柊 海都は美術館の地下に行ったことで、異世界へと引き込まれてしまい、そこで妖狐と会い、その世界の学校に入学させられてしまう。
そして、彼が消えたことを赤井 ルナは耳にした。
(え?・・・海都君が?)
祭りに行った次の日、私は学校である噂を耳にした。
最初は海都と同じ地域に住んでいる、隣のクラスの男子が話始めたことだ。
海都が自宅に帰っていない、というものだ。
昨日何度かメールを送ったが、返信は帰ってこなかった。そのときは、疲れて寝ちゃったんだよね、とか携帯の電源がきれちゃったのかな、とか思っていたが、まさかそんなことになっているなんて・・・。
「あ、ルナ。おはよー・・・どうしたの?何か顔色悪いけど。まさか、昨日の柊君とのデートの疲れが出てる?」
友達の言葉すらも私の身体を重くする。
・・・海都君が危ない!
「ちょっと!ルナ!どこ行くの!」
そう考えたときには、もう身体が動いていた。友達を突き飛ばすと、玄関に向かって走っていた。
「私、ちょっと用ができたから帰る!先生には早退するって言っておいて!」
「ちょっと・・・。もう、朝から・・・」
確か・・・海都は昨日、K市昆虫美術館に行きたいとか言っていた。
まさか、そこで何かあったのかもしれない。
それにこの学校から駅まで行き、そこから数分歩けば、そこの近くに停まるバスが通っている。
私は乗ってきた自転車を、駅の駐輪場に停めて、電車に乗り込んだ。
K市まではすぐだ。駅二つ、三つで着く。
私はそれまで、海都と撮った写真を見て、心を落ち着かせていた。
『次は~K市昆虫美術館前~』
バスはその前にある公園の駐車場に停まる。
私はバスから降りると、公園の方ではなく、それと向かい側の美術館へ足を運んだ。
「お嬢ちゃん。その美術館はもうとっくに閉まってるよ。まさか、君も観光客かい?」
「いえ、私は・・・」
「運転手さん、どうしたのですか?」
バスの奥から声が聞こえた。
ほとんど、乗っていないバスの後ろから現れたのは一人の女性だった。
モデル体型で、長く綺麗なクリーム色の髪が特徴の女性は席から立ち、バスを降りた。
「私もここに来たかったの。ここまで走ってくれてありがとう。」
「こ、こちらこそ・・・」
運転手はバスの扉を閉めると、そこから走り去ってしまった。
「え、えっと・・・ありがとうございます」
「いいのよ。困ったときはお互い様よ」
「あの・・・ここに来たかったって?」
「そのままよ。特に理由はないわ。強いて言うなら、観光かしらね」
私と女性は館内に入る。
割れた窓から入る日の光は、その空間を幻想的に魅せた。未だに壁に飾られた絵画は不気味さの中に、芸術的センスの欠片もない私でさえ、魅力を感じさせた。
「そういえば・・・あなたの名前は?」
「え?あ、はい。赤井 ルナです・・・あなたは」
「私の名前は有栖川 剣城。剣城なんて男っぽい名前、変だよね」
「いやいや、むしろかっこいいですよ!」
フォローになっていないのはわかっている。この服装と体型からして、有栖川さんはきっと、ファッション雑誌などのモデルであろう。それか女優か・・・
「ふふ、ありがとね・・・さて、問題はここかな?」
有栖川さんは話を切り替えるように視線も切り替える。その先にはこの一階フロアから地下へと続く階段があった。
私は入ったときからそこには触れていなかった。
「・・・あなたも感じる?あそこから溢れる黒い何かが」
この人は鋭いところを突いてくる。正解だ。
私が触れなかった理由は、それだからだ。
「黒い何か・・・わかります」
「なかなか、見る目があるねぇ」
有栖川さんの口調が変わる・・・。私はこの人についていくのを躊躇した。だが、
「待って」
有栖川さんは私の腕を持ち、私の帰る足を止めた。
「この先に、あなたの狙いがあると思うの」
「狙い・・・目的ですか?」
「そう・・・。確か、あなたは運転手に観光かい?と、聞かれたときに躊躇ったよね。それはつまり、『あなたは観光でここに来たわけではない』ということを説明しているよね?」
本当に鋭く、私のミスを的確に突いてくる。
「もしかして、この美術館で起きてる事件について調べに来たか・・・または、人を探しに来たか」
・・・またもや、正解を導き出されてしまった。
まるで、心を読んでいるような・・・そんな感覚にも襲われた。
いつの間にか、私は冷や汗をかいていた。
「もしも、このまま私と一緒に地下へ行くと言ってくれれば、その人を探すのを手伝うわ。さぁ、どうする?」
「地下へ・・・行く・・・」
その地下には奇妙な空間があった。
今までの廃墟のような空間が消え、当時の内部が表されたような空間があり、その先にはさらに地下へと続く階段があった。
「あの・・・有栖川さん」
「何かしら?」
「あなたの目的って何ですか?」
「ここまで来たからには言ってもいいかしらね・・・」
階段の途中、有栖川さんは足を止めた。
急に立ち止まったので、私は思わず、階段を踏み外しそうになる。
「私の目的は忘れ物を探しに来たの。昔のね・・・」
「それって、どんなものなんですか?」
私は少し有栖川さんの目的に足を踏み入れる。
それが私にとって良いことなのか、悪いことなのか、全く考えていなかった。
「それはね・・・私の宝物よ」
「宝物?」
「えぇ。昔、ここである事件があったの。そのときに私も被害者でね。ここにその宝物を置いてきちゃったの」
「・・・」
その事件については、前に海都から聞いている。といっても昨日だが、海都はこの事件のことになると、耳をそっちばかりに傾け、私の話を聞かなかった。
今でも裏番組やちょっとしたニュースで、その話題をあげられることがあり、海都はその番組をちょくちょく録画していた。
今頃だが、私と海都が会ったときの話をするかな。
私は一人の転校生だった。
父の都合でこの地域にやってきた私は、中学二年の二学期くらいに、海都のいる中学にやってきた。
最初はただ、同じクラスで、あまり話すこともなく、目が合うと挨拶をしたり、ちょっと話すくらいの仲だった。
しかし、高校が同じ場所と決まったとき、海都君の方から話しかけてきた。
「あ、赤井はその、ど、どこから通っているんだ?」
私はそれから海都君と話すようになって、高校に入ってすぐに彼からの告白に返事をした。
「・・・へぇ。君の探している彼ってそんな純粋な子なんだね・・・」
「な、何を言ってるんですか!?・・・まさか、心を読んだとか!?」
「うん、そうだよ」
「・・・え?」
「私の能力は目を合わせた人間の考えや心境を読み取る能力。昔からそんな能力があってね・・・。でも、良いことといえば、その人の考えを見て、その人に合わせるくらいだけど・・・」
この人は何を言っているんだ?
普通はそんなことを考えるだろう。だが、私はそんなことを思わなかった。
ここまでのことを思い返してみると、辻褄が合ってしまう。最初から最後まで・・・
それに海都の言っていた事件の内容には『能力者』という言葉が何度も出されていた。
・・・この人は能力者だ。
「おや?それを聞いたら、目を閉じてしまったか。まぁ、そうだよね。普通ならそうするよね」
「・・・それで、その能力は」
「まぁ、それが狙いだったけどね」
次の瞬間、私は胸の辺りをグッと後ろに押された。
私はそれに対応できず、階段を転げ落ちた。
「それじゃあ、さようなら。ルナさん」
私はようやく目を開けた。
そのときには、全く違う景色がそこに広がっていた。
だが、それよりも身体中を激痛が走る・・・階段を転げ落ちた後に、その先にあった扉に突っ込んだからだ。
私はなんとか立ち上がると、辺りを見回す。
さっきまでの空間とは違う・・・
木々や草花が生い茂り、地面がある。
「ここは・・・」
この世界でルナはある一人の男と会い、人生を変えるほどの戦いをすることになるが、それはまた次の話で・・・