だが、ただのインタビューかと思っていたらそれは真っ赤な嘘で、本当はスパイが情報収集のために来ていただけだった。
そして、スパイが教室から逃げようとしたとき、ある男が現れた。
「て、勅使河原だって・・・?」
インタビューに来ていたスパイの女は、倒れた姿勢から立たずに、蜘蛛のような動きで、教室の壁際まで両手両足を使って退く。
「この蜘蛛女・・・新しい仲間か?」
「そいつはスパイだ!」
「ほぅ・・・タイミングが悪かったな」
俺にもわかった。勅使河原の周りに広大な魔力が渦のようになり、能力値へと変化していくことが。
「さぁ、ここで身体を捨てるか、ここで得た情報を捨てるか・・・キサマはどっちを選ぶ?」
「ひっ!」
「・・・なんてな」
勅使河原は手をポケットにしまい、女に背を向けて離れた。
「俺はもう人を殺めることはやめた・・・。帰れ、メモ帳のページをここに捨ててな」
「・・・そいつ、気絶してるぜ」
勅使河原が手をしまったときにはもう遅く、女は白目を向いて気絶していた。
「お久しぶりです、勅使河原さん」
「お久しぶりって。まだ5ヶ月くらいしか経ってないだろ」
勅使河原は卒業まで座っていたと言われる、教室の角に近い席に座る。
普段からあの席の周りはきれいで、あの机とイスの上だけはホコリが被っていなかった。
キラや四津野が楽しく話しているなか、割り込むようにオルガが入ってきた。
「どうして戻ってきたんですか?」
オルガは勅使河原の机に一枚の紙を出した。
そこには「退学届」と書かれていた。
「そうだったな、俺は退学したんだったな・・・」
「あの、退学届って?」
玲華はリアに聞く。
「あれは一定の成績を持っているものや、能力者として罪を犯してしまったものだけがこの学校の校長に出せるもの。あれを出したらまず、ここには戻ってこれない」
「へぇー・・・」
「俺は確かに伝説になってこの学校から消えた。ここに来た理由ってのはリアに呼ばれたからだ。もう一度、帰ってきて、とな」
「監督、勅使河原がどんな人間か覚えてないんですか?自分の成績の、戦績のために仲間を犠牲にした」
「犠牲?・・・まだそんなことを言っているのか」
勅使河原は立ち上がるとオルガの顔の前に拳を出す。
「・・・」
「あなたほどの力があれば、あんなことは・・・
★
「オルガ、戦況はどうなっている?」
「はい、左で雷帝とジョー、右で四津野とキラが戦ってます。今のところ、リーダーのところに来ている敵はいません。そのまま敵フラッグへと前進して大丈夫です!」
「わかった。いくぞ、梨花」
「はい!」
殿堂から伝説へのランクアップがかかった大勝負。相手はチームZ内でも最強と言われる六人と指揮を執るアリス。
全員が気合いを入れ、戦闘に挑んでいた。
あなたと共に前進していた一人、梨花さんの能力は完全な防御能力で、味方を守ることだけの能力だった。
最強の矛と最強の盾。とても良いチームだった。
あの頃は梨花さんの通信機が壊れていたのもあってか、俺があなたに指揮を出し、あなたが梨花さんに伝えていた。
「リーダー、二人の方に敵が近づいてきています!」
「了解、梨花気を付けろ。」
「はい」
それが梨花さんの最後だった。
「リーダー!雷帝の情報によると、敵は能力無効の銃弾を使うみたいです!」
「ッ!能力無効の銃弾か!・・・梨花!敵は・・・!」
あなたは周りを見ていなかったのもあってか、梨花さん自身があなたの盾になっているのに気づかなかった。
あなたのその能力上、ある範囲なら人が近づいてきているのくらいわかっていたはずだ。
おそらく、銃を撃ったのも・・・
★
「あくまでもそれはお前の想像だ。俺の波は銃を撃ったのまでは感知できない」
「ありえない。あなたは以前、チームZのスナイパーが遠くから狙撃しているのを察知し、対応したことがあると記録書に書かれている。」
「そんなこともあったか。記憶にないな・・・」
今にも戦闘が始まりそうな空気にリアが割り込む。
「そこまで!ここで仲間割れをしてもただただ無意味な争いが始まるだけよ。勅使河原も先輩としてちょっとは落ち着きなさい」
「・・・すまない、監督。」
あれから一時間してやっと教室は静かになった。
勅使河原とオルガは自分の席に座り、勅使河原の周りにいた俺たちも席に戻った。
「柊ー、勅使河原さんの能力知りたいか?知りたいよな?」
「確かに気になりますね。強いってのはオルガさんの話からわかりましたけど・・・」
「じゃあ決まりだな。勅使河原さーん、ちょっといいッスか?」
キラは勅使河原の名前を読んで手を振る。勅使河原はイスから立ち上がると、不機嫌そうにこっちへやってきた。
「なんだ?キラ」
「こいつと一戦やってもらってもいいですか?」
「な、何言ってるんですか!」
「先輩はそうでもしないと自身の能力を見せてくれないぞ」
「ほぅ、面白いことを言うやつもいるんだな・・・四津野、俺の使ってたグローブあるか?」
「ありますよー、なかなかのレア物ですからね~」
と言って、四津野は自分のロッカーから赤いグローブを取り出した。
「ありがとう。・・・じゃあ、場所はこの教室でいいかな?」
「それは、俺の能力的に」
「いや、なんだろうがこの教室に被害が出ないようにできるからな。キラ、四津野、あと・・・そこの黒いのと女!机を片付けてくれ!」
「黒いの・・・」
「女?・・・まぁ、名前知らなくても仕方ないか」
四、五人によって外へ出された机とイス。それによって、教室は広くなった。
「来たぞ、勅使河原名物、教室の授業。俺もやりてーーー!」
「柊と言ったな。俺の特訓を甘く見ない方がいいぞ。オルガが出す弱っちい特訓とはレベルが違うからな」
「はい!」
(と言っても、まさか一年の私たちに本気は出さないよね?)
「四津野、開始の合図を頼む!」
「了解!・・・それでは、特訓開始ィーーー!」
四津野の合図と共に始まった特訓。
勅使河原は開始早々、俺に来いと合図をする。
(行くしかないみたいだね)
「本気でいきますよ!タマ!完全融合(フルフュージョン)だ」
(了解、フルって言っても50%でしょ)
俺はエース戦で見せた力を発揮させ、勅使河原に攻撃する。
「狐術、狐火、焔!」
「さらに進化しているのか!柊!」
火力の上がった炎が勅使河原に向かって飛んでいく。
だが・・・
「何ッ!」
炎は勅使河原の前で直角に曲がり、壁に衝突する。
「良い炎だな。しかし、まだ波が整っていない」
「波?」
勅使河原はあの一瞬、炎を受け流すような仕草をしていた。あそこに勅使河原の能力がある。
「一点集中より、数で!」
俺はタマの力で分身すると、あらゆる方向から炎を撃ち込む。
「安直な考えだな」
今度は天井に向かって飛んでいってしまった。
「アイツの能力ってこの前のロカと同じ能力ッスか?」
「違うな、クロサク。あくまでも勅使河原の能力は波を操る能力だ。
「波?」
「世界には色々な波がある。人に見えなくても勅使河原さんには波が見えている」
「前に聞いたけど、勅使河原さんは大半の攻撃の波は分かるらしいよ。例外は何を考えているかわからない能力者の近接攻撃だけだって」
「いや、アイツの能力は接近戦に弱い。そこに柊が気づくかだ。」
(わかったよ、柊。あの能力の弱点が)
「本当か、タマ!」
(えぇ。まずは勅使河原に近づかないとだけどね)
「・・・本気で言ってんのか?あの訳のわからない結界に近づけと?」
(あくまで波を操る能力。大丈夫よ)
「大丈夫かな・・・。まぁ、勝てるならいいけど・・・なッ!」
俺は一気に勅使河原に向かって走り出した。
「一か八かってやつだ!狐術!分身の幻術!」
「勅使河原さんに近づくのは危険だ!」
キラの声が聞こえたそのときには遅く、俺には天井が見えていた。
「へ?」
「確かに俺は近接攻撃が苦手だった。だが、この数ヵ月で俺は克服した。梨花を失ってな」
何が起こったのか俺にはわからなかった。その一瞬で俺と分身は中に舞い上がり、タマとの融合も解かれていた。
「柊!」
「柊。もう少し、その狐術を磨け。お前ならもっと先にいける。下手したら殿堂も取れるかもな」