シャルティア様の朝は早い、朝食は取っても取らなくてもいいので取るかどうかは気分次第だが基本的には取らないで済ませることが多い。体型を気にしているのならば食べたほうがいいのではないかという気がしなくもないけれど、そういうことを口どころか顔に出すだけでも首が物理的に飛びかねないので絶対に表には出さないよう細心の注意を払う。
白磁の肌と麗しくも愛らしい美貌を持つお顔に化粧というものは不要といってもいいけれど、その美を更に高めるべく少しだけ描き足すようにシャルティア様はお化粧を施す。
化粧台の前に座り引き出しを開けるとずらりと出てくる化粧品の多くはアイシャドーとルージュ、興味のない者からすればその化粧品の多くは同じ色が並んでいるようにも見えるだろうが色はともかく「同じもの」は一つもない、同じ色であっても光沢などに差があり、その日のシャルティア様を最も輝かせるものをシャルティア様はさほど悩むことなく自ら選び出し使用する。
それが終わると今度は誰もいない自室で廓言葉の練習である。
「で、ありんす。わっち、わちき、ござんす。ござる…はちがうでありんすね」
ずっと使い続けこの言葉で話すことに慣れているよう見えても気を抜くと普通の喋り方になってしまうらしく、そしてそれに気づくことすらないということもあるくらいにシャルティア様はこの喋りが得手不得手でいえば不得手だった。
しかし、ペロロンチーノ様が望まれたことだからとシャルティア様は健気に練習し、うっかりそれを忘れていないかどうかをお付きのものにチェックさせるようにしてまで日々鍛錬しているけれど、それでも使うのを忘れてしまうことがあるのである。癖づいて自然と廓言葉で話せそうなものだがそれができないのはシャルティア様に問題があるのか、それとも他の理由なのかは不明。
ところで、この廓言葉の練習、ペロロンチーノ様が望まれたことだから練習していると言ったが実際のところそれだけではない、シャルティ様はこの言葉の言い回しなどに色気や面白さがあるということを理解なさっていた。だからこそシャルティア様は練習を繰り返し完璧なものへとしようと努力しているのである。
すべてはアインズ様を誘惑するために!
そう思うと恋する乙女の涙ぐましさに感動し涙を流しそうになる。
廓言葉の練習はシャルティア様が決めた視察の時間直前まで行われる。時間が来ると階層守護者として担当区域のあちこちを視察して回ったりするがこれは本当にすぐに終わる。直接すべて見て回るとなるとそれなりの広さであり時間もかかるが有事ならともかく平時なのである。
それぞれのエリアの担当がいてそれに異常がないかを確認して回る程度、シャルティア様にとっては癪な話だが「頭を使う部分」はアルベド様やデミウルゴス様がなさるので、あくまで異常がないことを確認する作業でしかないのだ。
この仕事が終わったあとのシャルティア様は暇である。そもそも視察だって本当はしなくてもいいくらいである。それでもやるようになったのは暇すぎて仕事をしてないと思われることに耐えきれなくなった結果、ご自分をごまかすためのものだからだ。
「アルベド様やデミウルゴス様ならともかくアインズ様がそんなことを思うはずがない」と申し上げてもシャルティア様は納得なさらず。この視察を日課として欠かすようなことはない。
午後、昼食はよほどのことがない限り取られるがその両自体は少ない、食事が終わると、この時間帯になるとなんかもう色々諦めたくなったりとか陰鬱な気分になられるのか適当な部下の女の子『ヴァンパイア・ブライド』の誰かを部屋に連れ込んで弄ぶ。
暇ならば朝にやっていた郭の言葉の練習をすればいいと思うものもいるかもしれないが、廓言葉の練習は朝に比べれば誰か彼かが部屋にやってきたり通話の魔法を使ってきたりするので万が一誰かに見られたり聞かれたりして周りに努力していると思われるのが嫌なので練習はなさらない。
ならば女の子を弄んでるところを見られるのはいいのかという疑問が浮かぶだろうが、これに関してはシャルティア様の中では一切問題ない、「あくまで玩具で遊んでいる」という程度の感覚でしかないのだ。
いや、遊んでいるというと聞こえが悪いが、本を読んだり音楽を聞いているのと同じようなものなのだといえば理解してもらえるだろうか、性行為をそれらと一緒にするというのはどうなのかと思うものが多数だろう。
だが実はこの行為がアインズ様のためのものだといえばどうだろうか?
アインズ様から寝室に呼ばれる可能性は現時点では低いと聞いているが、それでも万が一に呼ばれたならばその一夜で骨抜きにしてしまうほどの夜の技術を身につけていたならば、ライバルともいえるアルベド様を出し抜くことも不可能ではない。
実際、シャルティア様のテクニックは素晴らしいの一言で、変なスイッチさえ入らなければ何も知らない乙女を一夜で肉欲に溺れさせるくらいのことはできるのではないかと思うほどのものなのだ。もし叶うなら朝から晩まで可愛がっていただきたいくらいの……。
話を戻そう、シャルティア様はアインズ様のためにとスケルトン(女)を閨に呼んだこともある。スケルトンがどのように感じるのか試そうとしたのだが下級だったためか反応が悪く成果は芳しくなかったようである。もっと上位の骨のアンデッドモンスターを閨に呼ぼうにも女となると見当たらないようで、現状、実験は頓挫しているといえる。
夕方にはお風呂に入る。何かで汚れたからとかそれだけではなく、夜にはアインズ様に呼ばれる可能性が高いとふんでのことであるが実際に呼ばれたことは今のところ一度もない、それでも健気にアインズ様からの呼び出しに備え待ち続け。深夜になった頃に「今日も呼ばれなかった……」と寂しそうなお声でつぶやくと眠りにつく。
一度眠りに就かれるとそのまま朝まで起きることはない、こうしてシャルティア様の一日は終わる。
それを見届けた私の一日も終わる。あとは部屋に帰って。
「今日も何事もなかった。シャルティア様可愛すぎる!!」と心のなかに刻み込んで終わりである。
可能ならば可愛らしいシャルティア様の寝顔を一晩中眺めていたいという欲求がないわけではないけれど、シャルティア様のあとをずっと追うのに力を使い果たしてしまうためそれはかなわない、ゆっくりと休み、明日もまたシャルティア様の後を追うべく私は名残惜しさを覚えながらも帰路へとついた。
◇
アインズ・ウール・ゴウンはナザリックの支配者でありそのすべてを把握、理解しようと努力しているが実は全部が全部を把握できているわけではない。
その一例としてオンラインゲームから異世界へと転移したことによる変化の一つなのか、「シャルティア・ブラッドフォールンをただ静かに見つめる」という願いを抱きそれを叶えるためにレベルとステータスの全部を隠密系に特化しさらにはそのステータスを隠蔽・欺瞞しただの階層守護者たちはおろか至高のものであるアインズですら感知・看破するのが困難というレベルにまで達したヴァンパイア・ブライド、その名も改め。
『ヴァンパイア・ストーカー』
いや、彼女の能力はシャルティアを追跡するそのためだけに使われるのだから『シャルティア・ストーカー』というべきだろうか、ナザリックの誰もその存在には気づいていない。
そして被害者が気づいていないならば被害者はいないものと一緒である。シャルティア・ストーカーとなった彼女はそれが詭弁だとわかった上で今日も誰にも気づかれることなくシャルティアの一日を見つめ心に焼き付け続けるのであった。
念の為に書くと前に投稿した作品に出てきた吸血鬼とは別人です。