ダンジョンに白い死神がいるのは間違っているだろうか   作:あるほーす

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族の撃ち音

 それは突然やってきた。

 水晶の天井を突き破り、冒険者の楽園に降り立った黒いゴライアス。

 運悪く、ロキファミリアの第1級冒険者たちは地上に向けて出発してしまっている。そうなると、18階層にいる冒険者たちが総力を挙げて対処すべきモンスターだ。

 しかし、ゴライアスに立ち向かう冒険者は1人だけだった。

 その冒険者の名はキショウ・アリマ。タイミング良く18階層に残ってくれた、オラリオ最強の一角に位置する冒険者である。

 アリマ以外の冒険者は彼を遠巻きに見守るだけで、近づこうともしない。余計な手出しは邪魔にしかならないと、誰もが分かっているのだろう。

 アリマが歩みを進める。すると、黒いゴライアスは後ずさる。

 あまりにも異様な光景だった。黒い巨人が、自分の小指ほどの大きさしかない存在を恐れている。

 そんな恐怖を紛らわすように、ゴライアスはアリマに向かって吠える。

 迅速に、全力で。自分の命を脅かすこの存在を排除しなくては。踏み潰してやろうと、右足を上げる。

 次の瞬間、ゴライアスの両足が吹き飛んだ。血飛沫を撒き散らし、駒のように回転しながら、ゴライアスの両足が宙を舞う。

 それとほぼ同時に、ゴライアスの上半身も地面に落ちる。まるで巨大な岩が落ちたかのような地響きがした。

 今度は、やや遅れて遠雷のような音が冒険者たちの耳に届いた。今になって、吹き飛んだゴライアスの両足が何処か遠くの場所に落ちたのだろう。

 ゴライアスの背後で佇んでいるアリマと、彼の右手の握られているIXAから血が滴っているのを見て、周りの冒険者たちはようやく気付く。初動すら知覚できない速度で動き、アリマはゴライアスの両足を斬り飛ばしたのだと。アリマの動きを目で捉えることができた者が、果たしてこの場に何人いるのか。

 ゴライアスは裏拳の要領で、背後にいるアリマに拳を振り抜く。しかし、そこには既に誰もいない。ゴライアスの拳は虚しく空振るだけ。

 次の瞬間、ゴライアスの下顎から上唇にかけてをIXAが貫いた。ゴライアスが掠れるような悲鳴を漏らしながら、あまりの苦痛にのたうちまわる。

 ゴライアスの背後にいながら、ゴライアスに対して背を向けて佇むアリマがいた。

 肩越しに、アリマは感情の篭っていない瞳でゴライアスを眺めていた。

 圧倒的だ。こうも圧倒的だと、感嘆も通り越して笑えてくる。

 足元に這いつくばる虫を踏み潰すように、あのゴライアスに容易くトドメを刺すのだと、誰もがそう思った。

 しかし、アリマは動かない。その姿は、まるで誰かを待っているように──。

 

「……来たか」

 

 戦場に駆けつける1人の少年。

 その少年の名はベル・クラネル。アリマの一番弟子であり、オラリオでも常に話題の的の冒険者だ。

 

「アリマさん……」

 

 自分のような一介のLv2がいても、アリマとの戦いにおいては邪魔になるだけだろう。アリマと手合わせしているベルは、誰よりもその事実を知っている。

 ならば、何故戦場に来たのか。その答えはベル自身にもよく分からない。敢えて言うとすれば、アリマに呼ばれた気がしたからだ。

 ほんの少し。至近距離で向き合わなければ分からないほど、ほんの少しだけアリマは口角を上げた。

 師弟関係があるからこそか、それとも2人の本質が似ているからか、ベルの勘は的中した。アリマが待っているのは他でもない、ベルだったのだ。

 

「ベル、ハンデはやった。あれを倒せ」

「!」

 

 ベルは改めて黒いゴライアスを見る。

 口は塞がれ、両足もない。それでも、脅威と称するには十分過ぎる。振り回している両手に直撃すれば、それだけで致命傷になるだろう。

 倒せというのか。あれを、自分1人で。

 恐怖と緊張で、ごくりと固唾を呑む。

 

「待ちなさい」

 

 上空から2人の間に降り立つ人影。

 その正体はリュー・リオンだった。

 

「あんなモンスターを相手に、Lv2をぶつけるなんて度が過ぎています。あなたはベルさんを殺す気ですか?」

「……」

 

 リューの言葉は尤もだ。あんなモンスターを相手にベル1人で戦わせるなど、見殺しにするのと何も変わらない。

 リューの目が剃刀のように鋭くなり、アリマは無表情でその視線を受け止める。2人の周囲の空気が張り詰める。

 やがて、アリマが口を開く。

 

「やるかやらないか、選ぶのは君でもなければ、俺でもない。それができるのはベルだけだ」

 

 アリマはそれだけ言い、口を閉じた。

 アリマは強制してベルにゴライアスを倒させる気はないらしい。つまり、ゴライアスと戦うかどうかは、ベルの選択次第ということだ。

 ベルがゴライアスとの戦いを拒否すれば、全ては丸く収まる。アリマがゴライアスにトドメを刺して、それで終わりだ。

 頷きはしないだろう。リューはそう思いながらベルを見る。しかし、彼の顔には何か決意めいたものが顕れていた。

 

「アリマさんは、僕がアレを倒せると思っているんですか?」

「……」

 

 アリマが小さく頷く。

 リューは驚きで目を見開く。勝てるというのか、あのモンスターに。

 対照的に、ベルは最初からアリマが頷くのを分かっていたかのような、神妙な顔をしていた。

 

「……そうですよね。分かりました、やります」

 

 そう言って、歩き出すベル。当然、向かう先は死地(ゴライアスの元)だ。

 ベルとリューがすれ違う。その瞬間、リューはベルの肩を掴んだ。

 

「ベルさん、行ってはいけません!」

 

 ベルは振り返り、肩を掴むリューの手をそっとどかせた。

 

「僕は自分を信じれるほど強くない。だけど、僕を信じてくれるアリマさんのことは、どんなことがあっても信じたいと思うんです。だから、やれます」

「ッ──!?」

 

 そう言って、ベルは再び歩き始めた。

 止められなかった。あまりに強いベルの覚悟に、ほんの一瞬だがリューは気圧されてしまった。本気だ。ベルは本気で黒いゴライアスと1人で戦い、勝つ気でいるのだ。

 

「──……行かせません」

 

 リューは静かにそう呟いた。

 

「信頼に応えたい。その志は立派です。ですが、それで死んでしまっては元も子もない!!」

 

 どんなに高潔な志があろうとも、死んでしまえば、全てが終わりだ。

 ファミリアの仲間を全員失ってしまったリューだからこそ、死の恐怖と、残された者がどんな思いをするのかを知ってしまっている。

 力づくでも、彼を止めなければ。

 

「ラウル」

 

 ぽつり、とアリマが呟いた。

 背後から人の気配がする。振り返ると、そこには大剣を振りかぶる男がいた。

 大剣が振り下ろされる。躱せるような速度ではない。リューは腰にあるナイフを素早く抜き取り、大剣の軌道にナイフを構える。しかし、果たして受け止め切れるのか。

 衝突音。小さなナイフの腹が、振り下ろされた大剣を止めている。

 思っていたよりも、ずっと弱い衝撃。相手が想定より弱いのか、それとも手を抜かれたのか。目の前の人物からして、正解は後者だろう。

 

「ラウル・ノールド……! 何故、あなたまでこんなことを!!」

「答える義理はない」

 

 剣を握っているとは思えないほど、ラウルは静かな目でこちらを見ている。

 リューはラウルのことをよく知っていた。

 一度だけだが、彼とアリマが豊饒の女主人に飲みに来たことがある。その時の空気は今でも忘れられない。

 2人ともカウンターに1席空けて座り、一言も喋らずに、酒だけを静かに飲んでいた。店全体を支配する、飲み屋にあるまじき凄まじいプレッシャー。誰も一言も喋れなかった。後にも先にも、豊饒の女主人があんなに静かになることはないだろう。

 あんなことがあれば、どんなに平凡な顔だろうと嫌でも覚える。

 

「ッ!?」

 

 みしり、とナイフに降りかかる重圧が徐々に強くなっていく。

 やはり手を抜いていたのか──!

 あまりの力に、リューは地面に膝を突く。受け止めるだけでも、全神経を集中させなければいけない。このままでは、体力が尽きるのも時間の問題だ。

 

「リュー殿!」

「!」

 

 一瞬だが、ラウルの意識が声のした方へと引っ張られた。

 リューはその隙にナイフの腹をずらし、ラウルの握る大剣── ナゴミを地面へと受け流す。そして、全速力でラウルから距離をとった。

 声のした方を見てみると、そこにはベルの仲間と、タケミカヅチファミリア、そしてアスフィがいた。

 

「皆さん、どうしてここに……?」

「消えたベル殿を探しに来たんです! しかし、この人は……!?」

「ロキファミリアの冒険者です」

「ロキファミリアの冒険者!? それなら、争う理由なんてどこにも……!!」

「アリマさんはベルさんを1人でゴライアスに戦わせるつもりです。恐らく、彼はアリマさんに私たちの足止めを頼まれたのでしょう」

 

 リューの言葉を聞き、全員が言葉を失う。

 

「ゴライアスをたった1人で倒せだ……? ふざけろ、そんなの正気じゃねえ」

「同感だ。どうにか、彼を連れ戻さなければ」

 

 そのためには、まず立ち塞がるラウルをどうにかしなくては。

 リューは改めてナイフを構える。

 

「私とアスフィさんで彼の足止めをします。他の皆さんは、その隙にベルさんを追いかけてください」

「えっ」

「しかし、あのお方は佇まいからして只者ではありません! 2人だけでは!」

「彼はLv5。貴方達が残っても邪魔なだけです」

「……っ、それでも──!!」

 

 桜花が命の肩に手を置く。

 

「今は耐えろ、命。俺たちは、俺たちのできることを」

 

 あの男と戦うには、目眩がするほど力量が足りない。ならば、自分たちができることに、ベルを連れ戻すことに全力を尽くすしかない。

 こくり、と命は頷いた。自分の力不足を嘆くのは、全てが終わってからでいい。

 

「分かりました。ベル殿についてはお任せください」

「ええ、頼みました」

 

 やるべきことは決まった。

 リューとアスフィは一歩先に出る。

 

「今更ですけど、本当に私たち2人だけでアレを相手にするんですか?」

「ええ」

「……まさか、ヘルメス様に振り回される方がまだマシと思う日が来るなんて」

 

 2人は同時に地面を蹴り、駆ける。

 命たちには目で追うのもやっとの速度。挟み込むようにしてラウルに接近し、そのまま攻撃を仕掛ける。

 二方向から繰り出される剣戟。一流の冒険者であろうと、そこに躱せる余地なんてないと断ずるだろう剣の幕。しかし、ラウルは余裕綽々でそれを躱す。

 だが、2人は目の前の男がこれくらいやってのけると分かっていた。

 

「行ってください!」

 

 リューの声に弾かれるように、命たちは走り出す。

 ラウルの目が命たちに向いたのを、リューは見逃さなかった。

 行かせはしない。最低でも、命たちの背中が見えなくなるまでは、この男をこの場所に釘付けにしなくては──。

 そんな決意を嘲笑うかのように、ラウルの姿が掻き消えた。ラウルの向かう先はどこなのか、そんなの思考を巡らせるまでもない。命たちの走った方向に目を走らせる。

 

「えっ?」

 

 一瞬だった。瞬きをするよりも速い、ほんの一瞬。ラウルは先頭にいた命の行く先に回り込み、首の裏を手刀で叩いた。

 命の目から光が失われ、糸が切れた人形のようにその場に倒れる。

 後ろにいた桜花たちは、突然の事態に足を止めてしまう。

 

「化物め……!」

 

 ふと、ラウルの二つ名を思い出す。

 悪い冗談だ。これの何処が超凡夫なのか。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 膝を折り曲げ、地面を這うような姿勢で前へと進む。すると、頭上をゴライアスの巨大な腕が通り過ぎた。

 風圧だけで死を感じさせる威力。しかし、怖じ気付いている暇はない。即座に体勢を立て直し、ゴライアスの懐に潜り込む。

 斬る。斬る。斬る。斬る。目の前にいる黒いゴライアスの胴をひたすら斬り刻む。

 ヘスティアナイフを握る右腕と、ユキムラを握る左腕の感覚が既に消えかけている。しかし、攻撃の手を緩めれば、捻り潰されるのはベルの方だ。

 しかし、それだけやっても。ゴライアスは倒れるどころか、怯みすらしない。

 

「!」

 

 ゴライアスの左腕が薙ぎ払うように振るわれる。

 背後へ退がる? ダメだ、間に合わない。

 跳んでやり過ごす? これも間に合わない。

 ならば──

 

「っあ゛──!!??」

 

 ベルは迫り来るゴライアスの左腕にユキムラを突き刺し、跳んだ。

 凄まじい勢いに、ユキムラを握る両手が離れそうになる。ここで手を離せば、ゴライアスの左腕に巻き込まれ、見るも無惨な肉塊と化すだろう。何があろうと、この両手は離せない。

 ゴライアスが左腕を振り切る。

 残ったのは、左腕に突き刺さっているユキムラだけだった。ベルは振り落とされてしまったのか──?

 ゴライアスの額に漆黒のナイフが突き刺さる。当然、ナイフを握っているのはベルだ。

 左腕を振るう勢いを利用して、ゴライアスの顔に跳び移ったのだ。

 ベルはナイフを握りながら、ゴライアスの目の前にぶら下がる。額をナイフで突き刺しても、まだ致命傷には成り得ない。しかし、元より額にナイフを突き刺しただけで殺せるとは思っていない。だから、次の手を。

 ゴライアスは右手を伸ばし、目の前にいるベルを握り潰そうとする。しかし、この状況においてはベルの攻撃の方が圧倒的に速い。

 

「ファイアボルト!」

 

 ゴライアスの頭部から火柱が立ち昇る。

 内部からの発火が効いたのか、ゴライアスは痛みで怯み、ベルへと伸びていた右手が止まる。

 

「ファイアボルト! ファイアボルト!! ファイアボルト!!!」

 

 1発で死なないなら、何度でも。

 何度も何度も、ゴライアスの頭部からは火柱が立ち昇った。奇しくも、赤いミノタウロスを倒した戦法と同じだ。

 パァン、とゴライアスの頭部の上半分が弾け飛んだ。

 刺さる場所が失くなり、ヘスティアナイフは地面に落ち、それを支えにしていたベルも落ちていく。

 落下しつつも体勢を立て直し、着地する。

 ゴライアスを見上げるベル。しかし、その目に勝利を喜ぶ色はない。まだ終わっていないと、ベルの直感が告げていた。

 

「──……ッォォ!!!!」

 

 IXAで閉ざされた口から掠れた咆哮を漏らしながら、急速に再生を始めるゴライアス。

 骨格が形成され、肉が付き、浅黒い肌で覆われる。気がつけば、ゴライアスの頭部は完全に再生してしまった。

 傷が治ったということは、つまり──。

 ゴライアスの両足も、頭部と似たような過程で再生していく。

 ゴライアスは再生した足を地面に着き、のそりと立ち上がる。

 始まるのは、単純かつ圧倒的な暴力。サイズと重量にかまけた、出鱈目な足踏みの連続。足を振り下ろした分だけクレーターが生まれる。

 凄惨な状況の中、ベルはどうにかゴライアスの足から逃れる。だが、それだけで精一杯だ。どうすればいいのか、ベルは必死に打開策を考える。

 ゴライアスに踏みつけられた地面が割れ、礫が飛び散る。まるで散弾のようにベルの身体に直撃する。

 吹っ飛ばされ、何度も地面を転がる。

 偶然にも、止まった先の視界にはアリマがいた。相変わらずの無表情で、静かにベルを見つめている。

 ああ、失望させてしまっただろうか。

 

「……」

 

 アリマは何も言わず、ゴライアスの方へと歩く。

 

「ァァァァォォ!!!」

 

 ゴライアスは再び足を上げ、アリマを踏み潰そうとする。しかし、アリマならきっと余裕で躱して、瞬時に首を斬り飛ばすだろう。

 

「……」

 

 しかし、アリマは。

 足を止め、迫り来るゴライアスの巨大な足を何もせずに見上げた。

 

「は?」

 

 ゴライアスの足と地面に挟まれて、アリマの姿が消えた。

 何が起きたのか、一瞬分からなくなる。どうしてアリマは動かなかったのか。どうして潰される一瞬、自分の方を見たのか。

 どうして、どうして!! 頭の中が疑問で埋め尽くされる。

 ゴライアスは口に突き刺さったIXAを器用に指で摘んで引き抜き、地面に投げつける。

 そして、勝利を確信したように天に吠える。アリマのいた場所を踏みつけながら。

 

「……めろ」

 

 ゴライアスは丹念に、何度も何度もアリマのいた場所を踏みつける。

 ふと、ダンジョン中に鐘の音が鳴り響く。ゴライアスも踏み付けを止め、ベルの方を見る。

 

「やめろ」

 

 鐘の音は何度も鳴り響き、ベルの全身が青白く発光する。

 

「やめろおおおおおお!!!!!」

 

 ベルは立ち上がり、ゴライアスの方へと走る。勝てる勝てないなんて、頭の中から抜け落ちていた。

 地面に投げ捨てられたIXAを掴む。槍のように構えながら、ゴライアスの上半身へと跳んだ。

 青白い光の帯がゴライアスの上半身を丸ごと穿ち、どこまでも伸びる。それはまるで流星のようだった。

 ゴライアスが霧散する。ベルは自分がやったというのに、まるで他人事のような気分でその光景を見ていた。

 宙高くに投げ出されたベルは、そのまま地面に落ちていく。ゴライアスとの戦いの疲労に加え、英雄願望の反動。体勢を立て直す体力すら残っていない。

 地面が近くなるにつれて、ベルは気づいた。

 落下地点に誰かいる。見慣れた白いコート。そして、自分と同じ白い髪。ああ、間違いない。この人は──

 

「アリマさん……!」

 

 吸い込まれるように、アリマが差し出した両腕に落ちた。

 

「良くやった、ベル」

 

 アリマの労いの言葉に緊張の糸が切れたのか、意識が急に微睡んでいく。落ちていく瞼に抗えない。

 ベルはアリマの腕の中で、そのまま眠りについた。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 強い。目の前の男、ラウル・ノールドは、予想よりも遥かに強い。

 傷つけないようにと、明らかに手加減されている。それでも、ラウルを足止めすることすら能わない。

 体力が削られ、額に玉のような汗を浮かべるリューとアスフィ。しかし、ラウルは汗どころか、顔色1つすら変えはしない。

 タケミカヅチファミリアと、ベルの仲間は全員ラウルに倒されてしまった。それも、傷つけないように、意識だけを刈り取って。

 ラウルの後ろにいる、まるで塔のように巨大なモンスター、ゴライアス。アリマによって両足を切断されたはずなのに、なぜか立ち上がっている。

 嫌な予感がする。一刻も早く駆けつけなければ。このままでは、ベルが──。

 しかし、目の前の男が先を進むのを許さない。

 

「「!?」」

 

 何の前触れもなく、ゴライアスの上半身が弾けた。

 がくりと地面に膝を突き、そのまま倒れる途中で、霧となって消える。

 まさか、ベルがやったのか。あの場所で今、何が起きている。

 

「リューさん、ラウル・ノールドが……」

 

 アスフィに言われて、いつの間にかラウルが消えていたのに気づく。

 足止めする必要がなくなった、ということなのだろう。

 

「どうやら終わったみたいですね。少し休んでから、ベルさんの仲間と、タケミカヅチファミリアの皆さんを起こしましょう……」

 

 そう言いながら、アスフィは一息つくように地面に座り込む。かなり体力を消耗したみたいだ。

 リューはしばらくその場に佇み、己の不甲斐なさに、ギリリと奥歯を噛む。何もできなかった。駆けつけることさえも。

 キショウ・アリマ。そして、ラウル・ノールド。この2人が何よりも、ダンジョンのモンスターなんかよりよっぽど恐ろしく感じた。彼らが何を考えているか、分からない。

 果たしてベルをどうするつもりなのか。そんな不安を抱えながら、黒いゴライアスがいた場所を見つめた。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 英雄願望のスキルについてはベル君から聞いていた。仲間が危機に陥ったり、絶体絶命の状態になったりすると、このスキルが発動するらしい。実際、リリ山さんがインファントドラゴンから助けられたとか。

 という訳で、ベル君の英雄願望を発動させるべく、外見だけ危機的状況に陥ってみた。黒いゴライアスの攻撃を躱さずに、受け止めたのがそうだ。

 ナルカミのアタッシュケースで防いだが、足場の方が保たなかったのだろう。足元の地面が陥没して、どんどんと地中に埋まっていった。

 ぶっちゃけると、ゴライアスの攻撃でダメージは受けない。はぐれメタルにミス連発みたいな感じに。刃物ならまだしも、殴るとかじゃねえ……。思わず心の中で苦笑いだわ。

 ベル君の目には俺が踏み潰されたように映ったらしく、目論見通り英雄願望を発動してくれた。その威力も凄まじく、IXAを握って突撃したと思ったら、黒いゴライアスの上半身を吹き飛ばした。何をry)。

 ベル君を休ませようと、ロキファミリアの拠点に向かう。

 それにしても憂鬱だ。ベル君をゴライアスと戦わせたのを、みんな許してくれるだろうか?

 そういえば、誰もベル君の戦いに手出ししなかったな。ラウルがキッチリ足止めを果たしてくれたのだろう。リューさん辺りに抜かれると思っていたが、流石はいぶし銀だ。

 ふと、肩に担いでいるベル君を見る。君の成長速度には、本当に驚かされてばかりだ。それでこそ主人公。それでこそカネキ君だ。

 

 




 感想・評価してくれた皆様、ありがとうございます。
 お〜い、わたしの子供にしてやるぞ^^

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