次回更新は2017年06月19日(月) 21:00です
第三試合の開始前、デミウルゴスの魔法で闘技場が荒れていたのでその片付けと修復が行われ、それが終わるとコキュートスとアウラが闘技場中央へと進む。
コキュートスもアウラも何も語らない、といういよりももとから無口に近いコキュートスはともかくアウラは頭が真っ白になっていてしゃべれないという方が正しい。
前試合で戦ったデミウルゴス同様にアウラもまた単独での戦闘能力は低いのだが、アウラにはデミウルゴスのように知略をもってその低さを補うすべが思いつかない、結果として一見平静に見えるその顔の裏で言葉にならない悲鳴を上げながら彼女は「第三試合開始」という掛け声を聞いたのだった。
開始の合図とともに半ば無意識にアウラの身体は動き、とにかくコキュートスの動きを止めるためのスキルを使用する。
「不動縛鎖!」
スキルによって作り出された無数の鎖がコキュートスに向かって飛ぶ、だがそれらを二本の腕に持った剣と槍を巧みに操りすべて無効化してしまう。
そして残りの二本の腕で弓を構え矢を次々と放つ、放たれた矢はまるで吸い込まれるかのようにアウラに次々と刺さっていく、アウラ自身はかわそうとしているのだが躱しきれずダメージはどんどん蓄積されていき、一か八かと間合いを詰めるも槍と剣で大ダメージを受けてあっという間にアウラの敗北が決定してしまった。
「大丈夫カ、アウラ」
「うん」
ダメージ自体はあるが大したことはないと笑ってみせるアウラをコキュートスは有無を言わさず抱きかかえると足早に出口へと向かう。
「コ、コキュートス!?」
突然のことにうろたえるアウラを無視してコキュートスは人気のない場所までアウラを運びアウラをそっと下ろすとあっという間にそこから立ち去っていった。
「あの馬鹿……。いや馬鹿は自分かな……」
アウラはそう呟くのが精一杯だった。アウラの目からボロボロと涙がこぼれていく、それは悔し涙だった。勝てる相手ではないと分かってはいた。それくらいに力の差があることも理解していた。それでも大会に参加したのはシャルティアの言葉に感化されたからに他ならない、強敵との戦いというものを経験しておこうという軽い気持ちだった。けれどここまで一方的に何もできないのかと思い知らされるとそれが悔しくて悔しくて仕方なかった。
だから彼女は誰もいない闘技場の片隅で彼女は声を殺して悔し涙を流すのだった。
あっけなく終わった第三試合のあとにそんなことが起きているなど誰もつゆ知らずの中、第四試合を行うアルベドとシャルティアの二人は試合開始前から激しい火花が散らしていた。
「試合とはいえ貴女とこうして直接対決する日が来るとはね」
「そうでありんすねえ、この際でありんすし、どちらがアインズ様の正室かこの戦いで決着をつけるでありんすかね」
そこにつかつかとやってきて二人の間に割って入るデミウルゴス。
「アインズ様からの伝言です」
その一言で二人は睨み合うのをやめて聞くための姿勢を整える。
「この大会で余計な諍いの持ち込みや賭け事の類を全て禁じる。だそうです」
「えーっとつまりそれはどういうことでありんすか?」
特に何かをかけているつもりもないシャルティアはアインズの言葉の意味が理解できず首を傾げる。
「貴女にもわかるようにいうならどちらが正室かとかそういうのをこの大会に持ち込むなってことよ」
面倒くさそうにしつつも親切に教えるアルベド、「ああ、そういうことでありんすか」と頷き、「それなら仕方ないでありんすね」とこの試合で決着つけることを諦める二人。
デミウルゴスは伝えるべきことは伝えたとさっさと立ち去り、それから少ししたところでメイドが準備ができたと告げに来て、二人は闘技場へと向かう。
今まで同様「第四試合開始」という掛け声とともに試合が始まり、互いに駆け寄っていくその勢いをスポイトランスに乗せてシャルティアが槍を突き出せば、アルベドは斧を振り下ろしその槍を叩き落とす。
前の戦いとは打って変わって防戦一方のアルベド、シャルティアの攻撃が的確にアルベドの隙をつこうとする上にその威力と速さも凄まじく、防ぐのが精一杯でカウンターにまで手が回らない、仮にカウンターを打ち出しダメージを与えれたとしても、その数倍のダメージをうけるだろうと断言できることともう一つ、シャルティアが切り札を一つも使っていないという点だった。
それも警戒する以上は今は攻めに回るべきではないとアルベドはただひたすらにシャルティアの猛攻をしのぎ続ける。金属のぶつかりあう音がまるで音楽のように聞こえてくるほどに二人の武器が激しくぶつかりあう。
突き、叩き落とし、なぎ払い、身を翻し、振りおろし、受け止めて、競り合う。
くるりくるりと舞うかのように立ち位置を変えながら、かと思えば立ち止まり見つめ合っているかのように視線をそらすことなく。数分間もの間ずっと二人が奏でる音楽が響き続ける。
だが徐々に音がずれ始めていく、少しずつ少しずつずれていくがごく一部のものは以外はそれに気づかない、押しているのはシャルティアの方だった。
アルベドにとってそれは想定内の出来事だった。ただし良いか悪いかで言えば悪い方の想定内で、シャルティアはまだ全力を出してないのだ。もちろん自分もそうだといえばそうなのだがこの大会でそこまでする意味があるかどうかという疑問も有った。
アインズ様の前で優勝を果たし自分の強さをアピールするというのは守護者としては正しいだろう、だが女としてはどうだろうか? アインズ様の理想の女性像というのがはっきりと分かっていない以上はあまりイメージを決定づけるのも良くはないだろう。
それに仮にシャルティアを倒したとしても次はコキュートスである。この二人を倒すとなると全力も全力を出す必要がある上に、そうしたとしても勝てる確率は多めに見積もっても三割程度、全力の内には装備品の破損なども含まれる。いろいろな意味で割が合わない気がする。総判断したアルベドはあえてこのまま押し切られるふりをすることにした。
シャルティアに負けるというのはいささか癪では有ったが、この戦いにはアインズ様から「この大会に諍いを持ち込むな」と言われているのである。シャルティアがこの戦いの勝敗に関して何か言ってくるようならそれを持ち出して逆に言い返せばいい。
『如何に勝つか』というのを諦め『如何に負けるか』と『負けたあとのこと』が決まってしまえばあとはあくまで少しずつ押されて負けるという演出のために動く、一見すれば勝つ気があるようなそういう動きである。ただしこれはただ負けるよりもずっと難しい、何故なら目の前のシャルティアを始めとしてアインズとコキュートスが見ているからである。それらの目を欺くだけの演技をやってのける必要があるのだから。
(それでも、演じきってみせるわよ!)
シャルティアの攻撃を防ぎきれなくなってきたのでカウンターを混ぜて少しでもダメージを稼ぐ、しかしこれではスポイトランスの回復分をいくらか減らせる程度でシャルティアのほうが与えるダメージが大きいので結局はアルベドのほうが不利になっていくだけである。
だから距離を取る。シャルティアはもちろん取らせない距離を取るよりもスポイトランスの射程内に収めて攻撃し続けるほうが簡単で確実だから、それでも間を開けない限りアルベドに勝機はない、だからアルベドは逃れようとする、逃れられない、再びスポイトランスの猛攻をカウンターで削り返す。
そう思わせながら、アルベドは最後まで戦いシャルティアのライフを50%ほどにしたところでアルベドのライフは残り30%をきりシャルティアの勝利が決まった。
「なんていうか……。すごく疲れたわね」
一見しただけでは全くそうは見えないが、その声にこもっているものは本気だとわかる声色でアルベドが漏らす。
「同意するでありんすよ」
「まあ、私はこれで終わりだし、決勝戦を高みの見物させてもらうわ」
「ええ、このまま優勝してくるでありんすよ」
そういって笑うシャルティアの顔には自信に満ち溢れていた。
(……今回の件の大本が本来の目的忘れてるわねこれ)と思っても水を指すのも無粋だとあえて黙るアルベドであった。