ダンジョンに白い死神がいるのは間違っているだろうか   作:あるほーす

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Aの飛翔

 ロキファミリアのベースキャンプ地の開けた場所。そこでは、アリマとベルが久しぶりに手合わせをしていた。

 ベルはアリマの攻撃をユキムラで逸らし、ないし躱しながら、かれこれ数十分も凌いでいる。

 アイズやヴェルフたち見学人は、息を飲んで2人の手合わせを見守っていた。

 

「うわあ、エグっ……」

 

 ティオネが思わず呟く。

 アマゾネスである彼女も幼少期から厳しい訓練を課されていた。しかし、そんな彼女から見ても、この手合わせはエグいと称せざるを得ないものだった。

 手加減はしているが、一切の手心がないIXAの刺突。既に2人の足元は、ベルだけの血で濡れている。

 

「ねえねえラウル、もしかして毎日あんなことされてたの?」

「ああ」

「うへぇ…… そりゃ強くなる訳だよ」

 

 ベルの体力は底を尽きかけているが、アリマは息すら切らさない。寧ろ、その攻撃は苛烈さを増していく。対応し切れず、ベルがIXAの刺突の勢いで体勢を崩す。

 アリマがそれを見逃すはずもない。ベルの胴体目掛けて、IXAの鋭い突きが放たれる。身体を無理やり横にずらす。しかし、躱し切れず、脇腹が僅かに抉れる。

 飛び散る鮮血。ベルたちの足元に生えている草花に容赦なく降りかかる。

 悲鳴を堪え、後ろに跳ぶ。アリマはベルを追わず、ただジッと見つめる。

 ベルの額に汗が流れる。

 最後に手合わせした日よりも、アリマの攻撃は遥かに鋭く、疾い。Lv2になったベルに合わせて、制限していた力を解放したのだろう。

 Lvが上がった油断などできない。しようもない。限界以上に気を引き締めなければ一瞬でやられると思い、力強くユキムラを握る。しかし、アリマはIXAの切っ先を地面に下ろしていた。

 

「今日はここまでにしよう」

「アリマさん、僕なら大丈夫です。まだやれます……!」

「いや、君というより……」

 

 アリマがチラリと横を見る。

 ベルもその目線を追うと、暴れるヘスティアとそれを抑えるリリルカの姿があった。

 

「離せぇ! 離すんだサポーター君! 今こそあの白髪メガネに、白髪メガネに神の鉄槌を!」

「ちょっ、落ち着いてください!」

 

 とてもではないが、手合わせをできるような状況ではない。

 

「ベル、回復しておけ」

「あっ、はい」

「回復させたから良いと思っているなら、大間違いだぞ! 絶対にベル君に謝らせるからな、土下座だよ土下座!」

 

 アリマからポーションを投げ渡される。

 容器を口に当て、ポーションを一気に流し込む。体内に循環し、染み渡るような感覚。気づいた頃には、傷の痛みはすっかり消失していた。

 

「まだユキムラの重量に振り回されている。自分の手足のように動かせるよう、使い込んでこい」

「はい! 今日もありがとうございました!」

 

 ベルは深々とお辞儀をする。

 アリマはというと、ベルのお辞儀にさしたる反応をせず、黙々とIXAをアタッシュケースに収納した。

 そして、ベルとアリマの手合わせを見学していたヴェルフに目を向けた。

 

「ベルの防具は君が造ったのか?」

「はい、俺が造りました。兎鎧っていいます」

「兎鎧……」

 

 アリマは兎鎧と呟くと、それっきり黙り込んでしまった。周りの人たちも、兎鎧のネーミングに戸惑っている。

 

「ほら、ヴェルフ様。アリマ様も呆れて物が言えないそうですよ」

「むぅ……」

 

 リリルカの煽りに、見学人たちがうんうんと頷く。態度にこそ出さないものの、ベルも心の中で同意していた。

 アリマが防具を買ってくれた今となっては、ヴェルフの造った武器や鎧はどの店でも売り切れている超人気商品だ。しかし、以前はこの個性が突き抜けたネーミングセンスのせいで、全く売れなかったらしい。

 ぶっちゃけると、鎧の銘が兎鎧と知ったとき、買い替えを本気で検討した。

 

「いや、ハイカラだな」

「!!!??」

 

 しかし、アリマだけはヴェルフのネーミングセンスを肯定した。というか、褒め言葉のチョイスがおかしくないだろうか?

 

「ほら見ろリリ山! アリマさんみたいに、分かる人には分かるんだよ、このネーミングの良さがよ!」

 

 ヴェルフがリリルカのことをリリ山と読んだ瞬間、アリマが僅かに反応した。

 

「アリマ様、お世辞なんて言わなくても良いんですよ……?」

「そんなことないよ、リリ山さん」

「アリマ様までリリ山呼び!? というか、何でさん付けなんです!?」

「……リリや──」

「ベル様までリリ山呼びですか? いいですよ、呼んでみてください。その瞬間、恥も外聞もなく泣き喚きますから」

「な、何でもないよリリ……」

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 久しぶりにベル君と手合わせしたが、実に良い感じに成長していた。ユキムラの扱いも上達している。俺の出した宿題を真面目にこなしている証拠だ。この調子なら、Lv3にランクアップするのもそう遠くない。成長期なんてレベルじゃねえな。

 手合わせが終わった後、紐神様に思いっきり殴られた。が、殴った紐神様が逆に手を痛めていた。

 さて今日はどうするかと思っていたら、ティオナにリヴィラに行こうと誘われた。リヴィラとは、18階層に存在する冒険者たちが独自に作ったコミュニティで、崖の上にある。

 リヴィラにある宿や売店は全てボッタクリ価格である。しかし、俺が行くと大体の店が適正価格で売ってくれる。有馬さんオーラがそうさせるのだろうか。

 断る理由もないし、折角だから一緒に行くことにした。

 とはいえ、特に買うものもないので、リヴィラではリリ山さんにバックパックを買ってやった。案の定ぼったくられていたので、代わりに買ってやった。

 

「これ買ってあげるよ、リリ山さん」

「キショウ・アリマがさん付け!!?? ひいいぃぃぃぃ!!!! 命だけは、命だけはお助けええええぇぇぇぇ!!!!」

 

 というやり取りがあったせいか、リリ山さんの頬は引き攣っていた。正直、余計なことをした感は否めない。

 リリ山さんにバックパックを買ったのを、ティオナが羨ましそうな顔で見ていたので、ついでに胸部プロテクター的な防具をプレゼントした。性能は悪くない。下層のモンスターの一撃くらないなら、どうにか守ってくれるだろう。

 いや、別にティオナが壁パイだからって意味じゃないです。いっそ鉄板にしろよなんて思ってないです。ハイルはあなぽこが原因で死んだから、ティオナもそうならないようにって願掛けで買っただけなんです。だからそんな睨まないで下さい、ティオネさん。

 だけど、当の本人であるティオナは喜んで受け取ってくれた。本当に良かったです。

 リヴィラから帰ると、女性陣は水浴びに、ベル君はヘルメスの野郎と一緒に森の中へ消えていった。

 俺はベル君とヘルメスを追い、森の中を歩いている。

 俺のことを探ろうと、ベル君にあれこれ聞こうとしているのだろう。如何にもヘルメスの考えそうなことだ。

 普通に聞く分ならまあ、見逃してやらんでもない。だが、少しでも怪しい手段を使ってると判断したらカネキ式半殺しにしてやる。即半殺しにしてやる。

 

「はみゃああああぁぁぁ!!!??」

 

 ベル君の悲鳴が聞こえた。

 自分でもびっくりするような、冷徹な感情が湧き上がる。残念だよ、ヘルメス。君の骨を160本も折ることになるなんて。半分以上折ってるけど別にいいよね。

 悲鳴が聞こえた方へと走る。木々の間を抜けると、そこにあったのは──。

 

「!!??」

 

 真っ裸で水浴び中の女性陣と、そのど真ん中でへたり込んでいるベル君だった。

 一瞬で頭がパンクしかける。どうすればいい!? こんなとき、有馬さんならどんな反応をするんだ!?

 東京喰種自体、ほのぼのしたラッキースケベなんて、泥酔した暁さんがズボンを脱いだのを亜門さんが目の当たりにしたくらいだし!

 とりあえず謝る!? それとも何も言わずに背を向ける!? まさかの顔を赤らめる!? 教えてくれ有馬さん、俺はどうすればいい!!

 これまでの人生。そして俺の中に存在する有馬さんの人物観。それらが混ざり合い、一気に弾ける。そして、俺は1つの答えにたどり着いた。

 

「……何をしてるんだ、ベル」

 

 もう無視でいいや。

 俺の声が聞こえているのか、いないのか。ベル君は顔を赤くし、目を回したまま、水面を走るような勢いで俺の横を駆けた。Lv2とは思えない速さだ。やはり、ベル君のポテンシャルは計り知れない。

 逃げていくベル君を目で追いながら、思わずため息を吐く。何というか、どっと疲れた。穢れた精霊と戦ったときよりしんどい気がする。

 ヘルメスに何を吹き込まれたのかは明日聞くとして、今日はもう寝るとしよう。

 というか、年頃の少年が水浴び場にダイレクトアタックしてきたんだぞ? 少しは恥じらえよ、女性陣。そう思いながら、来た道を引き返した。

 

「アリマの奴、一瞬だけすごい困った顔をしてたね。しかも、その後は無反応だし」

「ええ、そうですね……。100万歩譲って無表情ならまだしも、どうしてまた困った顔なんて……」

「何なのこの…… 女としてのプライドをズタズタにされたような感覚」

「」

「どうしたの、ティオナ? ティオ── 死んでる……!?」

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 俺が朝起きると、ロキファミリアが地上に戻るというのが決まっていた。どうやら、二手に分かれて地上に戻るらしい。まあ、今回の遠征はヘファイストスファミリアの鍛治師がいるから、妙に大所帯だしなあ。

 先発隊はフィンたち主力メンバーだ。ゴライアスを排除して、後発隊を安心して通らせるためらしい。

 当然俺も先発隊だったが、フィンに言って後発隊メンバーにしてもらった。ゴライアス程度なら俺がいなくてもいいし。今日はみっちりとベル君を鍛えてやるんだ!

 

「レフィーヤ、ベルと戦ってほしい」

「いや、そう言われましても……」

 

 困ったようにそう言うレフィーヤに、俺たちのやり取りなんて気にせず、ナゴミの素振りをするラウル。

 この2人は俺の見張り役。また1人でダンジョンに潜らないように、とのことだ。遠征に途中で参加した件で、相当信用をなくしたらしい。まあ、それは別にどうでもいいとして……。

 徹底的に鍛えるにはどうすればいいか考えたが、とりあえず格上と戦わせればいいだろという結論に至った。だけど、俺やラウルでは駄目だ。あらゆるハンデをつけて手合わせしようにも、ベル君が勝てる可能性が微塵もない。

 格上が相手といっても、負ける可能性しかないのなら意味がない。だからこそ、実力が近いレフィーヤが戦ってほしいのだ。

 引き受けてくれればいいのだが……。

 

「なるべく殺す気でやってほしい」

「あのほんとやめてください! 怖いです! 怖いです! 助けてラウルさん!」

 

 レフィーヤは涙目になりながら、相変わらず素振りをしているラウルに助けを求める。どうして泣くのだろう。手加減はするなって言ってるだけなのに。

 ラウルは見向きすらしない。というか、助けを求められていることにすら気づいていないようだ。

 よくよくラウルを見ると、耳栓をしていた。うるさかったかな? はは、こやつめ。

 

「ラウルさぁぁぁぁぁん!!!??」

 

 18階層の偽りの青空の下に、レフィーヤの悲痛な叫び声が響き渡った。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 どうしてこうなってしまったのだろう。アリマの後ろを歩きながら、レフィーヤはそう思う。

 結局、レフィーヤはアリマの頼みを断れなかった。最初から最後まで気が進まないが、あんな無表情で凄まれたら、首を横に振るなんてできない。

 どうして気が進まないのか。それは、アリマの一番弟子との手合わせが自分に務まるとは思えないからだ。

 負ける気は微塵もない。なんせ、自分はLv3で、ベルはLv2だ。どんなにベルが強かろうと、このレベルの差は埋められないはず。問題なのは、そんな彼ときちんと戦えるかだ。

 露骨に手を抜けばアリマの失望を買うし、かといって全力でやり過ぎれば、それこそベルに取り返しのつかない大怪我を負わせてしまうかもしれない。

 アリマは無表情で、さも当然のようにIXAでベルを刺しまくっているが、自分にはあんな風に人を傷つけるような図太さはない。まさか、あのレベルを求められてはいないと思うが……。

 遠目にだが、開けた場所で剣を素振りをしている人影が見えた。その正体は簡単に予想がつく。

 アリマは何も言わずその人影に近づく。レフィーヤもアリマの歩幅に合わせ、小走りでついて行く。

 やはりというか、その人影はベルだった。何千回も振っているのだろう。ユキムラを振るう姿は意外と様になっている。

 自分たちの気配に気づいたのか、ベルは素振りを止め、こちらに向き合った。

 

「アリマさん! それに、レフィーヤさんも……?」

 

 どうしてここに自分がいるのかと、ベルは首を傾げる。どうやら、彼は何も聞いていないようだ。

 

「ベル、今日は彼女と戦ってもらう」

「!」

「……よろしくお願いします」

 

 形だけ頭を下げる。

 実は、もう1つだけベルと戦いたくない理由がある。

 ベル・クラネルが気に食わないのだ。決して嫌ってるという訳ではない。真面目な性格のようだし、Lv1でミノタウロスを撃退したという実力も素直に認めている。

 ただ、どうしようもなく気に食わないのだ。アリマに気に入られて、その上アイズにまで気に入られているなんて。

 

「レフィーヤ、君はベルを再起不能にさせたら勝ち。ベル、お前は先にレフィーヤから一本獲れば勝ちだ。ただ、ユキムラは危ないからこれを使え」

「は、はい!」

 

 アリマがベルに投げ渡したのは、安っぽいナイフだった。

 

「ん? これって……」

 

 ナイフを受け取ったベルは何かに気づいた様子を見せて、手の平に刃先を当てた。

 ギョッとするレフィーヤ。しかし、ベルの手からは血が出ない。よくよく見てみると、刃が柄の中に引っ込んでいる。

 オモチャだ。それも、かなり安全仕様の。

 ぷちり、とレフィーヤの中の何かが切れる。自分なんてオモチャで倒せると、そう言いたいのだろうか。

 

「……気が変わりました。アイズさんたちの水浴びを覗いた件も含めて、あなたを死なない程度にボコボコにしてさしあげます」

「ええ!?」

 

 昨日のアイズたちの水浴びは、レフィーヤが見張りを担当していた。当然、ベルとアリマがそこに居合わせたのは知っている。

 どうやらヘルメスが悪いようだが、知ったことではない。憧れの先輩── アイズの裸を見たことには変わらないのだから。

 杖を構える。この鬱憤は、原因である目の前の少年で晴らすとしよう。

 

「それじゃあ、始め」

 

 アリマの合図と同時に振り返り、そのままベルを背にして駆ける。

 ベルは自分の逃走にも見える行為に戸惑っているようだが、それなら好都合だ。

 ある程度距離が開いた所で立ち止まり、再びベルと向き合う。

 杖の先の魔石が青白く光る。魔法発動の予兆だ。

 走っている最中に、詠唱は完了させた。並行詠唱。移動しながら詠唱を行うという離れ技である。練習に練習を重ね、どうにかものにできた。

 杖の先に魔法陣が展開される。

 放たれる火の玉。ベルが慌てた様子でその場から飛び退いた。

 ベルの立っていた地面に火の玉が直撃し、瞬く間に草が黒く焼け焦げる。

 並行詠唱の成功に喜ぶレフィーヤ。

 しかし、喜びも束の間。ベルが距離を詰めようと走り出す。

 そうはさせない。

 速攻魔法を唱える。魔法陣から複数の火の玉がベルに放たれる。さっきの火力を見た後だ。防ぐなり、避けるなりして、足を止めるはず──

 

「はあ!?」

 

 足を止めるどころか、トップスピードを維持したまま突っ込んでくる。

 直撃する! 攻撃をくらうのは自分ではないのに、レフィーヤは顔を青くする。

 ベルはほんの僅かに体を横にずらして、直撃する寸前の火の玉を躱す。

 直撃しても死にはしない。しかし、死ぬほど痛いだろう。そんな危険があるのに、顔色一つ変えずにそれを為した。狂っているとしか言いようがない。

 気づけば、目の前にベルがいた。アリマが渡したオモチャのナイフを突き刺そうと、腕を引いている。

 ほぼ反射的に、レフィーヤは杖をベルの左半身目掛けて振るう。お世辞にも杖術とは呼べない力任せの横振りだが、確かな手応えがあった。

 ベルが右横に吹き飛ぶ。しかし、その顔は苦痛に歪むどころか、真っ直ぐにレフィーヤを睨みつけている。

 いつの間に引き抜いていたのか、左腕には黒いナイフが握られていた。あれで杖の一撃を防いだのだろう。

 ベルは地面に着地すると同時に、再び駆ける。大きな弧を描くように走り、レフィーヤの背後に回り込もうとする。

 身体ごと振り返るレフィーヤ。しかし、そこにベルの姿はない。

 まさか、フェイント──!

 もう一度身体ごと振り返る。

 

「……あ」

 

 すると、まるで壊れ物を扱うかのような丁寧さで、レフィーヤの胸にオモチャのナイフが突きつけられた。

 

「って、何するんですか!?」

 

 ベルの頬に平手打ちを飛ばす。

 勝負はもうついているが、それはそれ、これはこれだ。乙女の胸に物を押し付けるなんて、セクハラ以外の何物でもない。ビンタの一つや二つでもしなければ、気が済まない。

 

「へぶっ!?」

 

 不意打ちだったのか、あんなに敏捷な動きで魔法を躱していたのに、平手打ちはベルの右頬に容易くクリーンヒットした。

 右頬に紅葉模様を浮かばせながら、地面に倒れこむベル。強烈な一撃だったのか、目を回している。今更になって、目の前の白髪頭よりもLvが上だという実感が湧いた。

 

「勝負ありだな」

 

 アリマはそう言うと、胸ぐらを掴み、ベルを無理やり起こし上げた。

 

「起きろ」

「はばっ!?」

 

 そして、左頬に平手打ちをした。

 悲鳴をあげると同時に、ベルの目がパチリと開く。

 

「あ、あれ? 両頬が痛い……」

 

 そう言いながら両頬をさするベル。

 

「ベル、レフィーヤは後衛の魔導士だ。接近戦は彼女の分野じゃない。一本獲れたからといって、驕らないように。それと、レフィーヤをあまり怒らせない方がいい。単純な魔法の威力なら俺より上だぞ」

「!!??」

 

 ベルが自分のことを化け物を見るかのような目で見る。

 慌てて首を横に振る。

 現時点の最強魔法を使えば、瞬間的な火力はアリマよりも上回るだろう。しかし、アリマはあってないような短い詠唱で、自分の最大魔法に追随する威力の魔法を、それこそ湯水のように使う。

 どちらが化け物染みてるかは、言うまでもないだろう。

 

「それじゃあ、次は俺とだな」

「えっ」

 

 あれよあれよと言う間に、ベルとアリマの手合わせが始まった。いや、手合わせというよりも、アリマの一方的な蹂躙か。あの立ち回りが嘘のようだ。

 ベルと比べて、単純な力や速さは自分が上だった。それなのに翻弄された。

 判断力。駆け引き。肝の据わりよう。それらが自分よりも遥かに上だ。

 胸に突きつけられたオモチャの短刀。もしもあれが本物だったら、一切の誤差なく心臓を貫いていただろう。

 どれだけ強くなるのだろうか。アリマにボコボコにされているベルを見ながら、レフィーヤはそう思った。




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 おとしだまみたいにたくさん…… (そう、おとしだまのように……)

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