オカルトなどの非現実的な物が好きな少年、柊 海都は彼女とデートに行った帰りに、使われていない美術館へと足を踏み込む。
そして、その美術館の地下には神社と、妖狐が存在した。
「う、ぐ・・・ここは」
さっきまでの朝日差し込むような風景は、夕日差し込む焼けた風景へと変わっていた。
「この神社・・・確か俺は・・・ッて!」
頭が痛い。どうやらあの後、この石畳の上で寝ていたらしい。
そういえば、あの妖狐は!
「目が覚めたか?主よ」
「な、お前!・・・んん?今主って」
妖狐は俺の横に胡座をかいて座っていた。
それより・・・
「主ってどういうことだ!?俺はお前の主になった覚えはないぞ!」
「まぁ、君が印鑑を押したとか、名前を書いたとか、そういったことはしてないからね。とりあえずほら、深呼吸して落ち着いて右手の甲を見てみ?」
俺は言われた通り深呼吸した後、右手の甲を見た。そこには黒字で『狐』と書かれていた。
「こ、これは!」
俺は神社の外にある水道の水で手を念入りに洗うが、字は消えそうにない。肌を抉るかのように掻いても落ちそうになかった。
「まぁ、他人には見えてないからさ。契約の印としてさ」
「・・・先にいってくれよ。つーか、お前と契約なんてしてないからな」
俺は神社から離れようと鳥居の方へむかった。
「・・・何でついてくるんだ」
「え?だから、契約したからでしょ?」
「だーかーらッ!契約してねぇっての!はい、契約しましょうなんていつ言った!?」
「心では許してるくせに~」
ウザい・・・こいつ、本当にウザいヤツだ。
久しぶりにこんなヤツにあった。
この印も消えないし、記憶にはないが、本当は契約しているんじゃないか。とも思い始めてきた。
「おいおいおいおい。誰だ、お前は?」
そこにさらにうるさそうなヤツが入ってくる。
タンクトップにジーパン。腕にはタトゥーが入っており、サングラスを付けていた。
その男はジーパンのポケットから手を出すと、その手に拳を作った。
「お前は何者だァ?この寺は能力者以外立ち入り禁止のはずだ。だが、お前からは1ミリも能力値を感じられんなァ」
能力者?能力値?
この言葉から推測するに、ここは三年前の事件に関係あるというのがわかった。
そして、この男はその事件を聞いて集まった人間の一人だ。
「俺の名はキラ。キラ・ヘルフレアってんだ。お前は何だよ」
「柊 海都だ」
「ほぉ、日本人か。そりゃァ・・・楽しくなりそうだなァ!」
男はその拳を俺の頬に向かって放つ。
拳を防ぐことのできなかった俺はその攻撃によって、思いっきり神社の方へブッ飛ばされた。
「ほぉ、能力値ゼロのくせしてよォ。よく俺の攻撃を耐えたじゃねぇか。ッアァーッと!ストレス解消したし、帰るか」
「待て」
「!・・・ほぉ、立ち上がるかァ」
さっき、ブッ飛ばされたと言ったが、それは俺の幻だ。
この妖狐が守ったようだ。
昔から妖狐は幻を人間に見せるのが得意で、人間を騙してはその生活を楽しんでいた。
(それがここでも活躍できるとはね。で、どうする?立ち上がっても殴られる一方じゃない?)
「それでも戦うしかないようだ。こうなってしまった限り、妖狐頼むぞ」
「?・・・お前、誰と話してんだ?」
(それじゃあ、妖狐パワーを使うよ!)
身体のどこからかわき出てくる力。これが妖狐の力なのかわからないが、今はこいつの力に頼るしか、勝機はない。
「いくぞッ!」
その時、俺は気づいた。
俺の尾骨部から何かが生えている。
「これも・・・お前のせいなのか?」
(まぁ、狐だしね)
尻尾が生えている。しかも、モフモフだ。
今は一本だが、これは増えるのだろうか。
「何だァ?その男らしくねぇ能力は。そんな枕にしたら気持ち良さそうな尻尾を生やしてよォ」
キラがこの尻尾に魅せられた瞬間、
戦況を一転させるような隙ができた。
俺の拳はキラの顔面を襲い、その威力で鳥居の柱部分に背中を強打させた。
「この力・・・勝てる!」
「ッ!・・・ったくよォ~。少し隙を見せたらこれだ。やはり、本気で戦わなくてはなァ!」
キラはすぐに体勢を立て直すと、何発も拳を放つ。だが、妖狐の力は筋力的な物だけでなく、スピードまでも上昇させていた。
拳を避けてから、カウンターをいれるまでの時間はほとんどない。そんな早さを持っていた。
「この学校にこんな能力を持った人間がいたというのか!?・・・まぁ、まだアレを使ってないから何とも言えんが」
キラは一度後ろへ下がると、拳を地面に向かって撃ち込んだ。
「悪の章:開演ッ!」
その言葉と共に始まったのは、黒い火柱のようなもの。それは俺の足元から空へと放たれる。
それはまるで天に昇る竜のようだった。
「これが我が能力、『悪の章』だ。どうだ、人間!思い知ったか!」
ギリギリで幻の身代わりを置いて逃げた俺はキラの顔を見た。
悪魔の顔だ。人の死を見て喜ぶ、狂気染みた悪魔の顔だった。
(大丈夫かい?まぁ、幻は粉々だけどさ)
「本当に勝てるのか?あんな化け物」
(じゃあ、尻尾を巻いてここから逃げる?)
「それは・・・」
(なら、行ってこい。君なら勝てるよ。だって、私が選んだ人だからね)
「・・・」
無責任なことを言う狐だ。
確かに本当のことを言うと怖い。あの柱を喰らったら、本当に終わりだろう。
しかも、あれで開演だ。それが終幕まであると考えると恐ろしいものだ。
「だが、俺は・・・諦めないッ!」
「ほぉ、逃げたか。だが、まだ始まったにすぎない。次は序章だ!」
キラは地面に拳を刺し込むと、地面からレバーのようなものを引っ張りあげた。
「序章はホーミングミサイルだ。これを避けきったなら第一章を見せよう!」
「いや、第一章なんてものなく、これで終わりだ」
妖狐の力によって早くなった足で、ミサイルの網を避けると、目と鼻の先にはキラが立っていた。
「これで終幕だーーーッ!!」
「そこまでだ!」
拳が当たるその瞬間に、俺たちの耳に声が響き渡る。
それは戦闘終了の合図だった。
「ッ、見つかったか」
その声の方向には、眼鏡をかけた男とロングヘアーの女が立っていた。
「チームO、キラ・ヘルフレア。また校外能力使用禁止法を破ったな」
「ッたくよォ~。俺も俺だが、こいつはどうなんだァ?こいつもバリバリ能力使ってたじゃねぇか!風紀委員さんよォ?」
「彼もチームOよ」
「!?・・・アンタは」
女はかけていたサングラスと目深にかぶった帽子を取り、素顔を見せた。
「か、監督・・・」
キラは女を監督と呼んだ。
それよりも、
「俺が、チームO?何を言っているんだ?」
この女の言ったそれが気になっていた。
女は俺の質問に答えるのか、俺の言葉を聞くと、すぐにこちらへ歩ってきた。
「君が柊 海都君だね?私は今日からあなたの先生、そして監督となるリアよ。よろしく」
「監・・・督?どういうことだ?」
リアは深呼吸をすると、大声で
「柊 海都!これより、その能力を極めるため、私立レッドブラッド能力専門学校への入学、そしてチームOへの参加を許可する!」
と言った。
俺は驚きのあまり、唖然とした。そして突きつけられた現実問題に驚愕の声をあげた。
★
何でこんなことになった・・・。
あれから一夜が過ぎた。家には帰れないでいる。
リアは大丈夫だ、の一点張りでそれ以上のことは言わない。
「今日からこのチームで一緒に戦ってもらう柊 海都君だ。みんな頼むよー!・・・ほら、柊君も」
「え?あぁ、えーと・・・」
俺の声にキラは舌打ちをする。
「柊君だね?」
そんなキラを無視して、一人の男が立ち上がった。
銀髪に銀縁の眼鏡。そしてこの学校の物と思われる制服を完璧に着こなした『The 優等生』という姿をしている。
「俺はこのチームOのリーダーをしている、オルガだ。何でもわからないことがあったら言ってくれ。全力で答えられるようにする」
「よ、よろしくお願いします・・・」
オルガは手を前に出す。・・・握手を求めているらしい。・・・俺は手を握った。
「よろしく!」
「ケッ、こいつのせいで昨日はよォ~」
キラはこの空間にイラッと来たのか舌打ちをしたあと、机の上に乗せた足を地に下ろして、前へ歩ってきた。
「オルガ!本当にこんな拳一つ当てただけで、揚々とした顔を見せるやつをこのチームに入れんのか?」
「?・・・何を言いたい」
「要するによォ~、こいつはこのチームに似合わねぇってことだ。このチームは今、力不足だ。先輩達が卒業してしまったせいで、戦闘にすら出れない人数になった。こいつが入っても数合わせにしかならねぇよ」
「お前の顔に拳をいれたのだろう?・・・ということは彼はそれなりの力を持っているということだ。・・・意味わかるか?」
「ッ!・・・わかったよ、好きにしろ。ただ戦闘のジャマをするな」
俺もこんなチームにいるのは嫌だ。
今、俺の前で広がっているこの光景は何だ?俺は漫画やゲームの世界にでも来てしまったのか?
家族や友達も心配しているはすだ。
「家族にはもう了承はとってあるよ。と、言うより君はもうあの世界に存在しないことになっている」
その言葉は俺の心配を踏み壊すと同時に、絶望を植え付けた。
「え・・・どういうこと・・・ですか?」
さっきまで明るい顔をしていたオルガも顔を暗くし、他にこの教室にいる人間も目を反らした。
「監督の言う通りだ・・・」
ここに来た物は、あの世界から消えたことになっている・・・行方不明としてな