次回更新は2017年06月12日(月) 21:00です
『アインズ・ウール・ゴウン』がまだ一人の名前ではなくギルドの名前であった頃に作られた玉座の間、玉座へと続く道その左右にずらりと並ぶのは今はアインズと名乗る男の仲間たちの紋章が記された旗、今はもう居ないものたち、されど確かにここに居たものたちの証、その旗の下に並ぶのは階層守護者と呼ばれるこのナザリックの中でアインズに次ぐ力と権力を持つものたち、権力を持つとはいっても自身の利益のために使われるものではない、彼らの持つ全てはアインズ・ウール・ゴウンのためだけに存在し使われる。
そんな彼らは多忙であり、よほどのことがなければ一堂に会することも少なくなっていた。その面々が揃い立ち並び、そして玉座には主たるアインズが腰掛けている。そんな中で一人、アインズの前で深々と頭を垂れひざまずくシャルティア・ブラッドフォールン。
アインズと他の階層守護者が揃ったのは他ならぬシャルティアがアインズに頼んだからである。
アインズに話したいことがあり、そしてそれは他の階層守護者の前でなければならないことだからと、アインズは真剣な面持ちで頼み込んでくるシャルティアに内心たじろぎながらもその願いを聞き入れ階層守護者たちを呼び集めた。
アインズの命とあれば何をおいても馳せ参じる彼らも、その呼びかけがシャルティアがアインズに何かを話すためだということになんともいえない懸念を抱いていた。
「シャルティア、皆揃った、皆の前で話すべきことがあると言っていたな、話してみるが良い」
アインズに促され、シャルティアは頭を上げると、可愛らしい、されど凛とした意思の強さを感じさせる声で語り始めた。
「アインズ様に恐れながら申し上げます。今一度私と戦っていただきたいのです」
「「「な!?」」」
アインズを始めとしたその場に居たシャルティアを除くすべてのものが驚愕した。
「何をバカなことを!?」
激昂したアルベドが叫び今にも飛びかかろうとする、だがそれよりも早くアインズの低く重い支配者然とした声が響き渡る。
「皆のもの静まれ! シャルティアこうなることが分かっていたからこそ……。だからこそあえて皆を集めたのだな? 筋を通すために」
「はい」と答えたシャルティアの声には怯えも震えもなく、その瞳もまっすぐにアインズの目を見つめていた。
「では、話には続きがあるのだろう、話してみるが良い、他の者達も静かに聞くのだ」
アインズの言葉に対し守護者たちは敬礼と返事を返し、アルベドも元の場所へと戻る。だがその怒りが収まることはなく、シャルティアに向けられる視線はアルベドに限らずシャルティアに物理的に刺さるのではと思うほどに鋭い。
シャルティアは心のなかで自分がアルベドの立場だったら同じ反応をしただろうとわかるだけにその視線と態度は不快でもなければ恐怖もなかった。
ピリピリとした空気の中、シャルティアは改めて口を開く。
「改めて申し上げます、私がアインズ様と戦ってほしいと願う理由、それはアインズ様ご自身がかねてより申し上げていた、アインズ様よりも強い存在と戦わねばならない時が来るかもしれないという可能性に備えるためには少なくとも今わかっている中で最も強い存在と戦ってみることだと考えたのです」
「なるほど、理にかなっているな、その発想に行き着いたことは賞賛しよう、だがシャルティア、お前の願いを叶えてやることはできない」
「何故? とその理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
当然の疑問だというかのように頷いてからアインズは言葉を紡ぐ。
「構わぬ、話してやろう、一つはお前たちにも私の手の内を可能な限り見せたくないからだ、その理由はいたって簡単でな、私自身が他者の記憶覗いたりする魔法が使えるし、記憶を覗けなくともシャルティアのように相手を魅了することで聞き出すことだって可能だからだ、たとえ格上が相手だとしてもこちらの手の内が知られているのとそうでないのでは事を成す難しさが大きく変わってくる。故に私は万が一を考え、お前たち相手であっても必要以上に手の内を見せるつもりはない」
「そう聞くと、あの一件ますます申し訳ない気持ちになります」
アインズは頭を下げようとするシャルティアを制止しながら話を続ける。
「あの一件は私の思慮不足が招いたものであり、その対価を支払ったに過ぎない、それにあの戦いは見られていることを前提として動いているので問題はない、それと……いや、なんでもない、とにかくシャルティア、せっかくお前が考え出してくれた話を叶えてやることができなくてすまない」
アインズの予想外の言葉にシャルティアは慌てて言葉を返す。
「そんなアインズ様が謝る必要なんてございません、私の浅はかさ故のことですから」
「シャルティア、もう一度いうがお前の考え自体は何も間違ってはいない、むしろ賞賛すべきことですらある、警戒すべきことなどないならばお前の願いを叶えてやりたいと言うのが本音だ」
「もったいないお言葉です」
アインズとシャルティアがそんなやり取りをしていると、コキュートスが一歩前に出て手を上げて口を開く。
「恐レナガラアインズ様、私カラモ一ツヨロシイデショウカ」
「なんだコキュートス」
「我ラ階層守護者、イイエソレダケニ限ラズナザリックノ者タチデ希望スルモノハ全員ガ参加ト観戦ガ可能ナ模擬戦ヲスルトイウノハイカガデショウカ?」
コキュートスの言葉にアインズは「ふむ?」と続きを話すように促す。
「アインズ様ノ手ノ内ヲ隠ス必要ガアルノハ確カデスガ、ソレ以外デアルナラバ我々ハ職務上ノ理由ナドモアリオ互イノ手ノ内ヤ部下ノ能力ヲ把握シテオリマス、デスノデ完全ニ秘匿スルノハ実質不可能デスシ、ワレラ階層守護者同志デアレバ組ミ合ワセニヨッテハ苦手ナ相手ナドトノ戦イ方ヲ考エル機会ニナリマス、階層守護者以外ノ者ニトッテハ格上ノモノト戦ウ機会トナリイイ経験ニナルト思ウノデス」
「確かにコキュートスの言うとおりだな、警戒しすぎて動けなくなるのであれば意味もない、シャルティアとコキュートスはともに協力し模擬戦……。いや、これは大会、武闘大会だな、武闘大会の企画を立ててみよ、アルベドとデミウルゴスは二人に予算などの部分で助言できるものをつけてやってくれ」
「心得ました」と名を呼ばれた四人は頭を下げる。
こうして予定外の方向に話が進んだ結果、第一回ナザリック一武闘大会が開かれることとなったのだった。
シャルティア・ブラッドフォールンは予定外の方向に話が進んでしまったことに頭を抱えていた。
シャルティア自身が想定していたのはうまく行けばアインズ様との再戦、最悪の場合は不敬による死刑であり、大会を開くこととなった現状に「どうしてこうなったでありんす?」と頭を抱えるばかりである。
そんなシャルティアの横で楽しそうに計画などを練っていくのはコキュートスである。彼も想定外の流れの中で思いつきを口にしただけではあったが、それがこんなに楽しそうなことになるなどと思っても見なかった。
もちろん彼自身は戦うことに関して考えることは得意でもこういう企画を立てるのは得意ではないので苦労はしているのだが、その先に待っているのは階層守護者という強者との戦いである。彼は頭のなかでならば何度も戦ってきた相手と実際にどれだけやりあえるのだろうかと楽しみで仕方がない、だからこそ苦労を苦労と思わずに大会開催のために奔走していた。
シャルティアもただ頭を抱えていただけではない、他ならぬアインズ様からのご命令である、しかも自分の意図を可能な範囲で汲んでもらった上での企画である。絶対に成功させなければならないということで彼女もまたコキュートスと話し合いときには部下たちの意見を聞いたりしつつ大会の日程やルール、手順などを決めていく。
「アインズ様の御前試合ということになるから、日程はむしろアインズ様のスケジュールに合わせろと皆にいいたくなるけれど……」
「ドレホドノ時間ガカカルカワカラナイ以上、数日確保スル必要モアル、トナレバ他ノモノノ予定ナドモ聞イタ上デ考エルベキダロウ」
といった大会運営のスケジュールから始まり。
「レベル差がありすぎると勝負にならないのはわかるけれど、そもそもの話がそのレベル差があるような相手と戦いたいだったでありんすから、その辺考慮した無差別級を設置するでありんす」
「設置シテモ階層守護者クライシカ参加シナイト思ウゾ、設置スルナラアル程度ノレベル差ヲ埋メル手段トシテ階層守護者以外ハパーティーヲ組ムコトヲ許可スルナドシタ方ガイイノデハナイカ?」
「確かにそれなら力の差を埋めれるでありんすが、そのままだとバランスが取れないときがあるでありんすね、試合ごとにレベルの合計などでバランスをとるようにするべきでありんすか……」
「ソウスルノガ無難ダロウ」
「無難ではありんすが手間がかかりすぎるでありんす。いくらアインズ様がお時間を作って観戦してくださるとおっしゃったとは言え、多忙なアインズ様のお時間をいただくのでありんす。大会の進行速度も考慮しないとダメでありんす」
「ムウ……」
うっかりで死者が出ないようなルールの立案など、さらには予算や必要資材の手配などもあったがそれらに関してはアルベドとデミウルゴスのところから来たものにほぼ丸投げで、この辺は得手不得手の中でも仕方のない部分と言えなくもない、もちろんその気になればシャルティアとコキュートスの二人でもやれなくはないだろうが、企画立案、ルール作成、スケジュール調整などなどを部下に手伝ってもらいつつとは言え、その仕事量に溺れる手前のようで二人とも顔色が一見しただけではわかりにくいような顔をしているにも関わらず遠目に見ても顔色が悪い、そんな二人の様子を生暖かい目でみつつもどこか楽しそうに眺めるアルベドとデミウルゴス。
そのアルベドとデミウルゴスを見たものたちは、「なんとなく、なんとなくなんですけど私達の苦労の百分の一でも理解しやがれ」って言ってるような気がしたと後に語っている。
参加予定人数、簡易リハーサルによる必要時間の予測、アインズ様への確認、申請、確認、申請……。
いつ終わるのか?
そんな疑問が浮かびそうになるもことはどんどん進み、あっという間に大会当日となっていた。