ダンジョンに白い死神がいるのは間違っているだろうか   作:あるほーす

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腐る鳥木

 闇の底に沈んでいたかのような眠りから目を覚ます。

 冷たい石造りの屋根が辛うじて見える。

 ベッド代わりに敷いた布から体を起こす。

 無機質な灰色の壁に、ぽつりとある扉。まるで独房のように、家具も何もない。だけど、今の俺には相応しい。

 部屋から出て、薄暗い廊下を歩く。少し先は暗闇で、かなり不気味な感じがする。光源が壁にある燭台の蝋燭の火だけというのもあるが、一番の理由は俺の右目の機能が完全に喪失しているからだろう。

 右目に違和感があるのは、何週間も前からだった。最初は、視界の中央に小さな点があるだけだった。しかし、日にちが経つにつれて、その黒い点は大きくなった。

 緑内障だと気づくのに、そう時間はかからなかった。

 有馬さんと同じ病に罹ったことに、喜びと同時に悲しみを覚えた。

 運命の悪戯なのか、俺は有馬さんと瓜二つの容姿で生まれてきた。常人に比べて早く死ぬという特徴も受け継いで。

 俺が死ぬことは別にいい。ずっと昔に覚悟はできている。だが、現在進行形でこの肉体が朽ちていくのは、思ったより精神にくる。有馬さんが死んでいくのを、誰よりも近くで見ているような気分だ。

 オッタルと戦った時には既に、右目は何の像も映さなくなっていた。そんな状態で鯱と戦った有馬さんは、改めて化け物染みた強さだと実感した。オッタルと俺の間に、大きな身体能力の差はない。だからこそ、片目が塞がっていても勝てたと思っている。もしも有馬さんと鯱のように、身体能力に種族の壁があったらどうなっていたか……。

 ベル君と戦う頃には、左目もほとんど機能しないという確信がある。既に、左目の視界も小さくだが欠落している。

 そんな状態でベル君と戦えるのか、少しだけ不安だ。最後の戦い、ベル君は確実にオッタルよりも強くなっているはずだから。

 しばらく歩くと、扉の横の壁に背を預けているレヴィスの姿が見えた。

 

「やっと来たか、アリマ。時間ギリギリだぞ」

 

 その目には若干の非難の色が見えた。時間ギリギリに来たことに苛立っているのだろう。

 けれど、それよりもこいつの格好の方が気になって仕方がない。股関節が余裕で見えてるんだが。毛がはみ出ても知らんぞ。

 レヴィス、こんな格好で俺よりも年上なんだよな。救えねえわ。

 

「行くぞ、王がお待ちだ」

 

 レヴィスが扉を開ける。彼女に続いて、俺も部屋の中に入る。

 俺の部屋に負けず劣らず、殺風景な部屋だ。だが、部屋の奥には玉座があり、左右には灯りの点いた燭台が佇んでいる。

 俺たちは玉座の前まで歩き、そこで足を止める。

 肘掛けがあるだけの石造の椅子で、玉座と呼ぶにはあまりにお粗末な完成度だが、それでも俺たちはこれを玉座と呼んでいる。

 今、この椅子に座っている男が俺たちの王なのだから、そう呼ぶ他ない。

 蝋燭の灯りが、フードの中の男の顔を仄かに照らす。短くまとまっている黒髪。精悍な顔つき。そして凛々しい眉毛。外見はハンサムなおっさんで、東京喰種の登場人物では亜門さんに近い。

 

「レヴィスに、キショウ…… よく来たな」

「ご健在のようですなによりです、ヴィー様」

 

 レヴィスはお辞儀をする。俺はその傍ら、目の前にいる男を見据える。

 この男の名はヴィー。有馬さんが所属していた組織と同じ名だ。奇妙な運命だと、改めて思う。

 

「レヴィス、被験体はどうだった?」

 

 被験体とはつまり、ゲド・ライッシュのことだ。どうやら、かなり無茶な耐久テストをされたらしい。それが原因なのか、いつの間にか白髪に変わっていた。

 まさか、リリ山さんに良からぬことをしようとしたあの小者が怪人になっているなんて、思いもしなかった。

 

「はい、戦闘能力については問題ないかと。フィン・ディムナ、そしてベル・クラネルを相手にも善戦していました。黒翼、そして爪の生成も確認できます」

「……」

「何だ、仮初めの仲間たちのことが気になるのか?」

 

 こいつらの役目は注目を集めること。それなのにベル君たちと交戦する流れになったのは、運命と呼ぶ他ない。初めにそう聞いたときはかなり驚いた。

 ベル君がゲドをぶっ倒したそうだが、アレを相手によく勝てたと思う。ゲドの戦い方はお粗末の一言に尽きるが、身体能力は上位冒険者とタメを張れるほど高い。俺の見立てでは、Lv5にならなきゃ勝ち筋はないと思っていたのだが……。

 ベル君の成長を嬉しく思う。俺がいなくとも、こうして強くなってくれる。

 あと、仮初めの仲間と思ったことはない。現在進行形で裏切っている俺が言うのも何だが。

 

「俺の血をモンスターに与えれば、その力を大幅に引き上げることができる。やはり怪人であろうと例外ではなかったか」

「仰る通りです。しかし、最終的には私の指示にも従わなかった上に、随所で著しい錯乱が見受けられました。完全にコントロールするのは難しいかと」

 

 この男はオラリオ全体で見ても突出して強い。本気で戦ったことはないから何とも言えないが、オッタルよりも強いのは間違いない。

 それが理由なのか、この男の血をモンスターの魔石にかけると、魔石の薄紫色が極彩色に変化し、大幅なパワーアップを果たす。加えて、与えられた血の量が多ければ、ヴィーと同じ体質になってしまう。ここまでくれば強化というより、侵食といった方が正しいか。

 ロキファミリアとの遠征で現れた芋虫型のモンスターも、中階層で現れたビオランテも、この男の血を分け与えたことによって生み出された。

 芋虫型のモンスターは、下層にいるモンスターにこいつの血を与えれば、どれだけ強くなるのかという実験に過ぎない。俺たちロキファミリアは運悪く、その実験に巻き込まれたわけだ。

 しかし、ビオランテは事情が少し違う。

 ヴィーは喰種のように、人肉しか食えない。この性質は、ヴィーの血を大量に摂取したゲドにも現れている。

 ダンジョンにある死体や、異端児の存在に勘付いた運悪い冒険者を食料にしている。ダンジョンで遺体が消えたり、遺品一つ残すことなく行方不明になるのは、全てこの男が原因だ。

 フィンがこのことに違和感を覚えたときは、バレるんじゃないかとドキドキしたものである。

 フィンがこのことを嗅ぎ回れば、可能性は低いが異端児の存在に勘付いてしまうかもしれない。万が一にもそうなったら、非常にマズイ。半喰種に成り立てのカネキ君が有馬さんと戦うように、ベル君との戦いがクソゲーにしかならない。

 何にせよ、不安の芽は早めに摘むのに越したことはない。フィンの疑いの矛先を逸らすため、レヴィスにカモフラージュとして仕掛けてもらったモンスターという訳だ。

 

「そうか…… だが、その方が都合が良いかもしれないな。闇派閥の人間どもの頭が半端に回るより、ずっといい」

 

 いつからか知らないが、ヴィーは闇派閥の人間と手を組んでいる。

 まあ、両方とも利用するだけ利用して、使い捨てる気満々だが。闇派閥は単なるパワーアップ手段、ヴィーは戦力の水増し程度にしか思っていない。

 闇派閥の奴らは割と救えない屑ばかりだから、特にどうにかしてやる気はない。まあ、利用されるだけされて、使い捨てられればいいんじゃねえの?

 

「では、奴らにも血を?」

「ああ、全員に分け与える。これからは少しでも戦力が必要になるからな。引き続き、素体たちの管理を頼む」

「お任せください」

 

 レヴィスは膝を地面に突き、深々と頭を下げる。大した忠誠心だ。

 闇派閥のやつらは、この建物の別の部屋で待機している。そいつらを監視、そして指示を与えるのはレヴィスの役目だ。

 

「キショウ」

 

 レヴィスとの話はこれで終わりなのか、ヴィーが俺に視線を移す。

 

「猛者の件について一つ聞きたい。何故、奴を殺していない? お前が敵を殺し損ねるなど、考えられん」

「……殺す必要がないと判断しました。あれはもう戦うことはできません」

 

 これは本当だ。ナルカミでオッタルの神経をズタズタにした。あの頑丈さなら日常生活を送れるまで回復するかもしれないが、冒険者として戦うのは不可能だ。

 殺す必要がないなら、殺さない。楽しませてくれたせめてもの礼だ。オッタルとの戦いは久し振りに血が滾った。

 

「甘い。万が一にも、猛者が戦線に復帰したら厄介だ。計画は何があろうと成就させなければいけない。俺たち異端児が人間に何をされたか実際に目にしていないから、お前はそんなことが言える」

 

 俺の言葉を切り捨てるように、ヴィーはそう断言する。あれだけやってまだ甘いと言われるとは。

 この男は外見こそ人間とそっくりだが、その正体はモンスターだ。ただ、普通のモンスターとは違い、人語を司るほどの知能がある。誰が名付けたのか、そういった存在は異端児と呼ばれている。

 異端児はこの男の他にも存在する。蜥蜴男やら、竜人やら、その種族は千差万別だ。そういえば、つい最近牛の異端児が仲間に加わったとか……。

 得てして、そういった存在は人間に迫害を受けやすく、異端者も例外ではなかった。

 

「全ての人間が悪いとは言わない。しかし、この世界を歪めているのは間違いなく人間だ。それを忘れるな」

「……はい」

 

 込められた感情が憎悪とも悲哀とも言える、とても複雑な声色だった。ヴィーが人間から受けた仕打ちを考えれば、それも納得できるが。

 

「俺からの話は以上だ。もう下がっていいぞ」

「はっ」

 

 玉座の間から出ようと、扉へ歩く。

 

「キショウ、隠れ里に顔を出してやれ。皆が会いたがっていたぞ」

 

 扉を潜る瞬間、そんな言葉を聞いた。

 そういえば、ずっと長いことあいつらに会っていねえなあ。死ぬ前に顔を出しとかないとな。そうじゃないと、あの世でどやされそうだ。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 オラリオの廃教会。

 ベルは長椅子の端に座りながら、燻んだ色をしたステンドグラスを見る。長い時間、ずっとこうしている。

 ゲド・ライッシュとの激闘を終えたその日、ベルはLv5にランクアップした。

 ステイタスは耐久がSSSで、それ以外はSSまで伸びていた。この短期間で、異常なほどの成長。それだけゲド・ライッシュとの戦闘は苛烈なものだった。

 そして、新たに発現したスキル。その名は躯骸再生。傷が高速で再生するというスキルだ。どれだけ深い傷を治せるかは分からないが、少なくとも腹部を刺されるくらいなら余裕で再生できるようだ。

 気づけば、ここまで強くなっていた。こんなに早くロキファミリアの第一級冒険者たちと肩を並べるなんて、昔の自分は思いもしなかっただろう。

 確実にアイズに、そしてアリマに近づいている。それでも、ランクアップを喜ぶような気持ちにはなれなかった。

 

「ベル君、まだそうしてたのかい?」

 

 地下室に繋がる階段から、ヘスティアがひょっこりと姿を現した。

 

「神様」

 

 胸の内に渦巻く感情を押し殺し、笑顔を作る。鏡があれば、さぞぎこちない自分の笑顔が映っているだろう。

 ヘスティアも微笑み返し、右隣に座る。

 

「オラリオの外は大騒ぎだよ。いつ白い死神が襲ってくるか分からないって、ここから離れる人もいるみたいだ」

「仕方ないと思います。あんなことが起きてしまったら……」

 

 惨劇の爪痕を思い返す。

 辺り一面に飛び散った血。物のように打ち捨てられた人々の亡骸。目を瞑れば、その光景がハッキリと瞼の裏に浮かび上がる。

 心臓が締め付けられるような思いが奥底から湧き上がる。ヘスティアたち── いや、ベルの知っている人たちがああなっていてもおかしくないのだ。

 無意識の内に顔が険しくなる。ヘスティアが哀しそうに蒼い瞳を向けているが、ベルは気づいていない。

 

「神様、リリたちと一緒にオラリオから逃げてください」

「ベル君……?」

「僕が戦った怪人…… ゲド・ライッシュとは面識がありました。あいつは、僕の次にリリを殺そうとしていた。もしかしたら、別の怪人もそうしてくるかもしれません。情けない話ですけど、僕は神様たちを守れる自信がありません」

 

 ゲドはフィンと一戦を交え、既にかなりの深傷を負っていたらしい。

 もしも、と考え出したらキリがない。それでも考えてしまう。万全の状態のゲドと戦ったら、果たして勝てただろうか。

 

「……ベル君、君はどうするんだい? 僕たちと一緒に逃げてくれるんだよね?」

 

 ヘスティアは自分がどう答えるか分かっているような、そんな顔をしていた。

 

「僕は── 僕は、オラリオに残ります。アリマさんがどうしてあんなことをしたのか、それを知らないといけません」

 

 アリマがオラリオの敵になろうと、家族であることに変わりない。それに、アリマにここまで強くしてもらったのに、まだ何も返せていないのだ。このまま逃げることなんてできない。

 

「……嫌だ。ベル君を置いていける訳ないじゃないか」

 

 ヘスティアは真っ直ぐに自分の目を見据えて、そう言った。

 彼女は誰よりも優しい。だから、そう答えることは予想できていた。

 両手を強く握る。この街に残らせるくらいなら、強引にでも──。

 

「ベル様」

「!?」

「ほあっ!?」

 

 思わず声をかけられた方に目を向ける。

 ヘスティアとは反対の左隣に、リリルカと春姫がちょこんと座っていた。

 

「リリに春姫さん、いつの間に……?」

「ついさっきですかね。オラリオから逃げてください、辺りからいましたよ」

「ご、ごめんなさいベル様。話しかけるタイミングを失ってしまって……」

 

 かなり長く隣に座っていたようだ。

 普段なら隣に座られるよりももっと前、地下室から出た時点で2人の気配に勘付けるはずなのに。

 自分が思っているよりも、今回の事件で相当参っているみたいだ。

 

「全部聞いていたんなら、話が早いね。2人とも、神様と一緒に逃げてほしい」

「すみません、お断りします」

 

 リリルカに間髪入れずに拒否された。

 現実主義らしからぬ彼女の答えに少々面食らいながらも、口を開く。

 

「だけどリリ、あの怪人は君を狙っていたんだ。また同じことが起きないとも限らない──」

「ベル様、リリはアリマ様の言葉にも救われました」

「……アリマさんの言葉?」

「君にはまだ膨大な未来がある。そう言って、リリが本当にやりたいことを、ベル様のサポーターとして生きていくことを後押ししてくれました」

「あのアリマがそんなことを……」

「アリマ様がこんなことをしたのにも、何か理由があるはずです。あるに決まっています。今度はリリが、アリマ様に何があったかを聞いてあげたいんです。そ・れ・に! ベル様を置いて逃げる気なんて更々ありません!」

「っ……」

 

 リリルカの決意に満ちた言葉に、何も言い返すことができない。

 

「私もリリルカさんと同じ意見です」

「春姫さんまで……」

「ウチデノコヅチを使える私なら、きっと役に立つはずです」

 

 その言葉を否定することはできない。

 ウチデノコヅチがあったからこそ、ゲドと戦うことができたのだ。

 

「前はこんな魔法なんていらないと思っていました。だけど今は、この魔法で少しでもベル様の力になりたいんです」

「本当にいいんですか、春姫さん? アリマさんとは一度も会ったこともないのに……」

「確かに私はアリマ様とお話ししたことはありませんが、ベル様がそこまで大切に想っている方なら、良い人に決まってます」

 

 本心で言っているのだろう。その顔には迷いがない。

 ふと、ドアをノックする音が響いた。誰かが訪ねに来たようだ。

 もしも敵だったら。全員の顔に緊張が走る。

 

「……僕が出ます」

 

 ベルはヘスティアナイフを握る左手を背後に隠し、そっと玄関の扉を開ける。

 

「よっ、ベル。久しぶりだな」

「ヴェルフ!?」

 

 扉の向こうにいたのはヴェルフだった。

 

「急に訪ねて悪かったな。でも、どうしても伝えたいことがあるんだ。今日、大丈夫か?」

「うん、全然大丈夫だよ」

 

 ヴェルフが教会の中に入る。

 ヴェルフの顔を見た途端、リリルカとヘスティアは安堵の表情を浮かべた。

 

「何だ、ヴェルフ様でしたか……」

「何だとは何だ、リリ山」

「リリ山……?」

「春姫様は気にしなくていいです!!」

「は、はい……」

 

 これ以上リリ山と呼ぶ者を増やしたくないのか、リリルカは鬼気迫る表情で話の流れを断ち切った。

 

「それで、恐縮ですがこの方は?」

「あっ、そういえば初対面だったね。この人はヴェルフ。僕と専属契約している鍛治師なんだ」

「ヴェルフ・クロッゾだ。ヴェルフって呼んでくれ。ええっと……」

「申し遅れました。私、ヘスティアファミリアの家政婦を勤めさせていただいている、春姫・サンジョウノと申します」

「サンジョウノさんか。よろしくな」

「それで、何しに来たんですか?」

「改宗しに来た。ヘファイストスファミリアを抜けちまったからな」

「はあ!?」

 

 リリルカが驚きの声を上げるが、それも当然のことだ。事実、ベルも唖然としている。

 ベルが第一級冒険者の仲間入りをしたとはいえ、ヘスティアファミリアが弱小ファミリアであることには変わりない。その時点で入団したい者は限られる。その上、ヴェルフは鍛治系では最大手であるヘファイストスファミリアの所属だ。

 ヴェルフがヘスティアファミリアに改宗する理由が全く見当たらない。

 こんな反応をされると予想していたのか、ヴェルフは照れるように頬をかいた。

 

「最近さ、何をやっても身が入らないんだわ。命の恩人でもあるお前らが大変な目に遭ってるのに、こんなことしてていのかって思っちまってさ。だから、思い切って改宗することにしたんだ」

「ヴェルフ様……」

 

 入団の意思を聞き、ヘスティアは真剣な面持ちでヴェルフの前に立つ。

 

「本当にいいのかい? 僕のファミリアには、ヘファイストスの所みたいに鍛治のサポートなんてできないよ?」

「ええ、承知の上です。今こそ、俺はベルたちから受けた恩を返したいんです」

 

 見つめ合ってから数秒後、ヘスティアは満面の笑みを浮かべた。

 

「ありがとう、ヴェルフ君。そしてようこそ、ヘスティアファミリアへ。新しい家族として歓迎するよ!」

「こちらこそ、ありがとうございます!」

 

 ベルはこの展開に呆然としていた。

 オラリオから逃げるのを勧めたら、全員にそれを拒否され、しかも団員が増えることになった。

 どうして言う通りにしてくれないのかという気持ちもある。だけど、それよりもずっと大きな気持ちがこみ上げる。

 

「見ての通り、ベル君を置いてオラリオから逃げ出そうとする子なんて誰もいないよ」

 

 ヘスティアが両手を広げる。

 

「……ありがとう、皆」

 

 支えてくれる仲間たちがいる。それが何よりも嬉しい。

 いつの間にか、ベルの目の端には涙が溜まっていた。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 ダンジョンのとある階層。

 時折飛び出してくるモンスターを瞬殺し、迷路のように入り組んだ通路を進む。

 ここに来たのはもう随分と昔だが、どうやって進むかはハッキリと覚えている。

 暫くすると、かなり広大な空間に出た。草木が生い茂り、18階層を彷彿させる。道を間違えていないようで安心した。

 故郷と呼べる森に足を踏み入れる。

 

「おう、キッショーじゃねえか!」

 

 森の中を歩いていると、早速お出迎えがやって来た。

 ヴィーと同じ異端児。蜥蜴男のリドだ。ノリが軽いおっちゃんみたいな奴だが、それでも第一級冒険者に匹敵する実力を持っている。

 

「久しぶり、リド」

「キッショー、お前が全然顔を出さないから、皆寂しがっていたぜ? まあ、こうして顔を出してくれたからいいけどよ!」

 

 リドは笑いながら、俺の肩をバンバンと叩く。

 

「あの2人は無事に着いたか?」

 

 あの2人とはラウルとティオナのことだ。ダンジョンのその辺で寝泊まりさせる訳にもいかないし、ヴィーの根城に匿うのは論外だ。

 迷路の道筋はきちんと教えたし、ラウルもいるから大丈夫だと思うが……。

 

「ああ、あの2人か。ちゃんとここにやって来たぜ」

「様子はどうだ?」

「あの兄ちゃんは相変わらずの無愛想だけど、特に変わった様子はねえな。俺たちとも普通に接してくれてるよ。ただ、嬢ちゃんの方がなぁ…… まだ元気がない感じだぜ。なあキッショー、お前何をしたんだ?」

「……」

 

 心当たりはある。ありまくりだ。あの日の話のショックを、まだ引きずっているのだろう。

 

「答えられないなら別にいいけどよ、あの嬢ちゃんと腹を割って話してやれよ」

 

 事情を説明できない察してくれたのか、リドは早々に追求をやめてくれた。

 助かる。今後の計画と俺の身体のことは、まだ3人だけの秘密にしたい。

 

「色々話したいこともあるけどよ、そろそろ行こうぜ。チビどもも待ってることだしよ」

「そうだな」

 

 




 2週間も間が空きましたね。
 こんなんじゃ俺、執筆速度Cレートだよ……。
 どうぞスケアクロウ野郎とお呼びください。ごぼぼ。

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