ダンジョンに白い死神がいるのは間違っているだろうか   作:あるほーす

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じぇくと

 

 イシュタルが目を覚ましたのは、仄暗い牢獄のような場所だった。周囲は岩壁で囲まれ、正面のみが鉄格子で区切られている。壁に装飾された蝋燭が辛うじて光源となり、把握できた。

 どうやらずっと、このゴツゴツとした岩の床で無造作に寝かされていたらしい。まるで囚人のような扱いだ。美の女神である自分への不遜な扱いによる怒りと、この状況への困惑が混ざり合う。

 ふと、まるで巨大な化け物の腹の中にいるような、悍ましい感覚がした。

 ここがどこなのか、本能のようなもので理解した。ここはダンジョンだ。間違いない。自分は今、ダンジョンにいる。

 何が起きたのか、徐々に思い出す。

 そう、女主の神娼殿でアリマに気絶させられたのだ。ここに連れてきたのも、アリマで間違いないだろう。

 先ほどまで抱いていた怒りは急速に萎み、逆に不安と恐怖が大きくなる。アリマは自分をダンジョンに連れてきて、何をするつもりなのだろうか。

 

「──!?」

 

 足音が響く。

 誰かがこっちに近づいて来る。思わず、背後の壁際まで後ずさる。

 

「……」

 

 鉄格子の向こうにいるのは、フードを被った誰かだった。大柄な体格から察するに、性別は男だろうか。

 

「アリマ、ではない……!? いや、人ですら…… 何だお前は!! 」

 

 人の形をしているが、人ではない。

 そう断じた根拠はない。強いて言えば、直感だ。しかし、神々は── イシュタルは長い年月をかけて、人の営みを見てきたのだ。その直感には相応の信頼が置ける。

 フードの男が右腕を振るうと、鉄格子はバラバラになって地面に落ちた。鋭利な刃物で切断されたかのように、その切り口は滑らかだ。

 フードの袖口から、まるで龍のような黒い腕が覗いていた。通常の腕よりも一回りほど大きく、五指の先端には鉤爪のような爪が伸びている。

 フードの男は鉄格子の残骸を越え、イシュタルに近づく。

 

「く、来るな!! 来るなと言っているだろう!!」

 

 神威さえ発動させれば、この男も止まるはずだ。そんな考えをあざ笑うかのように、一瞬にしてイシュタルとの距離を詰めた。

 

「──あっ」

 

 ぱきん、と乾いた音が牢獄に響いた。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 アリマが指名手配を受けてから、既に2週間が経過していた。

 ロキは護衛にフィンを引き連れて、オラリオの町外れにある廃教会に訪れた。教会の窓は割れ、壁のあちこちにヒビが刻まれている。雨風をしのぐ機能を辛うじて果たしているだけの状態だった。それでも、ここはヘスティアファミリアの本拠である。

 彼らがここに来た目的は、言うまでもなくベル・クラネルだ。アリマの唯一の弟子である彼なら、何か知っているかもしれないと考えたのだ。

 ヘスティアファミリアが実際に寝泊まりしているのは廃教会の地下室で、ロキたちはそこに案内された。地下室は質素ながらも、趣のある造りだった。隠れ家や、秘密基地といった感じだ。

 ロキは椅子に腰掛けながら、アリマが消えた日に何があったのか、ベルの言葉に耳を傾けていた。

 

「その子を助けるために大金稼いで、イシュタルに直談判したんか。中々やるやんか、ベル」

 

 ロキは愉し気に笑いながら、和風のメイド服を着た狐人を見る。

 結論から言えば、ベルは春姫を救い出すことに成功した。

 彼女の魔法は確かに希少だか、イシュタルがいなくなった今となると、事情が少し違ってくる。

 イシュタルファミリアの重鎮の間で、春姫の魔法を取るか、ベルのもたらした莫大な富を取るべきかで割れていた。

 階位昇格の効果が十全に発揮されるのは、ダンジョン探索や、他のファミリアに戦争を仕掛けるような状況だ。

 それも、階位昇格の対象は1人だけ。ロキファミリアやフレイヤファミリアのように、地力が違いすぎるファミリアが戦争相手では、誰か1人のLvが上がったところで意味がない。

 要は、使える状況が限定的すぎるのだ。

 対して、春姫の身請けの額は莫大である。ロキファミリアの遠征の成果と同等だ。春姫の身請けを認めれば、一生遊んで暮らせる者が何十人といよう。

 春姫の身請けを認める意見が多数派になるのに、そう時間はかからなかった。

 

「あはは…… ほとんどアリマさんとラウルさんのおかげですけどね」

「そ、そんなことないです! ベル様が救おうとしてくれたから、私はここにいるんです! きっと他の人では、私は救いの手を握ることができませんでした……」

「春姫さん……」

 

 春姫はベルの右手を、両手で包み込むように握る。ベルは顔を真っ赤にして、ドギマギしている。

 春姫は良家のお嬢様である。シチュエーションを鑑みれば、まるで演劇のワンシーンのようだ。ベルも、見事にそんな空気に取り込まれてしまっている。

 

「はいストーーーーップ!!! 狐人君、お客さんの前で惚気るんじゃない!! というか、ベル君も変な空気に飲まれちゃダメじゃないか!!」

「「す、すみません……」」

 

 誰もがこの空気に置いていかれる中、ヘスティアだけが果敢に空気を壊しにかかった。春姫は握っていたベルの右手を慌てて離す。

 

「お騒がせしてすみません」

「はは、構へん構へん」

 

 リリルカがロキとフィンに向かって頭を下げる。頭を下げてこそいるが、その表情は目に見えて不機嫌だ。

 リリルカも春姫を救けることに思うことがなかった訳ではない。春姫を救けるために深層に潜ったと聞いたときは、ベルの身が心配で仕方がなかった。

 しかし、ベルのその行動を否定するのは、過去に自分を救ってくれたベルを否定するのと同義だ。それだけは、やってはいけないことだ。

 だが、恋の競争相手としては別である。ベルにとっての一番を、そう簡単に勝ち取らせるつもりはない。

 

「そんでその後、アリマはイシュタルを拉致った訳やな」

「はい……」

 

 ロキの目が僅かに見開く。剣吞とした空気を感じ取り、ベルも真剣な面持ちになる。

 

「あの、ロキファミリアの方は大丈夫なんですか?」

「……大丈夫、とは言えないね。アリマが指名手配されて、ロキファミリアに所属する全員が少なくない衝撃を受けている。そんな状態でも、ギルドや他のファミリアの対応、そしてアリマの捜索をこなさなきゃいけないからね。正直、手が回らないよ」

 

 ロキの代わりに、フィンが返答する。フィンの疲労が滲み出た声色から察するに、相当苦労しているのだろう。

 

「ロキだって危うく、オラリオから追放されるペナルティを背負うところだったんだ。ヘスティア様やヘルメス様の助力で、どうにか軽くはできたけど……」

「神様が……?」

 

 ベルは少し驚いた面持ちで椅子に腰掛けたヘスティアを見る。ロキと不仲なのは、なんとなく察していたが……。

 名前を呼ばれたヘスティアは、ぎょっと目を見開く。

 

「か、勘違いしないでおくれよ!? ロキは好きじゃないけど、別にいなくなってほしいとまでは思ってないだけなんだから!!」

 

 ヘスティアは顔を赤くしながら、ぶんぶんと手を横に振った。誰がどう見ても照れ隠ししている。

 

「……どチビも、ありがとな」

 

 ロキはそんなヘスティアを特にからかうこともせず、礼を言った。

 

「……やめろよ。しおらしい君なんて、調子が狂うじゃないか」

 

 ヘスティアは居た堪れない面持ちで、ぽつりとそう呟く。ヘスティアのその言葉にも、ロキは力なく笑うだけだった。

 

「なあ、ベル。どんな些細なことでもええ。アリマは何か言うてへんかったか? あのアホが失踪したのも、きっと君が鍵を握っているはずなんや」

「アリマさんは自分のことをあまり語らない人でしたから、本当に何も……」

「アリマの目的は、きっと今もベルを強くすることや。ベル、あんたのLvは?」

「Lv4です」

 

 深層でカドモスとの死闘を経験したベルは、Lv4にランクアップした。当然、それも世界最速だ。

 本来ならオラリオ中に知れ渡るであろう情報だが、アリマの再びの凶行により、完全に埋没してしまった。

 

「はは、いっそ恐ろしい成長速度だね……」

 

 1年にも満たない内に、Lv4の領域まで足を踏み入れている。ベルの成長速度に恐怖を覚えるのと同時に、彼の素養を一目で見抜いたアリマにも同じ感情を抱く。

 

「大したもんやな、ホントに。だけど、まだや。アリマは、ベルを俺より強くするって言っとった。今の状態の君を放っておくのは、絶対にありえへん」

「僕が、アリマさんより強く……?」

 

 ロキの言葉を聞いた瞬間、ベルは困ったように笑いながら、首を横に振った。

 

「無理ですよ。誰もアリマさんには勝てません。僕にできるのは、あの人の背中に追い縋るくらいです」

 

 何度もアリマと手合わせしているからこそ、ベルはそう断言することができた。

 この数ヶ月で、何百回も、何千回もアリマに殺されかけた。それも、当然だがアリマは力の底を見せていない。

 本能に刻み込まれる、絶対に越えることのできない壁。アリマを倒せるイメージなんて、ほんの少しも湧かない。

 

「……アリマは、世界を救うために君を強くするそうやで」

「世界を、救う……?」

「その反応…… 何やどチビ、教えてなかったんかい」

「……別にいいだろ、教えてなくても」

 

 言えなかったのだ。嬉しそうにアリマのことを話すベルを、不安にさせるようなことをしたくなかった。たとえ、それがいずれ知ることであろうとも。

 ヘスティアの懸念通り、ベルは戸惑いの表情を浮かべていた。

 ベル自身、どうしてアリマが自分を強くしたいのか、ずっと考えていたのだ。そんな中、突然告げられた、世界を救うためという理由。受け入れるには、あまりにもスケールが大きすぎる。

 

「収穫なし、やな」

 

 ロキは右手で眉間を押さえた。やはり、そう簡単に手がかりは得られないか。

 ロキが椅子から立ち上がろうとした瞬間、ベルがハッとした表情に変わった。

 

「そういえば……」

「っ、何か思い出したんか!?」

「僕の勘違いかもしれませんけど、ここ最近アリマさんの立ち回りが変わっていた気がするんです。何と言うか、アリマさんの向かって左── 右目側に、防御が固くなっているような気が……」

 

 アリマが隠れている場所には直接関係なさそうな情報だが、もしかすると手がかりになるかもしれない。

 確認を求める意味で、ロキは隣にいるフィンに目をやる。オラリオでもトップクラスに位置する彼も、同じ違和感を抱えているかもしれない。

 

「ごめん、分からない。僕としては、普段と変わりないように見えるけど……」

 

 少なくとも、フィンの目にはアリマの立ち回りはいつも通りに映った。しかし、フィンはベルの言葉を気のせいだと切って捨てる気にはなれなかった。

 

「リリ山君、君はどうだい?」

 

 ヘスティアの問いかけに、リリルカは肩を竦めながら、首を横に振った。

 

「そんなこと私に聞かれても。ぶっちゃけ、2人が何をしているか見えませんので」

 

 彼らの会話を遮るように、遠雷のような音が鳴り響いた。

 

「な、何ですかこの音……?」

 

 今日のオラリオの空模様は、雲一つない快晴だった。雷が落ちるのはあり得ない。

 いっそ爆発音と言われた方が納得できる。

 

「向こうの方か……」

 

 フィンの耳は、何処がこの音の発生源なのかを正確に把握していた。

 ここから東の方角。それも、そう遠くない距離だ。

 ふと、親指が疼いた。親指が疼くのは、自身の命の危険を知らせる合図だ。ダンジョンでもないのに、どうしてこの街中で?

 そんな疑問を頭の片隅に追いやる。

 今、この場にはロキがいる。黙って様子を見ているのは下策だ。いち早く、情報を掻き集めなくては。それに、自分がいなくとも、この場にはベルがいる。余程の相手でない限り、遅れをとらないはずだ。

 そして── この爆発は、アリマが関わっているような気がした。

 

「少し見てくる。ベル君、ロキたちのことは頼んだよ」

「フィンさん!?」

 

 フィンはそう言い残すと、地下室の出口から飛び出して行った。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 ロキたちがヘスティアファミリアの本拠に訪れた、少し前。

 ロキファミリアの団員たちは、アリマの起こした事件の対応に奔走していた。最も人員が割かれているのは、アリマの捜索である。

 何をするにもまず、アリマを見つけ、その真意を問いたださなければ始まらない。

 

「アリマ、本当にダンジョンにいるのかな……?」

「どうでしょうね。アリマらしき人が、女を抱えてバベルに入ったっていう目撃証言が幾つかあるけれど……」

 

 ロキファミリアの団員たちは、ダンジョンの探索に来ていた。アリマの目撃証言は、アリマがバベルに訪れてからパッタリと途絶えている。単に、誰にも見つからないように移動しているだけかもしれないが。

 上層の探索は2軍に任せ、ラウルたちはダンジョンの奥へと進んでいる。30階層まで進んだが、少し厳しくなってきた。

 フィンたちは他のファミリアの対応に駆り出されている。ダンジョンの探索には外れてしまっている。

 ガレスやリヴェリア、フィン、2軍のサポートのないパーティでどこまで進めるか分からないが……。

 

「ダンジョンに潜っていたとしても、もう2週間ですよ。もう別の場所にいるんじゃ……」

 

 常識的に考えて、ダンジョンに2週間も潜るのは自殺行為である。たった1人で、四六時中モンスターに狙われる精神的負担は、想像を絶するものだ。

 

「おめえはアリマの何を見てきたんだ。2週間ダンジョンに潜る? あいつなら、そんなこと余裕でこなすだろうよ」

「今回ばかりは、私もベートに同意見よ。それに、イシュタル様をダンジョンに拉致したのは、何かしらの意味があるはずだわ。その意味を知れば、アリマの居場所を見つける手がかりにもなるはずよ」

 

 30階層を隈なく探索したが、成果は得られなかった。

 少なくとも、ここより上のダンジョンにアリマはいない。となると、アリマが潜んでいるとすれば深層のダンジョンである。

 

「アリマさんを見つけたら、私たちはどうすればいいんですかね……?」

 

 ふと、レフィーヤがそんな言葉を漏らした。誰も口にはしなかったが、誰もが抱いていた疑問だった。

 もしアリマが自分たちと出会ったとして、彼は次にどのような行動に移るのだろうか。アリマは対話をしてくれるのか、それとも有無を言わさず──。

 

「ブン殴って、連れて帰る。それ以外にねえだろうが」

 

 ベートが無愛想に言い捨てる。実力主義者の彼らしい返答だったが、その言葉がレフィーヤの抱えていた不安を爆発させた。

 

「でも、アリマさんLv7なんですよ!? 私たちが束になっても、勝負になるか分からないじゃないですか!!」

「俺たちに何も言わず、こんな馬鹿げたことを仕出かしたんだぞ!! 殴る以外の選択肢がある訳ねえだろ!! それともお前は、このままアリマを放置するのが正解だと思っているのか!?」

「誰もそんなこと言ってないじゃないですか!!」

 

 ベートとレフィーヤの言い争いはいよいよヒートアップしてきた。ティオネが仲裁しようとした、そのとき。

 

「落ち着いてよ、2人とも!」

 

 意外にも、2人の言い争いを諌めたのはティオナだった。

 全員が視線がティオナに集まる。

 

「信じよう、アリマを。あんなことをしたのも、きっと何か理由があったんだよ。確かに私たちは、アリマのことを何も知らないよ。だけど、これから分かっていけばいいじゃん!」

 

 ティオナはそう言い切った。まるで自分にも言い聞かせるように。

 明るい笑顔こそ浮かべているが、無理をしているのは一目で分かった。

 

「でも──」

 

 それでもやはり、レフィーヤの気持ちは変わらなかった。アリマには何度も助けられたし、信じたいと思っている。ただ、どうしてもアリマに対する恐怖が払拭できない。

 ベートはレフィーヤの胸倉を掴み、そのまま持ち上げた。

 

「だったらテメエだけ本拠に帰って、部屋の隅でガタガタ震えていろ!」

 

 ベートがそう怒鳴った瞬間、何の前触れもなく、レフィーヤの背後にアリマが現れた。

 レフィーヤを見下ろすアリマの目は海底のように暗く、どこまでも冷たい。

 その場にいる誰もが、今の状況を理解することができず、呆然とアリマを見る。

 誰にも気配を悟られず、ここまで近づけたのか。どうして今になって、アリマが姿を現したのだろうか。

 

「っ!?」

 

 最も近い距離でアリマを見たからこそ、ベートは最初に気づいた。

 アリマの手にナルカミが握られている。 それも、その刀身に目の眩むような電撃を迸らせながら。

 アリマが何をする気なのか、ベートは直感で理解した。

 

「どけ!!」

「きゃっ!?」

 

 ほぼ反射的に、レフィーヤをその場から突き飛ばした。

 振り下ろされる断罪の刃。避けることは叶わない。ベートにできるのは、ナルカミの雷撃を受け入れることだけだった。

 何かが破裂するような音が、眩い雷撃と共に生じる。

 

「カッ……!!??」

「ベートさん!!!」

 

 目を白黒させながら、ベートの身体がゆらりと揺れる。しかし、右足で強く地面を踏み鳴らし、倒れそうな身体を支える。

 両の足で立ち続けながら、目の前にいる白い死神を睨みつける。

 

「アリ、マ…… どういうつもりだ……! この生っちょろい電撃…… こいつを殺す気、なかったな……!」

 

 レフィーヤの代わりに電撃をくらったからこそ、ベートは気づけた。アリマはレフィーヤを殺す気はなく、意識を刈り取る程度で済ませようとしている。

 ナルカミによる電撃は、冒険者よりも遥かに頑丈でタフなモンスターを、一瞬で消し炭にできる。アリマがレフィーヤを殺す気でナルカミの電撃を放っていれば、ベートはこうして立っていられなかっただろう。

 

「……」

 

 ベートの問いかけにも、アリマはひたすらに無言を貫く。思考も、感情も読み取れない。

 

「アリマ、どうして……!?」

「構えなさい、アイズ! 大人しく話を聞かせてくれる空気じゃないわ!」

 

 各々が武器を構える中、ラウルだけが立ち尽くしていた。

 

「やめろ、無意味だ」

「ラウル、何言ってるの!?」

 

 ティオネの怒声にも一切動じず、ラウルは諦めたような表情でアリマを見た。

 

「アリマさんがそうするのなら、俺たちに抗う術はない」

 

 ラウルがそう言った瞬間、雷電が宙を駆けた。アイズたちは何が起きたのか理解する間もなく、地面に倒れた。

 やはり意識を刈り取られただけで、呼吸により身体が僅かに上下に揺れている。

 

「みん、な……?」

 

 意識を刈り取られず、その場で立てているのは、ラウルとティオナの2人だけだった。

 ティオナも何が起きたのか分からず、倒れてしまったアイズたちに目を向ける。その目には動揺が色濃く現れている。

 対して、ラウルはまるでこうなることを予知していたかのように落ち着いた様子で、背後にいるアリマに目を向けた。

 ラウルだけは、アリマが何をしたか予想できていた。背後に回り込み、雷を纏ったナルカミを当てる。それを計4回、同時と感じてしまう速度で成しただけ。ラウルはアリマの動きを目で追うことができなかったが、きっとそうしたのだろう。後ろを向いたのも、アリマならそこにいると予想したからだ。

 ただ、どうして自分とティオナの意識を刈り取らなかったのか、それが分からなかった。有馬の化物染みた戦闘力ならば、自分たち2人の意識を刈り取るくらい、訳なかったはずである。

 

「2人に話したいことがある」

 

 ラウルのその疑問に答えるように、アリマが口を開いた。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 突如、オラリオに生じた謎の爆発。

 付近にいた住民たちは何が起きたのか分からないまま、再び発生するかもしれない爆発に怯え、逃げ惑う。

 爆心地に黒い煙が立ち上る。その中に、2つの人影があった。

 

「これだけ派手に騒げば十分だろう」

 

 赤髪の女がギルドの方角を見ながら、そう呟いた。

 彼らの目的は陽動。オラリオにいる冒険者たちの目を、自分たちに集めるためである。

 彼女の名はレヴィス。アイズの前に度々姿を現し、人でありながらその身に魔石を宿す怪人である。

 その隣に立つのは、黒いローブを被った男だった。色素の抜け落ちた白い髪は、今にも溶けて消えてしまいそうな雪の儚さを連想させるアリマや、穢れなき純白さを連想させるベルと違い、人から外れてしまった悍ましさを連想させる。

 レヴィスはちらりと白髪の男を見ながら、男の名を呼ぶ。

 

「行けるか、ゲド?」

「早くしろ、腹減ってんだ」

 

 ゲド・ライッシュは口の中に左手の中指を突っ込みながら、やって来るだろう餌(冒険者)たちを今か今かと待ちわびていた。

 




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