ダンジョンに白い死神がいるのは間違っているだろうか   作:あるほーす

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抱く糸音

 気が滅入りそうな長い廊下を歩く。

 ここはロキファミリアの本拠、黄昏の館。最大手ファミリアに相応しい館で、そりゃもう馬鹿でかい。正直、周りと比べると浮いてる感は否めない。

 あるドアの前で足を止める。ようやく着いた。屋内の部屋に行くのにかかるような時間じゃねえぞ。

 ドアを開ける。他の部屋とは違い、この部屋は石造りでできている。しかし、刃物で引っ掻かれたような傷や、補修したような箇所があちこちに見受けられる。

 そう、ここはロキファミリアの修練場。血気盛んなロキファミリアの冒険者たちが、ここで日夜修練に励んでいる。

 今日は修練場の真ん中で1人、長剣を振るう男だけがいる。何の特徴もクセもない、まさに教科書通りの太刀筋。どれだけ洗練された動作か、一目で伝わる。

 実はこの男に用があるから、わざわざこの部屋までやって来たのだ。

 

「ラウル」

 

 名前を呼ぶと、ラウルは素振りをやめ、目線だけをこちらの方に向けた。

 

「アリマさん」

 

 ラウルは会釈だけして、剣の素振りに戻った。そのドライさ、嫌いじゃないぜ。むしろ平子さんっぽくて好感が持てる。話しかけるタイミングは失ったが。

 彼の名はラウル・ノールド。ロキファミリア所属の、Lv5の冒険者だ。

 実は、平子さん枠と見込んだ人でもある。

 俺と出会う前のラウルは、それこそオラリオに一山いくらでもいる、平凡な冒険者だった。突出した長所はないが、目立った短所もない。戦い方もオーソドックス中のオーソドックス。

 やはりと言うか、顔も平凡だ。悪くはないが、美形って感じでもない。もしもカヤさんがラウルを見たら、村人その2のような顔と評するだろう。

 極め付けに、ラウルの二つ名は超凡夫(ハイ・ノービス)という。どんだけ平凡を強調したいねん。

 初めてラウルのことを知ったとき、彼以外に平子さん枠は有り得ないと思ったね。ガイアがラウルを平子枠にしろと囁いている。

 その読み通り、未だにラウル以外で平子さん枠にしっくりくる人はいない。

 だから、カネキ君ことベル君の次くらいに調きょ…… じゃなかった、鍛え込んでやった。有馬避けくらいは普通にできる。さすがにクインケ二刀流は無理だったが。そこも平子さんっぽくてポイント高い。

 あと、鍛えた効果かは知らないけど、生真面目で貧乏籤を引くような性格から、何事も卒なくこなすいぶし銀な性格に変わった。某鉢川さんみたいなツンツン頭から、前髪を下ろした普通の髪型にもなった。

 どんどん平子さんに近づいていく。これ、俺のせい? 俺のせいですね。

 さて、そろそろ本題に入ろうか。いつまでもラウルの素振りを見てる訳にもいかない。

 

「頼みがあって、会いに来た」

 

 そう言うと、ラウルは再び素振りをやめ、身体ごとこちらに向き合った。

 

「頼み、とは?」

「その武器── ユキムラを、ある少年に渡したい」

 

 ラウルは少しだけ目を細め、手に握るユキムラを見つめた。

 ユキムラ。言わずと知れた、有馬さんが高校生の頃に使っていたクインケだ。特殊なギミックはないが、Sレートになった錦先輩のご立派な尾赫を真っ二つにするほどの切れ味を誇る。

 駆け出し冒険者の頃、せっせと金を貯めて、ユキムラの模造品を造らせた。素材となったのは、当時そこそこ強かった虎のようなモンスターの牙だ。当然、倒したのは俺である。後で聞いた話だと、あの虎は階層主だったらしい。

 にしても、懐かしいなあ。ユキムラは俺の初めての専用武器だ。IXAができるまで、随分と長い間お世話になったよ。

 東京喰種でも、有馬さんのユキムラは平子さんに、平子さんから琲世に渡っている。なら、俺もそれに習わない訳にはいかない。俺からラウルに、ラウルからベル君にユキムラ(偽)を渡さなければ。

 勿論、理由はそれだけではない。10階層より下になると、オークのような大型モンスターがわんさかと出現する。ヘスティアナイフだと、ちょっとリーチが心許ない。ヘスティアに聞かれたら怒るだろうなあ……。

 でも、あれって持ち主と一緒に成長するとかいうテラチート武装だからなあ。あれと比べると、ユキムラではどうにも見劣りしてしまう。使ってくれるかな?

 

「ある少年…… ベル・クラネルですか」

「ああ」

「分かりました」

 

 良かった、了承の返事をしてくれた。

 まあ、元々話はつけていたし。次に俺が見込んだ冒険者── カネキ君枠を見つけるまでの期間、ユキムラを預かってくれって。

 

「渡す時期はラウルに任せる」

 

 ラウルにも新しい武器を決める時間が必要だと思うし。

 なるべく早く渡してほしいが。

 

「なるべく早くするよう善処します」

 

 流石はいぶし銀。言葉の裏にある意図をちゃんと汲み取ってくれている。アマゾネス姉妹やアイズホープ、ベートじゃ気づかないだろうなあ。

 さて、用は済んだけれど、このまま帰るのは少し寂しい気もするな。

 

「折角だし、久し振りに稽古する?」

「ええ、是非」

 

 ラウルがユキムラを構えた。

 俺も武器── というか胸ポケットにある万年筆を取り出し、構える。

 次の瞬間、ラウルは俺の懐に潜り込み、ユキムラを真横に振るった。動きは及第点。惜しむらくは、身体能力の差かな。Lv2分の開きとなると、どんな動きをされても目で追えてしまう。当然と言えば当然だが。

 万年筆の先をユキムラの腹の部分に当てて、軌道を僅かに逸らす。いくら俺でも、万年筆でユキムラの刃を受けることはできない。

 ラウルは即座に体勢を立て直し、今度は連続でユキムラを振るう。基本は万年筆で防ぎ、躱さざるを得ない斬撃は躱す。

 かれこれ5分、その時間が続いた。前にやったときよりも長く続いている。

 やっぱり何の特徴もないけど、良い攻撃だ。前よりも腕が上がっている。避けるしかない斬撃が多いのが証拠だ。きちんと殺意が乗ってるのもポイント高いよ!

 

「……」

「ッ……」

 

 剣戟を掻い潜り、ラウルの眉間めがけて万年筆を突き出す。ラウルはその攻撃を目で追えているが、動けない様子だった。

 あわや突き刺さる寸前で、ピタリと万年筆を止める。

 勝負ありだ。ラウルもユキムラの切っ先を地面に向けて、一息吐いた。

 

「参りました」

「動いてから目で追うようじゃ遅い。相手が動く先に目線があるようにしないと」

「……努力します」

 

 無理だろそんなん、と言いたそうな目をしている。そんなに難しいかなぁ……。クインケ二刀流みたいな無茶は言ってないつもりなんだが。

 万年筆を胸ポケットに戻す。

 及第点だけど、まだまだ。この程度で満足してもらっては困る。平子さんはあの有馬さんの右腕なのだから、もっと頑張ってもらわないと。

 ガチャリ、とドアの開く音がした。誰かが入ってきたようだ。

 痴女かなと言いたくなるようなパッツパツの白いレオタードを着て、腰まで届く長い金髪を揺らしている。うん、アイズか。

 

「アリマにラウル、何してるの?」

 

 何をしてるのと言いながらも、その目は爛々と輝いている。

 稽古したいんだろうなあ。外面はこんな物静かな美人さんなのに、どうしてこんな戦闘狂に育ってしまったのか。それもこれもロキってやつの仕業なのか?

 

「アリマさんに少し稽古をしてもらった」

「私も混ぜて」

 

 ですよね。

 いやあの、そろそろベル君との待ち合わせ時間が迫っているんだけど。

 

「すまない、この後予定があるんだ」

「そう、残念……」

 

 オヤツを取り上げられた子犬みたいに、ショボーンとするアイズ。罪悪感があるような、ないような。

 

「ラウル、代わりに相手をしてくれ」

「はい」

「!」

 

 とりあえずラウルにぶん投げた。実力も近いし、お互いにとって良い稽古相手だろう。

 さてと、今日のベル君の稽古、どうしようかな。……そうだ、ナイフに重りを付けながら戦うとかいいんじゃね? まずは10kgくらいからいってみようか。

 ユキムラの重さに慣れてほしいし。あれ、見た目の割に結構重いんだよなあ。甲赫のクインケなだけはある。そんなクインケを持って変態機動しちゃう有馬さんマジ有馬さん。

 そんなこと思いながら、鍛錬場を出ていった。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 鍛錬場では、金属と金属がぶつかり合う音がひっきりなしに響いていた。アイズとラウルが、互いに剣で斬り合っているからだ。

 アイズの専用武器、デスペレート。彼女の剣技と魔法に耐えうるよう、不壊の属性が付与された剣だ。

 対して、ラウルの振るっている剣に特別な性能は何もない。しかし、デスペレートと対等に斬り合えている。その剣の銘はユキムラ。あのキショウ・アリマが駆け出しの頃から使っていた剣だ。アイズ自身、ユキムラを握りながらモンスターを屠殺するアリマの姿を何度も見てきた。

 ある鍛冶職人にIXAを造らせるまで、ユキムラに改良に改良を重ねたせいか、第1級冒険者の武器と比べてもなんら遜色ない性能になった。

 目の前の男…… ラウルの戦い方に、特別な点は一つもない。お手本通りの剣筋。お手本通りの体捌き。まるで機械を相手にしているようだ。

 だからだろうか── 強い。こちらの本来の動きをさせてもらえず、戦いにくいったらありはしない。純粋な剣の技量だけ抜き取れば、自分にも引けを取らないだろう。

 

「──っ!」

 

 ラウルの剣の幕に隙ができる。誘い込まれているのか。いや、関係ない。行け。

 ラウルの首に剣を突きつける。しかし、いつの間にか、ユキムラもアイズの首に突きつけられていた。

 引き分けだ。

 アイズは少し悔しそうに、ラウルは無表情のまま剣を下ろす。ユキムラを首に突きつける方が数瞬だけ速かった。一瞬でもアイズの反応が遅れていれば、引き分けではなく、アイズの負けで終わっていただろう。

 アリマと稽古できないのは残念だったが、ラウルとの稽古も実に有意義だ。同じLv5の、同じ得物の使い手として、彼の動きは参考になる。

 

「ラウル、強くなったよね」

「仮にも、アリマさんの指導を受けた身だからな。才能のない俺でも、これくらいできるようにならないと……」

 

 誇るでもなく、謙遜するでもなく、ただ淡々と事実を告げるように言う。

 初めて会ったとき、ラウルの第一印象は普通の一言で尽きた。普通に明るくて、普通に優しい人だった。

 しかし、いつからだろうか。アリマが彼に目を付けてから、ラウルは変わってしまった。持ち前の明るさは鳴りを潜め、年不相応に冷静な性格に変わった。いや、冷静というよりも、達観したという表現が正しいかもしれない。

 表情も次第に死んでいった。アリマとまではいかないが、まるで仮面を被ったように、その内面を悟らせない。昔のように笑った顔をしたのは、もう何年前だろうか。

 その代わりに、冒険者としての腕前をメキメキと上昇した。今となっては、第1級冒険者と肩を並べて戦えるほどになった。

 やはり、アリマの指導が大きいのだろう。誰もがアリマの指導を羨ましがり、どうしてラウルがアリマの目にかなったのか疑問に抱いていた。

 しかし、ラウルは相変わらず第2軍の冒険者でいる。第2軍とは、主力である第1級冒険者を支えるサポーターのような役割だ。

 しかし、決してモンスターと戦うのに恐怖しているからではない。ソロでダンジョンに潜ったかと思えば、アイズたちよりも深い階層へ到達していたりする。

 では、何故2軍にいるのか。それは誰にも分からない。何やら、アリマが関係しているようだが……。

 

「ラウルはどうして強くなりたいの?」

 

 ラウルに長年の疑問をぶつけてみた。

 アイズにとって最も不可解なのは、ラウルに強くなろうという意思が見えないことだ。単純に分からないだけかもしれないが。

 誰かを守るため。更なる高みを目指すため。己のプライドのため。強くなりたい理由は、それこそ人それぞれだろう。それでも、人は多かれ少なかれ、強くなることに喜びを感じる。

 しかし、ラウルにはそれがない。強くなることを、手段の一つとして完全に割り切っているように見える。別の効率的な手段があれば、きっとそちらを採るだろう。

 ラウルは少し考えるような素振りを見せると、やがて口を開いた。

 

「あの人に、強くなれと言われたからだ」

 

 あの人、とはアリマのことだろうか?

 それだけ言うと、ラウルは口を噤んだ。これ以上聞くな、という明確な拒絶の意思を感じた。

 なら、何も聞かないべきだ。相手が嫌がっているのに、それ以上踏み込むほど捻くれてはいない。

 

「喉が渇いたな…… 水を取ってくる。アイズは欲しいか?」

「ううん、いらない」

「そうか。じゃあ、少し行ってくる」

 

 ラウルが鍛錬場を出て行く。やはり、あまり聞かれたくない話だったのか。

 結局、アイズとラウルはその日、模擬戦だけをして1日を潰した。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 北西のメインストリートを歩く。冒険者通りと称されるだけあり、すれ違う冒険者も非常に多い。

 最近になって、ちょくちょく思うようになってきた。どうにも弛んでる気がすると。

 いや、ベル君ではない。寧ろ、ベル君はよくやってくれている。言われたことを素直に聞いてくれるし、次会うときにはキッチリと物してくれている。師匠冥利につきるというものだ。

 弛んでいるのは俺、俺だよ。

 最近戦っているモンスターは雑魚か、少し強いのばかり。こんなんじゃ腕が鈍っちまう。せめてSレートクラスと戦いたい。

 だから今日は、ソロでダンジョンに潜ろうと思う。目標階層は…… うん、いけるとこまで。とりあえず、前回よりは奥に行きたいと思う。前に行ったときは50…… あれ、60くらいだったかな?

 行って戻ってくるまで3日くらいかかるので、気合を入れて臨みたいと思う。

 ギルド本部に着く。

 扉を開け、受付に向かう。何人かの冒険者が並んでいる。列の最後尾で待っていると、前の方にいる冒険者たちがチラチラと後ろを見てくる。確かに君たちが待たせているのはオラリオ最強の一角、キショウ・アリマだけど気にしなくてもええんやで。

 すると、目の前の冒険者がまた1人、また1人と列から離れていった。分かるよ、その気持ち。背後に有馬さんがいるとか、畏れ多くて仕方ないよな。俺は偽物だけど。

 受付のカウンターまで一直線に進んだ。

 

「あれ、どうして人が消えて…… って、アリマさん」

 

 受付のカウンターにいるのはエイナさんだった。なんたる偶然。

 

「エイナか」

「こんにちは、アリマさん。今日はお1人なんですか?」

「ああ。久しぶりに1人でダンジョンに潜ろうと思ったから」

「ソロで、ですか。アリマさんだから大丈夫とは思いますけど、万が一危険な目にあいそうなら、すぐに逃げてくださいよ?」

 

 まさかLv7になった今、ソロでダンジョンに潜るのを心配されるとは。

 流石はエイナさん、オカンっぽさが半端ない。俺の中でリヴェリアと暁さん枠をかけて、デッドヒートしているだけはある。

 

「それとアリマさん、リリルカさんの件はどうもありがとうございました。実は私も、少し心配してたんです。ソーマファミリアにはあまり良い噂を聞かなかったから。でも、アリマさんがどうにかしてくれたみたいですね」

 

 そう言って頭を下げるエイナさん。

 怪物祭は冒険者として当然の責務だし、リリ山さんの件については──。

 

「俺は何もしていないよ。動いたのはベルだ」

 

 リリ山さんが救われたのは、一から十までベル君のおかげだ。謙遜とかではなく、本当に俺は何もしていない。

 あっ、いや…… リリ山さんに手を出したらぶっ潰すぞって、ソーマファミリアの奴らに釘は刺したな。1人再起不能にしたし。

 バレたらまずい案件だし、黙ってよう。

 

「それで、その……。怪物祭の件も含めて、お礼にこれを受け取ってくれませんか?」

 

 エイナさんの手にあるのは栞だった。長方形の白い紙に、綺麗な一輪の青い花が押されている。

 

「栞か」

「ティオナさんから聞いたんです。アリマさん、本がお好きだって」

「ありがとう、頂くよ」

 

 ここまでされたら、遠慮なんて逆に失礼だ。言葉通り、ありがたく頂こう。そんで使わせてもらおう。

 気持ち微笑み気味で、差し出された栞を受け取る。ネクタイピンを受け取ったときみたいな有馬さんの顔、できただろうか?

 受け取った栞を改めて見つめる。前世も含めて今まで見てきた花の中で、一番綺麗だと感じた。何の花を使っているんだろう?

 

「この花は?」

「ダンジョンのある階層でしか生えていない花だそうですよ。3日もすればすぐに枯れちゃうらしいから、とても珍しいんですよ」

 

 その言葉を聞いた俺は、少しだけこの花に親近感を抱いた。

 3日だけ咲く花、か。どんな花よりも美しく咲き誇り、どんな花よりも早く枯れてしまうのだろう。

 その様はまるで有馬さんみたいだ。有馬さんは誰よりも強かったのに、東京喰種の表紙キャラで誰よりも早く退場してしまった。

 

「あの、お気に召しませんでしたか?」

 

 エイナさんが心配そうに聞いてきた。

 いけね、ちょっとぼーっとし過ぎた。有馬さん関連のこととなると、どうにも隙ができてしまう。

 

「いや、そんなことない。気に入ったよ、この栞」

 

 栞をコートのポケットに突っ込む。

 さて、そろそろダンジョンに向かうか。

 

「それじゃあ、3日後に」

「はい、3日後に…… ええっ!? 3日後!?」

 

 カウンターから離れる。

 戦闘中、栞が折れ曲がったりしないか心配だ。できるだけ気をつけて戦おう。

 それにしても、ネクタイピンじゃなくて良かった。これでネクタイピンだったら、どうしようかと思ったよ。

 やっぱり貰うなら、ベル君じゃなきゃ。だけど、どうやって買わせようかな。おねだりする訳にもいかないし。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 ダンジョンの58層に着いた。遠征のときは5日かかったけど、1人だからか1日半で着いた。不眠不休で進んだからなあ。

 黒鉛の壁と床で囲まれているだけの、だだっ広い空間だ。猪口才な仕掛けがないから、ガチンコするには打ってつけだ。

 バッグからモンスターを誘き寄せる道具を取り出し、地面に置く。さあ、バッチコーイ!

 しばらく待っていると、竜みたいなモンスターたちがやって来た。名前は聞いた気がするけど忘れた。数はというと、とりあえず沢山。まあ、どうせ全滅させるからどうでもいい。

 よーし、おじさん久しぶりに本気出しちゃうぞ。

 右手に持っているアタッシュケースの持ち手のボタンを押し、IXAを取り出す。同様に、左手のアタッシュケースからナルカミを取り出す。

 久しぶりのクインケ二刀流だ。ハッハァ! 高まってきたぜ、宴の始まりじゃあ!

 地面を蹴り、竜の群れに突っ込む。

 竜どもが火球を撃ってきたが、そんな攻撃無駄無駄ぁ。体をギリギリまで倒したり、僅かに横に移動したりしながら進む。前進しながら敵の攻撃を躱す。これぞ有馬避けだ。カウンター? 当たらなければどうということはない。

 左手のナルカミを起動して、竜の群れに雷を撃ち込んどく。ナルカミに直撃した竜が黒炭になる。周りにいる数体の竜も巻き込まれたのか、黒炭とはいかないまでも感電していた。ついでにIXAも遠隔起動して、手頃な場所にいた竜を串刺しにする。

 気づけば、先頭にいる竜を斬り殺せる距離まで近づいていた。IXAの遠隔起動を解除し、すれ違い様に目から脳天まで串刺しにしておく。

 先頭の竜の後ろにいる竜が、噛みつくような予備動作を見せる。

 甘いなあ、甘い甘い!

 頭が来るであろう位置をIXAで突き刺す。狙い通りに、そこに竜の頭が来た。IXAを力任せに右横へ振り抜き、隣にいた別の竜の首を斬り飛ばしておく。

 進行通路の近くにいる竜たちの脳天をチマチマ串刺しにしながら、さらに前進する。

 竜の群れの真っ只中に来た。ここからはもうお祭り騒ぎ。乱戦 of 乱戦だ。竜が密集してそうな方向にナルカミの電撃をぶち込んだり、近づいてきた竜はIXAでぶっ刺したり、たまに仮眠をとったりした。

 もっと来い、もっと来い。俺はまだ擦り傷1つ負ってないぞ。IXAで目の前の竜を串刺しにし、ついでに背後にいる竜は近接形態のナルカミで斬り殺しておく。

 さっきので最後の個体だったのか、竜の群れは全滅していた。黒鉛の床は、目眩のするような赤い色に変わっていた。当然、全て竜の血だ。

 良い運動になったな。クインケ二刀流の勘も取り戻せた。そろそろ帰るとしようかな。




アリマ3分クッキング

テレッテッテッテッテ テレテッテッテッテ テレッテッテテ テテテテ テッテッテ~♪

アリマ「皆さん、どうもこんにちは。本日の料理人、キショウ・アリマです」
ティオナ「助手のティオナでーす!」
アリマ「本日はこちらの素材で、一流の冒険者を作ろうと思います」
ティオナ「普通の冒険者に、凶器…… これで一流の冒険者が作れるんですか?」
アリマ「はい、作れます。まず、普通の冒険者に戦い方を教えながら、こちらの凶器で数回殺しかけましょう。そうすれば、戦いの教えが脳裏にこびりついて離れなくなります。殺しかける際、もう一度死ぬかとか、真面目にやれとか言っておけば効果的ですね。では、こちらが数回殺しかけた冒険者です」
ティオナ「すごーい、本当に一流の冒険者ができましたね!」
アリマ「このように、誰でも簡単に一流の冒険者を作ることができます。是非皆さま、お試しなってください。以上、アリマ3分クッキングでした」
ティオナ「それではまた明日〜!」

テレッテッテッテッテ テレテッテッテッテ テレッテッテテ テテテテ テッテ テッテレテテテンテン♪

終われ




〜なお、普通の冒険者との人間関係については、当番組は一切の責任を負いません〜



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