眠るレージの頭を撫でながら祈った。
と、いうわけで初めての