ダンジョンに白い死神がいるのは間違っているだろうか   作:あるほーす

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石小の

 

 ここはダンジョンの18階層。

 中層に存在する、もう1つのセーフティーポイント── モンスターがポップしない階層であり、冒険者の間では『迷宮の楽園』という名称が付けられている。拠点にするには打ってつけだ。

 ある事情で休息が必要になった俺たちロキファミリアは、崖に囲まれた平野にいくつかのテントを張り、そこを拠点として滞在している。

 点在するテント群の中央に、一際大きなテントがある。団長専用のテントだ。他のテントと違い、当然内装も凝っている。高そうな敷物に、高そうなテントの生地。羨ましいったらありゃしない。

 俺、ティオナ、ラウルの3人はそのテントの中で横一列に並び、正面にはイイ笑顔を浮かべながら椅子に座っているフィンがいる。

 それにしても、今回のダンジョン遠征は心躍った。図らずしも、59階層のシチュエーションが梟討伐戦とそっくりだからだ。

 特等捜査官たち(フィンたち)が苦労して不殺の梟(精霊もどき)を撃退したら、まさかの2体目の隻眼の梟(精霊もどき)が登場。

 まあ、あのパチモン精霊を梟枠にするには色々と物足りないけど。

 東京喰種無印をリアルタイムで読んでた身で言わせてもらうと、あれは衝撃的かつ絶望的な展開だった。

 CCG、もう全滅するしかないじゃん。どうするのこれ。読者だけでなく、篠原さんたちもそう思っていただろう。

 そんな時に現れたのが有馬さんだ。V14の喰種集団、カネキュンとの連戦後に颯爽と駆け付け、何人もの特等クラスが共闘してやっと太刀打ちできるであろう隻眼の梟を単騎で駆逐した。

 震えたね。マジで震えた。流石は有馬さんだって、立ち読みしてたコンビニで叫んだ。女の店員がこっちを見てたけど、そんなの全然気にならなかった。

 いやまあ、有馬さん、エトしゃんと通謀してたんだけどさ。だけど、もしも梟討伐戦で両者が本気で戦ったとしたら、有馬さんの圧勝で終わるだろう。有馬さんの立ち回りはそれぐらい凄かった。

 そんな偉業をある程度再現できたんだから、東京喰種で言う白双翼賞くらいの功績は残したんじゃねえの? あ、ちなみに白双翼賞はSSレートを駆逐できる能力のある捜査官に与えられる賞だ。

 

「3人とも、何か言うことはあるよね?」

 

 だからフィンさん、そろそろ許してくれませんかね?

 

「俺は特に」

「え〜と、その…… ごめんなさい!」

 

 反省のはの字も見せないラウルとは対照的に、深々と頭を下げるティオナ。今のフィンにとって、ティオナはどれだけ癒しの存在だろうか。

 

「ティオナは…… まあ、アリマを1人だけ残すのは僕も思う所があったし、ティオネがあまり強く叱らないでって頭を下げてくれたからね」

 

 説教してるとは思えない、とても穏やかな表情だ。

 これ、なんか許されそうな流れじゃね?

 

「だけど、命令を破った罰はキッチリと受けてもらうよ。そうだな…… アリマがどうやってあのモンスターを倒したか、僕らに話してくれるかい?」

 

 フィンはパチリと右目を閉じて、ウインクをした。アラフォーの男とは思えないほど様になっていた。

 流石はフィンだ。40過ぎの野郎でウインクが許されるのは、それこそフィンか福山○治くらいだろう。どこぞのティオネなら1発で陥落するだろう。

 

「う、うん! ありがとう、フィン!」

 

 ティオナは安心したように笑った。お咎めなしで良かったな、ティオナ。

 というか、どうやって精霊もどきに勝ったのかは俺に聞けば良くない? ティオナに聞く必要はなくない?

 

「さて、問題は君たち2人だ」

 

 ティオナに向けていた穏やかな表情から一変、背景にゴゴゴ…… と効果音が付きそうなイイ笑顔に戻っていた。

 

「まずラウル。あんな怪我を負って、しかも1人で突撃するとはどういう了見だい?」

 

 聞いた話によると、ラウルは左腕がダメになっても、上半身に嚙みつかれても、あの精霊もどきに立ち向かったらしい。その証拠に、今のラウルは全身を包帯でグルグル巻きにされている。

 いやぁ、感心感心。手足をもがれても戦え、という真戸父の教えを守っているようで何よりだ。

 平子さんは痛みで怯むようなキャラじゃないからね。右腕をナイフで滅多刺しにされても顔色一つ変えなかったし。機械的に相手を殺しにかかってくれないと。

 

「あの場は、自分がああするしかないと判断したので」

 

 特に表情を変化させることなく、しかも平坦な口調で言うラウル。

 意外にも、フィンはラウルの言葉に静かに頷いた。

 

「そうだね。あの場で一番動くことができたのは間違いなく君だろう。でも、それが命を捨てるような行動をしていい理由にはならないよ。もっと自分を大切にしてくれ、ラウル。君が死んだら、悲しむ人が大勢いる」

「……善処します」

「怪我に響くだろうし、今回のお咎めは免除しよう」

 

 ラウルはペコリと一礼すると、その場でじっと佇んだ。

 続いて、フィンが俺に目を向けた。イイ笑顔すら鳴りを潜めて、絶対零度の冷めた表情になっていた。ですよね。

 

「問題はアリマ。君はもう…… 君はもう本当に、マイペースなくせに飛び抜けた功績ばかり作るから、怒るに怒れなくて……!」

 

 眉間を押さえるフィン。お疲れ様です。

 

「大体、今まで本拠に帰らないで何をしていたんだい?」

「……すまない、言えない」

 

 プライバシーの侵害、ダメ、絶対。

 いやまあ、ちょっと猛者と一緒にミノたんを調教して、地上に戻って、そのまま59階層まで降りただけなんだけどさ。

 そんなこと喋ったら、今度こそロキファミリアでの信用がアボンする。お前はファミリアよりベルが大事なんかって。

 フィンは険しい目を向けるが、俺はずっと口をつぐむ。すると、フィンは呆れるように溜息を吐いた。

 

「……うん、もういいよ。君とは長い付き合いだからね、こう言うのは分かっていた」

 

 おっ、俺も許されそうな雰囲気。

 そらそうよ。ティオナ、ラウルが許されたんだから、流れで俺も許されないと。精霊もどきとの戦いも、なんやかんやで間に合ったし。

 

「ただ、罰はキッチリと与えるよ。ポイズン・ウェルミスの毒に侵されている団員が何人かいただろう? 地上に戻って、毒消し薬を買ってきてほしい。君ならすぐに行けるだろう?」

 

 そう。とある事情とは、ポイズン・ウェルミスの毒をくらった仲間を休ませるためである。あと、死にかけのラウルも。

 ウザかったなあ、あのモンスター。下層のモンスターとは思えない雑魚のくせに、群れて、しかも超強力な毒を有している。上級冒険者の対異常も突破するほどだ。

 ナルカミの電撃で大半のポイズン・ウェルミスは消し炭にできるけど、逆に言えば僅かにだが残してしまう。ナルカミの広範囲の電撃でも殲滅し切れないと言い換えれば、どれだけ大量に出現するか分かるだろう。

 怠かったなあ、毒をくらった団員たちを18階層まで運ぶの。ダンジョンの毒なんだから、ポケダンとかシレンみたいに一歩歩けば1ダメージみたいなシステムなら良かったのに。

 

「分かった」

 

 正直クソ面倒だが、この程度の罰で済んで良かったと言うべきか。

 18階層から地上までの往復なんて、それこそ犬の散歩のような気軽さでやれる。何なら今日中に帰ってもいい。

 

「それじゃあ3人とも、もう退がっていいよ。ただしアリマ、君は迅速に地上に向かって、毒消し薬を買ってくるように」

 

 団長のお許しが出たので、俺たちはテントを後にした。

 外の景色は草原やら森やら、大自然が広がっている。天井は無数のクリスタルが光を発し、太陽の代わりを果たしてくれる。

 ダンジョンの中とは思えない場所だ。何も知らなければ、オラリオ郊外の森と勘違いしてしまうだろう。

 ちなみに、このクリスタルはある一定の時間帯だけ光らなくなり、その時間帯は丁度夜のように暗くなる。

 

「さ、災難だったね、アリマ! お使いくらい、ベートに行かせればいいのに!」

 

 何も喋らない俺とラウルの空気に耐え切れなかったのか、ティオナが話しかけてきた。

 

「いや、罰としては甘いくらいだ。この人がもう少し遅ければ、俺たちは全滅していてもおかしくなかった」

 

 おいこら、ラウル。

 発言内容については文句ないよ。というか、ぐうの音も出ない正論だよ。耳が痛いよ。

 だけどさ、ティオナちゃんが折角明るい空気に変えようとしてんのに、何もっと重苦しい空気にしてんの? 空気読めや。

 

「……」

「客観的意見を述べただけです」

「あわわわわ」

 

 睨み合うこと数秒。

 うん、何をやってるんだ俺たちは。おっさん同士が睨み合うなんて、そんなの虚しすぎるわ。ラウルから視線を逸らすと、向こうもそうした。

 

「俺は向こうののテントなので。失礼します」

 

 怪我した体を引き摺りながら、ラウルは自分のテントに戻って行った。

 

「ラウル、怖かった〜……。ねえアリマ、ラウルに何かしたの? 一緒にダンジョンに潜ったりしてたんでしょう?」

「いや、特には」

 

 強くするために殺しかけたり、死なせないために殺しかけたり、平子さんにするために殺しかけたりですかね。

 

「本当に? 心当たりがあるなら、ちゃんと謝んないとダメだよ」

「ああ」

 

 心当たりがあるのはそれくらいだけど、「どんな厳しい修行でもついて行くっす!」とか言ってたのはラウルだし。合意の上だから、恨まれるのはお門違いだ。

 そういえばあいつ、昔は語尾に「〜〜っす」とか付けてたんだよな、懐かしい。今の性格からは考えらんねえわ。

 

「それじゃあ、地上に行ってくる」

「うん、いってらっしゃい!」

 

 さてと、頼まれたからにはさっさと毒消し薬を取ってきますか。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 怪物進呈。モンスターの群れを他のパーティに押し付ける行為。

 ダンジョンの13階層── 難易度が跳ね上がるという中層に挑んだ初日に、ベルたちはそれをされた。

 モンスターの大群に襲撃され、上層に戻ることができなくなったベルたちは、セーフティーポイントである18階層を目指すべく、決死の進行をした。

 道中、リリルカとヴェルフは疲労と負傷で気を失ってしまった。それに加えて、17階層で迷宮の孤王── 赤褐色の巨人、ゴライアスに遭遇。

 どうにか2人を抱えながらも、命からがら18階層に繋がる縦穴に飛び込んだ。

 そして、そして──

 

「!」

 

 ベルは目を開け、飛び起きた。ダンジョンで寝るなんて、自殺行為にも等しい。

 起きた直後に、地面が妙に柔らかいことに気づく。

 体の下に布団が敷いてある。それに、目の前にあるのはダンジョンの無機質な岩壁などではなく、木の骨組とそれに貼り付けられた白い布だ。

 

「リリ、ヴェルフ!」

 

 ふと横を見てみると、自分と同じく、布団で寝かされているリリとヴェルフの姿があった。

 2人とも呼吸で体が揺れている。どうやら寝ているだけらしい。

 

「起きたか」

「うわあ!?」

 

 声をかけられた方を見てみると、全身が包帯で巻かれた、明らかにベルたちよりも重傷そうな男が椅子に座っていた。

 

「……あっ、もしかしてラウルさんですか!?」

 

 コクリ、と小さく頷く。

 顔にも包帯が巻いてあるせいで、一目で分からなかった。

 ベルにとってラウルは最初にアリマの教えを受けた先輩でもあり、赤いミノタウロスから助けてくれた恩人でもあり、ユキムラを託してくれた届け人でもある。

 アリマとアイズに次いで、ロキファミリアの中で印象の強い冒険者だ。

 

「あの、ラウルさん。リリとヴェルフは無事ですか? どこか、後遺症が有ったりなんかは……」

 

 包帯男の正体がラウルだと分かった所で、リリルカとヴェルフの容態を尋ねる。

 

「大丈夫だ、後遺症になるような怪我はしていない」

「そっか、良かったぁ……」

 

 緊張の糸が解け、安堵の息を吐くベル。

 

「ラウルさんがここまで運んでくれたんですか?」

「いいや、俺じゃない。君たちを運んできたのはアリマさんだ」

「アリマさんが!?」

「詳しいことは知らないが、そうらしい」

 

 ラウルは椅子から立ち上がる。

 

「来い、団長に会わせる」

 

 ラウルがテントの外に出る。ベルも慌てて立ち上がり、テントの外に出た。

 テントの布を捲ると、そこに広がっているのは生い茂る緑。広がる青空。まるで懐かしき故郷のようだ。

 目の前の光景に立ち尽くしている間に、ラウルはテントとテントの間をどんどんと先を進んでいく。ラウルの背中を追い、ある一際大きなテントに辿り着いた。その大きさに、思わず見上げてしまう。

 

「入れ。俺はここで待つ」

「は、はい」

 

 木製の扉を開ける。

 外装に違わず、華奢な内装だ。幾何模様が画かれたマットに、明らかに上質な薄緑色の布かけ。もしかしたら、ヘスティアファミリアの本拠よりも金がかかっているかもしれない。

 奥の方には、団長と呼ばれていた金髪の小人が椅子に座っていた。その右隣には緑色の髪をした女のエルフが、左隣には兜を被った男のドワーフがいた。

 ロキファミリアの実力者として、彼らの名はアリマからよく聞いている。ガレス・ランドロック、リヴェリア・リヨス・アールヴ、そしてフィン・ディムナだ。

 

「久しぶりだね、ベル・クラネル君。赤いミノタウロスとの戦い以来かな?」

「はい、お久しぶりです!」

 

 ベルはその人たちの前に足を進めると、そのまま流れるように土下座した。

 

「この度は助けて頂き、本当にありがとうございました!」

 

 ヘスティアから教わった、最上級の誠意を見せる礼の仕方だ。

 それをされたフィンたちは、困ったように笑った。

 

「頭を上げてくれ。僕たちがやったのは寝床を提供しただけ。お礼を言われるようなことなんてしてないさ」

「そ、そんなことは!」

「本当さ。お礼を言うならアリマにだよ。君と君の仲間を僕たちの拠点に運んできたのもそうだし、ポーションを使って治療したのも、ベル君たちをここで休ませるよう頼み込んだのも彼だ」

「形こそ頼み込んではいたが、あれはほぼ脅迫に近かったな。アリマに可愛がられているようで結構結構!」

 

 そう言いながら、ガレスは笑った。

 

「……あれ、アリマさんはどこに?」

 

 ロキファミリアのトップがここに揃っているのに、アリマだけがこの場にいないのは不自然だ。

 

「アリマなら今、地上に向かっている。いや、もしかしたら着いた頃かもしれないけどね。仲間の数人が厄介な毒を貰ったから、毒消し薬を取りに行かせてるんだ。なんでもそれで地上に向かう道中、君たちを見つけたそうだよ」

「アリマさんに取りに行かせてるんですか?」

「足が一番速いのは彼だし、何よりちょっとした罰を兼ねてね」

 

 そういえば、途中から遠征に参加するとアリマは言っていた。やはりと言うか、当然と言うか、きっとその罰なのだろう。

 

「それで、ベル君はどうして18階層で倒れていたんだい?」

「それは──」

 

 ベルは18階層を目指すことになった理由を話した。

 

「そうか、災難だったね。それにしても無茶をする。中層に挑んだその日に18階層まで逃げ込むなんて」

「弟子は師に似るとはよく言ったものだな。まるでアリマのようなことをする」

 

 そう言いながら、眼を細めるリヴェリア。彼女がどれだけアリマの無茶に振り回されてきたのか、ベルは何となく察せてしまった。

 

「とにかく、アリマが戻ってくるまでゆっくりしているといい」

「は、はい!」

 

 こうしてベルたちはアリマが帰ってくるまでの間、ロキファミリアの拠点で休ませてもらうことになった。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 地上へ行き、毒消し薬を買いに行こうとしたその道中。ベル君とリリ山さん、そして見知らぬ青年が18階層で倒れていた。

 彼らをロキファミリアの拠点まで運び、フィンにくれぐれも丁重にもてなすよう釘を刺し、治療を施したというかポーションをぶっこんだ。

 そんな事情で、結晶が光っている時間に18階層に戻ってくるはずが、すっかり暗くなってしまった。

 そういえば、ベル君たちは起きただろうか? ラウルに見張りを任せたとはいえ、やはり心配だ。フィンに毒消し薬を届ける前に、少しだけ様子を見てみよう。

 ベル君たちが寝ているテントに到着する。

 灯りがついてる。それに、何やら騒がしい。

 

「アリマさん!」

 

 テントの中に入ってみると、これまた奇特な面子が揃っていた。

 ベル君たちに、装備から察するにタケミカヅチファミリアの団員、ヘルメスとその従者、そして紐神様がいた。初対面の人たちは見事に固まっている。

 神がダンジョンに潜るのは固く禁止されていると聞いたことがある。もしもその禁を破れば、天界に強制送還されるらしい。

 紐神様は分かる。きっとベル君が心配で、居ても立っても居られなかったのだろう。

 謎なのはヘルメスだ。そんな危険を冒してまで、どうしてダンジョンに潜っているのだろうか。何を企んでやがるんだ、こいつ?

 

「おやおや、アリマじゃないか。元気にしてたかい?」

「……」

 

 ヘルメスが話しかけてきたが、無視!

 こいつ、過去に俺の思考をあの手この手で探ろうとしやがったのだ。

 もしも俺の考えていることが世間に知られたら、その時点で有馬さんロールプレイング大失敗。つまり、それは生きる価値の喪失だ。考えただけでも恐ろしい。

 

「ヘルメス様、アリマさんを刺激しないでください!!」

 

 ヘルメスの従者は顔を青くする。

 それもそのはず。二度と俺の思考を探るなんて気が起きないよう、ヘルメスをボコボコにしてやったからだ。

 一応、ヘルメスは二度と俺の思考を探らないと誓ってくれたが、 あれだけボコボコにしたのに、どこ吹く風と接してくる。絡まれると、面倒ったらありゃしない。

 こいつがダンジョンに来た理由も気にはなるが、今はベル君たちと話しておこう。

 

「ベル、リリルカ。君たちが無事そうで良かった」

「アリマさんが僕らを助けるために色々としてくれたと聞きました。もう、何てお礼を言えばいいのか……」

「リリからもお礼を。助けて頂き、本当にありがとうございました」

「礼なんていい」

 

 頭を下げるベルとリリ。

 

「それと、そっちの君は?」

 

 赤髪の彼に目を向ける。助けたときも思ったけど、この青年は何者なんだ。

 

「ヴェルフ・クロッゾです。ベルと専属契約を結んだヘファイストスファミリアの鍛治師です。助けてくれて、本当にありがとうございます」

 

 ……ふむ、鍛治師か。ヴェルフ君からバンジョイさん感がする。

 バンジョイさんは治癒能力持ちで、色々と有能だったからなあ。この青年からも、そこはかとなく有能感が漂っている。

 よし決めた、今日から君はバンジョイさん枠だ。

 あ、そういえばクロッゾって、あの魔剣の一族じゃね? まあ、どうでもいいか。

 

「それで、どうして18階層に?」

「それは……」

 

 ベルは気まずそうな表情でタケミカヅチファミリアの面々を見た。

 

「大丈夫です、私たちが説明します。ベル殿が18階層まで逃げ込んだのは、私たちタケミカヅチファミリアが怪物進呈をしてしまったのが原因です。アリマ殿、申し訳ありません! 貴殿の弟子を、こんな危険な目に遭わせてしまって……」

 

 そう言って、躊躇なく土下座するタケミカヅチファミリアの女の子。いやあの、年下の女の子に土下座されても。

 

「別に(謝らなくても)いい。君たちと違って、(そんなムチャ振りをされても死なないよう、俺が鍛えてやってる)ベルは死なないから」

「ッ……!」

 

 何故か怯えた表情をされた。

 あれ、言葉の意味がちゃんと伝わってない? 気にしなくてもいいっていう趣旨なんだけど……。

 まあ、ベル君が無事そうならそれでいいし、別にいいか。さっさと毒消し薬を届けるとしよう。

 

「それじゃあ、用事があるからこれで」

「もう行っちゃうんですか?」

「ああ、団長を待たせているからな」

 

 ベル君たちのいるテントから出る。

 そのまま団長たちのいるテントへと、足を進める。

 

「アリマ!」

 

 誰かに名前を呼ばれた。

 足を止め、振り返ると、そこには複雑そうな表情の紐神様がいた。

 

「久しぶりだな、ヘスティア」

 

 久しぶりに紐神様と話した気がする。

 わざわざ追ってくるなんて、何の用があるのだろうか?

 そうこう思っていると、突然紐神様が深々と頭を下げた。

 

「ベル君たちを助けてくれて、本当にありがとう。これからもベル君たちのこと、よろしく頼むよ」

 

 おお、少し意外だな。

 俺を快く思っていない…… って言うと語弊があるか。俺にバリバリ嫉妬している紐神様が、まさかこんなに素直にお礼を言うなんて。

 

「僕がお礼を言うのがそんなに意外かい?」

「……ああ、少しな」

「いつかこの恩には報いるよ。だから首を洗って待っているんだね!」

 

 首を洗ってどうするというのか。

 それにしても、いつか恩に報いるねえ。果たして間に合うかな? まあ、期待せずに待つとしようか。




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