シャルティアの日常   作:クロハト

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読み切りではなく続き物となっております

次回更新は2017年06月08日(木) 21:00です


考えるシャルティア

 ドワーフの国から帰ってきたシャルティアは、アインズ様が自分たちの成長を望んでいるということ、そしてそのために考えるということを望んでいると理解し、成長するためにどうすれば良いのかを黙々と考え続けた。

 

(わかりやすいのは今よりも強くなることだけど、レベルがカンストしてしまっている私や他の守護者たちにそれが可能かどうかで言えば不可能に近い……。アインズ様もそれが分かっているからこそ、レベルにとらわれない部分である考える力を鍛えるように)

 

 そんなことにまで考えが及ぶようになったのはひとえに考えることの大事さを知ったからである、シャルティアは考えて考えて考え続けて、ある一つの結論に行き着いた。それは――。

 

  ◇

 

 正午間近のナザリック執務室、そこで黙々と執務をこなすアルベドの手が扉を叩く音で止まる。

 誰かが来る可能性はなかったはずだと思いながら扉を開けるとそこには思い詰めたような顔のシャルティアが立っていた。

 

「アインズ様と自分が戦ったときの映像記録があるなら貸してほしいですって?」

 

 アルベドがシャルティアに何用かと訪ねてみれば、シャルティアにとって最大の汚点であるアインズと自分が戦ったときの映像記録があるならそれを見せてほしいというものだった。

 

「そうでありんす、守護者たちでアインズ様と私が戦っている光景を遠見の魔法で見ていたと聞いたでありんすが、アルベドならそれを記録したのを持っているんじゃないかと」

「……たしかにあるわ、あるけどアインズ様のお姿を収めた私にとっては宝物よ、それを貴女に…いいえ、例えば貴女が持っていたとして私が貸してくれといって貸すと思う?」

「思わないでありんす。だからなんでもする……。わたしにできることならなんでも……」

 

 シャルティアは廓言葉で話すことも忘れて悲痛な面持ちでアルベドに頭を下げる、それを見たアルベドはいささか困惑する。困惑しつつも浮かんだ疑問を口にする。

 

「貴女がそこまでする理由を話してちょうだい、それによっては考えなくもないわ」

「わた、わっちは考えて考え続けているうつに気づいたでありんすよ、わっちが負けたという記録から学べることがあるんじゃないかと」

 

 シャルティアの答えはアルベドを納得させるには十分なものであり、同時に自分に借りを作ることになってでもという辺りにその真剣さがうかがえ、さらにはこれがアインズ自身が行い促している『守護者の成長』というものの成果なのだとしたらせっかく芽生えつつある芽を自分の手で摘むのは自身が敬愛するアインズの意にそぐわないと判断し渋々ながらシャルティアの部屋に映像を記録した宝珠を持っていき使い方の説明をする。

 

「って感じだけどわかった?」

「わ、わかったであり…ありんす……」

 

 シャルティアは心許ない返事を返しながらもアルベドに教わったことを実践してみる。

 

「あれ、なんでこんなに早いでありんす? 早すぎるでありんすよ!?」

「早送りになってるのよ、一旦止めなさい」

「とめるとめる…えっと……どうだったでありんすかね……」

 

 涙目で恐る恐るアルベドに訊いてくるシャルテア、アルベドはいつもギャーギャー言いながら突っかかってきて、やりあってきた相手の弱々しくて情けない姿に嗜虐的な喜びを見出すよりも先に「気持ち悪い」という思いが浮かんだ。

 

 調子が狂うとかそういうのもあるのかもしれないが、それ以上にとにかくさっさと教えるべきことを教えてこの場を離れたいという思いが強くなったアルベドは少し考えると。

 

「あとで、操作の仕方を大まかにまとめたものを用意してあげるわ、だからその…その情けない顔をするのはやめなさい」

「ああ……。しまったでありんすね、言われてみればメモを取ればよかったんでありんすのに…アルベド、申し訳ないでありんすが、メモをとるので最初からお願いしていいでありんすか?」

「…………」

 

 アルベドの体に今まで感じたことのないような寒気が走る。

 

(なんなのよこれなんなのよこれは!? らしくないとか通り越して別の何かになってない? もしかしてアインズ様シャルティアの何かを書き換えたりなさった――いえ、それはないわね)

 

 アルベドは自身のうちに湧き上がった考えを即座に否定する、もし自分たちナザリックの者たちの書き換えが容易なのであれば『教育』などせずにアインズ自身にとって都合のいいように書き換えてしまえばいいだけなのだ。

 それをしないのはひとえにアインズが自分たちの個性というものも大事に思っているからにほかならない、不敬な考えをしてしまったことに心の中でで詫びながら、大きく変わったシャルティアを眺める。

 

 シャルティアは四苦八苦しながらも繰り返しメモを見ながらやることで操作の仕方を覚えていき、いまだおぼつかないところはあるものの思い通りの操作ができるようになっていた。

 

「ありがとうでありんすアルベド」

「え、ええ……。どういたしまして」

 

 教えるのにもそれなりに体力や精神力を消耗はするが、アルベドを消耗させたものの大半は見慣れないシャルティアの姿に他ならなかった。

 教えることも無事に教え終わったアルベドは足早にその場から離れていった。

 

 その後、一人になったシャルティアは自身とアインズが戦う映像を繰り返し何度も何度も見直し続けた。

 

 記憶にないこととはいえ自分がアインズに無礼な言葉を投げかけ刃を向け傷つけるその様は自分自身を百回殺しても足りないほどにひどい光景だった。

 それでも踏みとどまったのはほかならぬアインズ自身が一度は許し、それでも自責の念から逃れられなかった自分を罰して下さったことを忘れてはいなかったからである。

 もし自分が自殺や自傷などにはしれば、アインズは悲しむであろうことをシャルティアは理解していた。

 だからこそ彼女は耐え続け、映像を見つめ続け、自分がなぜアインズに負けたのか、勝つためにはどうすればいいのかを考え続けた。

 

 不意にシャルティアの部屋のドアを叩く音が響く、シャルティアは何事かと思いながらドアを開けるとそこには一人のヴァンパイア・ブライドが立っていた。

 

「わざわざ部屋にやってくるとは何事でありんすか?」

「シャルティア様が、いつも見回りを行う時間になっても来られないので、何か有ったのではと」

「見回りの時間?」

 

 そう言われて部屋の時計を見てみると確かにいつも見回りを行う時間を大幅に過ぎていた。

 

「すこし集中しすぎたようでありんすね、次からは気をつけるとしましょう、それでは今から向かうでありんす」

 

 その日はそうして多少の遅れだけで事は済み、それ以降シャルティアはいつもどおりの日課をそつなくこなす。だが日に日に彼女の表情は曇り何らかの苦痛をこらえているのであろうことが周りの者達に気づかれていた。

 

 シャルティア本人が表向きは平静を装い何事もないかのように振る舞うだけに、周りの者達もどうしたものかと考えあぐねていた。

 

 シャルティアは見回りが終わるとすぐに部屋にこもり、以降、部下たちにはよほどのことがなければ部屋に入ることどころか近づくことも禁じた。

 

 部屋の中でシャルティアはただただ映像を見続けた、それは死よりも辛い精神的な痛みを伴う苦行であったがそれでも彼女は映像を見続けて、アインズの役に立ちたいというその一心で考え続けた。

 

 やがて彼女は恐れ多くて仕方のない一つの考えに行き着く、だがそれはかねてよりアインズ自身が口にしていたことでもあった。

 

 『アインズ様を始めとしたナザリックの者たちがアインズ様よりも強い存在と戦わなければならない時が来るかもしれないという可能性』

 

 そんなものは皆無だと思っていた。シャルティアは、いやシャルティアだけではないだろうナザリックのほぼすべてのものがそんなことはありえないと思っていただろう、アインズ様の笑うに笑えない冗談の一つだと思っていただろう。

 

 しかし、今の彼女には理解できた、アインズ様のお言葉は冗談でも何でもなく、最悪の場合を想定した本気のものだったのだと、ならば自分もそれに備えるべきだと考えた、どう備えるのか?

 

 その答えはいたって簡単だった。

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