ダンジョンに白い死神がいるのは間違っているだろうか   作:あるほーす

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 用事にひと段落ついた……

 すなわち、俺

 無敵!!!!!!(何も怖くないよ?)

 ここでエタって
 お前たちに会えなくなる……
 その方がずっと怖いじゃん?


亜を征す

 迷宮都市オラリオ。

 つい最近まであった活気は鳴りを潜め、代わりにピリピリとした空気が蔓延している。

 そんな中、巨大な館がいつもと変わらず悠然と佇んでいる。現在オラリオ最強の派閥であるロキファミリアのホーム、黄昏の館である。

 黄昏の館の正門を守る門番が警戒を強める。

 冒険者らしき装備を身に纏った女性が、髪の長い女性を腕に抱えながら黄昏の館を見ていた。

 

「……おい、何だその女は? ここはロキファミリアのホーム、黄昏の館だぞ。休ませてほしいとかなら、他を当た──」

 

 次の瞬間、正門の門扉が吹き飛んだ。

 

「ここがロキファミリアのホームか」

 

 レヴィスは悠然とロキファミリアの敷地に足を踏み入れた。

 道中現れるロキファミリアの団員たちを蹴散らしながら、先へ進む。実力差もあるが、どうやら抱えている彼女を人質と勘違いして、攻めあぐねているようだ。それならそれで好都合だ。

 しばらく進んだ後、ピタリと足を止める。

 ヒリヒリと焼き付くような、鋭い視線を向けられている。

 

「囲まれている、か」

 

 いつの間にか、ロキファミリアの第一級、第二級冒険者たちが集まっていた。その中にはヘスティアファミリア団長、ベル・クラネルもいる。

 戦力の増強と怪人たちの襲撃に備えて、ヘスティアファミリアは黄昏の館を仮拠点としている。

 

「たった一人でここに乗り込んで来るなんて、随分と甘く見られたもんやな」

 

 レヴィスの正面にはロキがいた。いつものように飄々と笑いながらも、射抜くような眼光をレヴィスに飛ばしている。

 

「まさか。アリマならまだしも、私ではお前らをまとめて相手にするなんて不可能だ」

 

 天界に悪名を轟かせる悪神の威圧。常人ならそれだけで指先一つですら動かなくなるが、レヴィスは顔色一つ変えずに首を横に振る。

 

「ほんなら、どない理由で人質提げてこんなバカなことしとんのや」

「彼女は人質ではない。私の── そう、私の大切な友人だ」

 

 レヴィスは女性を抱えたまま、アイズのいる方向に歩いた。

 アイズは警戒を強め、デスペレートを構える。しかし、レヴィスは気にせずアイズの剣の間合いまで近づく。

 アイズは無意識のうちに剣を下ろした。

 レヴィスの手には武器がない。そして、憑き物が落ちたように晴れやかな顔をしていた。

 

「すまない、アリア。遅くなってしまった」

 

 レヴィスは優しい声でそう囁いた。

 アリア── その名前は!

 アイズだけでなく、古参のメンバーたちにも衝撃が走る。

 思わず剣を離し、レヴィスが友人と呼んでいた女性を受け取る。

 腕に抱えて、初めてその女性の顔を見れた。

 とても綺麗な人だった。誰もが見惚れてしまうだろう。しかし、アイズはそれ以上に感情を揺さぶられていた。

 

「……この、人は…………!!」

 

 思い出すのは、一番古い記憶。そして、最も幸せだった記憶。

 記憶の中にいるのは、ずっとずっと会いたくて堪らなかった人だ。その人を思い出す度に、もう二度と会えないかもしれないという恐怖が湧き上がり、胸を締め付けられるような痛みが走った。

 それが今、目の前にいる。夢や幻覚ではない。

 どうしてこんな唐突に、しかも怪人に連れられて。あまりの混乱に、アイズの思考は巨大な迷路に迷い込む。

 レヴィスの突然の行動に、アイズだけでなく、この場にいる全員が動くことができなかった。

 

「ベル・クラネル」

「!」

 

 レヴィスはベルに目を向けた。慈愛に満ちた表情は消え失せ、戦士の表情に戻っていた。

 

「一週間後のこの時間、21階層の花畑に一人で来い。アリマからの伝言だ」

「……アリマさん、から」

「確かに伝えたぞ」

 

 レヴィスは来た道を引き返そうとする。

 当然ながら、ロキファミリアの団員たちが行く手を阻む。

 

「おいそれと帰すわけにはいかないね。君には聞きたいことが山ほどある」

「私も帰らないわけにはいかない。果たすべき大義が残っている」

「君の行動に大義があるなんて驚きだね。それに、たった1人でこの包囲網から逃げられると思ってるのかい」

「……私がいつ、1人だと言った?」

 

 レヴィスがそう言った瞬間、ある男が人混みから抜け出てきた。

 

「ラウル……!」

 

 ロキファミリアの団員たちに動揺が広がる。

 ティオナがアリマと共に行動したという話も、ラウルがリヴィラの街でベルと交戦したという話も、既に全員に知れ渡っている。

 だからこそ、彼が戦場以外で姿を現すことはないと思っていた。今のラウルにとって、こうしてロキファミリアのホームに足を運ぶのは、敵地に単身で乗り込むのと同義だ。

 それでも、ラウルは表情一つ崩さず、レヴィスのすぐ隣まで歩く。

 

「元気そうで何よりや、ラウル。うちらも随分とあんたを探したんやで。ほんで、ちゃーんと納得のいく説明はしてくれんやろな?」

 

 ロキが鋭い目でラウルを睨みつける。その表情からは隠し切れない怒りが滲み出ている。

 ラウルは返答代わりに徐ろにコートの内側に手を入れ、何かを取り出す。

 

「辞めます」

 

 その手に握られていたのは、辞表と書かれた紙だった。

 そのまま地面に膝をつき、そっと地面に置く。

 ロキのこめかみからピキリと血管が浮き出る音がした。

 

「合わせろ」

 

 ラウルがレヴィスにそう告げた瞬間、周囲を覆い隠すほどの煙幕が張られた。

 辞表の下に、小型の魔道具が置かれていた。ロキたちには知る由もないが、この魔道具はラウルがヘルメスファミリアから強奪してきたものだ。

 ベルたちは感覚を尖らせるが、ラウルたちの気配はまるで霞のように捉えどころがない。

 煙が晴れると、そこには誰もいなかった。

 

「すまない、ロキ。まんまと逃げられてしまった」

「ありゃ仕方ないやろ、謝らんでええ。ったく、ラウルのボケナスが…… スタイリッシュ辞表かましおって。それに──」

 

 ロキはアイズに目をやった。

 アイズは何も言わず、女性を腕に抱えながら立ち尽くしていた。その瞳は今まで見たことのないくらい揺らいでいる。

 

「……私が、医務室に運ぶ」

 

 そして、その声も今までにないくらい震えていて。

 事情を知らない者たちは、アイズに何があったのか聞けず、ただ医務室までの道を開けるしかなかった。

 アイズは周りに目もくれず、医務室まで歩く。

 

「……フィン」

「ああ、分かってるさ。全員、アイズが出てくるまで医務室に立ち寄らないように。今は、アイズとあの人を2人きりにさせてほしい」

 

 アイズの尋常ではない様子に全員が頷くが、レフィーヤだけがおずおずとした様子で手を挙げた。

 

「あの、ロキ様。アイズさんがどうしてああなったのか、理由を知ってるんですか……?」

 

 ロキは仕方ないといった様子で、小さく頷いた。

 

「レヴィスが連れてきよった子は── アリアはアイズのおかんかもしれへん。というより、間違いないやろな。髪がえらい伸びとって最初は分からんかったが、面影がある」

「えっ…… アイズさんの、お母さん!?」

「まっ、今はそのくらいで勘弁してーな。まだ他にも、整理せなあかんことがあるしな。ほんま、どいつもこいつも好き勝手しおって……」

 

 ロキは頭が痛そうに眉間を押さえる。

 レヴィスの襲来、アイズの母、ラウルの退職、そしてアリマの伝言。あまりに立て続けに起こりすぎて、もういっそ笑けてくる。

 

「ベル、アリマの元へ行くんか?」

「はい」

 

 誰もが不安を感じ、混乱しているこの状況で、ベルは揺るぎない目をしていた。

 既に覚悟が決まっている。

 アリマがベルをここまで強く── いや、この強さはきっと、元々ベルに備わっていたものだろう。

 

「……そんな目ができるから、アリマもあんたを選んだんやろうな。うちも君を信じるで。アリマに勝って、ここに連れ戻してきーや」

「ふざけんじゃねえ……」

 

 その言葉は呟くような小ささだったが、この場にいる全員の耳に届いた。

 

「ふざけんじゃねえぞ!! アリマとケリをつけなきゃいけねえのは、俺たちロキファミリアだろうが!! それを…… それを! どうしてアリマと知り合ってから一年も経ってないような野郎に、任せなきゃならねえんだ!!」

「ベート……」

 

 その叫びは、ロキファミリア全員の胸の内を代弁していた。

 しかし、ベートの怒りを受けて尚、ベルの瞳は揺るがない。

 

「確かにロキファミリアの皆さんと比べて、僕はアリマさんと過ごした時間は少ないです。だけど、時間の長さなんて関係ない。アリマさんと決着をつけるのは、僕だって譲れません」

「そんなのこっちだって同じなんだよ!」

「……これ以上は平行線ですね。なら、どうすれば認めてくれますか?」

 

 互いに譲れぬモノがあるのなら。そして、冒険者であるのなら。

 どうすればいいのかなんて、決まっている。

 

「強エヤツが上に立つ!」

 

 強い者が意見を通せる。それが冒険者の── 世界の道理だ。

 

「……そう」

 

 ベルは納得したように微笑んだ。しかし、その目は氷のように冷たい。

 

「じゃあ来なよ。潰したいんだろ?」

 

 ベルの挑発めいた台詞に、ベートの口角は凶暴に吊り上がった。

 

「そのとーり」

 

 ベートは一瞬でベルとの間合いを詰める。

 

「だッ!!!」

 

 ベルは僅かに上体を後ろに反らす。

 顔があった位置をベートの蹴りが通り過ぎる。風圧でベルの白い髪が揺れる。

 Lv6に違わぬ強力な蹴り。まともに受ければ、頭の原型がなくなるだろう。

 

「あの馬鹿犬…… 性懲りも無く!」

「待つんだ、ティオネ」

 

 仲裁に入ろうとしたティオネを、フィンが制する。

 

「今割って入るのは、あの2人にとっての侮辱だよ」

 

 これはただの喧嘩ではない。2人とも、大切な何かを懸けて戦っているのだ。何より、フィンも見届けたくなった。アリマが選んだベル・クラネルがどれだけ強くなったのかを。

 ティオネもそれを理解し、立ち止まる。フィンの命令なら、たとえ理解していなくても立ち止まるだろうが。

 リヴィラの街での死闘を経て、2人ともLv6にランクアップした。Lvは同格。しかし、ベルはベートの蹴りを容易くいなし、逆にベートはベルの殴打を幾つかもらっている。

 ここまで水があいてる理由は他にもあるだろうが、決定的なのは対人戦闘の経験の有無だ。ベートはモンスターを殺す技術を磨いてきた。逆にベルは人間を効率良く壊す技術を磨いてきた。この状況は必然だ。

 戦況を覆すべく、ベートは我が身を厭わない決死の攻撃をしかける。

 ベルの拳が額に突き刺さる。

 衝撃で世界がブレる。意識が遠のく。それでもベートの足は止まらない。

 ベートの岩すら粉砕する蹴りが迫る。ベルは上空へと跳んで躱す。

 

「逃すか── よ!!!!」

 

 ベートは右手を伸ばし、ベルの右足首を掴む。

 

「つかまえたぞォッッ!!!」

 

 ベルを地面に叩きつけようとした瞬間、バキボキと捻じれるような音がした。

 

「なっ!!?」

 

 ベートは驚きで目を見開く。

 ──こいつ、右足を捨てやがったッ……!!

 ベルは上半身を無理やり捻り、ベートが掴んでいる右足首の骨を砕き、皮だけで繋がっている状態にした。これでは掴んだところで意味がない。

 ベルが回復スキルを持っているのは知っている。だからこそ、彼にとってはこんな無茶が最善の行動なのだろう。

 しかし、ベルと同じ条件で実行に移せる者が、果たして何人いるだろうか。

 気が狂いそうな痛みが絶えず襲っているはずだ。それなのに、まるで昆虫の自切のように躊躇いなく……。

 戦慄を覚える。こんなことができる人間の神経がマトモであるはずがない。

 ベルの強烈な蹴りが直撃し、ベートはそのまま吹き飛ばされる。

 ベルは最初から痛みなどないように、顔色一つ変えずに着地する。

 

「ひいっ!?」

 

 レフィーヤが小さく悲鳴をあげる。

 ベルの右足首が跳ねると、捻った方向と逆に回転し、元に戻ってしまった。

 あまりにグロテスクな光景に、何人かの団員の顔色が青くなっている。

 

「……」

 

 ベートは立ち上がることなく、地面に座り込む。そして、口に伝う血を腕で拭う。

 

「……まだやりますか?」

 

 これ以上やるなら徹底的に叩き潰す。ベルは言外にそう告げながら、ベートを見下ろす。

 冷淡に、冷酷に。目の前の少年はそう在ろうとして、仮面を付けている。戦ったからこそ、無理をしているのが一目で分かった。

 

「……もういい」

 

 認めるしかない。かつて蔑んでいた弱者はもう、自分より強くなった。いっそ哀れに思うほど、強くなってしまった。

 

「アリマをここに連れて来い。そんで、ブン殴らせろ」

「はい、約束します」

 

 ベルはそう言いながらベートに手を差し伸べるが、やはりというかベートはその手を振り払った。

 ベルは苦笑しながら、その手を引っ込める。

 

「……」

 

 リヴェリアが複雑そうにベルを見つめていた。

 

「どうしたんだい、リヴェリア?」

「……私も、ベートと同じ気持ちだ。結局、アリマは最後までベル・クラネルを選んだ。今まで共に歩んできた私たちではなく。それが悲しくて、悔しくてな」

「それなら、君もベル君に挑むかい?」

「弁えてるさ。それに、あれを見せられた後ではな。あの少年はもう、私たちの中で誰よりも強くなってしまった」

「……そうだね。ベル君は強くなってしまった。ああやって、自分の身を省みないで戦えるくらい」

 

 果たしてそれが、正しいのかどうか。

 フィンたちにはもう、ベルを信じることしかできない。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 思い出す。遠い遠い昔の記憶。もう戻ることのできない、美しい日々。

 ゼウスファミリアの副団長として、明友たちと共にダンジョンの攻略に励んでいた。喜びも悲しみも、彼らと分かち合っていた。

 その中心にいるのは、いつもゼウスファミリアの団長だった。彼は誰よりも強く、優しかった。彼のような者を人々は英雄と呼び、讃えるのだろう。

 そんな彼をいつも間近で見てきた。だから、惹かれるのは必然だったのかもしれない。

 しかし、彼には既に将来を誓った女性がいた。

 彼女の名はアリア。詳しい話は分からないが、アリアは精霊の血を継がせる実験の成功体として、闇派閥の魔導士に囚えられていたらしい。

 団長はそんな彼女を助けるため、魔導士ごと闇派閥の一派を打ち倒した。英雄が囚われた姫を救う── まるで英雄譚の一節のようだ。

 やがて2人は惹かれ合い、結婚し、子を授かった。その子供の名はアイズ。幸か不幸か、彼女も精霊の血を受け継いでいた。風の魔法、エアリアルを使えるのが何よりもの証拠だ。

 もう、自分の想いが身を結ぶことはない。だが、それでいい。団長の隣が相応しいのはアリアだ。彼らが幸せなら、それで満足だ。

 しかし、そんな彼女の細やかな思いは無情にも踏み躙られた。

 アイズに魔法を教えるため、アリアはよくダンジョンの1階層でエアリアルの練習をしていた。1階層とはいえそこはダンジョン。何が起こるか分からない。だから、信頼の置ける団員たちに護衛させていた。

 守りは万全── のはずだった。

 突如、まるで生きているかのように、アリアの立っていた床に穴が空いた。

 ダンジョンの底に落ちていくアリア。彼女の手を握れなかった無力感は、今でも心に焼き付いている。

 アリアを助けるために、ゼウスファミリアはダンジョンに潜った。こんな危険に付き合う必要はないと団長は言っていたが、それでもほぼ全員が集まってくれた。最終的に、根負けする形で団長が折れた。

 全滅という最悪のケースに備え、アイズはロキファミリアに預けられた。もしも帰ることができなかったとき、アイズが1人で生きられるくらい強くなってほしいと願って。

 ゼウスファミリアは深層の更に深くへ潜った。未踏達の地は、まさに地獄と呼ぶに相応しい有様だった。常識外れな現象、そして獰猛なモンスターたちが襲いかかる。

 1人、また1人と倒れていく仲間たち。それでも前に進んだ。アリアを助けるために。彼らの死を無駄にしないために。

 気づけば、残ったのは自分と団長だけになって── 団長が、自分を庇って倒れた。

 終わりの見えない死の行進。それでも、進むことしか頭になかった。自分を支えていたのは、絶対に団長の思いを果たすという執念だけだった。

 進んで、進んで、ひたすら進んだ。そして、隻眼の黒竜── ヴィーと出会った。

 ヴィーは二つの選択肢を提示してくれた。満身創痍の身で進み続け、やがて死に絶えるか。それとも、怪人となってその命を繋ぎ止める。迷わず、自分は後者を選んだ。

 怪人となった後、ヴィーからダンジョンの真相を聞かされた。異端児のこと。モンスターは元人間だということ。そして、アリアは核に相応しいとみなされて、ダンジョンに── 賢者の石に連れ去られたこと。

 アリアは既に、賢者の石の核と化してしまった。ダンジョンの最下層で実際に目にしてしまった。助け出すには、賢者の石の核を壊すしかない。

 奇しくも、ヴィーの目的もダンジョンを破壊することだった。その日を境に、ヴィーに忠誠を誓った。

 全てはアリアを助けるため。最初はそのためだった。どんな仕事もしたし、幾つもの死体を積み重ねてきた。

 しかし、いつの間にかそれだけではなくなっていた。ヴィーの願い── 人間らしく生きて、死にたいという願いを叶えてあげたいと思った。

 

「成し遂げたよ、みんな…… だからもう、安心して眠ってくれ」

 

 ダンジョンのとある階層。

 辺りは木々で囲まれ、ダンジョンとは思えない安らかな空間である。辺りを一望できる小高い丘に、そこには墓石が建てられていた。

 アリアを助ける。それだけが、自分の生きてる意味だった。それを成し遂げた今、もう自分に生きる意味はない。

 だけど、この身にはまだ価値がある。怪人としての力は、きっとヴィーの目的を遂げる助けになるだろう。

 恩義に報いるのだ。この命を使い潰そうと、ヴィーの悲願を果たしてみせよう。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 ダンジョンに異変が起きたのは、いつからだったろう。

 ダンジョンからモンスターが消えてしまった。厳密に言うと、新しく生まれなくなった。壁や天井から無限に現れてきたのに、ある日を境にパッタリとその現象は無くなった。

 上層から中層にかけてのモンスターたちは、全て狩り尽くされてしまった。

 ダンジョンとは思えない静けさに、誰もが不気味さと恐怖を抱いただろう。

 ウラヌス様が地上から去った今、神さまたちがローテーションでダンジョンから出ようとするモンスターたちを抑えている。だけど、ある日を境にモンスターがダンジョンから出ようとする意志がパッタリと無くなったらしい。

 恐らく、アリマさんが関わっているのだろう。

 この一連の出来事にどんな意味があり、アリマさんはどんな思いを抱いているのか。

 僕はそれを知るために、アリマさんと戦うことを選んだ。

 今、ダンジョンの21階層にいる。

 僕を押し潰してしまいそうな気配をヒシヒシと感じる。それを辿り、ひたすら足を進める。

 アリマさんの強さは誰よりも分かっているつもりだ。それでも勝たなきゃいけない。勝てなければ、アリマさんと話せない。

 アリマさんから貰った一週間で、やれることは全部やった。

 フィンさんを始めとした、ロキファミリアの第一級冒険者たちに稽古をつけてもらった。アリマさんに叩き込まれた技術と、限界突破してランクアップし続けてきたステイタスは裏切らなかった。稽古をつけてもらってから2日。フィンさんを相手に一本を取れるようになった。

 鎧も新調してもらった。ヘファイストス様とヴェルフが合同で造った、その名もアルティメット兎鎧。あまりにもあんまりなネーミングセンスに、リリが「おお、もう……」と言いたげに口を手で覆った。それでも、装着しただけで頑丈さが伝わってくるし、羽毛のように軽い。本当にありがたい限りだ。

 ふと、花の匂いがした。

 曲がり角を曲がると、道の先にある開けた空間が見えた。そこには、色とりどりの花々が懸命に咲いていた。無骨な岩肌の壁や天井と対照的で、その美しさが際立っているように思えた。

 この先に、いる。そんな確信を抱き、花畑を真っ直ぐに進む。

 

「アリマさん……」

 

 白い死神が花々に囲まれながら佇んでいた。

 どこからか吹いた一陣の風が花弁を吹き飛ばし、白い髪を靡かせる。

 その姿は、どうしようもなく儚く見えた。

 僕の存在に気づいたのか、アリマさんはわずかに顔を上げ、僕のいる方を見た。

 彼の右手にはIXAが握られている。しかし、その形状はどこか歪んでいた。ふと、前回の戦闘でIXAの防壁にヒビを入れたのを思い出す。もしかすると、それが原因かもしれない。

 

「……」

 

 アリマさんは何も言わない。ただ黙って、僕のいる方を見据えている。

 静寂が訪れる。まるで嵐の前の静けさを表しているようだ。

 

 

 

 

 ──何の前触れもなく、アリマさんの姿が消えた。

 

 

 

 IXAの刺突をユキムラで防ぐ。

 ミシリ、とユキムラが軋む。そのまま後ろに跳び、アリマさんから距離をとる。

 

「いきなり、ですかっ……!」

「……」

 

 アリマさんは固く口を閉ざす。

 戦いが、始まる──。




 投稿のあと欲情してしまうのはなぜ……? 不思議

 はい、エトしゃんにきもちわるって言われますね。
 原作のホープwww がホープ…… なので、ここのホープはホープ(希望)を持たせてみました。
 炎にくべる薪のごとく感想とか評価とかもらえると嬉しいです。

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