復讐者慟哭。幕上がるは復讐歌劇   作:鎌鼬

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復讐者は血塗れになり、蝙蝠は冥界で語らう

 

 

『アテナよ、蝙蝠に絡まれたそうじゃな?』

 

「誰から聞いた?」

 

『ヘルメス』

 

「またあやつか……あの口の軽さはどうにからぬか……」

 

 

ヘルメスはフットワークが軽ければ口も軽い。本当に大切な情報なら拷問されても話はしないが、それ以外だと誰にでも話してネタにしているのだ。そのせいでヘルメスは伝令神と呼ばれてたりする。

 

 

「レージの家に行って帰ろうかとした時にな。数は6人、どれもが上級悪魔だった」

 

『うむ、それを(わらべ)が倒したというところまでは聞いておる……お主なら(わらべ)が出るまでもなく倒せたと思っておったのじゃがな』

 

「むぅ……恋は人を変えるというが、それは神である妾にも通じるらしい……あの時、妾は倒すだけでは無くレージを守ることも考えてしまっていたのだ」

 

 

女神アテナは戦神としての側面も持っている。そんなアテナからすれば上級悪魔6人程度は簡単に倒せる相手だった。だが、アテナは悪魔を倒す事よりもレージを守る事に思考を傾けてしまった。

 

 

だが、不思議と悪い気はしない。守りたいと思う者が現れたのはアテナに取っては悪い事ではなかった。しかしこれではいけないと自身を叱咤する。

 

 

「なぁ、これをネタに悪魔共を強請ることは出来るか?」

 

『出来なくも無いがシラを切られて終わりじゃろうな。何せ肝心な死骸が残っておらん。まぁ、たとえ残っていたとしても勝手に暴走してやった事だと言われたら深く突っ込めんがのぅ』

 

 

悪魔が敵意を持ってギリシャ神話のアテナに襲ってきたとハーデスは悪魔勢力に訴えたかったがレージがその肝心の悪魔たちを塵にしてしまった為にシラを切られて終わる未来しか見えない。仮に残っていたとしてもハーデスが言った通りに勝手に暴走したと切り捨てられて多少の賠償が支払われてそれでお終いになるだろう。

 

 

つまりハーデスからすればこの事案は無理矢理押し通すには旨味が少な過ぎる物だった。仮にアテナが傷付いていればもっと大事に出来ただろうが、ハーデスはそれを惜しむよりもレージもアテナも無事に帰ってきた事を喜ぶ。ヘルメスはどうでも良い。

 

 

「なら、しないで欲しい」

 

 

アテナの頼みはハーデスからすれば意外な物だった、がレージの立場を考えて納得する。

 

 

あのレージの親が遺した手紙から、魔王がレージを狙っている理由が分かった。レージが宿している【星辰光(アステリズム)を産み出す力】を求めているのだろう。レージの家を見張っていた悪魔たちもレージを捕獲する事を望んでいた事からまだ狙われている。

 

 

もしハーデスが今回の件を悪魔勢力に訴えれば魔王にレージがギリシャ神話(ここ)で保護されている事がバレるかもしれない。そうなれば面倒になる。少なくともレージが1人で戦えるようになるまで隠し通す必要があるのだ。

 

 

『成る程、確かにそれならびしない方が利口じゃな……ところで、(わらべ)が荒れている理由はやはりその事か?』

 

「だろうな……決意はしていたが今回の事で決心が出来たと見える」

 

 

そう言ってアテナは空中に投影されている訓練所の映像を見る。そこには全身切り傷と打撲だらけにしながらも二本足で立ち、両手で二本のナイフを逆手に持っているレージの姿があった。レージの相手はハーデスの部下の1人のオルクス。武器である鎌を振るいながらレージの手足を叩き、レージの挙動を注意している。

 

 

それは見ていて痛ましい光景だった。オルクスは加減しているのだろうがそれでも相手はまだ10にも満たない子供。鎌が手足に振るわれる度にレージの手足の骨にはヒビが入るのが分かる。

 

 

だが、レージは止まらない。痛みで涙を流し、悲鳴を噛み殺しながらもナイフを走らせてオルクスへと向かっていく。

 

 

レージは家に帰るまで決意していた。親を殺したサーゼクスを殺すと。

 

 

家に帰り、真実を知ったレージは決心した。サーゼクスを、アジュカを、親を嘲笑い唾を吐き捨てた悪魔共を何があろうとも滅してやると。

 

 

ならあの変わり様にも納得がいく。レージの気迫にオルクスすら僅かに気圧され、そして感心しながらまた鎌を振るってレージの手足を叩く。

 

 

『惚れただの言いつつ、(わらべ)が痛め付けられている姿を見て嬉しそうじゃのう』

 

「うん?いや、レージが痛め付けられている姿を見るのは嬉しくないさ。だが、復讐を果たす為に血反吐を吐きながらも前に進んでいる姿を見てると中々に来るものがあってだな……具体的に言えば子宮が疼いてくる」

 

『変わり過ぎじゃないかのぅ……』

 

 

ボロボロになりながらも立ち上がり、復讐を果たす為に力を得ようとしているレージの姿を見て嬉しそうにしているアテナと、そのアテナの姿を見て彼女の変わりっぷりに疲れているハーデスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥界の一角、そこには2人の男性がいた。1人は紅い髪の男性、もう1人は緑の髪をオールバックで纏めた男性。彼らは向かい合いながら座って紅茶を飲んでいた。

 

 

「ーーー捕獲部隊が全滅した。恐らく殺ったのはあの子供だろう」

 

「ーーーへぇ、ということはもう力を振るえるということか。将来有望そうだね」

 

 

オールバックの男性が切り出した話題に紅い髪の男性は嬉しそうに返す。自分たちの命令で出した部隊が全滅したというのにだ。

 

 

「確かに、これは嬉しい誤算だ。すでに力を振るえるのなら、こちらで調()()をする手間が無くなるからな」

 

「ところで()()()()、本当にあの2人を殺す必要があったのかい?洗脳して情報を引き出した方が有益だったと思うけど」

 

「ふむ、()()()()()がそういうもの無理は無い。だがあの2人を常識で捉えない方が良い。初対面の時に私が全力で洗脳しようとしたがすべて弾かれた。なら脳から情報を抜き取ろうとしたがこれも防がれた。洗脳も出来ず、情報も引き出せないのならあの力が広まらぬ内に口封じしてしまうのが良い。それに……幸いにも()()()()はあるのだからな」

 

 

アジュカがそう言い、巨大な培養器ーーー正確にはその中で漂う1人の少女を見た。

 

 

その少女の名は上代真輝(かみしろまき)。レージの実妹にして、レージとは対になる【星を滅ぼす力】を宿した少女。

 

 

「アジュカ、殺さないでよね?この子はーーー」

 

「サーゼクスの妹の眷属にするのであろう?分かっている。こちらとしても貴重なサンプルを死なせたくは無い。隅々まで調べて、必要性が無くなったらくれてやる」

 

 

それなら良いとサーゼクスは言って紅茶を飲んだ。

 

 

その会話は誰にも届かない。ギリシャで修行をしているレージにも、培養器の中で漂う真輝にも。

 

 

 





レージ超修行中。現状は全身切り傷打撲だらけ、手足の骨にはヒビが入る。それでもそれがどうしたとオルクスに突っかかっていく。修羅道への第一歩。

サーゼクス&アジュカの会話とみんな大好き真輝ちゃん登場。黒幕臭出せたかな?それと真輝ちゃんの未来をみんな頑張って予想するんだ!!

作者は希望的観測を粉微塵にするのが大好きです!!

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