レモン☆キャンデー   作:あやとっちぇ

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レモン☆キャンデー 1

ひかるは朦朧とした意識の中で目を開いた。

 わたしは何をしていたんだろう。ここはどこ?

 ひかるは自分の置かれている状況が理解できず、軽い混乱状態になった。

 ひかるは必死に記憶をさかのぼる。しかし、頭の中はどこか曖昧模糊としていて考えがまとまらない。

 そうだ、わたしは通っている中学校から、通学路を家へと向かって歩いていたんだ。体育の時間に私がミスをして、それでみんなに迷惑をかけて、しょぼくれながら家路についたのを覚えている。

 ではここは通学路だろうか? うっかり途中で居眠りでもしてしまったのだろうか?

 周囲に目を配ってみる。

 紫とも赤ともつかない霧がかった空、地面から卒塔婆のように出鱈目に生えている石の柱、至るところに浮き出ている見たことのない文字、どれもひかるには見覚えのないものだった。少なくとも、ここが自分の見知った場所でないことは確かだ。

 錆びた蝶番が軋むような、気味の悪い音がけたたましく鳴り響いている。そしてそれは、自分のすぐ近くから発せられているらしい。

 そこでひかるは、自分の視点が妙に高いことに気がついた。

 はて、わたしの身長はせいぜい140センチかそこらのはず。

 ひかるは恐る恐る目線を下に向けた。 

 地面はひかるの目からはるか五メートル下にあった。

 ひかるはぎょっとして、その場から後ずさろうとした。しかし、どれだけ手足に力を込めても、一ミリたりとも身体が動かない。

 よく見ると、無数の白い人間の手のようなものがひかるの身体のあちこちを掴んでいた。そして、そのまま彼女の身体を巨大な白い柱のようなものに張り付けにしていたのだ。

 ひかるは再びパニックになった。

 こんな状況は現実では考えられない。そうだ、これは夢に違いない!

 頬をつねろうにも手が動かないので、ためしに大声をあげてみる。

 声はでた。しかしそれは、頭上から聴こえる更に大きな咆哮によって掻き消された。

 何事かと頭上を見上げる。

 ひかるは今度こそ発狂しそうになった。

 そこにあったのは、全長にして十数メートルはあろうかという巨大な女性の胸像だった。自分が張り付けにされていたのは柱などではない、この巨像の一部だったのだ。

 もはや叫び声など出なかった。激しいめまいがする、頭が痛い、わたしはどうなってしまうの?

 気が動転し、あやうく気絶しかけたその時、遠くの方からこちらへと向かってくる二つの物体をひかるの視界が捉えた。

 ひかるはその物体へと目を凝らす。物体が近づくにつれ、その姿がはっきり見えるようになった。

 驚くべきことに、それは人間だった。それも、ひかるとほぼ同じ年齢、14歳前後の少女のように見える。それだけではない、二人の少女はそれぞれ奇抜なコスチュームに身を包んでいた。

 一人は短髪で、肩から青いマントをなびかせている。白い手袋を付け、プリーツのスカートに紐のリボン、まるで中世の音楽隊のような出で立ちだ。一方で、もう一人は、すらりとした長身に艶やかな黒髪をした和装の少女だった。薄紫の着物に大きなリボンで帯を締めている。

 謎の少女達は、巨像にむけて猛然と走り迫ってくる。と、突然巨像の身体が揺れた。同時に、さっきから聴こえていた蝶番のような音が一層強くなる。どうやら、この巨像は動くらしい。

 もはや驚く気力すら残っていなかったひかるは、なされるがまま巨像の胴体に張り付いていた。

 巨像は二本の腕を振り上げると、自身の頭部をがしりと掴んだ。

 何をするのだろう? ひかるはただただ見ていることしかできなかった。

 巨像はまたしても咆哮を上げた。そしてあろうことか、自分の頭をべきりともぎ取った。細かな破片がひかるの顔に落ちてくる。

 巨像は向かってくる少女めがけて、自分の頭を投げつけた。風を切る轟音、頭は高速で回転しながら和装の少女の方へと飛んでいく。

 なぜだかこの巨像は、あの二人の少女に敵意を持っているようだ。どっちにしてもあんな巨大なものが直撃すれば即死だろう。

 「あぶない!」ひかるは咄嗟に叫んでいた。

 しかし、ひかるの心配は杞憂で終わることになる。なぜなら、和装の少女は飛んでくる頭を、垂直に跳躍することで回避したからだ。

 巨像の頭は少なくとも四メートルはあるはずだ。とすると、あの少女は自分の身長の三倍近くの高さを跳躍したことになる。そんなこと人間では考えられない。やっぱりわたしは夢を見ているんだわ。なんたってこんな不思議な夢を見るんだろうか。

 またもや巨像が大きく振動した。頭のなくなった首の断面から白い泡ぶくが溢れてきた。それは一瞬で増殖すると、やがて先ほどもがれた頭と同じものに形を変えた。つまり、巨像の頭部が再生したのだ。

 巨像は三度咆哮をあげると、せっかく生えてきた頭をまたしてももぎ取った。そしてやはり、和装の少女に向かってそれを投擲する。

 その時点で、謎の少女達と巨像との距離は、目と鼻の先だった。巨像の頭はさっきよりもより短い時間で少女に到達することになる。

 しかし、和装の少女は避けよとはしなかった。それどころかこちらに向かって一気に加速した。隕石のような巨大な頭が少女に迫る。

 と、和装の少女より少し後方から向かってきていた音楽隊風の少女が、どこからか短いステッキのようなものを取り出した。長さは本人の肘から手先ほど、持ち手には規則的に穴が空いており、先端には雪の結晶を模したクリスタルがあつらえてある。

 音楽隊風の少女はステッキの柄のあたりに唇をあて、まるでフルートでも吹くかのように息を吹き込んだ。実際、ステッキは管楽器のような涼やかな音色を発したが、それだけではない。和装の少女へと飛んでいた巨像の頭が、彼女に直撃する寸前でピタリと動かなくなったのだ。時が止まったかのように空中で固まった頭は、表面に霜が張ったように白くなり、薄く冷気を纏っている。

 固まったままの頭を踏み台にして、和装の少女がさらに上空へと飛び上がる。巨像の全長よりさらに高く舞った少女は、いつの間にか手に持っていた日本刀を振り上げた。鍔はなく、刀身が垂直な刀だ。

 落下のエネルギーを乗せ、巨像目掛けて刀を振りおろす。刀は抵抗なく巨像の体躯を一刀両断した。真っ二つになった巨像は音をたてて崩れていく。

 ひかるの身体を掴んでいた白い手にも亀裂が入り、ついには粉々に砕け散った。不意に戒めから解放されたひかるは、そのまま重力に沿って落下する。

 妙にリアルな落下の感覚。ひかるは意識が遠のいていくのを感じた。ただ、意識が完全に途切れる一瞬前、身体に小さな衝撃と人間の体温を感じた。

 ひかるは眠るように気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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